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ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
三章
183/368

報告会とフェアブラント・ブラート

 ファンとの会話を交わしていたその中で。ふと、夜分に姿を現したNPC:フェアブラント・ブラートとNPC:水飛沫(ミズシブキ)泡沫(ウタカタ)の探偵と助手コンビ。

 いつもの掛け合いを見せては、こちらのメンツを確認して好都合と零し。次の時にも、ブラートはこう続けていったのだ。


「うむ、こうして都合良く皆が集まっているわけだ! これはもう、今この場において早急に伝えなければならない早急な報告を行う他にあるまい!!」


「でもブラートの兄さん。ここには他の宿泊客もいるよ。いつ、その人達が来るかもわからないのに、そんな機密事項を堂々と公の場で晒しちゃってもいいの?」


「案ずるな! ミズキ! それであれば、心配の必要などまるで無用だ!! この俺の、この探偵・フェアブラントの正義がそう訴え掛けてくるのだよ! 今この場には、この我々以外の者は姿を現さない。とね!!」


「ふーん。兄さんがそう言うのなら、おれはそれに従うよ」


 さすがはブラートの直感と言ったところか。

 あまりにも根拠の無い説得ではあったが。ブラートの直感はある意味で何よりもメタい。このイベントを曖昧にも感じ取っているのだろう、そのメタな視点でそう語り。助手のミズキを納得させてから俺達へと言葉を掛けていく。


「して、アレウス君とミントちゃん。今少しだけ時間を取らせちゃってもいいかな? 尤も、これは早急な報告だ。今が忙しくも、この俺は是が非でも今この場で伝えるのだがね!」


「あぁ……まぁ、それじゃあ、今は俺もミントも大丈夫だ。だから、その早急な報告とやらを聞く時間はあるぞ――」


「うむ!! さすがはアレウス君だな!! 例えそれが急なものであろうとも、いつでも受け入れることができるその態勢! なんて柔軟なのだ!! これは、そう易々とできることではない!! さすがは、この探偵・フェアブラントがこの眼と正義で見定めただけはあるな!!」


 相変わらずと、人の話を最後まで聞かないその性格は健在であり。更に、いちいちと話を大袈裟に膨らませていくその喋り方が更なる拍車を掛けて。

 その言葉の数々の響きはどれも良いモノなのだが、そんな大層なことをやっているわけでもないために、彼のペースに疑念ばかりが浮いてきてしまう。

 ……おまけに、その言い草は、助手であるミズキに深く突き刺さる。


「……どうしていつも薄鈍人間ばかりが認められるんだ……」


「むっ、ミズキ。何か言ったかい?」


「なんでもない」


 あからさまになんでもないわけが無い不機嫌のオーラを醸し出して。しかし、それには全く鈍感であるブラートはミズキの言葉を普通に解釈し。俺達のもとへと向き直っては続けていった。


「ふむ。では、報告を手短に済ませてしまおうか。……それで、グーさん。ここは、貴女にも同席してもらいたい。――貴女にも関係のある話だ。何と言っても、『魔族』についてのおおよそな話は、既にこの俺からある程度と耳にしているものだからね。グーさんも、十分に当事者だと言えるだろう。……だから、グーさんもこの早急な報告会にぜひとも参加してもらいたいと思っているのだが。どうかな? グーさん」


「あラ~、それじゃアわたシもお話スるネ! わたシ、お話大好キ! でモ、『魔族』ノことハ小粒程度ニ怖イネ」


「大丈夫さ。何せ、我々にはアレウス君がいるのだからな!! この、他にはない何か特別な存在感を解き放つ彼がいれば。きっと、この件はなんとかなるさ!! …………だから、この戦いを絶対に生き抜こう。グーさん」


「おゥ!! それデもブラートが頑張ルするなラ、わたシも頑張ルやるヨ!!」


「その意気だ! グーさん!」


 先にもファンが言っていた、三人ダけノ内緒話……基、三人だけの秘密。それと関係あるのであろう意味深なやり取りを交わしてから、ブラートは仕切り直しの咳を一つついて。直にも、彼の口からその報告会とやらが開始された。


