NPC:ラ・テュリプ・ルージェスト・トンベ・アムルー ①
「……あぁそうだそうだっ! あたしのことを説明していなかったから皆は呆気に取られたような顔をしていたのねっ!! それじゃあ、まずはあたしの紹介から済ませちゃおっかっ!! っはぁ~……えー、コホンっ! あたしはこの屋台を経営する、マスターシェフの『ラ・テュリプ・ルージェスト・トンベ・アムルー』と言います~っ。シェフとしてはラ・テュリプ・ルージュやテュリプ・ルージュ。プライベートやお友達との呼び合いではテュリプやルージュと呼ばれることが多いかなぁ?」
クールな外見からはまるで予想だにできない、その暑苦しい喋り方やうるさい動作の数々。先にも描写したように、その大人びた容貌にユノとは異なる方向でハツラツとした彼女こと。NPC:ラ・テュリプ・ルージェスト・トンベ・アムルーとなるその女性。
そんなラ・テュリプが経営しているという。この、屋台式最高級ダイニングキッチン、高級レストラン・赤色のチューリップ。その名の通りに赤色を趣とした、何かただならぬ雰囲気を醸し出すその屋台は。しかし屋台とはとても思わせない豪勢な造りや場違いな高級感が放たれており。だが、その奇抜ながらも斬新なスタイルとは一方的に。ラ・テュリプ曰く俺達が最初のお客だと言うことで。彼女は初となる目の前の存在に、その感情のままハイテンションな調子で接待を行っていったものだ。
最高級と名を打っているだけはあり、手渡されたメニューの手触りや綴られた文字も。その店の外見その店の内装と、あらゆる面で高級感が放たれている。……まぁ、当のシェフ本人を除いては。
「自己紹介もしたことで、あたしのことを知ることができたものだから安心はできたでしょう~? これで存分にあたしの料理を堪能することができるってものだねっ!! と、不安なことも何も無くなったところでそれじゃあ早速、この屋台の説明を始めさせていただきますねーっ!!」
彼女の言葉とは裏腹に、未だに困惑を隠し切れずにいた俺達。この暑苦しいほどのハイテンションについていけずに。しかも、目の前のメニューに綴られた文字の並び的や値段的にもやけに豪華なものであったため。食べることが大好きであるあのミントでさえ、その様相に躊躇いが浮き出てしまっていた。
――尤も、未知が大好物であるユノにとってはそうでもないようで。こうした形式が物珍しかったらしく、その瞳を輝かせながら真剣に文字へと目を通していたものだ。パーティーリーダーである彼女がその気であるのであれば、俺も皆もそれに従いついていくものであったが……果たして、懐の面までを考慮するとそんな悠長なことを言っている場合であるのだろうか……。
と、皆の様子を眺めてから。その脇でもどんどんと話を進めていたシェフのラ・テュリプへと意識を向けていく俺。始めさせていただくとする説明へと、この耳を傾けていく――
「――はい。えー、コホン。では、まず…………この屋台式最高級ダイニングキッチン、高級レストラン・赤色のチューリップへのご来店、誠にありがとうございます。今回、この高級レストラン・赤色のチューリップにてお客様方に美味なる至福の一時を提供させていただくのは。界隈の中でも抜きん出た戦闘と料理の才を持ち合わせし、かの有名なる超一流シェフ兼このわたくしの唯一無二となる師から直にお認めくださった、この、マスターシェフとしての称号を託されし料理人でありますラ・テュリプ・ルージェスト・トンベ・アムルーが皆様の担当をさせていただきます。そんなマスターシェフ直々が腕を振るい、皆様の至福なる一時を手掛けるこの当店では。風と触れ合う自然の中で堪能する美味と自然のハーモニーを重点に置いた、移動式の食堂である屋台という形で最上級のランチをご提供しております。と言いますのも、この、長年にも渡る苦行の末に見出し磨き上げ鍛錬を積み完成へと仕上げた、マスターシェフの名に相応しき熟練の腕を存分に振るうことによって。屋台という利便性と手軽さが持ち味であるこの形式でありながらも。その利便性と手軽さに最上級となる技術と味を加えることにより。皆様の味覚に訪れし味の感動を、外の世界により伝えられたらと思い。当店は屋台という形式でこちらの高級レストランを経営している次第でございます。……今回、皆様の味覚に訪れし感動は。生涯、忘れることもままならない幸福の一部となることでしょう。それは、飽きることもない、病み付きにもならない、絶妙なる満足。この先にも皆様に流れ至る至福なる一時を、どうぞ、ご堪能なさっていってください」
急に雰囲気を出してきたラ・テュリプ。
先の暑苦しさを微塵にも思わせない、大人の落ち着きそのものの凛々しい身振り手振りで説明を終えた彼女。その変調に場の全員が度肝を抜かれたような表情を浮かべたことは勿論のことだろう。
さすがはマスターシェフとやらの称号を持つだけはあると。その最上級の腕に相応しき威厳溢れるラ・テュリプの姿に、俺は期待ばかりが高まってくる。……ものであったのだが。それは、急に緊張を解いた彼女の様子を目撃しては。先の不安が再びと巡ってくることとなったのだ……。
「……といったコンセプトでこのお店を経営しているんだけれどねぇ~。でも……やっぱりダメなのかなぁ。だって、この調子でもう長い間とこうしてお店をやっていたというのに。こうして訪れてきてくれたのはお客様が初めてなのだもの。同じ事業を長い間やっているだけでは、何の進展も望めないだなんて。なんて世知辛い世の中なのかなぁ。はぁ~……。――でもでも!! そんなところに、お客様方がこうして来店してくれたっ!! だからもうね! これはもう張り切りに張り切っちゃって、この、鍛えに鍛え上げた熟練中の熟練の腕を存分に存分に存分に振るって絶品の品を皆様に提供いたしますからっ!! だから、まずは頼んでみてね!!! このあたしに絶品からなる美味の体験のお手伝いをさせてね!!! 皆様のためにこのあたしに料理を作らせてねっ!!! というわけでオーダーをお伺いしますんで、さぁ好きなものを選んでねっお客様っ!!!」
落ち込み出したと思ったら、その暑苦しい調子を完全と取り戻し。選ばせる余裕も無くさぁさぁと熱く催促を始めてきたラ・テュリプ。
その腕は、確かにマスターシェフとなるすごい響きのものなのであろう。だが……如何せんこの勢いだ。いくら上手い美味いと豪語されても、その腕前や味を知らぬ現在の状況では。その言葉を信じるための要素となるのは、やはり一番の印象となるその人間性から伺うことは誰だってそうだろう。……この調子に、先の期待から一転として。俺はなんだか不安となってしまったものだ。
……しかし、直にも俺はこの疑いを後悔することとなる。
その言葉は本物だった。しかし、不安から期待へと。そしてまた不安へと翻り続けるこの目まぐるしい俺の心情。……それを、この後にも更に体験させられることとなるのは。また直にしてからであった。
【~NPC:ラ・テュリプ・ルージェスト・トンベ・アムルー ②に続く~】




