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ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
三章
187/368

メインクエスト:それぞれの、新たな動き

 真昼の酒場。

 それは主として、飛び交う情報と酒の臭い……と、時々暴力で構成された。昼夜問わずとアルコールが充満する、冒険者のための憩いの場。とでも説明することができるだろうか。


「はーイ!! アーレース!! オーダーのメロンソーダ二丁!! 一丁アがりだヨ!! レディー・ミントとユったりくつロいでいってネ!!」


 メロンソーダの注がれたグラスを銀のお盆に乗せて運んできたファン。この酒場にお勤めする彼女の、その不慣れなカタコトの調子や独特な話し方が聞こえてきて。そんな、オーダーした品を彼女から受け取っては、律儀な様子で隣に座るミントとそれを頂く。


 炭酸の加わった緑色に喉を刺激され。昼間から酒場でくつろぐという贅沢をナビゲーターと共に満喫し。二人同じタイミングで飲み。同じタイミングでグラスを置き。二人でふぅっと一息をついてから。改めてといった具合に、この酒場を見渡してみる。

 ……そこに広がっていたのは、昼間でも平気と混雑である繁盛の光景――――ではなく。どこも空席だらけの、なんとも物寂しげな店内が広がっていて。それはもはや、個人営業の店をも思わせるような。まるで客足を伺わせない、ものの見事にもすっからかんな光景であったのだ。


 この、拠点エリア:マリーア・メガシティという経済と女神の大都市とは到底思えぬ。惨状とも呼べてしまえるであろう閑散な店内を見渡し。……この様子を見てというもの、まぁ、そりゃそうだろうなと。俺は"今朝にも起きてしまった悲劇"を思い返しながら。全世界で店を営む経営者に、同情の念さえも抱いてしまう。


 そんな、この酒場にて。特にやることもなかった俺は、周囲に耳をすませることにした。

 真っ先と聞こえてきたのは。この背を向けた先にも存在していた、ある一つの冒険者グループの会話。こんなすっからかんな酒場に訪れていた、物好きとも呼べるであろう数少ないお客の会話へと。俺は耳を傾けていく。


「――ッんぅ~!! 真昼からのお酒も、中々に通なものよね~!! って、あぁそうよ!! ねぇ、ちょっと聞いてよ皆ぁ!! 昨夜ね! 私、一人でモンスターと戦っていたわけ!! この街の外、あの平野でワイルドボウと戦闘をしてたの!! その時に起きたことだったんだけど。私、炎の魔法を扱うのが得意じゃん? で、その時も、私のとっておきの魔法使いスキル:ビッグバンでケリをつけようとしたの!! それで、その魔法を唱えて魔法陣を生成して。ここで発射!! と思ってビッグバンを放ったら。その瞬間にも、あの"大きな爆発で辺りを吹き飛ばすビッグバンが忽然と消えてしまった"のよ!? ね!? 有り得ないでしょ!? 魔法陣までもあったのよ!? でも、ビッグバンを放ったその瞬間に。フッ、って消えちゃったのよ!! それで、ワイルドボウが目の前から来るから。その突進を頑張ってよけ続けて。ようやくと巡ってきたチャンスの時に、次こそはと思って魔法使いスキル:ファイアバードを唱えたらね!! また、フッ、って。フッ、って"忽然と消えちゃった"のよ!! もう、災難じゃないこれ!? ほんとこれ、どうなってんの!? って感じ!!」


「う~ん。そういやぁ俺も、深夜にしか出ないクワガタムシを捕まえようとしてさ。ほら、俺、能力低下のデバフや罠を使う職業のダウナーじゃん。でさ、その時もさ。ほら、ダウナーお得意の巨大網。ほら、あれ、範囲広いじゃん。だから、"モンスターや人間も拘束できる"っていうそれを使って捕まえようと思ってさ。見つけたクワガタムシにそれを撃ったわけ。そしたらさ。その、フッ、ってやつかな。急に"消えちゃった"んだよ。あれ、何だったんだろうな~って思ってたけど。それ、お前も同じようなことになっていたんだな~」


 へぇ、そんなこともあるのか。と、冒険者グループの会話を聞いて、俺もその場面と出くわしたら気を付けなきゃなと。未だ知らぬ事態を小耳に挟んでは、また新たに仕入れた情報に頷きこの脳みそに刻んでいく。

