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ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
四章
213/368

拠点エリア:風国

 大地を照らす朝日を遮らんと、その地域特有となる吹きすさぶ横殴りの強風に背を押される。

 フィールド:デスティーノ・スコッレと風走る渓流に伸びる道のりを辿るこの一同。ユノというパーティーリーダーを筆頭に、戦闘と料理人としての実力者であるラ・テュリプが行動を共にする女性陣に囲まれたその中を、俺は一歩引いたその場所で皆の背を追っていたものだ。


 前には、その厚く束ねられた、白色の大きなポニーテールをなびかせるユノ。蜜柑のようなオレンジのサイドアップをなびかせるラ・テュリプ。透き通る銀のもみあげをなびかせるミント。そして、その赤みを帯びた長髪を堂々となびかせ、女性陣の中に混じりクールな様子を見せていたミズキ。


 それは、いつもの仲間達と、その場で偶然の出会いを果たした存在と歩む平和的な道のり。

 ……だが、その道のりは、とても物足りなかった。――それもそのはず。つい、昨夜までに会話を交わし、何気無くと関わっていたであろう一つの存在が、ふと、その姿を消してしまったことによる喪失感からなるもの…………。


「……ペロ。おい、ペロ……お前、一体何処に行っちまったんだよ……」


 今朝に、枕元に置いてあった。詳しい事情も語られずの、今までありがとうの別れを告げる言葉が綴られた置手紙を握り締め。行く宛ても、自分を探さないでくれと。それら言葉の数々を要約すると、まるで、こちらを突き放すかのような内容の手紙に彼の身を案じてしまうこと数時間。

 これまでの旅路や過去による経験から、眼前の現実に対する受け入れの早かった仲間達の脇で。俺は一人、急に姿を消してしまった、別れの言葉を交わすことも無くいなくなってしまった仲間に寂しさを抱いてしまっていて。


 ……きっと、彼なりの事情があったに違いない。

 そんな言葉ばかりを脳裏に思い浮かべて自身を説得させる中。ふと、ピタッと足を止めた目の前の足並みに、俺もまたつられて足を止め顔を上げる。


 その先、俺の目の前では風になびかれ歓喜の声を上げていく。

 それでいて、俺も、こうして前とした"その光景"に。……そう。こうして、この瞳で見据えた目前の新たな未知を目にして、この心が昂り出してきたのだ――!


「アレウス!! ミントちゃん!! ミズシブキ"ちゃん"!! 着いたわよ!! ここが、私達が目指していた目的地の『風国』ッ!! 少しばかりと長かったこの旅路も、ようやくと終わりを迎えたわね!! 皆、お疲れ様!! ――ペロ君と一緒にゴールをすることは叶わなかったけれども。でも、ペロ君はペロ君で、自分の意思できっと自身の目指すべき道のりを見つけてゴールをするはずよ!! だから、ペロ君の無事を願いながら。皆は皆で、この風国で存分に休んで頂戴!!」


 高らかな宣言と共に、眼前の光景へと腕を伸ばし皆に『風国』を見せ付けていくユノ。

 彼女の言葉をこの耳に。初見となる新たなステージを前に、俺は高揚感を抱き。歩を進める皆についていきながら、その光景をしっかりとこの瞳に焼き付けていく。


 

  ――それは、満天な青空の下で輝く、眩しいほどのパステルカラーが風の通り道を形成する鮮やかな街並み。

 一階から屋根までが四角形の建造物。その一つ一つが優しいパステルカラーの色合いで染まる、玩具のような可愛らしい建物の連なり。街道は白や灰で天から降り注ぐ日光を吸収し光を放っており。街行く大勢もの人々もまた、涼しげな恰好でそれぞれとアクションを起こしている。


 青空には、この地域特有となる吹きすさぶ風にぐいぐいと流されていく、大量の雲の群集。次々と流れ地平線へと消えていっては、それが絶え間無くと列を成して次々と風に運ばれていく光景は、無限という言葉を想起させる。

 その地形は平たく。だが、奥には四段、五段と積み重なるよう上へ上へと続く山形が。それは壁の如き絶壁の崖を形成しており、その側もまた、街並みに溶け込む白と灰に染まっていて爽やかな印象を受けるものだ。


 この背から街並みへと流れていく風は、その強く吹きすさぶ風圧がこれまた心地良いものであり。青空やパステルカラーといった涼しげな景色。この爽やかな印象に混じる、雄大な自然を思わせる山形。

 そう。今こうして目の前とした景色こそが、この旅路の目的でもあった新たなステージである。拠点エリア:風国。


 その旅路もまた、命を落としかねない災難が待ち受ける苦行の道のりではあったものだが。しかし、それらを乗り越え生き長らえたことにより。俺は今、このゲーム世界における雄大な冒険を演出する、新たなステージへの到着を遂げることができたのだ――ッ!!



