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ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
三章
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嵐のような太陽に誘われて――

「エンディング、か……」


 宿屋:大海の木片のフロントにて。設置されていたイスに腰を掛け、テーブルに両肘を乗せて頬杖を付きながら。そう呟いて頭を掻き毟る。

 今まで意識したことのなかった、エンディングというゲームの終着点。この物語のゴールとも言える最大のイベントシーンについて、ここ数時間はずっと考えっぱなしであった俺は。ある人物と遭遇したあの時以来からずっと、こういった自身の思考の中に閉じこもってしまっていたのだ。



 狂気を振り撒き俺達をからかっては、その中に助言を織り交ぜて突如と姿を消した不可思議な少女、ウェザード。俺やミントと同じにして、このゲーム世界に縛られぬメタな視点を持つ彼女の助言を聞いてからというものの、俺はこれから先についての思考が頭の中でグルグルと回り続けてしまって仕方が無いのだ。

 俺が死んだら、このゲーム世界は無かったことになってしまう。今の状況に悩み続けるよりも、この先の自分のためになることを考えた方がいい。エンディングの種類で、クリア後のゲーム世界が定められる。……それらを含めての、このゲーム世界の行方は。このRPGの主人公である俺に全てが託されている。とか、それっぽいことを彼女から色々と教わったのはいいのだけれども……!


「ぬわぁー!! ……あぁー、ちくしょー!! 結局、俺は一体どうすればいいんだ……!?」


「ご主人様。あまり深くお考えになさらないように。ご主人様がお考えになられているよりもずっと、思考というものはもっと簡潔でいいのです。もっと簡単に考えてみるだけでも、その脳内にて行き来する情報網のこんがらがりは自然と整います。ですので、まずは落ち着いてみましょう?」


 向き合う形でイスに座っているミントから、水の入ったコップを差し出される。

 いつの間にか飲み物を取ってきていたらしい。目の前の少女の行動にも意識が向くことのなかったこの状態で。頭の中が忙しなくと動き心が落ち着かない俺は、そんな少女からの気遣いにお礼を述べてコップを受け取る。


 水を一気に飲み干し。あぁーと息を漏らし一息をついてから……またしても、俺は先の続きを考え始めてしまう。


「……ダメだこりゃ。重症だ。俺の頭の中は、この先への不安でいっぱいいっぱいだ……」


「世界の命運を託されしその立場。ご主人様の背負いし負担は、こちらのゲーム世界にて住まうどのNPCよりも重く、そして苦しいものだと。このミント・ティーは思っております。その不安定な感情によって精神が押し潰されてしまうのも、決して無理もないことでしょう」


「うぁぁ……ありがとなぁ、ミントぉ……!!」


「ッ……。れ、礼には及びません」


 少女の優しさに、涙の表現としてよくある白色のウェーブを目から流しながら。きっと、目も横線になっていただろう。口も、アニメのコミカルな柔らかい表現のものになっていたかもしれない。

 優しさの温もりに礼を言いながら。落ちるように頭をテーブルに打ち付けて。そんなご主人からの礼に照れながらも、そんなご主人の様子に若干と驚きながら。そんなミントからの視線もお構いなしに、俺はテーブルに頬を擦り合わせる。


 頭が重い。気が重い。この存在感が重過ぎる。主人公という役割にずっしりと圧し掛かる重量に、ただ悲観的となって悩んでいたその中であった……。


「アレウス! ミントちゃん! やっほー!!」


 宿屋の廊下から響いてきたユノの声。相変わらずと太陽のような眩しい笑顔と声音で。そのクールビューティな外見でこちらのもとへと駆け寄ってくるユノの姿。


「アレウス、最近どうかしたの? ここずっと、なんだか落ち込んでいるように見えるけれど? 何かあったのなら、その想いを遠慮無く私に打ち明けなさい! 私は、どんな想いでも真っ直ぐと受け止めてあげるから!!」


