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ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
四章
207/368

イベントボス:ドラゴン・ストーム②【燃え上がる恋情】

 ……目の前には、先の黄緑を赤に染めた巨体が威嚇の音を上げていて。見るからに怒り状態である眼前の存在は、つい先ほどまでとは遥かな実力差を予期してしまう、暴風を纏いしものの名に相応しき威厳を漂わせる風貌で強者という存在感を醸し出し。

 昆虫特有の耳障りな風切音と共に。その場で旋回するよう竜巻の中で蠢きながら。……イベントボス:ドラゴン・ストームは、怒りで荒ぶる闘争心のままに。巻き起こす暴風を編むよう手足を動かし、その風を操り俺とミズキの姿を瞬く間と飲み込む。


 巡る嫌な予感に、事前の行動を移すこともままならず。その時には既に、荒ぶる暴風の障壁に包囲されてしまっており。

 ミズキのもとへと手を伸ばすが、それも虚しくと空回りし。視界は吹き荒れる風の壁に覆われ。この身体は浮き上がり。次第にも訪れた浮遊感と四方八方から加わる力によって。その感覚は、内部の神経ごと、この身体が引き千切られそうな引力で危機感が一気に巡り出す――


「ミ、ズキ、お、い、ミ、ズ――――」


 轟々と吹きすさぶ音の中。成す術も無く暴風にもみくちゃとされてしまい。

 その感覚は、ミキサーの中に閉じ込められ掻き混ぜられるかのような。高速で渦巻く風の壁は速過ぎて止まっているようにさえ見え始めて。この高速の内部に閉じ込められ、感覚を伝わせる神経が、肉の付くこの身体がその自然現象と一体に。もはや思考を行う余裕さえも与えられぬ外部からの強力な力を体験し。つい先にまで共に行動していたミズキや、敵であるドラゴン・ストームの存在を忘れてしまうほどの。もはや肉片となり散り散りとなってしまいそうな、この絶体絶命へと放り込まれた自身のもとへと意識を向けることしかできずにいて。


 ――徐々と磨り減るHP。拘束ダメージが蓄積するこの身に絶望を。こんな現状に放り投げこまれた今に、俺は最悪となる結果を迎えてしまうことがほぼ確定であることを予感してしまう……。


「ミ、ズキ、ミ、ント、ユ、ノ、ペ、ロ――」


 目前となった、俺の最期。今もゲームオーバーの文字が瞼の裏にこびり付いてきて。

 それが画面いっぱいと広がるその瞬間にも。このゲーム世界での冒険が終わり。この世界のあらゆる全てが、無に帰してしまう。

 この俺の行方により、この世界の命運が定まるという責任重大な存在であるという以上。俺が、このゲーム世界における主人公である以上。その物語の展開は全て、俺自身に委ねられている。……だからこそ、こうしてこの場で朽ち果ててしまうことが。この場面にて死んで消えてしまうことが、この世界にて懸命と生きる皆に、ただ申し訳が立たなくて仕方が無い。


 ……すまない、ユノ。まだ、生き甲斐である未知を求める冒険がしたかっただろうに。すまない、ミント。せっかく、やっとと人間らしい生き方に慣れ始めてきたというのに。すまない、ペロ。平穏の生活を求めてきたというのに、これじゃあ全てが台無しになってしまうだろうに。……すまない、ミズキ。俺と共に行動をしていたから、お前までも巻き込んで死なせてしまうだなんて。

 …………すまない、これまでと関わり共にした仲間の皆。ごめん、この世界に住まうあらゆる生命達。……俺が不甲斐無いばかりに、こうして皆を巻き込んでしまうだなんて――



 それは、諦めだった。どうすることもできない現実に直面し。ミズキにも偉そうに言ってきた諦めない心が挫け絶望に満たされて。しかし、もはやこの状況に希望を持つことはまず不可だろうと自身を納得させ。荒ぶる暴風の中、俺はただ、全てを投げ出しその目を閉じて。


