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ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
四章
208/368

リザルト:風走る窮地からの生存

 イベントボス:ドラゴン・ストームとの戦闘を終えて。その戦地には、ギミックである強風がどこか静かに吹き荒れていた。

 周囲にて猛威を振るった竜巻や、嵐の如きヤツの切り札を前にして。その影響でズタボロとなり、爪痕として抉れに抉れた地形や。水気が失せ、水辺であったそれはただの大地と化していて。強風に流され訪れた際の光景とは、もはや見る影も無い無残な光景へと変貌していたものだ。


 フィールド:デスティーノ・スコッレと風走る渓流。その、とある地域にて。危険なモンスターであったドラゴン・ストームを容易くと討ち果たしてしまい。ふぅっと息をつき額の汗を袖で拭っては、まるで何事も無かったかのように腰に手を当て辺りを見渡していくラ・テュリプ。


「嵐よりも恐ろしいこの存在に、この周辺のモンスター達はしばらくとおとなしくなるでしょう。力の関係に敏感なあの子達だから。余程のことが無ければ、このあたしに勝負を挑みに来るような無謀を冒す子はきっといないかなぁ? ――アレウス・ブレイヴァリー君。ミズシブキウタカタ君。疲れてしまっているところ申し訳無いのだけども。他にも、この道中で何か危なそうなモンスターと出くわしたりはしたことあったかな?」


 その、クールな様子で。だが、熱情を思わせる熱血系の声音でそう尋ね掛けてきて。

 未だに、この胸元にへばり付いているミズキへと落としていた視線を、振り返ってきた彼女へと向けていき。そんな、昨日にも出会っては。まるで慌しく、どこか抜けているように見えていたあの印象と全く異なるラ・テュリプの姿に思わずと動揺をしてしまいながら。俺は少しばかりと返事を考え、言葉を返していく。


「いや。今のところは、あれほどの恐ろしいモンスターとは出くわしていないかな。……助けてくれてありがとう、ルージュシェフ。貴女がいなければ、俺もミズキもどうなっていたことか……」


「あたしへのお礼? あぁ~、まぁまぁっ。っこれはあのドラゴン・ストームの猛威を相手に、これほどと耐え忍んでくれた二人の努力があってこその結果よっ。あたしはただ、おいしいところを持っていっただけ。もし、お礼を言うのであれば。あの戦いを共にしてくれたその子と。依頼主であるユノ・エクレールへと伝えてくれるかしら?」


 と言い、腕を軽く組みながら自身の背後へと振り向くラ・テュリプ。

 彼女の視線に続いて、俺もまた彼女の後方へと目を移していくと。この、強風が吹きすさぶ過酷な地の中。その風になびかれながら、こちらへと必死に走ってくる三つの存在が徐々と浮かんでくる……。


「アレウスー!! ミズシブキ君ー!! アレウスーッ!! ミズシブキ君ーッ!!」


 手を振り名前を連呼してくる、溢れる活気で今にも爆発してしまいそうなほど活発なその存在。まず最初と合流を果たしたのは、この強風に揺らぐこともなく声を上げながら真っ直ぐと駆けてきたユノの姿。そんな少女から遅れる形となり、この風に苦戦しながらと踏ん張りながら走ってきたミントとペロが、後に合流を果たす。


「ご主人様。どうかご無事で……!! 先にも、ご主人様の周辺に反応を示していた強大な脅威を表すシステムの反応に。このミント・ティー、ただただ戦慄ばかりが過ぎり。この、どうすることもできない無力さに嘆くことしかできずにいたものでありましたが……ご主人様も、ミズシブキ様も。ご無事でなによりでございます……!!」


「おおぅ、アレっちィ! ミズっちィ! んまぁ、よくもまぁあんなおっかねェやつに襲われながら、こうして無事でいるっつぅもんだなぁ! お前さんらの運の良さは、もはやおっかねェくらいよォ! ったく、ミッチーのやつはとんだ心配性なもんでよォ。んまぁ、でも、アレっちは崖っぷちに強ェヤツだから何とかなるってよォ。そのことを、オレっちはミッチーのやつに何度も何度も教え続けたもんだし。んで、今回もこうして無事だったときた。そんで、ミズっちも一緒となって生還した。――な? ミッチー。オレっちの言う通りだったろう?」


「しかし、冒険には常に危険が付き物。何時、何処で、何が起こるか判り得ません。予測も付かぬ事態と出くわすことも決して珍しく無い、危険と隣り合わせであるこの旅路。言ってしまえば、ペロ様の思考は少々と軽率に等しい要素までをも伺わせ。その言葉の数々に、余計とその不安を煽られたものでございます」


「?? ミッチーの言っていることが難しくてよくわっかんねェが。まぁ、結果は結果だしよォ。そんな難しく考えなくっても、今、目の前にはアレっちらがいるんだ。だから、そんな心配はもういらねェってもんよォ。な? そうだろう、ミッチー」


「……ですね」


 一通りの会話を交わし、そんなペロの言葉に若干と呆れ気味でありながらも。その顔に微笑みを浮かべて和やかなムードを醸し出すミント。

 どうやら、この間にもペロとミントは仲直りをしたみたいだ。ペロはよりを戻すことができた少女との関係に安堵の様子を見せていて。ミントはその言葉の数々に、感情を思わせる意味合いを今まで以上と口にしていたその姿に。また、ナビゲーターという自身の存在を人間の劣等として見下していた少女の心の成長が垣間見えることができて。


 ……あぁ、少なくとも。今回の件は、ミズキ以外のNPCにも影響を及ぼしたのだなと。その危機感や絶望の中にれっきとした意味を認識することができて、俺もまた、乗り越えたそれらを振り返ったものだ。


