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ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
一章
20/368

エリアボス:ドン・ワイルドバード【決死】

『ギェエエエェンッ!!!』


 回復アイテムに敏感な反応を示すパターンを持つ、ドン・ワイルドバード。

 メタな視点からそのシステムを読み取った俺は、圧倒的な劣勢からの逆転勝利を狙うため、NPCのシステムとパターンを利用した戦法で目の前の怪物に挑む。

 

 回復アイテムは既に切らしたようなものだ。つまり、この戦法が失敗したその瞬間に、俺の敗北が確定する。

 死と向き合う恐怖と、眼前から迫り来る強敵への昂り。互いの命を懸けた戦闘の最終局面が今、展開される――


「まずは回避――ッ!」


 オレンジのオーラをその身に纏い、気狂った調子のまま全速力で駆け抜けてくるドン・ワイルドバード。

 俺に急接近すると同時にその強靭な筋肉が巡らされた脚を引き絞り、俺へ照準を合わせる。

 それに合わせて、俺は回避を選択。目の前で引き絞られた凶悪な一撃が、その焦らすような予備動作と共に勢いを纏いながら放たれる。


 圧倒的な火力を持つドン・ワイルドバードのスキル攻撃『千鳥足』。放たれた脚は噴出するように豪速を纏って俺へ飛び出す。

 選択した回避。その自身の回避率に全てを託した決死の前転。

 通り抜けるように繰り出した俺の回避行動。その結果は、天へ祈り続けたその願いが叶うかのように成功を収めることとなる。


 メタな視点から読み解いた相手の行動パターン。その隙も、まるで予想通り。

 予めの位置取りを計算しておいたこその回避であったため、回避を終えたその頃には既に、こちらの反撃が可能となる余裕が有り余るほどに存在していた。


 隙を晒したドン・ワイルドバード。今だ、この好機を逃すわけにはいかない。


「エネルギーソード!!」


 手元のソードに淡い青の光源を宿し、強力な一撃となるソードスキル:エネルギーソードを叩き込む。

 完全な隙を突かれたドン・ワイルドバードの甲高い悲鳴。エネルギーソードの一撃でよろめくその様子に再度のチャンスを見出したため、俺は再度の攻撃をぶつけるために接近――


『ギェェェーンッ!!』


 焦燥。先程の俺の様子で何かを察したのであろうドン・ワイルドバードからは、先程までの余裕と見て取れた表情が消え失せる。

 それと共に突き出してきた攻撃行動。その脚を突き出して俺へ反撃の一撃を与えようとドン・ワイルドバードは行動を起こす。

 だがその行動は、少し前に経験したワイルドバードとの戦いで既に把握済み。


「剣士スキル:カウンター!!」


 ワイルドバード系統のモンスターは、焦ると決まって反撃を繰り出してくる。


 眼前から飛んできた攻撃に合わせて身体に気を纏う。そのスキルが生み出す驚異的な瞬発力にこの身を委ねた俺は、今までとは比べ物にならないほどの余裕を持って駆け引きを制することとなった。


 自身の攻撃力が仇となり、カウンターの大ダメージを受けたドン・ワイルドバード。

 その苦痛の表情と共によろけるその姿。あの怯みモーションの時には反撃が飛んでこない。よって、この場もチャンスと化した俺のターン。


「エネルギーソード!!」


 再度のエネルギーソードで着実とドン・ワイルドバードにダメージを負わせる。

 逆転を予期させる流れの変化によって、相手にはダメージと共にプレッシャーをも蓄積させていく。


 この流れを何としてでも維持していきたいものの、ここでエネルギーソードによるMPの消費というシステムを忘れてはならない。俺は使い切ったMPの補充として聖水を取り出して摂取。

 そんな聖水にも反応したのか。目の前のドン・ワイルドバードに再び湧き上がるオレンジ色のオーラ。

 先程までの気狂った様相に焦燥が交じったその表情。それらが合わさり、絶叫する悪魔の如き悲惨な形相のまま、暴走するかのようにこちらへ駆け出してくるドン・ワイルドバード。


