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ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
三章
173/368

イベント:魔族

「――今も、この街のどこかにその身を潜ませ。これからもその混沌を振り撒くために暗躍し。そして……この世界に災厄をもたらし、最終的には『魔族』の手によってこの世界を掌握せんと。日々脅威となる力を蓄え続けているにきっと違いない!!」


 乗せていた手で事務机を思い切り叩き、床も揺るがす振動と音を立てながら力強く語るブラート。

 次には右手をグーにしてこもる力を表現し。事の重大さをより強調としていくその様子を見せながらも。その誇らしげに語る喋りをまだまだと続けていく。


「……尤も、『魔族』がその脅威となる力を用いて災いを振り撒いていた時代の資料があまりにも少なく。又、所々の箇所は上の者達によって閲覧さえも禁じられてしまっているために。これも飽くまで、この俺の推測に過ぎないことを予めに了承していてほしい。……が、しかし!! そんな災厄と言わしめるほどの出来事を記録した文献には制限が掛けられており。且つ、そんな、世界の存亡という絶対なる危機に瀕したにも関わらず、この俺も含めての大方の人間が、その事実をまるで知りもしていなかった!! ――この俺の、探偵・フェアブラントとしての正義が訴え掛けている!! 『魔族』という存在と、それを隠す上層部の人間達の間に、何かしらの真実が隠されているということを!! ……ッ!! まてよ? もしや、上の者達が『魔族』に関してまともに取り扱わないのも、そこから来ているのか……ッ!?」


 もはや、一人で話しているブラート。熱くなり過ぎたその熱気を纏い、何かに考えをめぐらせながら。右手を顎に当てて、事務所の中を歩き回り出す。

 ……彼が次々と話を進めてしまうもので、その内容が目まぐるしくなってしまっていたものであったが。これまでの内容を簡単にまとめるとすると、要は、『魔族』という危険な力を持つ種族が復活を果たし。その危険な力によってこの世界に災厄を招き、世界を征服しようと企んでいる。とまとめることができるだろうか……。


 ……それにしても、復活。か……。


「……復活した。ということは、『魔族』は以前にもこの世界に存在していたってことだよな。それでいて、復活したということは……その以前の時にも、『魔族』は何かしらの力によって滅ぼされたとも考えられる。――じゃあさ、"その以前の時を生きていた人達"から話を聞けば、より解決に早く辿り着けるんじゃないかなって俺は思ったんだけどさ。それは一体どうなんだ、ブラート? ……まぁさ、その人が生きていたらの話だけど」


 と、ふと思い付いた俺の言葉を耳にしては、ハッとした表情でこちらを見遣ってくるブラート。


「うむ、さすがはアレウス君だ。こちらの言葉の意味を汲み取り冷静に分析し、問題解決に向けての策を進んで提案していくその姿。正に、脅威に立ち向かった勇敢なる戦士ならではの姿勢だよ。……全く。アレウス君のような姿勢を、臆病で物腰の重い上の者達も見習ってほしいものだね」


 はぁっと、それについてため息を零していきながら。直後には真剣な眼差しで俺へと続けていくブラート。


「この俺もアレウス君と全く同じ案を思い付き、それについてのヒントをくまなく探したものだ。そして幸いにも、"その以前の時を生きていた者達"に関するある程度の記録を発見することができたのだ。……だがしかし、その時代を生きた人物を調べるにあたっての、その参考となる情報があまりにも少なすぎるために。そこからのより追求を趣にした推測もできやしないのが現状なのだ。――尤も、この俺であれば、あともう少しの時間を掛ければある程度の推測は立てられるだろうが。いやしかし、如何せん参考となる資料の閲覧に制限を掛けられてしまっているものだからね。その資料や文献からの考察ではなく、人間関係や信頼といった面倒な部分で、相当な時間を取られてしまうことが懸念される。……その間にも、『魔族』は着実と災厄の種を成長させていくことだろう」


「……まぁ、俺の案が難しいことがわかったよ。それじゃあ、今、ブラートが知る限りの。『魔族』という敵についての歴史を教えてくれやしないか?」


「それであれば、容易い御用さ。直にも、こちらから話していくつもりでもあったよ」


 快い返事と共に、ブラートは俺達に近付き。そこらにあったイスに手を乗せて、立ち上がった状態のまま歴史について語り出した。


「――まず、この俺が覗いた資料による『魔族』という存在の歴史は。比較的にとても浅く、しかし、とても濃厚な内容の記録がなされている。これは、歴史と呼ぶには少々物足りなく。だが、伝承として語るには過剰気味なほどにまで足る異例中の異例の出来事だ。そうだね、言ってしまえば、これは歴史としてではなく、"過去に起こってしまった異常事態"としてこれからの話を把握していくといいだろうね。…………まず、『魔族』という存在は、以前にも一度この世界に災厄をもたらしている。その際にはどうやら、世界中のあらゆる生物に向けて堂々と宣戦布告を行ったと記録されていてね。そして、その有り余る脅威を以ってして、世界中のあちらこちらで全てを壊し尽くす破壊活動を行っていたと。資料にはそう記されていた」