 ――そして、そうした変化は俺の胸元にいたミズキとユノにも及んでおり。

 こうしてペロとミントによる三人での会話を交わしていた間にも、俺の元から離れ一人ぽつりと距離を置いていたミズキ。それでいて、その少女に近付いてきたユノ。そのなびく赤みを帯びた長髪に目を丸くし。そんな彼女の様子に気付いたミズキ、ちょっと恥ずかしげに目を逸らす。


 どこか落ち着かない様子でもじもじと、さり気無くとこの場から離れようとするミズキであったが。そんな猶予も与えずユノはその少女の肩を叩き呼び止めて。背後から覗き込む形でミズキの顔をじっと眺める。

 ……未だ目を逸らし、もはや気まずそうにもしているミズキ。そんな少女を見つめること暫し。ようやくと理解が追い付いたのか。――ユノは、目前の未知との出会いに高揚感を覚えたのかその瞳を輝かせ。だが、まずはと言わんばかりに腰に手を回しある物を取り出す。


 それは、激流に流されたと少女が口にしていた、ミズキのトレードマークでもあった白色のキャスケット。どこかで回収したのであろうそれを少女に渡し。ミズキは受け取り静かに被り出す。

 キャスケットを被ったその少女。そのキャスケットの後方から流れる赤みの長髪がまた新鮮な組み合わせを演出していて。この光景に、辛抱堪らんと言った具合に。ユノは新たな未知への歓喜のままにミズキへと抱き付き。もがく少女を抑え込み頭を撫でまくるその光景もまた、実に微笑ましく見えてしまったものだ――



「ルージュシェフ。こうして皆と合流することができたのも、全ては貴女のおかげです。俺とミズキ……いや、水飛沫(ミズシブキ)を助けてくれて、ありがとうございます」


 視線を移し、合流し生還に喜び合う俺達を遠くから眺めて満足げな表情を見せていたラ・テュリプへと言葉を投げ掛けていく。

 俺からの声に、おっ、と少々驚きを見せながら。クールに笑みを浮かべながら、その熱血な声音で彼女は応える。


「ん、お礼なんていいのいいの~。ただ、あたしはあたしのやるべきことを遂行しただけっ。これも、アレウス・ブレイヴァリー君とミズシブキウタカタ君がドラゴン・ストームの脅威に耐え忍んでくれたからこその結果。困っている人がいたら助けるのは、至って当然のこと。あたしはただ、その当然のことを当然のようにこなしただけのことなのだからっ!」


 謙遜な言葉の割には、ウィンクを交ぜて得意げな様を見せていくラ・テュリプ。

 また、今までにない反応のキャラクター性に若干と新鮮味を覚えながら。今も吹き荒れる強風に晒されるこの状況へと、彼女はこう言及をしてきたのだ。


「昨日から今日にかけてと、色々とあって疲れていることでしょう。まずは、アレウス・ブレイヴァリー君とミズシブキウタカタ君に休息を与えるべき。とは言っても、ここから風国への道のりはまだまだと長いもの。その間も、二人の少年に更なる負荷を与えてしまいかねないわ。――幸いにも、このあたしがこの地における力の関係を示したものだから。特別な危険性を誇るものでなければ、ここのモンスター達はこのあたしに近寄りもしないことでしょうっ」


 と、喋りながらと向けた彼女の目線を追っていくと。この水辺であった地の先にある、生い茂る森林地帯から警戒するよう覗き込むモンスター達の姿。……どうやら、あのドラゴン・ストームを一人で倒してしまった彼女の実力を察していたようだ。


 彼らもまた、この地を生きる生命の一部。これもまた、このゲーム世界に張り巡らされたシステムによる影響なのか。はたまた、生物であるからこその本能によるものであるのかは分からないものだが。しかし、ラ・テュリプという強力な人材が傍にいるだけでこれほどの抑制となるのだ。……この地で苦い思いをした俺とミズキにとっては、この場でこれほどと頼れる人物は他にいないことだろう。


「ここから数十分と歩いた先に、風国の人々や冒険者のために用意された簡易的なキャンプ地が存在しているから。その地であれば安全を確保することができるし、取り敢えずそこへ向かうことをあたしはオススメするかなぁ?」


 続けてそう口にしたラ・テュリプからの提案に、俺は皆と顔を合わせ。次にも彼女へと頷いていく。


「うんうん! そうであったら、あたしがそこまでの案内を務めるわっ。――そうとなれば。ユノ・エクレールちゃん率いるこのパーティーを、外部に干渉されない安全地帯のキャンプ地へと誘導させてもらうから。このあたしに声を掛けてくれれば、いつでもそこへ案内をするわねっ!」


 この言葉を最後に、フィールド:デスティーノ・スコッレと風走る渓流の特殊なイベントが終了したのだろう。

 瞬間にも、皆はそれぞれの行動を始めていくその様子。NPCが自由に動き始めていくその光景は、イベントを終えた際の自由な時間のそれであったために。――なるほど。この流れから察するに。この地での用が済み次第にラ・テュリプへと話し掛けて、そこからキャンプ地へのワープかと理解し、俺もまた行動を起こしていったものだ。


 取り敢えずと、まずはドラゴン・ストームがドロップしたであろう経験値の欠片を回収し。この体内に欠片が蓄積する感覚と共にレベルアップを体感しながら。次に、他にやるべきことをミントに尋ねるもののこれ以上と特殊なシステムが存在しないと聞いては、それじゃあ移動をするかと即決に至りラ・テュリプへと話し掛けていく。


 ラ・テュリプの了承と共に暗転する視界。

 それ以降は、もう想像がつくであろう展開と共に。俺は、この特殊なイベントにおいて、こうして生存を果たせたことに安堵しながら。その安全地帯にて、一息をつき十分な休息を得たものであった――――



【~次回に続く~】

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