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ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
三章
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イベント:希望

「一番最悪とされるケースは、滅んだとされる『魔王』が復活してしまったという展開だ。もしそうであるとしたら、事態は一刻を争うね。――『魔王』の復活は、この世界を再び混沌の闇へと招く諸悪の権現となる。これを一秒でも野放しにしていたら、まずこの世界は常にその脅威に脅かされ続けることになるだろう。それでいて、このままではまるで悪夢の如き絶望の過去を繰り返すことになってしまう。……現時点では詳しい判断ができないために、これ以上の推測は意味を成さないものではあるが。いやしかし、やはり『魔王』の復活だけは、そうではないことを祈るばかりだ」


 ブラートの祈りが無駄であることを既に知ってしまっている俺としては、そんな彼の言葉が胸に刺さり、あまりの責任感に呼吸が苦しくなってきてしまう。

 ……というのも、俺がこの世界に来たのは、『魔王』を打倒するため。それは、『魔王』という存在有り気の設定であるために。俺がこのゲーム世界に降り立った以上、それほどまでの脅威を宿す『魔王』がこの世界に復活したということが、この時点で既に決定的であるのだ……。


「……様々な不安が募る上に、現実は惨く非情であるように。……この日をもって、この世界は再び『魔族』の脅威に晒されてしまったのは確かなことだ。それは、いつ、"ヤツら"がこの街を侵略しに。その災厄を招き入れてくるかに怯えながらの毎日を送らなければならないし。そうして怯えて過ごす日々の中でも、"ヤツら"は着実とその脅威を蓄え続けていくことだろう。…………あの脅威が束となって襲い掛かりでもしてきたら、我々は一体どうする? どうするも何も、成す術も無いだろう。――とはいえ、だからこそ、今は対策を練るのだ!! こうして再来してしまった脅威に再びと備えるためにも。今の我々にできることと言えば、こうして目前にも迫ってきた魔の手を食い止める策を全力の限りで練っていくことしか他にあるまいッ!!」


 主人公であるこの俺も含めて、ミントもミズキも、『魔族』という脅威に不安で表情を暗くしてしまっていたものではあったが。しかし、そんな俺達を活気付けようと、ブラートはその誇らしさをそのままに、高らかと宣言するように続けていく。


「だがしかし!! 我々にはそれ相応の権力がまるで皆無のために、その対策を必死に考え提案したところで、何の意味も成さないこともまた事実!! ――で、あれば、だ!! 今の我々にできることと言えば。それは、この脅威を全世界の民により早く知ってもらうためにも、この口や人脈を利用し世界に発信することと言えるだろうッ!! 魔の手がすぐそこに迫ってきている脅威に危機感を抱いてもらい。その情報を世界に伝わせ、全人類に対策を立てさせる!! そのためにも、我々はこの脅威をより身近なものであることを世界に理解してもらうためにも! まずはこの我々がこれに関する知識を蓄えていくしか他にあるまい!!」


 誇らしげに両腕を広げて。その声を世界中に響かせるように、事務所の中であげていく。


「ここまで、希望の希の字も無い酷く残酷な現実ばかりを散々と言ってきたものであったが。しかし!! それもこれも全て! あの不甲斐無いこの街の偉い者達のせいだッ!! ……だがね、この街の偉い者達が不甲斐無いからと、そこまで悲観する必要が無いことを把握してもらいたい!! というのも、この世界中の偉い者全てが、こうした不甲斐無く呑気なことを考えている者達とは限らないからだ!! ――現にも、遥か彼方の地平線へと繋がるこの大地には『二連王国』があり!! そこでは、人類代表としてこの世界を治める『二連王』お二方の耳にも、事の全てが届いていることにきっと違いない!! もし、お二方の耳に届いていらっしゃらないとされれば、この探偵・フェアブラントがこの顔を利かせて直々に出向き訴えればいいだけの話なのだからな!! もう、このマリーア・メガシティの偉い者達には頼らん!! これからは、『二連王国』へと頻繁に出向く計画も視野に入れなければならないな!!」


「なぁブラート。その、二連王国って一体何なんだ?」


 会話の勢いが上がってきたその時にも、俺は全く空気も読まずに初耳である情報を尋ね掛けてしまう。

 ……すると、ブラートの仰天する。なんとも彼らしくない顔を目撃することとなってしまったのだ。


「何ッ!? アレウス君!! あの『二連王国』を知らないとでも言うのかい!? ――ッハハハ、ハハハッ!! さすがはアレウス君だ!! その非常識なところがまた、とんだ逸材のオーラを醸し出しているよ!! この俺の眼と正義には、一片の狂いも無かったというわけだな!!」


 ……なんか、今、さり気無く馬鹿にされた?


