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ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
四章
194/368

高級レストラン・赤色のチューリップ

【設定の変更】

第2部と第56部にて描写されたユノとニュアージュの身長を、第194部における今回の話から変更いたしました。尚、物語中では漢数字にて描写されているそれらではありますが。この欄に関しましては半角英数字で表記します。


ユノ:身長169cm → 身長172cm(靴底も合わせて173~174cm程)

ニュアージュ:身長172cm → 身長175cm(靴底も合わせて176~178cm程)

 拠点エリア:マリーア・メガシティを出発してから一週間は経過しただろうか。

 それなりと歩いてきたこの旅路。場面も、場所も。野を歩き山を登り、村を渡り川を沿うそれらの光景は。この前とはまるで異なる、新たなステージが次々と目の前に広がっていくものであり。その数々に興奮が高まり。新たな未知に心を弾ませ。新たな出会いにワクワクが収まることの無い未知なる冒険を辿ってきた。


 今もその最中であり。そんな、モンスターといった物騒な連中の存在する危険なゲーム世界であるこのRPGであるものの。最近の内容はと言うと、比較的に平和的な出来事を過ごしていく。戦闘のあるスローライフといった調子のそれであって。冒険によるアクションやドキドキを楽しむというよりは、旅する仲間達と共に過ごすのんびりな空間を中心として楽しんでいたものだ。


 ……そう。それまでの旅路からはまるで、『魔族』となる混沌の脅威が迫っている危機感を思わせない内容を過ごしてきたものだから。この身で直に体験した、あの『魔族』の脅威が。その場限りの特殊なイベントにしか感じられなかったほどの、とても平和的な日常を送ってきたものであったから。

 ……『魔王を倒す王道なRPG』という、このゲーム世界のコンセプトを完全に忘れ切った平和ボケによって。この先にて起こる、予期せぬとんだ一大イベントを前にして。俺は、悪戦苦闘を強いられることとなったのだ――――



 青空を巡る雲。風の吹き抜ける草原。青と緑が一帯を覆い尽くす大自然の道を辿るユノ御一行。ユノを先頭にしたこの道のりを、今日も平和的な空気で渡り歩きこのゲーム世界の生活を十分に堪能する。

 ……尤も、ミズキとの拗れた関係を除いては。


「ミズシブキ君。お昼は何が食べたいかしら? お姉さん、お腹が痛いのが治ったミズシブキ君の食べたいものを何でも作っちゃうから! だから、遠慮無く言ってね!」


「……わかったよ。お姉さん」


 一週間を共に行動し。又、その影響力も相まってか。ユノやミントとは割と仲良くやれているミズキ。特に、ユノに対してはお姉さんと呼ぶようになり、ブラートの時と同様な親しみを持っているように見えなくもない。

 ミズキが心を開くことのできる人物がまた一人と増えた。それは、本人は勿論のこと、仲間として俺も喜ばしく思えることである。


 ……が、しかし。そんな俺とは依然として関係が悪いまま。むしろ、ペロとの一件以来、更なる嫌悪感を持たれてしまっていたことだろう。そして、あの朝に起こってしまったデリカシーに関する言葉によって。ミントはペロに対して、やけに冷たくなってしまったものだ。

 それはまぁ……さすがにデリケートな問題であったために、ペロに非があるものではあったが。しかし、ミズキとミントという二人の少女から嫌われてしまったペロには、その境遇に同情せざるを得ない部分もある。


「な、なぁミント。ペロのことはそろそろと許してやらないか……?」


「あ、アレっちィ……まぁさ、そんな……ミッチーに無理させなくてもいいんだぜ……?」


「ご主人様のご命令でありましたら、このミント・ティー、この胸に靄掛かる受付拒否の念を払い。元々の念を以ってして、再びとペロ様との関わりに誠実さを持ち合わせた上でのコミュニケーションを意識させていただきます故。――改めまして、お友達からよろしくお願いいたします。ペロ様」


 その調子は至って平然としており。しかし、隣を歩いていたペロへと視線を向けると。その、まるで、何十年もの年月が経過した体育館倉庫の片隅に溜まりに溜まった埃の塊を眺めるかのような。その姿に何を抱くことも無い光の宿らぬ無感情な眼差しでペロを見つめるものであったから。それ以来もの少女の急変に、ペロも堪らず戸惑うことしかできずにいたものだ。