「ありがとなぁ、ユノ。でも、こればかりはちょっと相談することができない。俺一人でなんとかしなければならない厄介事なんだ……」


「そうなの? ……んー、アレウスがそう言うのなら、それは仕方が無いわね。――アレウスも大変なんだね~。いっつも一人で抱え込んで頑張っちゃって。アレウスは一人でも色々とできる強い人なんだろうけれども。でも、一人で無茶ばかりして壊れてしまったら元も子もないんだからね? ほーら! アレウス! 大変だと思うことを、ずっと一人で抱え込まないでいてよ! もう限界! もうダメだー! ってなっちゃった時には、遠慮なんかせずドドーンと私に頼りなさい!!」


 温かい。春の陽気のような温もりが、この困憊状態だった心を優しく包んでくれる。

 そんな、その太陽を思わせる明るい調子で俺に声を掛けて。次の時にも、トコトコーと足早にミントの方へと寄って行っては、律儀に座る少女に引っ付き頬をくっ付けるユノ。


「あぁ~、ミントちゃん~!! いつ見てもカワイイ~!!」


「ユ、ユノ様。ち、近いですっ。むぐっ、むぐ――」


 ふとその場に現れては、温もりを帯びた存在感で冷え切った場を暖めてくれるこの影響力。

 ……やっぱり、ユノというキャラクターは本当にすごいヤツだ。……それこそ、ユノは俺よりも立派に主人公を演じているように思えてしまえるくらいに――



「ねぇアレウス!! 明日って予定は空いているかしら?」


 突拍子も無く。ミントに引っ付きながら、そんな調子で俺に尋ねてきたものであったから。そんな突然のセリフに一瞬とビックリしてしまいながらも、俺は答えていく。


「……いや、特に何もないかな」


「そう? 良かったー」


 ミントの頭を抱えるようにして撫でていたその状態から、ふと立ち上がっては俺のもとへとにじり寄ってきたユノ。

 腰辺りにまで伸びる白のポニーテールを揺らし。その純粋な黒の瞳を輝かせながら。如何にも何かに期待しているかのような、そんな様相を全面に押し出すユノに呆気を取られてしまい。それでもずっと俺を見遣ってくるユノは、次の時にもこんな提案を投げ掛けてきたのだ。


「ねぇ、アレウス。たまには気分転換をしましょう?」


「気分転換?」


「そう! ということで、私とこのマリーア・メガシティを観光しましょうよ!!」


「え?」


 突然のお誘い。マヌケな声を零して驚いてしまった。


「それも、二人っきりで!! 男女二人組でのお出掛けだから……そう! デート!! アレウス!! 明日、私とデートをしましょう!!」


「デ、デート??」


 突然のセリフ。予期せぬ言葉に堪らず尋ね返してしまった俺であったが。そんな俺からの返事を聞くことも無く、ユノはニッコニコな笑顔のままミントの方へと視線を移していき……。


「ということで、ミントちゃん! 明日、ミントちゃんのアレウスを一日だけ借りてもいいかしら?」


「は、はい。……あ、あの。ご主人様は決して、ワタシの所有物というワケではございませんが故に。このミント・ティーへのこうした申請は必要ございませんよ……?」


「んー!! それじゃあ、決まりね!! アレウス!! それじゃあ明日!! 朝から夕方まで、この私と二人っきりで巡る大都市マリーア・メガシティの観光を思いっきり楽しみましょう!!」


 俺からの了承も無しに、勝手に決められたユノとのデート。

 ほぼ一方的に約束事を立てては、やけに上機嫌な様子のままどこかへと走り去り。瞬く間にもその太陽のような存在感を消してしまった少女。そんな騒がしく慌しく、しかし、うるさくも煩わしくも思えない少女ならではの明るさが余韻として未だに残るこの空気の中で。俺とミントはしばらくの間と、身動きもせずにそのまま唖然としていたのであった。


 ……これはもはや、燦々と輝きを放つ温かな太陽というよりかは。勢いを纏ってその姿を現してはそのまま過ぎ去っていく嵐とでも表現することができるか――――?


「……と、いうことだ。ミント。なんか、俺はいつの間にか予約されてしまったみたいだから。明日、ミントはこの街を自由に行動してくれて構わないぞ…………??」


「り、了解しました…………??」



【~次回に続く~】

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