「……『二連王国』。簡単に言ってしまえば、この世界の中でも有数となる大都市の一つである大きな街。このマリーア・メガシティと名を連ねる、この世界に無くてはならない至極重要な場所。とでも言えるだろうか!! 同じ大都市とはいえ、その規模はこのマリーア・メガシティよりも広くて大きく! 又、戦闘に関する分野であれば、どの場所よりも知識や技術に長けている。正に、今こうして存在している人類達の要と言っても過言ではないほどの、どこよりも発達し活気付いている素晴らしい場所なのさ!! ――ここが経済と女神の街と例えて言うのであれば。二連王国のことは、世界を統治する人間のための街。とでも言えるだろうか」


「へぇ」


 どうやら、その二連王国という場所はとんでもなくすごい所なのだろう。王国と付いているその辺りに、これから先の旅においても重要となりそうな場所だと考えられる。……二連王国。いつかその時が来たときのためにも、この名前は覚えておこう。


「……そして、その二連王国にて、この世界で生きる人間達の代表としてその玉座に座るお二方のことを『二連王』と呼ぶのだ。――彼らはこの世界のあらゆるものを統治するということもあり、この世界で生きる人間達の中でも、特に上位トップクラスの力を持つ強力な方達なんだ!! それは、ここから天を見上げても、遥か空の彼方に位置するほどの実力者であり! それでいて、どの大都市や大規模な場所でふんぞり返るお偉いさんよりも強い権力を持つ素晴らしき方々!! ……そして!! この世界を統治するだけはあってか、世界の情勢については常に敏感である!! そんな彼らからの声明であれば、まず世界はそのお声に耳を傾け従うことだろう!! ……尤も、そんな情勢については敏感であるあのお二方だ! 今も『魔族』の存在を把握し、そう遠くない内にも彼らによる声明が発表されることだろうね。――うむ、そうだ! 直にも、彼らから声明が発表されるに違いない!! となれば、その上で、我々は我々なりの対策を練り。それを世界に発信し皆に聞き入れてもらうことに尽くしていくことに専念していこうではないか!」


 最初こそは、『魔族』の存在による絶望によって暗い雰囲気が漂ってしまってはいたものだが。こうして様々な言葉を喋り思考を整理できたことにより。そこから現れた新たな希望を見出し、その空気は次第と明るくなっていく。


 その状況が最悪であったとしても、考え方やある限りの手段を見つけさえすれば突破口へと繋がる。今回の災厄を前にした今でも、それを跳ね除けるために様々なものを吸収し考えた。

 ……なるほどな。行き詰まりを感じたその時こそ、現状を見直し改めて考えるというのはとても重要なことなのかもしれない。ブラートの誇らしげな言葉によって、そんな発見をできた瞬間でもあった。


 と、新たな発見に希望が湧いてきていた俺の目の前でも。ブラートはあることを思い付きそう口にしていく。


「……あとは、そうだな。改めてと見直してみると、この、過去に起こってしまった第一の『魔族』の侵略は、実はそう昔ではない話なのだ。それこそ、僅かな情報源を参考に考察しただけでも、それは五十か六十年前の出来事だと推測することができる。――となると、現にも、その際に立ち上がった勇敢なる人間達は、今も老いぼれという身で生きている可能性だって十分に有り得る」


「……五十年や六十年前って、本当に最近の出来事だったんだな……」


 まさか、それほど最近の出来事であったとも知らず、ブラートに驚かされてつい声を出してしまう。

 ……ということは、その五十年や六十年前にも、この世界の九十五パーセントが壊滅していたということだよな。……そこからの、ここまでの復旧って相当なペースの速さだよな。これも、RPGならではと言ったところか……?


「そうだ。そこから導き出される答えとしては。これは、つい最近の出来事であると考えられるということなのだ。……だが、言ってしまえば、『魔族』という災厄の存在を滅ぼしてから、僅かその短期間でこうして復活を果たしてしまった。――あれほどの脅威を持つ『魔族』を蹂躙した人間達の勇敢なる成果が、たった五十年近くで水の泡となってしまったのだ。それほどの力を持つ人間達を以ってしてでも、その『魔族』達を完全と滅ぼすことができないとして考えることもできる。……一層と、『魔族』の脅威を思い知ってしまえるね」


 お手上げといった様子で、両腕を斜め上に上げて零すように話していく。

 しかし、その次にも誇らしく、こうブラートは続けていったのだ。


「だからこそ、その脅威に立ち向かったとされる人物を味方に付けてさえしまえば、それだけでも我々は相当に有利となる。その際の知識や技術を直で教わり、そして活かしていく。……現地の経験者がいるだけでも、天と地の差が出るほどの良い変化を期待することができるだろうからね」


 広げていた両腕を胸元で組んで、俺に向かってブラートは言ってくる。


「……記録に記されていたよ。ふとその姿を現して『魔族』を蹂躙していったとされている。あの、『魔王』を打倒するにあたってのキーパーソンともなった、非常に強力な力の持ち主。――剣豪『サレ』という人物の存在をほのめかす文章がね」