 酒場というものは如何せん、アルコールの臭いがとてもキツい場所ではあるが。しかし、利点としては、こうして席に座っているだけでも。各箇所から無尽蔵に飛び交う情報の数々を耳に挟むことができるというものがある。

 これは、新米冒険者である俺としては限りなく助かるというもの。ただ茫然と座っているだけでも、こうして情報を調達することができてしまえるのだ。そう考えると、この強烈なアルコールに鼻がもげてしまいそうな思いをしてしまっても。その先に待っているお得な情報のためになんとか我慢することができるというものだ。


 ……と、背にしていた冒険者グループの会話から情報を調達していたその矢先で。ふと、側からとても誇らしげな調子でこちらへと声を掛けながら寄ってくる存在が姿を現す。


「アレウス君!! ミントちゃん!! うむ、集合時間ピッタリだな!! それを可能にしてしまえるその行動力。なるほど、さすがだね! 正に、そのただならぬ特殊な存在感を放っているだけはあるというものだな!! この俺の、探偵・フェアブラントの眼と正義に、一片もの狂いなど無かったというわけだ!!」


 いや、集合時間ピッタリに来たのはブラートの方じゃないか。と、そんな彼に内心でツッコミを入れながらも。ブラートのために空けておいた空席に手を差し伸べ促し。ブラートはその席に腰を下ろしては、この閑散な空間を見渡しながら喋り出す。


「待たせてすまなかったね、アレウス君。ミントちゃん。……うむ。まー、この光景も、やはりとでも言うべきかな。ここがいつもの、あの酒場だとは思えぬほどにまで。その内部が随分とすっからかんとなってしまっている。まー、無理もないだろう。何せ、"今朝にも。二連王国にて、特大な権力と人望を持つ二連王のお二方直々から。この世界を脅かす新手の脅威である、『魔族』という災厄の出現が発信された"ものだからね。この世界のトップでもあるお二方から、そう伝えられてしまったのだ。この事態の深刻さに、さぞ、全世界の人々は絶望してしまったことに違いない。――こうして、ただ誠実と生きてきた民に絶望を振り撒いてしまうだなんて。これはきっと、至極残酷な行いであったことに違いなかっただろう。だが、今の世界には、この危機感こそが必要とされている。つまり、これは致し方の無い手段だったのだ。……いやしかし、それにしてでも。これにはさぞ、二連王のお二方も苦渋の決断を強いられたことだろうね。お二方の心情をお察しするよ」


 テーブルに乗せた右手の人差し指をトントンと動かしながら、何かに思考をめぐらせるブラート。その様子を伺わせ。次にも、彼は不満げにこう続けていったのだ。


「ただ……やはり、引っ掛かる。この件に関して、どうしても感じずにはいられぬ気掛かりが存在してしまっていて仕方が無い。それは、この世界に存在し得る限りの情報網を辿ることで全世界に発信された、二連王直々ともなる大層な声明であったものだが……しかし、そんな彼らの口からは、『魔族』の復活。ではなく、『魔族』の出現。と、全世界にそう発信していたのだ。……今回の声明からは、『魔族』という存在は飽くまでも。今回で初となる災いの訪れ、として済ませておきたいと思わせる上層の意図を伺えてしまえる。……いや、これが気のせいであれば、それでいいのだ。――だが……二連王である彼らも、口を揃えて『魔族』との過去を隠しているその様子に、どうしても遺憾を抱いてしまえる。……俺は、二連王のお二方に望みを託していた。だが、今回のお二方の判断に、俺は少々と困惑さえもしてしまっている。何故、『魔族』という至極危険な存在が、以前にも一度とその姿を現し。この世界を滅亡の淵へと陥れてきたとなる凄惨な真実を公に明かさなかったのか。……それについて真っ先と辿り着く推測は。その凄惨となる過去を明かすことにより、もはや望みの無い未来に民を絶望に陥れたくなどなかったから。といった思惑があったから、だろうが…………いやしかし、それでも今だからこそ、『魔族』の過去について触れておかなければ、少々と厄介なことになりかねないことは二連王のお二方も承知の上であるはずなのだ。それは、物知りな輩による探りによって、直にもその真実が公に晒されるであろう『魔族』の過去を伏せたことを問われ始めてしまい。それは一定もの層に不信感を与え。直にも国の信頼に傷が付き始め。団結が必須となってくる今の状況にも関わらず。今は向けるべきではない問題ばかりに集中し、対抗心を燃やしてしまう危機感の無い輩が現れてしまい。最悪の場合には、人々の治安に悪化を招く恐れが出てきてしまうことだろう。二連王のお二方も、それを懸念するべきだと思うのだが、果たして…………」