「……この俺である探偵・フェアブラントが指揮を執り。ミズキを始めとして、アレウス君やミントちゃん、この街の護衛隊が総力を振るうことで成功を収めることができた大規模な制圧作戦。通称、ビッグプロジェクトを終えたことは、まだまだ記憶に真新しいことだろう。現に、まるで昨日のことのようにさえ思えてきてしまえるね。――あれから数日もの時が経過したな。時の流れというものは実に早い。それだけ、『魔族』によるこの世界の侵略が、すぐそこまで迫ってきているとも解釈することができる。……そこで今回は、今まで経過してきたこれまでの物事の過程を、この場の皆に把握してもらおうと思い。こうしてこの探偵・フェアブラントが直で赴き。今こうして雄弁を振るっているというわけであるのだが」


「ブラートがこうして赴いたということは、『魔族』に関する物事に動きがあったと考えてもいいのか?」


「うむ。さすがはアレウス君だな! その鋭い察知能力は、賛美にも値するよ! 君、もしかして探偵に向いているのではないか? ――まー、それはまた後で話し合うなりスカウトなりをするとして。……今回は、"それ"についての経過報告を行おうと思っていてね。この場に集う皆は、この報告を一言足りとも逃すことなく、集中してこの言葉を聞き取ってもらいたい」


 多少もの茶番が入ったが、さすがにこの流れではブラートも軌道修正を図る。

 ……まぁ、そんなちょっとしたノリのブラートによって。彼の隣にいる助手君からは随分と鋭い目で睨まれてしまったわけだが。


「まず、この報告は二つ存在している。それも、良いニュースと悪いニュースと、それぞれが綺麗に分かれているわけだが。さー果たして、アレウス君であればどちらを最初に選ぶかな?」


「俺か? ……選ぶ必要があるのかどうか。まぁ、それじゃあ悪いニュースから――」


「まー、こういうのは悪いニュースから行った方が定石か。では、悪いニュースから行ってみよう!」


 それじゃあわざわざ聞くなよ。と、相変わらずのブラートのペースに乗せられては、俺はこの、どこにやることもできない気持ちのまま硬直し。そんな俺を尻目に、ブラートは真剣な様相で言葉を続けていく。


「……悪いニュースだ。以前にもこの世界に災いと混沌をもたらした最悪の存在、『魔族』の復活が確定となってしまった。"彼ら"の再始動は、この世界に再度となる悪夢を呼び込み。この世界を再び破滅へと追い遣ることだろう。――この出来事には一片足りとの幸など存在せず。その先にあるのは……救いの無い不幸のみ。災いと混沌をもたらす『魔族』の復活が決定的となってしまった今、この世界の各地では生存競争による人間と『魔族』の血みどろな戦いが繰り広げられることとなるだろうね……」


 ブラートの悪いニュースに、俺は堪らず戦慄してしまった。

 エリアボス:魔族との契約者と戦闘したからこそ理解してしまえる、圧倒的な力を前にした際の恐怖心がこの胸に蘇る。『魔族』という常軌を逸した悪魔の如き化け物の襲来ということは、それが群れとなって押し寄せてくることだとも考えることができてしまえるために。それを想像しただけでも、俺は今にも卒倒してしまいそうになる。

 ……そして、それを共に味わったミントとミズキも。その報告を耳にしては表情を歪ませて全身を迸る戦慄に必死と堪える。どうやら俺の思いは、皆も同じであったようだ。


 ……静まり返る空間。先の探偵コンビが織り成した誇らしげな空気も瞬く間と失せてしまったこの場であったが。……ここでブラートは、用意していたもう一つのネタを取り出すことでその空気の復活を試みる。


「……一方で、良いニュースだ。この、『魔族』という脅威の復活に対し。『二連王国』の『二連王』が早急にも動き始めた!! 以前にも話しただろう! この世界で生きる人類の中でも、トップに入る実力を持つお二方がその重い腰を上げたのだよ!! 彼らが腰を上げたということは、良くも悪くも、この世界のあらゆる生物に刺激を与えてくれることだろうと、この俺はそうみている!! 彼らはこの世界の希望でもあるのだ!! この、『魔族』の打倒に向けての大規模な作戦が発令されることもそう遠くはない!! 彼らのことだ! きっと、明日にも声明を発表するだろうね!!」


 ブラートの良いニュースに、俺は思わず安堵した。

 ブラートの言う、二連王国の二連王というものがどれほどの強さであるのかは未知数ではあるものの。しかし、人類の中でもトップの実力というその響きだけでも、それだけで勝てる気がしてきてしまえるものだ。