「剣豪『サレ』? その人物は、今も生きているのか……?」


「当時、彼はまだ成人も成していない青少年だったという。五十か六十しか経っていないこの歳月であれば、もしかしたら未だにこの世界のどこかで、静かに暮らしているにきっと違いない。……この探偵・フェアブラントの、この正義が訴え掛けてくるのだ。……彼は今も、この世界のどこかで生きていることをね。――そんな剣豪『サレ』からの協力を仰ぎ、味方につけることができれば。この世界の危機を打破する希望を手にすることができるだろう」


 過去に起こってしまった『魔族』の襲来。それに立ち向かい"ヤツら"を蹂躙したとされる人物、剣豪『サレ』の名。

 そして、ブラートの正義。基、直感が、彼が生きていることを訴え掛けている。……とすれば、メタな視点からでも、この世界で生きる人物からしても。その答えは、至極明白なものであった――



「……その、『サレ』という人物を見つけてくればいいんだな?」


 俺の言葉を聞き、ブラートは一瞬とも目を丸くし。絶句に近い沈黙を設けてから、とても誇らしく。且つ高らかに笑い出したのだ。


「……ふふっ。ははっ…………ハァーッハッハッハッ!!! あー!! そうかそうか!! 見つけてくればいいんだな。か!! ……アッハハハッ!! さすがはアレウス君だ!! 道標となる手掛かりも皆無であるこの状況の中で! まるで途方も無い道のりであることが確実である、茨の道ということを理解した上で! それでも、君はその言葉をいとも容易く口にしてしまった!! ――あー、不思議だな。実に不思議で堪らない。所在もわからぬ人物の捜索を、こう、あまりにも簡単に名乗り出てしまうだなんてね。断言しよう!! それはただの愚かな無謀だ!! だがしかし!! 君という存在から出てきた言葉だとすると……こう、なぜだか、妙に納得ができてしまえて仕方が無い!! ……アレウス・ブレイヴァリー。君という人間であれば、例えそれが無謀で僅かな望みも無い絶望的な物事であろうとも。それを希望へと変えてしまい、そして、その希望を形として実現できてしまえるような気がしてならないのだ!! ……やはり、この俺の眼と正義には、一片もの狂いはなかったのだな……!!」


 その場で両腕を誇らしく広げながら。その高らかな声を事務所に反響させるように響かせて。身振り手振り、首を縦や横に振りながら。彼の言う正義ならぬ直感が垣間見える瞳の輝きをこちらへと向けてきた。


「……それは飽くまでも、この俺の、根拠の無いただの予感でしかない。しかし!! いやはや、『魔族』の復活という世界の終わりを目前にしてしまったこの現在においても! 今目の前に存在する、アレウス君という少年の姿が実に。今回の世界的な大問題を解決するにあたってのキーパーソンに成り得ると思える!! ――『魔族』の復活は、この俺としても大きなショックを受けてしまった非情な事態ではあったものだが。いやしかし、その絶望とはまた別に、何故だか、この事態はなんとか無事に収束するだろうという気持ちも芽生えてしまっている。これも、アレウス君という存在による安心感からなのかな。ハハッ。いやいや、全く。アレウス君という存在は実に不可思議なものだよ――――」



 一通りの会話を終えたこのイベント。自身の言葉の余韻に浸る誇らしげなブラートは、広げていた両腕を下げながら。しかし、やはりどこか誇らしげな雰囲気を醸し出しながら会議の最後を締め括ろうとする。


「こうして再び、皆で集まることができたのだ。他にも色々と話しておきたいところではあったが……まー、如何せん、今日は色々とありすぎた。君達にはこれまでの類も見ない緊張感による疲労がその身に蓄積されてしまっていることだろう。正直な話、今回の件に関しては、この探偵・フェアブラントでさえ良からぬ汗が止まらなく、既に疲労困憊であるのだ。――ということで、取り敢えずのところはこのくらいで話を切り上げるとしようか」


 緊迫した空気はそのままではあったが、ひとまずの終了という合図を受けて扉の前から歩き出すミズキと。ふぅっと小さく一息をついて、再びソファのもとへと歩んでいくミント。そして、事務所の中央へと移動するなり長広舌を続けていくブラート。皆の動作は、イベントを終えたNPC達特有の、設定通りに行動を移す至って自由な光景であった――――


「今日は色々な意味で特別な日だ。そんな日には、いつもと少し違うことをやってみたいと思えてしまって仕方が無い。……こんな時間ではあるが、出前を取るとしようか!」


「ブラートの兄さん。そんなことができる持ち合わせなんて、この事務所には無いよ。これも全部、兄さんがおれに黙って色々な出費をかさむから――」


「うむ! それじゃあ、近くの公園に設置されている水道から水を汲み取ってきて、皆で乾杯をしようじゃないか!! うんうん! それがいい!! なんてナイスなアイデアなのだ!! さすがはこの探偵・フェアブラントだな!!」



【~次回に続く~】

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