 ……瀕死となったHPに覚悟と諦観を抱き。俺は、その時を待った――――




「弓スキル:フェニックス(ラ・コンバッション)アロー(・ドゥ・ラムール)ッ!!!」


 暴風の厚から僅かに垣間見える、一筋の紅。

 瞬間。それは竜巻の層を貫き、紅く光る真っ直ぐな光線が迸り。その光線を沿うよう飛来してくる、不死鳥の如く静まることの無い煉獄を纏いし一羽の鳥。

 飛行によって振り撒かれた紅の火花が竜巻を燃やし尽くし。それは俺さえも巻き込み。しかし、その攻撃のヒットにダメージを受けることなく。光速と過ぎったそれに弾かれる形で、消える浮遊感と地面への落下。


 一体何が起こったのか。それを確認すべく、紅の鳥が飛来した方向へと向くと。そこには煉獄に包まれ風切音混じりの悲鳴をギチギチと上げるドラゴン・ストームの炎上する姿。

 そして、一直線を描いてきたもとへと向くと。そこからはギミックである横殴りの強風に運ばれ。竜巻から解放され滞空するミズキを鮮やかと抱き抱え。強風を計算に入れた華麗な着地を行う一つの存在――


「"アレウス・ブレイヴァリー君"!! "ミズシブキウタカタ君"!! よねっ!? ――っこちら、ラ・テュリプ・ルージュ。ただいま、行方不明となっていた二人の身柄を確保しま……って、いけない。あたしったら、"また変な癖"が出てしまったわっ」


 大人っぽい顔立ちのクールなお姉さんで。だが、それとは裏腹となる熱のこもった華麗な声。


 身長はざっと見て百六十八。前立ての無いショート丈のシンプルな赤色ジャケットと。その下には襟のある白色のブラウス。ジャケットと同じシンプルな赤色のミニスカートに。それの足りない部分を補う黒のレギンス。足は滑らかなマロン色の軽やかな印象のロングブーツ。又、黒の指抜きグローブと。そのシンプルな赤色のジャケットとミニスカートの裾部分には白のラインが入っているために。一見してハツラツなイメージを覚える色合いを身に纏う活動的なその女性。


 容貌は。肘までの長さはある大きな束の、蜜柑色の特徴的なサイドアップ。クールな顔立ちの印象となる、ネコのような紅の目。目力を生み出すしっかりとした眉。自信で噤む口。しゅっとした輪郭。声は先ほどから描写している通りに、そのクールな印象とは裏腹となる熱のこもった華麗な声音の持ち主。


 耳に手を当て、先のセリフを発しては。いけないと、自身の行いに、またやってしまったと言わんばかりのハッとした様子を見せていき。

 その彼女はミズキを抱き抱えながら、俺のもとへと向いてくる。……間違いない。その姿はまさしく。まだまだこの記憶に真新しい、その独自となる存在感を放つキャラクターである。NPC:ラ・テュリプ・ルージェスト・トンベ・アムルーであったのだ。


「貴方達が属するパーティーを統率する、ユノ・エクレールという少女から既に話を伺っているわ。不運にもドラゴン・ストームと出くわしてしまい、デスティーノ・スコッレと風走る渓流にて遭難をしてしまったと。こんなにも過酷な環境で、よく生き長らえていたわねっ! それも、今もドラゴン・ストームの切り札に木っ端微塵とされてしまうところだっただなんて。そして、こうして助けられたこの運命。悲惨な目に遭ってしまった被害者にこう言ってしまうのも変な話ではあるけれど。貴方達は本当に運が良いわっ!」


 ミズキを下ろし、駆け寄る俺へとそう話していくラ・テュリプ。

 又、命の危機に瀕したミズキは脱力状態で。よろけては俺の胸にもたれ掛かって背中をギュッと掴んでくる。


「ありがとう、ルージュシェフ。まさか、貴女がこの場に来てくれるだなんて思ってもいなかった。……それにしても、あの竜巻を払ってしまうだなんて。未だに驚きを隠せないよ」


