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ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
一章
18/368

エリアボス:ドン・ワイルドバード【命懸けのジャンケン】

「ご主人様っ!!」


 上空からミントの悲痛な叫び声が響く。

 すかさず目を覚ます俺。瞬間的に意識を失っていた俺は、地に突っ伏していたこの現状に危機感を覚えながら即座に起き上がるものの――


「づォ……いでっ」


 片腹に手をあてがいながら力無くよろけた。


 残りのHPは三分の一よりちょい少なめ。先程までの記憶がある限りでは、俺はスキル攻撃に被弾する直前に、口にした薬草でHPを満タンにしておいたハズ。

 ということは、先程直撃したドン・ワイルドバードの特技によって、三分の二というHPを一気に削られたことになる。


 たった一発食らっただけだぞ……?

 そんな疑念を浮かべる俺の心情にはもはや恐怖ではなく、目の前の理不尽に対する憤りが滾っていた。

 

『ギェェェーン!!』


 耳をつんざく甲高い鳴き声。

 危機感という本能を刺激してくるその声を上げながら。目の前で俺の様子を伺っていたドン・ワイルドバードは、こちらの立ち上がる姿を確認次第に再びこちらへ駆け出してきた。


 首を鞭のように振るいながら。充血した目玉を浮かべて。縄張りに侵入した獲物を仕留めんと、その気狂った様相で急接近を図ってくる目の前の光景。

 あぁなるほど。こいつのようなものを悪魔と呼ぶんだな。と。俺はこの場面にきて、恐怖の対象としてよく用いられる言葉の意味を改めて認識することができた気がする。


「心配するなミントッ!! 俺は大丈夫だ!! ……いやでも、この状況はとても大丈夫とは言い難いか……。マズいな、考えろアレウス。さて、俺はこの状況をどう切り抜ければいい……?」


 ミントの不安を解消させるためになだめの言葉を投げ掛けたものの、やはり所詮はただの声音。

 取り敢えずと、ミントへ今の状況に対する嘘をついておく。次に俺は右手の親指を下唇にあてがいながら、直面している現状の困難を打破するための思考をめぐらせた。


 勝機があるとしたら、相手の攻撃を利用したカウンターで逆転を狙うという戦法になるだろう。従来のゲームであれば、例え危機的な状況下であってもそのワンパターンな戦法で十分な勝機を見出せるに違いない。

 つまり、相手がゲームのNPCのように脳が無ければ、ただひたすらカウンターをかましてごり押せばそれで終わりのハズだった。


 ……だが、この世界ではそうもいかない。ここはゲームの世界でありながら、その身に命を宿した生物がそれぞれの生命活動を行っている現実世界でもある。

 そう、相手には知能というシステムが存在しているのだ。よって、ゲームのNPCだからと高を括ってワンパターンな戦法を用いたところで、それはいずれ見破られてしまうに違いない。