 さぁ、ここだ。

 頼むぞ、確率の女神様。天に全ての運を委ね、俺はこの戦闘の命運を分ける回避行動を選択。


 その強靭な脚を強引に引き絞り、その勢いをそのままに俺へ解き放つドン・ワイルドバード。

 また先程のように前転で回避し、再びソードのスキルを叩き込む。それが俺の想定していた戦法。


 再びこのパターンへ連れ込むために、俺は決死の想いを込めた全力の回避を起こす。

 ――だが、こういった土壇場な戦況ほど、その行方というものはまるで想定することができない事態を引き起こすというものだ。


「づァ――ッ!!」


 回避が失敗。

 眼前から豪速で放たれた『千鳥足』を真正面から受け、緊張で高鳴る心臓が口から飛び出そうな驚きと同時に吹っ飛ばされる身体。

 残りHPが三分の一以下。もう後が無くなったこの絶体絶命の状況下。

山丘の地面を跳ねるように転がる俺へ、更なる追撃でトドメを刺すために駆け出すドン・ワイルドバード。


 その怒り狂った形相を見据えながら立ち上がり、俺はガードを選択する――

 ……フリをする。


『ギェェェーンッ!!』


 やはり、ガードという行動に反応したか。

 距離を詰めてきたドン・ワイルドバードの次なる行動は投げ攻撃。その脚を器用に天高く持ち上げ、俺の頭を鷲掴みにしようとする。

 だが、既に投げ攻撃という手札を確認していた俺は、この状況下におけるガードを無効化する攻撃の選択を予期して回避を選択。


 先程の失敗が響き、この回避という選択肢には不安しか募らない。

 だが、そんな俺の期待を悪い意味で裏切る形となり、相手の投げ攻撃の回避を無事に成功させる。

 よし。失敗の許されぬ場面での失敗を挽回するため、俺は着地と共に踏み込んでエネルギーソードの一撃を叩き込んだ――


『ギェ、ギェェェンッ!!』


 だが、さすがはエリアボスと呼ばれる強力なモンスターだ。

 譲れぬ勝利への執着心。こちらの行動がわずかに遅かったか。『千鳥足』の硬直が解けたその瞬間にも、ドン・ワイルドバードは回避を選択して難なく成功させてくる。


 マズい。

 残りHPによる緊張感が俺の意識を蝕み、エネルギーソードの硬直から素早く繰り出せるガードで相手の攻撃を凌ぐことを選択するが――


「ッ――!?」


 投げ攻撃。

 ガードの予備動作の確認もままならないその状況から、投げ攻撃を選択してきたドン・ワイルドバード。

 完全に相手の方が上手であった。恐怖と不安に埋め尽くされた俺は、その強靭な脚に掴まれて投げ飛ばされる。


 地面に直撃したその瞬間に磨り減るHPの感覚。心臓の鼓動が耳元にまで聞こえてくる緊迫の瞬間。

 死んだか。咄嗟に起き上がらせた身体の、生の感覚を本能で認識しながら俺は胸に手を当てていた。


 ミリ単位。

 正に奇跡。しかし、もう今のHPでは、もはや転んだだけで死亡する危険性まであるかもしれない。そんな、完全に後が無くなったこの状況下。

 三度目の被弾は絶対に許されない。絶体絶命の窮地に瀕した俺は、最後の大博打としてこの手に薬草を握り締めた。


『ギェエエエェンッ!!!』


 回復アイテムでドン・ワイルドバードを呼び寄せる。

 ついでとして口に放り込んだ薬草の独特な苦味。しかしこの状況下だと、この味が愛おしくて仕方が無い。

 窮地に立たされた俺は最後の晩餐となるやもしれない軽食を済ませ、手に持つソードを一振るいして気分を奮い立たせる。


 上空には、涙を零す球体の妖精。自身の無力に嘆き悲しんでいる。

 彼女にこれ以上の心配を掛けさせるわけにはいかない。


 決心。決断。決意。覚悟。


 決死。俺はオレンジのオーラを纏いし前方のモンスターを見据えて、腰を深く下げながら構えた。


『ギェェェーン!!』


 飛び込んできたドン・ワイルドバード。その強靭なる脚を引き絞り、俺に向けて渾身の一撃を解き放つ。

 腰を据えた俺は、その動作に流されるがまま前転を繰り出す。


 目の前から放たれた、鋭利な爪と強靭な脚。

 その一撃を。頬を掠めるであろう紙一重の距離からなる回避行動を成功させ――


「エネルギーソードォ!!」


 こちらへ振り向いてくる眼前の敵。

 その脚を天高く持ち上げ、咄嗟の通常攻撃で反撃。

 相殺。互いにダメージが入るという致命傷を覚悟し、それでも引き下がれぬこの状況下に全てを委ねて、ソードスキル:エネルギーソードをぶっ放した。


『ギェ、ギェェエエェェッ!!』


 攻撃とスキル攻撃における差異。

 新たなテクニック。それは、スキルという必殺技は攻撃という機能を殺すというもの。

 相殺というシステムが機能することなく、俺のスキルが相手の攻撃を強引に退けながらの貫通を可能とする。

 そしてエネルギーソードの一撃は、直撃という手応えと共にドン・ワイルドバードを捉えた。


「もう一度――っエネルギーソードッ!!」


 まだだ。その隙に踏み込んだ俺は、無意識に二発目のエネルギーソードも当てていく。

 無我の境地。覚悟に侵食されたこの身体には、既に俺の意識は無い。


 俺は今、生にすがり付く決死の本能に突き動かされていた――


『ギェエエエェッ!! ギェエエエェンッ!!!』


 瀕死に直面したドン・ワイルドバードもまた、生という生命の本能に突き動かされ。その身にオレンジのオーラを纏いながら、眼前で殺しに掛かる狩人へその脚の一撃を解き放つ。


 そう、この世界はゲームの世界であり、弱肉強食の世界でもある――


 回避。脇を通り抜ける渾身の一撃を尻目に。俺は逸らした身体を持ち上げた勢いのまま通常の攻撃を浴びせる。

 殴りつけるように決まった攻撃に反応するかのように。眼前のモンスターもその脚を天高く持ち上げ、こちらへその鋭利な爪を振り下ろす。


「ッ――――!!」


 身体の周囲を巡る気は眼前の動作を感知し、驚異的な瞬発力を促してカウンターを成功へと導く。


 歪めた表情で怯むモンスター。それを視界の中央に見据え、手に持つソードに宿る淡い青の光源。

 振り被った渾身の一撃。それを見据えたモンスターもまた、その強靭な脚を活かしてこの場からの脱却を試みる。


 だが、その試みは目の前の執念を前に敵うことも無く――



「エネルギー……ソードォォオオォッッ!!!」



 強引に振り抜いた剣の一撃を最後に。

 眼前に立ち塞がった強敵は、その歪めた悪魔の如き様相を浮かべて。


 無気力となったその体が揺らぎ、襲撃した眼前の狩人を前に。

 逆転による波乱万丈な展開と共に苦し紛れの断末魔を上げて。眼前の敵は最期にこちらを睨みつけたまま。

 フィールド:セル・ドゥ・セザムの勝気な山丘のエリアボス:ドン・ワイルドバードは、抵抗することもなくその場で力尽きた――

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