「へっへ~ん! 料理は上手くいかないことばかりだけれどっ、でも、戦闘であれば存分にこの腕を振るうことができるというものよっ!! このあたしが来たからには、もう安心して! あとはこのあたしに任せて、アレウス・ブレイヴァリー君はミズシブキウタカタ君と一緒に、ここからの避難をっ!!」


「っでも、ドラゴン・ストームを相手に一人で戦えるのか……?」


 俺の問い掛けを耳にしては。そのクールな表情で何だか得意げな笑みを浮かべて。鼻を擦り、ウインクを見せてから。何も無い両手を構えながらそう話していくラ・テュリプ――


「相手がどれだけ強かろうとも、彼らには必ず弱点というものがある。あたしはそれを着実に突いて、どれほどとの脅威を宿す相手であろうとも確実に仕留めてみせるわっ」


 突き出した左手からは、木製を思わせる茶の弓が現れて。

 握り締め、背後へ回した右手からは矢を取り出し番える。


「吹き荒れる風が何なのっ!! そんなもの、その環境に合わせた軌道を描いて的確と撃ち抜いてしまうから関係無しっ!! このラ・テュリプ・ルージェスト・トンベ・アムルー。悲惨な運命に翻弄とされた二人の少年を救うべく。この腕を存分と振るい。二人の身に降り掛かった災厄の種を払い取ってみせるわっ!!」


 構え、弓と矢を向けるその先にドラゴン・ストームの姿を捉えて。

 次に、弓から浮き上がり出す紅を宿し。燃え滾る灼熱で矢の先端が光り出し。チャージの合図である円形が消えた瞬間に、ラ・テュリプは大振りな動作で風の吹く方向へと向き直り矢を発射させたのだ。


「弓スキル:フェニックス(ラ・コンバッション)アロー(・ドゥ・ラムール)!!!」


 矢の発出と同時に、浮き出す紅から翼を広げ出現する火の鳥。

 それは共に放たれた矢を煉獄で包み込み。吹きすさぶ横殴りの強風にも掻き消されぬ不滅の炎を宿し。ラ・テュリプの技術によって完璧と強風に乗りながら、未だ紅蓮に身を焼かれるドラゴン・ストームのもとへと飛来する。


 そのマイナスへと働くはずであったギミックの強風を上手く利用し。むしろ、それによって死角からの奇襲さえも可能としたラ・テュリプの腕前に度肝を抜かしてしまい。唖然と見遣るその視線の先では、火の鳥はドラゴン・ストームの背へと降り掛かり。その背を包むよう覆い被さり燃え盛る紅蓮と一体化し、より一層もの炎上を引き起こす。


 全身に渡る煉獄に苦しみもがくその様子から、ドラゴン・ストームの弱点が火属性であることが容易に伺えて。それを承知の上であろうラ・テュリプはすかさずと次の矢を番え。だが、同時に自身を把握しているであろうドラゴン・ストームも。これ以上もの猛襲を食い止めようと強風を集め蓄えて。

 風を編むよう羽を手足のよう蠢かせ、段々と巨大化していく渦の中央に暗雲を生成し。周囲の暴風をその一点へと吸い込み、暗雲から特大となる竜巻を噴き出し。


 先の、嵐の如き一撃が瞬時にも放たれてしまい。それに反射的にも俺とミズキは互いに寄り添い、眼前からの渦に怯み眺めることしかできずにいて。

 しかし、目の前で勇敢に佇む彼女の背。構えていた弓をすぐさまとしまい。どこからともなくと取り出し、両手に握り締められた二刀の短剣を逆手に。その刀身に紅の模様を浮かばせ同時に大地を蹴り出すラ・テュリプ。


「ツインダガースキル:ソウル・(アン・)ダガーズ(ジュール・)(ドゥ・)火車(リュミエール)


