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ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
四章
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風国の夜①

 時刻が夜となった拠点エリア:風国の、眩しいほどに広がるパステルカラーの建物が照明で輝きながら立ち並ぶという。闇の降りた夜景に映える、暗くありながらもとても明るいなんとも奇抜な絶景を眺めて。新たな地の、最初の夜に相応しい感動に満足し、心に溜まった古い空気を換気するかのような、とてもスッキリとしたこの新鮮な気持ちでつい深呼吸を行ってしまう。


 この地で繰り広げられる、未だ見ぬ出来事や出会いを控えた静かな夜。そんな、溢れ出る期待と過ぎる不安の双方にドキドキと胸を鳴らしながら。腹を空かせた大食いのミントに食事を与えるべく、少女と共に個室を出て、宿屋:ア・サリテリー・インの食堂へと赴くことにした。


 それなりの年季なのか、所々とみしみし軋む音を立てる床を歩いていき。ラウンジの壁一面にびっしりと伸びる本棚と、そこにぎっしりと詰まった大量の本の光景に、まるで図書館だなと何度も驚いてしまいながら通り抜け廊下を通り食堂に続く扉を開ける。


 そこには、これまでの宿屋と一切変わらぬテーブルとイスの配置が視界いっぱいに広がっていて。だが、焦げ茶が目立っていたラウンジや個室とは異なり、そこは街並みや自然に溶け込んでいた白や灰の明るめな配色で統一された眩しい室内に、思わずと目を細めてさえしまう。


 食堂は、この宿屋に宿泊するお客のほぼ全てが入れるだろう広さを誇っている。

 が、『魔族』の影響により客足が減ってしまったと、ここのオーナーであるトーポが言っていた通りに。明るく広々な光景とは裏腹に、音も少なく個人の話し声も筒抜けである、悲しいほどにまですっからかんな様子が広がっていたものだ。


 食堂の中央辺りでイスに腰を掛けている、ユノとミズキの姿。会話を交わしていて、あのミズキが割と満更でもなさそうな様相を浮かべていた。


「ユノ、ミズキ」


「あら! アレウス! ミントちゃん! こんばんは! ……うーん、ちょこっとだけ遅かったわね~。もう少し早かったら、私達と一緒に晩御飯のお食事ができたのに」


「あぁ、それは残念だった。昨日の疲れがまだ残っていたのか、俺、いつの間にか今の今まで寝てしまっていたんだ」


「それなら、もっと休んでいなくても平気なの? 大丈夫? あぁ、でも、ご飯も食べなきゃ元気になれないわよね。アレウス! もしも大変だと思うことがあったときは、遠慮なんかせずに、すぐに私を呼びなさいね! 私がすぐに駆けつけて助けてあげるんだから!」


「ありがとう、ユノ。ユノの優しさに、いつも助けられてばかりだな」


 両肘をテーブルにつけて上目遣いで、いつもよりもちょっと大人びた様子でそう言ってくれたNPC:ユノに返事をしていく。

 ユノの、俺の助けになるよ宣言には。主人公様に永続的と仕えるナビゲーターと称する少女としては少々と複雑な思いを抱いたらしく、この脇にも律儀に佇んでいたミントは、少しばかりとムッとした表情を浮かべていたものだった。


 続けて、NPC:水飛沫泡沫(ミズシブキウタカタ)ことミズキへと話し掛けていく。


「ミズキ、あんたは疲れていないのか?」


「ふん、おまえのような薄鈍人間とは違うんだ」


「そうか。うむ、やっぱりミズキは俺と違って体力があるなぁ。これも、前から頑張ってきた努力の結晶、ということなのかな。俺なんて、あのドラゴン・ストームを相手に今もヘロヘロだよ。ほんと、ミズキの忍耐強さ。心の強さには感服さえしてしまえる。さすがだよ、ミズキ」


「……おれのことを少しでも知ったからって、調子の良い言葉を使って持ち上げようとする。綺麗事ばかりをつらつらと並べるその口が、おれは好きになれないんだ」


「……ん? 前は、嫌いだ。って言っていなかったか?」


「……そういうところが、好きになれないんだって言ってるんだ」


 その長髪を流していながらも、その様子は相変わらずとムスッとした調子で。言い捨てるよう言葉を残しては、そっぽを向いて口を噤んでしまう。

 少女との関係は、これで定着してしまったのかもしれないなぁ、と。そんな様子に苦笑いを浮かべることしかできない。……まぁ、嫌われるよりは断然と良いために、この関係はこの関係としてアリなのかもしれない。


 ユノからの催促を受けて彼女らの席に座り、ミントを含めた四人での集まりとなった。

 それからというもの、ユノはミントを交えたミズキとのガールズトークで和気藹々としていて。その活発的な調子でありながらも、二人のお姉さんとして話を振ったり面倒を見たりするユノ。そんな彼女の口から出てきた、女子力という言葉を理解できずイマイチ話についていけないミントの様子や。少年としての生き様を通してきたものの、女子力に共感するという、少女としての意外な一面を見ることができたミズキの三人を眺めていく。


 目の前で繰り広げられるNPC同士の会話を、まるでその場にいるようでいないような、空気のような存在感となって聞いていた。これもある意味では、ゲームの主人公らしい立ち位置なものだろう。


 耳に入ってくる目の前の会話が、ウィンドウとして、画面の下に並ぶ文字として見える光景に目を通し。そうして、一人無言で過ごしていたその中で。――ふと、厨房と思われる場所から流れ出す良い匂いに鼻腔がくすぐられる。

 ……この、匂いだけでわかるほどのジューシーさ。……忘れたくても忘れられない。あの日、とある屋台で口にした絶品料理の味が、涎を伝って口の中に広がり出す……。


 ……そう言えば、まだ晩御飯を食べていなかったな……。



【~風国の夜② に続く~】



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