 その長広舌を、独り言として次々と零していくブラート。

 それは、今目の前の物事があまりにもまどろっこしく、些か気が収まらないといった様子を見せていきながら。しかし、それも。この街の秩序と平穏のことを。この世界の行く末を真剣に想っているからこその焦燥をブラートは一人で背負い続けながらも。


 どうしても納得がいかないと、快く思わずにいる複雑な表情を浮かべながら。次の時にも一つため息をついて。ブラートは、俺のもとへと視線を向け出し……。


「……まー、これはまた後にでも推測するとしよう。今はそれに時間を割く時ではないからな」


 と、その頭脳に絶えず巡り巡ってくる思考へ。まるで自分自身に言い聞かせるかのような口ぶりでそう言うなり。ブラートは改めてと言った様子で姿勢を整えては、俺と向き直ってある話を始め出した。


「……して。そんな非常事態であるこの状況の中で、こうして二人を呼び出してしまってすまなかったね。というのも、今も我がマイホームであるフェアブラント私立探偵事務所にて宿泊をしている、アレウス君の御一行であるペロ=アレグレ君から聞いたんだ。――ほら、アレウス君達は明日にも、このマリーア・メガシティを出るのだろう?」


 描写こそは無かったが。それ自体は前々にも、ユノの口から皆にそう伝えられていたのだ。

 未だ経験したことの無い、未知の事象に飢えしその少女。その貪欲な探求心はあまりにも活動的であり。それは、徐々と見慣れてくる光景に直にも飽きてしまい。次なる未知を求め出し、その場に長く滞在することもできないというほどの特性を持つ彼女。

 今回も、この数日と拠点エリア:マリーア・メガシティに滞在してきたものであったために。未知を求める欲求がふつふつと湧き上がり抑え切ることができなかった彼女は。明日となるその日にも、この街から出発することを提案し皆がそれに頷いていたのだ。


 ……そして、出発が差し迫ったこの時期にて。『魔族』という世界を脅かす脅威がお偉い方々から発表されてしまったわけであったものなのだが……。


「『魔族』がなんだと騒がれるこのタイミングで、よくもまー危険を顧みずに冒険をすることができるものだ。それは、この時期に行うべきではない、命知らずの何とも愚かしい行為であるものなんだが……いやはや、やはりその特殊な存在感が実に不思議なものである。――アレウス君であれば、この、時期の悪いその無謀な行いも。それは一転として。新たな体験を求めし、スリル満天な大冒険への旅立ちだと思えてしまえるものだからね。全く、君は実に不思議な人物だ。その、あらゆる困難にも希望を期待させてしまう特殊な存在感は、本当に頼りとなってしまうな。君がいる限りは、この俺は『魔族』という災厄を前にしてしまったこの状況でも。俄然と希望を見出すことができてしまうものだね。……現に、この探偵・フェアブラントがこうして冷静でいられるのも。もしかしたら、君の存在のおかげなのかもしれないな。ッフフフ」


 曖昧にも、俺の、ゲームの主人公という立ち位置を認識しているであろうブラート。俺の、この特殊な存在に安心感を覚えては笑みを一つ零し。こちらを見つめながら、彼は言葉を続けていく。


「そんな、この俺の救世主とでも呼べるであろう君とね。今の内にも、どうしてでも、こうして話をすることができる機会を設けておきたかったんだ。……それでいて、随分と察知能力の高いアレウス君のことだろうから。きっと、この俺がこうして呼び出し、わざわざと出向いてきたことに何かしらの意味を感じ取っているはずだね」


「まぁ、計算高いブラートのことだからな。理由も無くこうして場をセッティングするはずもないだろうし。こうまでしてでも話しておきたい何かがあるんだろうな、っていうのは薄々と思っていたよ。……ただでさえ、今までもその思惑に振り回されてきたというのにな」


「今だからこそ、正直に伝えよう。最初こそは、君という存在感を利用してやろうという思いの一心だったものだ。……しかし、君と――いいや、君達と関わっている内にも、それがとんだ大間違いだったことに気付かされたよ。……俺はまだまだ甘かった。相手は、これほどまでの存在感を放つ人物なのだ。一手でも間違えてしまっていたら、この存在感は"希望"から"脅威"へと成り得たわけだし。今思えば、俺は一か八かの大博打に出ていたとも考えることができてしまえる。全く、君という存在を利用してやろうだなんて、命知らずにも程があったなー」