 この報告に、その場の全員がホッと一安心の表情を見せる。この世界で生きる現地の人々が皆、この様子なのだ。さぞ、二連王というものは頼れる存在なのだろう。


 ……と、差し込んできた希望の光で一時は明るくなったこの空間であったが。すぐさまにも、ブラートは後からこう付け足してくる。


「……尤も、だからとは言え、それが良い効果のみをもたらすわけではないことを、予めにもそう了承しておいてほしい。というのも、これは一刻をも争う非常事態に代わりない。そんな、希望の兆しがまるで伺えぬ悲運を迎えたこの現状を知ることにより。その状況に絶望してしまい、その強大な絶望によって暴力的な回路へと思考を塗り替えられてしまう人々も当然と現れることだろう。それによる治安の乱れも、容易く予想できてしまえる。きっと、二連王のお二方もこの起こり得る事態を予期し、既に問題視していることだろうね。……だから、アレウス君や、ミントちゃん。グーさんやミズキも。こういった騒動には、くれぐれも注意してほしい。――絶望してしまう者はどれも、自暴自棄となってしまった者達だろう。その胸に絶望を抱いてしまうことにより、何もかもを投げ出し周りを傷付けひたすらと破壊を行ってしまう。その、破壊に恐れる絶望により。その者達は自ら、破壊をもたらす存在へと変貌してしまうのだ。如何に、人間というものは感情に左右されるかがよくわかるね。…………だがしかし。未来に絶望してしまうということは。彼らは、誰よりも生きたがっている証拠であるとも捉えることができるだろう。……今回の件は、彼らに罪は無い。つまりそれは、理不尽に命が晒されてしまったこの事態であるための、仕方の無い一種の変化であるのだ。……だから、どうか彼らを傷付けずに。そして、なるべくそういった輩とは関わらぬよう、皆は上手く立ち回っていってほしい」


 未来に絶望してしまうということは、それは誰よりも生きたがっている証拠である。ブラートの言葉を耳にし、思わず心を掴まれてしまうような感覚に陥る。

 ……そうだ。『魔族』の脅威に戦慄し、身も心も"それ"に脅かされてしまっていた自分自身も。こうして、主人公としてこのゲーム世界で生きたがっていたからこその感情だったのだなと。彼の言葉をキッカケとして、新たな自分を発見することができた瞬間でもあった。


 頷き、彼の言葉を胸に刻む俺。

 その場の全員もまた、ブラートに納得の様子を見せることによって。ブラートの報告会は、この場を以って終わりを告げたものであった。


 が……その次の時にも、ファンは彼に、こう問い掛けてきたのだ――



「わたシ達モ気ヲ付ケていくヨ。……でモ、ブラートはこれカら何ヲどうこうシていくツもりでいル? ……わたシ、ブラートの行動ヲ心配シているヨ。今モ、この街ノため言ッて動イてばかリ。この街ノ中デ、ブラートが一番無理ナことをシていル。これジゃあまタ、ブラートは傷ダらけになるヨ。痛イことをイっぱいするんだヨ? でモ、ブラートはそれデいいノ?」


 立ち上がり、ブラートのもとへと歩み寄るファン。

 その不慣れなカタコトの特有な訛りの混じった調子で。馴染みの無いなんとも癖のある喋り方で。不安な面持ちをブラートに見せながら。心配そうに、両手を胸の前で握り締めている彼女の様子を目の当たりにしてからというもの。ブラートは笑みを軽く零しながら、ファンへと答えていく。


「心配を掛けてすまないね、グーさん。でも、このフェアブラント・ブラートにしかできないことが、すぐそこに存在しているんだ。そんな、この俺にしかできないことを。この俺がやらずにして一体どうする? ――俺はこうして、その場で誰かを救うことが好きなのさ。それは、グーさんの時にも。ミズキの時にも、同じことが言えるね」


「ブラート、誰カのためにイつも張リ切リ過ギル。それガ、ブラートの悪イとこロ!! それじゃア、カッコいいコとをしていてモ、全然カッコよくナんかないヨ!! 自分ヲ無理サせるのハ、今ノ自分ニ頷ケないかラ!! ブラートはもウ、誰カのためニなってル!! だかラ! そんな自分ニ頷イてあげテ!! わたシという自分ヲ、認メることヲしてあげテ!!」


 ファンの懸命な訴えを聞いてからというもの、ブラートは思わずきょとんとした面持ちで彼女を見遣り出す。

 今までに一度も見せてこなかったであろうなんとも腑抜けな、唖然と言うに相応しい意外そうな表情を浮かべて彼女を見つめ。……直にも、落ち着いた様相を浮かべ。そして、いつもの誇らしげな調子を取り戻しながら喋り出す。