 吹きすさぶ風の通り道であり、そのパステルカラーが冷涼感という心地良さを与えてくれる。その街並みが目いっぱいと広がる新たなステージ、拠点エリア:風国。

 涼しげな光景に、風という自然の一部と共存しているであろうこの解放感溢れる爽やかな街の中を。ユノとラ・テュリプを先頭に、彼女らについていく形で奥へ延びる街道を辿っていく。


 未だに感嘆を零しながら、落ち着きの無いままに周囲を眺めていく俺。

 そんなこちらの様子に気付いたミント。小走りで傍へとついては、この地の解説を始め出す。


「ご主人様。まずは、最終目的地である拠点エリア:風国への到着、おめでとうございます。楽な道のりとは決して言い難い、様々なイベントや数々の困難を乗り越えたご主人様のお姿は。この晴れ晴れと広がる輝きに照らされ、より雄志溢れる立派な主人公の存在感を思わせられます。――して、この度は、新たなステージに到着いたしました。新たな地の情報を余すことなくお伝えするのが、このワタシこと主人公のお傍に付き、常にお支えをするナビゲーターたる存在の所以。既に、この地の情報のスキャンを終えております。拠点エリア:風国の説明を開始してもよろしいでしょうか?」


「いつもありがとうな、ミント。今回もよろしく頼む」


「っ承知いたしました」


 相変わらずと、礼の言葉に免疫の無いミントはこの言葉に頬を赤く染めながら。若干と照れくさい表情を浮かべ視線を逸らし、また向き直っては律儀な様子でナビゲーターをこなしていく。


「ただいまご主人様が位置するこの地は、拠点エリア:風国と名付けられた大きな街でございます。拠点エリア:風国の特徴は何と言っても、その名に相応しき、風、でございましょう。吹きすさぶ強風は、先のフィールド:デスティーノ・スコッレと風走る渓流と全く同一のシステムが施された、少々と特殊な仕様が常に設定されている珍しき個性が目立つ地でございます。しかし、この地に関してはセーブポイントの一環。所謂、安全地帯の分類に入る地域のため。特殊なイベントを除いては、強風が設定されたこの地における戦闘は懸念されなくとも何の問題もありませんね」


「ミント。ここ風国にも、このゲーム世界の命運を定めるメインクエストがあるもんなのかな」


「単刀直入に言ってしまえば、メインクエストがございます。それもどうやら、拠点エリア:マリーア・メガシティを出発したその際にも、既にメインシナリオに関わる重要なフラグが出現していた様であり。それは、拠点エリア:風国に到着した今、そちらのフラグが、今後のご主人様が挑むであろう新たな困難を生成する模様でございますね」


「うーむ……」


 拠点エリア:風国の仕様と、この地におけるメインクエストの存在を把握して。次に訊きたいことの質問を考えてみる。

 ……ものであったのだが、如何せん、これまでの道のりで肉体的にも精神的にも少々と疲れていた。そのために、この頭が、この思考が思うように回らずに言葉が詰まってしまうばかり……。


「……ペロの行方もスキャンを通して把握をしたりしたかったが……まずは、休むことを最優先にしようかな。ミント、色々と教えてくれてありがとう。また、今夜か明日にでも詳しい話の続きを聞くとするよ」


「お礼は無用でございます。これが、この、主人公に仕えるナビゲーターであります存在の使命である故に、ワタシはただ、当然である行いを当然にこなしている次第でございます。……しかし、優しきお言葉をお掛けくださり、ありがとうございます。……また、ご主人様のお役に立てるよう。このミント・ティー、誠意を込めて、この先もご主人様のサポートを施していく所存です」


 おっ、と、これまでにない反応に思わずと驚いてしまう。

 ……その、どこか人間味を帯びた少女の様子。そして、これまでと自身を否定し続けていた言葉から一転とした。自身を受け入れ前向きな言葉を口にするミントの様子に、俺は少女の成長を感じ、その驚きによって蓄積していた疲れを一瞬だけ忘れたものだ――



 ミントとの会話を交わすその間にも、前方の流れへと合わせ無意識と進めていたこの足。同時として、前を歩むユノとラ・テュリプが言葉を交わしていくその様子と。意気投合とする二人は揃って、驚く顔を見せていくものであり。