 となると、俺はあの目前から気狂ったように接近してくる怪物と、正々堂々な戦闘の駆け引きを行わなければならないことになる。



 それぞれに用意されたアクションは攻撃、防御、回避。目前に相対する敵の思考を予想し、次に繰り出すべきアクションを上手く活用しなければならない。


 それらを用いた駆け引きのやり取りを。その一連の様子を。

 それらを言葉として的確に表せと言われたら、所謂、命懸けのジャンケンとでも比喩ができるか。

 俺がこの戦いに勝つには、目の前のヤツと交わすジャンケンに勝ち続けなければならない。そのジャンケンを行うには、まずはそれだけの気力が必要。つまり体力。HP。


「……まずは回復だな」


 思考を整理させ、ある程度の段取りを組んだ俺。

 やはりここは回復か。そう選択を決定し、俺は腰に手を伸ばしてどこからともなくポーションを取り出す。


 このポーションというアイテムの効果は、現状の俺からすると命綱そのもの。このアイテムの回復効果であれば、現在の俺の最大HP全てを回復してくれる。

 現地点では相当な高級品であるため、所持しているポーションの数はわずか二個。それでもまずはと、俺はこのアイテムを使用してHPを全回復する。


 ……そう、HPを全回復したはいいものの――


『ギェエエエェンッ!!!』


 なんていうタイミングだよ。

 こちらへ駆け出していたドン・ワイルドバードが、またしても唐突に特技を使用してきたのだ。

 その気狂った調子でオレンジのオーラを纏いだしたその光景には、もはや絶望という域を当に越した絶命へのカウントダウンを思わせる。


 ――回避に懸けるしかない。

 行動を起こせる余裕はあったため、俺はここで確率へ祈りを捧げながら回避を選択。


 ドン・ワイルドバードの特技『千鳥足』。凶悪な威力を誇る一撃を見据えながら、俺は通り抜けるように全力のダイブをきめていく。

 この戦闘では何としてでも失敗は引きたくない。そんな心からの思いが通じたのか。この回避行動によって、相手のスキル攻撃を無事に回避することができた。


 髪を掠めるドン・ワイルドバードの爪。戦慄を覚えながらも、俺はその隙を逃さんとすかさず反撃へ移るために駆け出す。

 だがしかし、エリアボスという特殊なモンスターを相手に、そんな安直な考えがとても通じるわけがなかったのだ。


 特技を使用してきたドン・ワイルドバードは、なんとその隙を晒すこともなく俺へと振り向いてくる。

 その刺さるような眼光を向けながら。その強靭な脚を持ち上げて、目前から接近してくる俺へと反撃の攻撃行動を行う――


「マジかよ――っ」


 正に咄嗟だった。

 反射的に選択した剣士スキル:カウンターによって、直面したピンチという窮地をチャンスへと覆す俺。

 不意を突かれてよろける、愕然とした様相を浮かべるドン・ワイルドバード。予想にしなかった隙を晒したその様子に、俺は今だとソードスキル:エネルギーソードを発動し。


「エネルギーソードッ!!」


 淡い青を帯びたソードの一撃がドン・ワイルドバードへ放たれる――


『――ッ』


 が、鮮やかに回避された。


 隙を晒したワイルドバードの様子には焦りを伺えさせた。

 なのに、それでも咄嗟のガードを選択することなく、しかもこんな冷静にも確率頼りの回避を選択することができるのか。


 あからさまな実力差に、次の番だと今度は俺が愕然とする。

 そして、そんな俺の様子と隙を好機だと睨んだドン・ワイルドバードは――


『ギェェェーン!!』


 強靭な脚を用いた、一発一発が致命傷になりかねない攻撃行動をここぞとばかりに起こしてくる。


 マズい。

 スキル中による硬直で動けない。成るがままにしかならないこの状況に戦慄する俺。

 だが、相手の行動が若干遅れたからか。俺は攻撃を受けてしまうというその直前に、ギリギリながらもエネルギーソードによるモーションの硬直から解放されることとなった。


 運は味方してくれている。そう実感すると共に、それじゃあと回避を選択しようとしたものの――


「あっ」


 攻防という今の状況に焦っていたのか、なんと俺は攻撃という誤操作を起こしてしまった。


 間違えた。

 これじゃねぇよ!! ここにきて、表示された目に見えぬ選択肢の迂闊なミスによって、俺の腕が勝手に動く。

 マズい。死ぬかもしれない。もはや諦めの境地へと達した俺であったが、まさかこの場面にきて新たなシステムを発見するキッカケになるとは、さすがに想像だにしていなかった。


『――ッ!』


 互いにぶつかり合う攻撃。その衝撃は波動を伴い、発生した衝撃波は双方を退ける。

 ガード以上にHPが削れる感覚を伴ってしまったものの、通常時に受けるダメージ量と比較すると明らかにこちらの方が軽傷だ。

 ……あれ。ところで、攻撃同士がぶつかるとこんな風になるという説明、どこかでされていたっけ――


「ご主人様! それは戦闘システム:相殺と呼ばれるテクニックの一つです!! 互いの攻撃がぶつかり合った際に引き起こされる衝撃によって、双方に均等なダメージが蓄積されるという諸刃の防御手段の一つでございます!!」


 上空からのチュートリアル説明。ユノから教えてもらっていなかった戦闘テクニックを偶然見つけ出したことによって、奇跡的に助かったこの現状。

 ダメージは受けてしまったものの、それでも誤操作の代償として考えるととても軽いものだった。


 ……どうやら、俺はまだ天に見放されていないようだ――

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