「……頑張り続ける今の自分に、自分で納得して認めてあげてほしい。ってことかい? ……ッフフフ、ッハハハハハハ!!! グーさん。それなら問題なんて無いさ!! というのも、この探偵・フェアブラントは既に。最初から自分に納得をして、これらの行動を行っているのだからな!! もう、自分自身に頷いてあげているさ。むしろ、常に頷いているさ!! 今も、自分自身を認めてあげているさ!! ッフフフ。心配することは無い。だって、これが。この俺がやりたいこと、そのものなのだからね。だから、大丈夫さ。これからも、この俺は皆のためにこの正義を活用し。この、探偵としての立派な手腕を振るってみせるさ!!」


「……もウ、それがブラートの悪イとこロ言ッタ。わたシの声、どれモ分カってなイ。結局、自分ノ言葉ニしか納得デきなイ。――でモ、それがブラートだネ! 前カら変ワってなんカいないネ!!」


「あぁ、そうさ。俺は何一つとて変わってなどいないさ。……俺達はこの"今"から変わらないことが一番なんだ。もう、これ以上もの変化は必要なんかない。……だから、この俺が。この世界にもたらされた、災厄という変化を取り除いてみせるさ」


 ファンの身体に手を添えて。いつになく真剣な眼差しと、決心という二文字を伺える鋭い声音で彼女に応える。

 今までに見たことの無いブラートの一面を連続と目撃して。その背景には、ブラートのこれまでの経験や感情が詰まっているのだなと。そんな彼の未だ見ぬ姿の数々に、複雑な事情によるシリアスな顔を覗くことができた気がした――



「フッハハハ!! グーさん! そんな神妙な顔をしなくてもいいではないか!! 何せ、この俺こと探偵・フェアブラントの正義に刻まれた誇り高き辞書には、不可能の文字なんて記されてなどいないのだからね!! だから、この俺の心配をする時間を、もっと有益な他のことに回すといい!!」


「ブラートの兄さん。それじゃあどうしておれに秘密で事務所の出費をかさんでくるの? 不可能が無いのなら、おれとの約束を守ることも不可能じゃないよね?」


「おっと、この誇り高き辞書の片隅に僅かながらと刻まれた不可能の文字を発見した! これは、誘惑という魔の誘いに塗り潰されてしまっているな! まー仕方の無いことだろう!! 人間、時には正直になることも必要さ! ほら、グーさんも言っていただろう? 自分を頷いてあげてと。自分を認めてあげてと。俺はただ、自分自身に正直となっていただけさ!! だから、心配するなミズキ!!」


「ううん、心配はしていないよ。だって、ブラートの兄さんには心配なんていらないのだもん」


「うむ!! さすがは我が一番弟子なだけはあるな!!」


「うん。ただ、怒っているだけだからね」


「うむ!! さすがは我が一番弟子なだけはあるなッ!!」


 そんなブラートとミズキのやり取りを眺めては、再びと戻ってきた目の前の日常にほっこりと和みを感じる。

 ……迫り来る『魔族』という存在に恐れを抱き続ける日々を送っていたものであったが。こうした日常の風景を目撃してしまっては、そんな驚異から皆を守りたいとより強い決心を抱くことができてしまえるものだ。


 ……昼間にはユノから。そして、夜分にはブラートといった仲間達とのイベントを通して。俺は気持ち的に、なんだか、より強くなれたような気がした――


「……して、グーさん。少しばかりと尋ねたいことがある」


 と、ここでふとブラートがファンに尋ね掛ける。

 先とはまるで正反対に、今度はブラートが何やら神妙な表情を浮かべていた。


「おゥ! 何カ気ニする出来事アっタ?」


「いや、ね。少しばかり…………いや。これからの問いに、まるで心当たりが無いのであればそれでいいのだ」


 その様子は、何かに気を取られるようなものであり。そんな彼の様子に、その場の全員は首を傾げる。

 彼は一体、何を尋ねたいのか。ブラートを待ち続けるその間も、皆はどこか疑念に満ちた表情を見せていて。その中でも、ブラートは一人その場で。辺りを見渡し。何かに気を巡らせる。


 ……そして、次の時にも。正義……基、メタな視点に近き直感を持つ探偵・フェアブラントは。とてもさり気無く、そして、どこか探るかのような調子でそう尋ねてきたのであった――――


「ここ最近、アレウス君の御一行さん以外にこの宿屋へと訪れた者はいたかな?」


【~次回に続く~】

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