 次にも、二人から零れるニコニコな笑み。互いに驚きを隠せず、そんな互いに笑うことしかできないといった様子に。どうやら、この間にも更なる投合を見出したのだろうか。

 不思議と彼女らを眺めていた後方の俺と、同じく後方を歩むミントとミズキへと振り向いてくるユノ。次の時にも上機嫌な様子で喋り掛けては、こう提案してきたのだ。


「ルージュお姉さまと話し合ったのだけれども、風国に滞在するこの期間、この風国のとある宿屋に宿泊をしましょうという話になったの。そこは~、そうね……正式に認められた宿屋ではあるのだけれども。そこはマリーア・メガシティでいう、大海の木片。所謂、知る人ぞ知るとでも言える宿屋なの。正式な宿屋の割には、何だか物珍しげであるその宿屋だけど。別に、特別と人気が無いワケではないの。そこは、そうね……ちょっと、他とは変わった雰囲気の場所、と言えてしまえるかしら? オーナーさんも、ちょーっとクセのある"おじさま"でね、その宿屋は、人を選ぶ……好みが分かれてしまう個性的な場所なの。っでも! そんなちょーっとクセのあるおじさまのことが、私もう大好きでね!! ちょーっと変わったおじさまだけれども、でも、ある界隈ではとっても有名なお方らしくてね! そんなおじさまとのお話がまた、未知だらけで常に新鮮な情報が溢れていて…………って、ここで説明してしまっていてもアレよね。まぁ! またその場で色々と知れることだから! そういうわけで、この風国にいる間はその宿屋に滞在をしようかなと思っているの!!」


 いつの間にやら進んでいた宿屋の話に、俺は終始ただ頷くことしかできずにいた。

 ……尤も、彼女の提案自体には乗るつもりでいた。如何せん、あのユノに、ちょーっと変わっていると言わしめる人物なんだ。これはある意味でも。そして、この先の冒険において。オーナーという、このゲーム世界におけるメインシナリオと深く関わりを持つ人物なんだ。そんな、これからのキーパーソンとなる人物は、これまで通りの面白いNPCでなくては、この物語は面白くなどならないものだろう。


 ユノというNPCと行動を共にしていたからか、彼女に感化されて段々とチャレンジャーな気質となってきた自身の変化を自覚しながら。ユノからの問い掛けに俺ははいの選択肢を選ぼうとする。


 ――が、その時にも既にフラグが立っていたのだろうか。主人公である俺が選択肢を選ぶこの時にも、同時として進行していたであろうイベントがひとりでに動いていくかのよう。俺よりも先に口を開き言葉を発してきたミズキによって、このイベントは更なる進展を見せることとなったのだ……。



「……ちょっと変わった、クセのあるおじさま。って、もしかして"トーポおじさん"?」


 ミズキの、呟くような言葉を耳にしたユノとラ・テュリプ。同時に見せたあんぐりな顔は、この状況をまるで飲み込めない俺とミントからしてもある意味で衝撃的な絵面であった。


「!! うそ!? それじゃあ、ミズシブキちゃんも"ア・サリテリー・イン"を!?」


「知ってるよ、ア・サリテリー・イン。ブラートの兄さんとここに来ると、毎度のようにそこで宿泊している。ブラートの兄さんと"トーポおじさん"は前から仲が良くて、そのよしみの延長線でおれも話したりすることがあった」


「わぁ~! あの"トーポおじさま"を知っている人が一気にこんなに!! ルージュお姉さまもア・サリテリー・インの常連さんで、ミズシブキちゃんも常連さんで……!! これは何と言う未知なのかしらッ!! もう!! これはもう!! この流れでア・サリテリー・インへ行くしかないじゃないの!! ――そうと決まれば! 皆、ア・サリテリー・インへ行きましょう!! また、本の古びた紙の匂いに包まれたあの場所へ宿泊しに行きましょうッ!!」


 ミズキを加えた三人だけの会話に、俺は完全な置いてけぼりを食らってしまっていたその中で。会話の中で感極まったまま、その場から突然と走り出してしまったユノ。


 そんなユノを追い掛けるよう、あっ待ってェ!! と駆け出すラ・テュリプと無言で走り出すミズキ。

 一気に離れていくレディーズの背を眺め続けて。あまりもの急な展開に呆然とし、この、どうすればいいのかと困惑のままにミントのもとへと視線を向けては、同じくといった調子で少女と目が合ってしまう。


 ……直に、笑いが零れた。


「っ、ははは。あー、じゃあ、取り敢えず俺達も行こうか。ミント」


「っフフフ。はい、ご主人様。主人公様に永続的とお仕えするナビゲーターのワタシは、常にご主人様の意思に沿う所存でございます」


 改まった調子のミントと頷き合って、俺は少女と共にゆっくり歩き出す。

 いつもの仲間の、いつもの調子に振り回される形で。だが、これもまたいつもの日常で、そんな日常がとても充実していて楽しいものであったから。

 一直線と走り去っていく三人の背をゆっくりゆっくり追いながら。俺は、この新たなステージである拠点エリア:風国での冒険を開始したのであった――――



【~次回に続く~】

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