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ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
四章
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システム:親密度① ~リベンジ~

 次の時にも、このゲーム世界は目を覚ます場面から始まった。


 いつの間にか途切れていた意識。半身を起こして、周囲を眺めていく。

 焦げ茶という薄暗い配色の部屋を、天井から灯る灯りが内部を僅かに照らしていて。横になっていたベッド。簡易的なテーブルに小さな棚といった備え付け。


 そこは、宿屋:ア・サリテリー・インの個室。それでいて、こうして訪れたどの拠点エリアの宿屋の全てに共通する構成に、新鮮味ではなく安心感を覚える。

 窓からは茜色の明かりが射しており、時刻が夕方であることを哀愁と共に教えてくれた。


 ……そして、このベッドの上に腰を下ろしていた、もう一人の存在。その周囲には、数字や記号が巡らされた透明のホログラフィーを展開する、その少女の姿。


「おはよう、ミント。俺、いつの間にか寝ていたみたいだ」


「っ。"お帰りなさいませ"、ご主人様。もう暫しお待ちくださいませ。ただいま、このワタシの、このちっぽけな脳内に乱雑と流れ込み続けるシステムのデータの整理を行っている最中であり。今暫しお待ちいただければ、ご主人様の指示に従うことが可能となります故に。このワタシに用事がおありでございましたら、今暫しものお時間をお待ちいただくこととなりますが」


「あぁいや、そんなに焦らなくてもいいよ。ミントのペースで、その作業を進めてくれ」


「ワタシのペース。で、ございましょうか?」


 こちらへと振り向いては、不思議そうに首を傾げるその様子。……どうやら、自分のペースで物事をこなす。という言葉にまるでしっくりきていないよう。

 ……と、なれば。ここは少女に分かりやすく伝えるためにも、これは命令という形で納得をさせるしかない。


「んー、それじゃあ……ミント。その作業は、あとどれほどと掛かるものかな」


「現在の作業を終えるまでの時間。で、ございましょうか。で、ありましたら――はい。暫定、あと五分ほどでございますね」


「それじゃあ、その五分間、その作業にじっくりと時間を掛けてしっかりとデータを整理してくれ」


「承知いたしました」


 ミントが一番把握しやすい方法を用いて少女を納得させ。こうして、ご主人からの命令を受けたミントはとても活き活きとした表情で頷いては目の前の作業に集中し始める。


 それは、心の無い命令であったかもしれない。

 けれど、これもまた、目の前の少女にとっては――目の前の、ナビゲーターという自身の立場に使命感を抱き誠実と取り組んでいるミント・ティーにとっての命令というものは。自身の役割を。自身の存在の必要性を心から実感することのできる、云わば、言われて嬉しい言葉の最も上位に位置するものであるものだから。


 そうして、忠実と命令に従い活き活きと作業を進めるミントの横顔を。俺はただただ、眺め続けてしまっていたものだ……。




「データの整理が終了いたしました。お待ちいただき誠に申し訳ございませんでした。これにて、ご主人様の次なるご命令に誠実と向き合うことが可能となりました故に、どうか、ワタシへの次なる命令をなんなりとお申し付けくださいませ」


 ふぅっと息をついては、ホログラフィーを消失させ胸に手をあてながら振り向いてくるミント。

 その表情は、次の生き甲斐を与えてくれと言わんばかりの活き活きとした表情。……命令が生き甲斐というのも、なんとも複雑な気持ちとなってしまうものだったが。それもまた、目の前の少女が使命感として抱く欲求であるために、少女の幸福にこれ以上もの口出しはするつもりなどないし、もはや何も言うまい。


 ……で、次の命令をなんなりとと期待感溢れる顔で尋ねられていたものだったが。如何せん、そもそもと先の言葉はただの挨拶であり、それは命令という意図の旨を含んでいなかったため。つまり、その、命令というものを何も考えていなかったため、思わずと戸惑ってしまったものだ。


「め、命令。命令、か」


「? どうかなされましたか、ご主人様」


 すごく不思議そうに、首を傾げながら、そのちょっと長いもみあげを揺らしながら上目遣いで尋ねてくるミント。

 そんな少女を前に、少女の生き甲斐である命令など何も考えていなかったというのもちょっと可哀相だなと思えてしまえたため。……ここは何か、適当にでも思い付いたものを命令にしようと、寝起きであるこの脳みそで必死と思考を働かせ始めていく。


 その必死が織り成す情報網の流れがまず最初に運んできたものは、目の前の少女の笑顔。そこからは連想ゲームで命令を探していく。

 ……ミント・ティー。それは、少女の顔。少女。それは、ユノ……? で、ユノも女の人で。ミズキもその実は女の子で。ラ・テュリプも立派なお姉さんで。で、つい先にも出会ったトーポは穏やかなおじさま……。


 ……今まで出会ってきた人々。NPC達の存在。……関わり。親密……?


「あー、それじゃあミント。親密度。ほら、以前にも、最後にやったのは黄昏の里にいた時だったかな。あの、システム:親密度をまたスキャンしてもらってもいいかな? ほら、今、誰から一番好かれているか、という判定をさ」


「システム:親密度の確認。で、ございますね。承知いたしました。幸いにも、先のデータの整理によって、スムーズに情報を取り出せる状態でございます故に、今すぐにでも判定を行うことが可能でございます。――はい。それでは早速、システム:親密度の判定を行います。データを展開するため、ほんの少々ものお時間をいただきますね」


 唐突と、ピンと閃いたそれを提案してみたものの。それ自体は、知りたくもなかった現実と直面してしまうちょっと怖い分析であることは確かであったため。今となっては、これを提案してしまったことに後悔さえしてしまえる。


 ホログラフィーを展開し、システム:親密度のデータを引っ張り出し始めたミント。

 ……以前の、ユノからは意外と好かれていなかった事実や。結婚というシステムもありますよーという話から、男であるアイ・コッヘンが一位を取り、現段階でNPCから一番好かれているのは男である彼からという、どこかやるせない結果で終わったこのシステム:親密度の判定。


 ……さて、今回は果たしてどのような結果となってしまうのか。ある意味で、メインシナリオとは全く異なるドキドキに心中が不安で染まるこの判定を前に。だが、これを提案してしまった言葉に自身を頷かせ今の現実と向き合う覚悟を決めて。この鳴り止まぬ心臓の鼓動に心身共に揺さぶられながら。

 目の前の少女から放たれる現実の言葉を受け入れる態勢を取り。今、目の前の現実と向き合う。


 ……これから少女の口から飛び出す言葉の数々は、この、ゲーム世界で主人公を演じる俺の存在意義にまつわる、ある意味で重大な意味合いを持つものだ。そのドキドキを抱きながら、少女の次の説明が始まるのを静かな覚悟を胸に、この、目の前の戦いへと臨んでいくのであった……!!



【~次回に続く……?~】

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