 身内で完全とギクシャクな雰囲気となってしまったユノ御一行。そのパーティーリーダーであるユノはそれを何も知らず。こんな俺達の様子にハテナマークを浮かばせて首を傾げることしかできずにいて。だが、彼女を巻き込む必要などは全くもって無いために。ユノはこのままでいてほしいものだがと、ペロの境遇にただただと切なる思いを抱いてしまえたものだ。

 ……今のユノこそが、ペロにとっての唯一のオアシスであることだろう。頼むから、ペロを干からびさせないでくれよ、皆…………。



 次の目的地である『拠点エリア:風国』が近付いてきたということもあり。この地域一帯では、その風国とされる名前に納得ができてしまえる風の流れをこの身で感じることができる。

 今も、皆の背に流れる追い風に押されながらこの旅路を辿っており。風国というゴールが見えてきたことで、俺はまた、新たなるステージとの出会いに胸が高鳴って仕方がなかった。


 まだかまだかと、地平線を沿う道を仲間達と辿るこの道のりの中で。ゴールが間近であるというその地点にて。……ふと、俺やその場の皆がつい目移りしてしまう。とある光景を目撃することとなったのだ――



「あら? ……こんな道端に屋台?」


 俺達の向かう先には。ユノの言葉通りにぽつりと、この道端に一つ佇む小さな屋台が寂しく存在しており。なんだか物珍しげな調子でそう呟いては、ユノは覗き込むように上半身を傾げて観察を行い。直にして、閃いたように言葉を口にする。


「……こんな何も無い道端に屋台を構えるだなんて、中々に面白いセンスをしているじゃない。……いいわ。いいわね。いいじゃない……。未知を求める私をここまで誘惑するだなんて、あの屋台はただものではないわ。――いいわ!! その挑発に乗ったわ!!」


 未知に目を輝かせるユノ。その禁断症状は自他共に勿論抑えることもできず。巡り巡る衝動のままに突然と走り出しては、彼女一人で屋台へと向かって行ってしまったもので。

 そんなマイペースなパーティーリーダーを追うべく、俺達も彼女と共に屋台のもとへと駆け寄りその前に立つものであったが。……その、赤を趣に置いたであろう鮮やか且つ屋台にしては豪勢でしっかりとした造りのそれを眺めて。次にも視線を上げては店名を読んでからというものの。俺はつい、それに訝しげと呟いてしまったものだ。


「……屋台式最高級ダイニングキッチン。高級レストラン・赤色のチューリップ…………?」


 ……なんか、高級感の漂う名前だ。

 高級だからこそ映えるであろう、そういった名の独自性に。俺はこの、一見何の意味も無さげな店名に根拠無く頷けてしまう。


 周囲の仲間達は首を傾げていたりしたものだったが。そんな中でもやはりと言うべきか、ユノは疼く未知への探究心を抑え切れないと言わんばかりに屋台へと近付いていって。店主と思われる人物を探しながら。声を掛けながら、おもむろにカウンターを覗いていく。


「ごめんくださーい。ここの店主はいらっしゃらないかしら?」


 ユノが屋台を覗き込み声を掛けてみると。ふと、彼女はハッと目を見開いてはカウンターから半身を戻し。――次の時にも、屋台の端から大慌てといった様子で駆け付けては。何だか熱のこもった、しかしよく通る華麗な声を持つ一人の女性が急ぎながら姿を現してきたのだ。


「おやぁ!? おやおやおやぁ!!? うわぁっぉ!! もしかしなくても、貴女方はお客様ぁ!!? ――――あぁぁ、お、お客様だぁ!!! あぁぁ、これは夢なんかじゃないわよねっ!? あぁぁ、やったぁ!! やっと、ついに念願のお客様第一号が現れてくれたのねっ!!! あぁぁはぃいらっしゃいませぇぇっ団体五名の記念すべきお客様第一号のあたしにとってとっても特別な大事な大事なお客様方ぁぁぁ!!!」


 彼女の第一印象は、大人っぽい顔立ちのクールなお姉さん。と言ったところだったのだが。しかし、その熱のこもった華麗な声と共に。俺達の姿を確認してはおおはしゃぎのままにカウンターを飛び越え、そのクールな印象を受けるままの華麗なる着地と共にその女性は全身を露にしてきたのだ。


 彼女の身長はざっと見て百六十八。大自然を愛するレンジャーを思わせる、前立ての無いショート丈のシンプルな赤色ジャケットと。その下には襟のある白色のブラウス。ジャケットと同じシンプルな赤色のミニスカートに。それの足りない部分を補う黒のレギンスを着用していて。足は滑らかなマロン色の軽やかな印象のロングブーツを履いている。又、黒の指抜きグローブの他に。そのシンプルな赤色のジャケットとミニスカートの裾部分には白のラインが入っているために。一見してハツラツなイメージを覚える色合いを身に纏う活動的なその女性。