 アッハハハと、これまでの出来事を顧みて眉をひそませながら笑い。ブラートは続けて言葉を連ねていく。


「……だが、今回ばかりはそうじゃないんだ。君を利用してやろうというこの俺の思惑とは全く異なる。……探偵・フェアブラントとしてではなく。この俺の、フェアブラント・ブラートという一人の男としての。ある、一つの誇りに関する話をしに来たんだ」


 落ち着きを払ってはいたが。その内側に、今も抑え込んでいるであろう強い感情を見受けることができて。そんなブラートの、決意とも言えるべき信念に。俺は、メロンソーダへと伸ばしていた手を止めて、彼の話に集中し始める。


 その誇らしげな様子はそのままに。俺には一度も見せたことのない真剣な眼差しを、真っ直ぐとこちらに注いでいくブラート。

 口を開くが、言葉が喉につっかえたのか。空気のみを吐き、ふぅっと息をついては深呼吸を行い。……目を閉じ。直ぐに開いては。NPC:フェアブラント・ブラートは誇り高き決意のままに。この俺に、ある一つの頼み事を託してきたのだ――――


「……ミズキ。水飛沫(ミズシブキ)泡沫(ウタカタ)という人物について、君達に少しばかりと頼みたいことがあるんだ――――」







 夜明けの時刻。陽がその顔を覗かせる前の刻。

 人気の無い裏道。そこに並ぶ建物の一角にて、珍しくも数人と集っており。そこでは、言葉を交わし、互いに別れを惜しむ光景が広がっていた。


「うわあぁぁぁぁぁああああぁぁぁんッ!!! お客さん方がいなくなるの、すっごく寂しいっすぅ!! あともう一日でも!! あともう一日でもいいから! ここに泊まっていってくださいっすよォォ!!! ぉぉぉおおおおぉぉぉおおぉッ!!」


 砕けた調子の女の子従業員。今日にも、このマリーア・メガシティを出発する俺達にだばだばと涙を流していき。ユノやニュアージュ、ミントといった女性陣と抱擁を交わしていくその姿が見受けられる。

 彼女らと別れを惜しむ抱擁の後にも。女の子従業員は止まらぬ涙を両手で抑えながら、悲しみのままにその場で立ち尽くしてしまい。そんな女の子のもとへと寄っては、肩を撫でて彼女を慰め始めたファンが言葉を続けていく。


「わたシも従業員モ、みんなのコとを大好キ思ッていたヨ!! それニ、こんなニいっぱい泊マってクれたオ客様、初メての経験ネ! レディー・ユノ。レディー・ニュアージュ。レディー・ミント。ボーイ・アーレース。そしテそしテ、こコにはいなイ、あの大キなボーイ。みんナと出会エタ、こノ運命? 奇跡? 一期一会? ハ、わたシ達モすごく嬉シかっタことだネ!!」


 泣きじゃくる女の子従業員を抱き寄せ、そのエメラルドの身体で包み込みながら。ファンは俺達へと感謝の言葉を掛けて。ユノもまた、この拠点エリア:マリーア・メガシティにおいて世話となった彼女らに感謝を示していく。


「私達も、こうして貴女方と出会うことができて。そして、この宿屋:大海の木片という素晴らしい宿屋に宿泊することができて、ホントに良かったと思っているわ! こんなに素敵な宿屋を見過ごしていただなんて……もう。何度も訪れていたにも関わらず、ここに宿泊をしてこなかった今までの時間が勿体無いくらいなのですもの!! ファンさん。またお世話になってもいいかしら?」


「勿論ダヨ!! わたシ達ハ皆サんを心カら待チ続ケル予定!! いつデも来テもいいようニ、お部屋ヲ空ケてお待チし続ケるヨ!!」


「わぁ! それはとっても嬉しいわ!! ……でもでも、ここは素敵な宿屋よ。まだ、誰も知られていないものだけれども。もしもイイ噂が出回って、いつの日か繁盛し始めたその時には。そのお部屋はお客様にちゃんと割いてあげてね!! ――あとは、そうね……」