 二刀を振るいながら駆けるラ・テュリプ。同時にして両手からは火炎の輪が現れて、それを身に纏い回転を帯びながら眼前から迫り来る嵐へと真っ直ぐ突っ走り。


 それは、踊るようなステップと共に回転の勢いを加えた巨大な炎のリングを形成し。その身を引き裂き塵へと帰してしまうだろう嵐の中へと勇猛に突っ込んでいっては、暫しして、大気が弾ける爆発音とエフェクトが。そして、彼女が身に纏う火炎が、竜巻を燃え盛る炎の渦へと変換させてしまい。その嵐の如き竜巻という脅威を我が物としてしまったラ・テュリプは弓を取り出し。つい先まで暗雲であった中央にて。その瞳で捉えた目前の標的へと矢を構える――


「弓スキル:(ジュテーム・ド)(ゥ・プリュプロ)(・フォン・ド)(ゥ・モン・クール)ッッ!!!」


 矢先から集中する、その有り余るMPの全てを注ぎ込むかの眩き閃光が溢れ出し。周囲の火炎。眼前の煉獄に包まれし標的を真っ直ぐと見つめ。全ての思いを託し引き絞り、その表情を勇猛に歪ませながらの弓を構える彼女の勇姿は紅蓮に映えていて。

 強風にも微動だにしないその姿勢と火炎の渦の内部で。閃光が一点へと収束したその瞬間に目を見開き。同時として大地にへばり付くよう思い切りながに股で、身体全体を仰け反らせ彼女の手から撃ち放たれた一発の矢。

 発射に、矢は託された希望の光を放ち一直線を描き。その周囲で漂っていた火炎の渦を率いて、前方に存在する強大な力へと。強風にも左右されぬ歪み無き軌跡で真っ直ぐ、真っ直ぐと飛来する。


 それは、燃え滾る恋情を原動力に突き進む、勇気に満ち足りた希望溢れる未来への光。この一撃を目撃し、俺の胸には栄光の勝利を確信させる。


 自身が発生させた竜巻の勢いを利用し活かした火炎の渦を。そして、眼前から一直線と飛来する一発の光を前にして。未だ自身を焦がす煉獄に手こずり。滞空することで精一杯であったのだろうドラゴン・ストーム。すぐにもその場からは動けずと、フラフラと微動し焦る様子を見せていきながら。しかし、その抵抗も虚しく。次の時にも、その巨体を貫く一筋の光。


 それに続き、大気を巻き込み強風によって規模を増した巨大な火炎の渦が襲い掛かり。辺り一帯を覆い尽くす煉獄と火炎の地獄絵図が空中で繰り広げられて。強風がより一層もの火力を底上げし。次第と散り行く灰がギミックに流されていき。


 ……暫しして、そこには黒の炭がひらひらと。それもまた強風へと流されていき。炎上の黒煙も既に流され余韻も残されておらず。その時にも、この空中からはイベントボス:ドラゴン・ストームの姿が跡形も無く消え失せてしまっていたのだ――


「その場所特有の環境を最大限に活かし、目前の脅威を冷静に対処し確実に排除する。これこそが、あたしのお得意な職業の『ハンター』ならではの個性というところかしらっ! 今回は特に格好良く決まって。その魅力が、その格好良さが、この強さが存分と伝わったことでしょう。……えへへっ。やっぱり、まだまだ"お師匠"には敵わないや。あたしやっぱり、まだまだお師匠の言うとおりにしないと上手くやっていけないみたい。……約束の日はまだまだ遠いものだけれども。でも、それでも……もう、この気持ちを抑えることなんてできない。……あたし、これまでも今もずっとずっと頑張ってきているから。だから……"その長身と愉快な金属音で皆を支える、誰かのために頑張れるその姿が本当に素敵な貴方様"のもとへと、理由も無く参じてもよろしいでしょうか――――?」



【~次回に続く~】

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