 そんな彼女の容貌は。肘までの長さはある大きな束の、蜜柑色の特徴的なサイドアップ。クールな顔立ちの印象となる、ネコのような紅の目。目力を生み出すしっかりとした眉。自信で噤む口。しゅっとした輪郭。声は先ほどから描写している通りに、そのクールな印象とは裏腹となる熱のこもった華麗な声音の持ち主であり。クールビューティから一転として熱血系を想像してしまえたものだ。


 それは、ユノと似たキャラクターの要素を伺わせたものの。しかし、ユノはその見た目とは反して元気ハツラツな活発娘。一方で彼女はと言うと、先の通りの熱血系といった十分な見分けをすることが可能であり。例えるなら、ユノが太陽のような暖かさと表現するのであれば。この彼女はと言うと、夏の始まりに漂い出す熱のこもった風。と表現することができるだろうか……?


 そんな、この屋台の店主と思われる女性はすぐさまにユノの両手を握り締めて。なんだか暑苦しい調子でハイテンションのままにひたすらと喋り続けながら。さぁさぁといった様子で、彼女をじわりじわりと屋台へと連れていく。


「いやぁぁ、こんなそよそよと流れる風になびかれるままによくあたしの屋台を見つけて寄ってくれたわね~!! あぁぁほらほら! お水なら無料で何杯でも飲めるよ!? ご飯も、とびっきり美味しい美味しいランチを振舞ってあげるから!? だからこのあたしの屋台で存分にゆっくりしていってねっ!! ――それにしてもよく来てくれたわねお客様ぁぁ~!! あたしもう、段々と一人に慣れてきてしまっててなんだか人肌が恋しくなってくるこの年齢になってもこうして一人だったものでこのまま孤独のままに人生を終えちゃうかと思ってたものだから。もう、お客様とこうして巡り合えたこの奇跡がとびっきりな出会いに思えてきてなんだかテンション上がってきちゃったよぉぉ~!! あぁほらほら、さぁさぁ皆さん席に座って座ってっ!!」


 ユノとはまた違った方向性の勢いを纏うその女性。この暑苦しい怒涛の言葉ラッシュに皆が圧倒される中。そんな彼女に促されるまま、俺達はいつの間にやらと設置されていたお洒落な白色のテーブルとイスに腰を下ろさせられる。


 ……それにしても、よく喋る女性だ。このクールな外見からはまるで予想だにできない、その暑苦しい喋り方やうるさい動作の数々に。どうやらこれはユノのように、しばらくの付き合いによる慣れを要するであろうキャラクターにきっと違いなかった。


 そんな、目の前の熱気溢れるその勢いに押されるがままではあったものの。この旅路の中でこれまた一際と豊かな個性を持つNPCと出くわし。あまりにもただ者ではない雰囲気の彼女に俺は新たな出会いを予感し。こうして顔を覗かせた新たなフラグに期待を抱きながら。促されるままに全員がイスに座ったところで。その女性は一体どこからかメニューを取り出しながら。その暑苦しい様子で自己の紹介を行い始めたのだ――――


「はいこれが、この当店におけるメニューになりまぁす!! とは言ってもページは一枚しかなくてメニューも四種類しかないけれどっ! でも、どのメニューもきっとお客様の舌を存分に喜ばせることができる自信があるものだから、さぁさぁまずは美味しそうなニュアンスや気になったアクセントの一品を注文してみてよぉ~!! あぁまぁ代金はやっぱりそれなりには取ってしまうけれどもでもでも安心してっ!! あたしは、このあたしの料理で皆に至福の一時を与えることが生き甲斐なのっ!! だから、味は保証できているから何も心配せずにそんな不安そうにせず取り敢えずでも頼んでみちゃってよぉ!! ……あぁそうだそうだっ! あたしのことを説明していなかったから皆は呆気に取られたような顔をしていたのねっ!! それじゃあ、まずはあたしの紹介から済ませちゃおっかっ!! っはぁ~……えー、コホンっ! あたしは、この屋台を経営する。マスターシェフの『ラ・テュリプ・ルージェスト・トンベ・アムルー』と言います~っ。シェフとしてはラ・テュリプ・ルージュやテュリプ・ルージュ。プライベートやお友達との呼び合いではテュリプやルージュと呼ばれることが多いかなぁ――――?」

 

【~次回のお話へ続く~】

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