 ファンと会話を交わし。互いに納得し合った様相で頷き合っては。

 太陽のような微笑みを浮かべながら。次にも、ファンの胸元で泣きじゃくる女の子従業員へと声を掛け始めるユノ。その温もりを帯びた優しい調子で、涙の止まらぬ彼女へと言葉を伝えていく。


「大丈夫よ。私達はいずれまた、この街に訪れるわ。…………そうよ! 私、この宿屋のリピーターになるわ! 私、この宿屋のことが大好きになってしまったから。また必ず、ここに泊まりに来るから! だから、その時にはまた。今までのようにいっぱいいっぱいお話をしたりしましょう? ……大丈夫よ。これは決して、私達が消えてしまうというわけではないの。これは、ほんの一時ものお別れ。ほんの少しだけの間、離れ離れになるだけなの。だから、私は貴女と会うためにまた、ここに帰って来るから。そう。私を慕ってくれた、かわいいかわいい後輩である貴女の姿を見るために。私は絶対にまた、ここに帰って来るからね! ――それじゃあ、約束をしましょう! 貴女は、私を慕ってくれて。私を人生の目標として、私から様々なものを学んできていたわね。……これまで通りに、私はいつでも、貴女のお姉さんで。貴女の人生の先輩であり続けるわ。だから、私が帰って来るその時までに。貴女は、今以上に自分を磨いておいて頂戴!! そうすれば、またこの街に帰ってきたその時に。お姉さんとして。人生の先輩として、私は貴女のことをいっぱいいっぱい。たくさんたっくさん褒めてあげるから!! だから、次に私が帰ってくるまでに。貴女は自分なりに頑張ってみて! 私は、後輩である貴女の成長した姿が見れることを、心から楽しみにしているから!!」


「うぅ……うぅ……ユノ先輩ぃぃ……!! うわあぁぁぁぁぁぁああああぁぁぁんッ!!!」


 転移するかのように、ファンからユノのもとへと飛び付き抱き付く女の子従業員。

 そんな彼女を受け入れ。ユノはよしよしと、女の子従業員の頭を撫でてあげて。そのクールビューティな彼女に包まれて安心感を覚えたのか。ふと、女の子従業員は顔を上げては。そのやんちゃな様子で、ニッコリと満面の笑みをユノに見せたのであった――



 出会いと別れは、常に付き物であり。それは、出会いから共に過ごした時間が長ければ長いほど。別れという出来事が心惜しくなってしまうものである。

 ……それは、俺にとっても。ミントにとっても。ユノにとっても。この場にいないペロであっても。…………そして。それは、ニュアージュにとっても……。


「……ニュアージュ。時間は大丈夫なのか?」


「あ、はい。あともう少しは大丈夫でありますが~……早く着いていた方がいいことに、越したことはありませんよね~」


 その和やかな調子も、ここでは久しぶりに表現したことかもしれない。

 NPC:ニュアージュ・エン・フォルム・ドゥ・メデューズ。前回のステージにて、主人公のパートナー枠として大活躍を果たした彼女。今回のステージでは、その陰は薄いものではあっただろうが。しかし、彼女の存在もまた、日常では色濃いものであったために。この拠点エリア:マリーア・メガシティにおいても、彼女と過ごしてきた時間は実に長く。実に楽しいものであった。


 しかし、こうして彼女が傍にいたのも。元々は、NPC:キャシャラト・キャシャラットから頼まれたお使いの付き添いという形であったために。飽くまでもニュアージュは、ユノの率いるユノ御一行の一員ではないのだ。


 ……今よりも、自身を高めたい。そんな、他に類を見ないほどの向上心を持つニュアージュの希望によって。この街においても、彼女と行動を共にしていたものであった。……が、今は、『魔族』という脅威の存在が発表されたものであったために。彼女は、凄惨な過去の末に辿り着いた。黄昏の里という大事な場所と、そこに住まう人々のことが不安になったらしく――


「……一人で黄昏の里に戻れそうか?」


「はい。マリーア・メガシティの交通機関は一通りと把握しておきましたので。あとは、乗車するべき乗り物さえ間違うことがなければ、無事にキャシーさんのもとへと辿り着けるかと思います~」


 ……拠点エリア:マリーア・メガシティからの出発と共にして。NPC:ニュアージュ・エン・フォルム・ドゥ・メデューズとの別れもまた、目前となっていたのだ―――――


【~次回に続く~】

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