 話していくにつれて、じっとしていられなくなったのか。身振り手振りで動きながら、その場から事務所の中を歩き回り出すブラート。


「その際における"ヤツら"の目的は、この世界の掌握という単純明快且つ恐ろしき野望の遂行。その破壊的な災いを次々ともたらし、その勢いを終始衰えさせることもなく振るい続けていくことにより。……とうとうは、『魔族』達は世界の九十五パーセントをもその手中に収めてしまったらしいのだ」


「せ、世界の九十五パーセント……!? おいおい、それって……待てよ。そもそもそれって、今からどのくらい前の話なんだ!? 九十五パーセントも掌握されたって、それ、俺達はほぼ壊滅しているじゃないか……!!」


 あまりの驚きによって、思わず立ち上がってしまった。

 隣にいたミントを驚かせてしまったものではあったが。しかし、このゲーム世界の主人公として。これから、その『魔族』との戦いに身を投じる者として。その圧倒的な脅威に驚かずにはいられなかった。


 ……というか、それじゃあ。何故こんな過去が存在していたというのに、それを誰もが知りもしていなかったんだ……?


「そうだね。我々はその災いによって、実は滅びかけていたのだ。場合によっては、この場の全員は生まれてきてさえもいなかったことだろう。……それほどまでに、以前にもその姿を現した『魔族』という存在は、極めて危険なものであったと。そう記録に残っていた」


 俺へと向けられた視線。少しもの一呼吸を置いたこの間。

 足を止め、沈黙の空気に圧し掛かれる感覚を覚えたところで、ブラートは再び動き出す。


「――世界の九十五パーセントが支配され。辺りを見渡せば、あの脅威が蔓延っているという絶滅の危機に瀕した絶体絶命の状況下。正に、『魔族』の手によってこの世界の征服が成されてしまうという。"ヤツら"の野望が成就するその一歩手前で。……もはや、これまでかと。滅び行く運命に、嘆き悲しんでいたその状況の中で。……ふとしたその時にも、ある、とある変化が訪れた」


「ある、とある変化……?」


「救いなども存在せず。人類も一点の場所に集中し、共に固まって守り合うことしかできずにいた袋小路の状況であったその時にも。……そんな人類のもとに、ある一人の人物がその姿を現したという」


 再び立ち止まっては、窓から外を眺め。遠くを見つめながら続けていくブラート。


「記録が途切れ途切れとなってしまっていたために、この部分に関する詳しい情報はものの見事に欠落してしまっていたものではあったが。その所々を要所要所と調べてわかった要点を伝えていくとすると。……突如と姿を現したその人物によって、その絶体絶命の危機から脱することができたというのだ。――如何せん、その人物があまりにも強かったとされていたようでね。というのも、あの『魔族』の集団を一人で相手し、ことごとく薙ぎ倒してしまっていたそうな。そして、それを機にして、その人物を筆頭としたパーティーが編成され。その集団の快進撃により、とうとうは『魔王』と呼ばれる『魔族』の長までをも完膚なきまでに叩きのめし完全に滅ぼし、世界に平和をもたらした。と、そう記録に残されていたのだ」


「……なんか、これまでの流れから一気に変わって、なんだか呆気無くも感じてしまえる話だったな……」


「尤も、これは記録の中身が欠落していたからだろう。きっと、その道のりにも記録は綴られていたのかもしれない。……それか、その快進撃があまりにも勢いのあるものであったために、記録を綴っている暇も無かったのかもしれなかったね。どちらにせよ、今はその真実を探るのは至極困難なために、快進撃に関するこれ以上の考察はひとまず切り上げるとしようか」


 窓へと向けていた視線を、俺達の方へと戻していくブラート。

 誇らしげに振り向いてきた彼ではあったものの。……しかし、やはり『魔族』という存在が引っかかるのか。一向に止めることのできない思考を次々とめぐらせては、それを独り言として零していく。


「……しかし、これは飽くまでも過去の話であり。そこから、一度の滅亡を迎えてしまいながらもこうして復活を果たしたとなると……。『魔王』という主を失った生き残りの『魔族』が残党として密かに存在し、誰の目に入ることも無く裏で活動を行っていたと仮定して考えていくことが適切か。……それでいて、公にこうして再びとその姿を現したとなると……それは、『魔族』陣営の準備が整い。以前のような、災厄を招き入れあらゆるものを滅ぼす、世界を掌握するための侵略を再開したと考えてもいいだろうか。……ふむ。となると、どこかにその身を潜めて次なる機会を伺っていたか。はたまた、滅ぼされた『魔王』の意思を継ぐ存在が現れてしまったか。…………一番最悪とされるケースは。滅んだとされる『魔王』が復活してしまったということではあるが……」


 ……『魔王』の復活。

 瞬間にも、俺の中には緊張が走り出す。


 ……というのも、俺がこの世界に来たのは、『魔王』を打倒するため。それは、『魔王』という存在有り気の設定であるために。俺がこのゲーム世界に降り立った以上、それほどまでの脅威を宿す『魔王』がこの世界に復活したということが、この時点で既に決定的であるのだ。


 それは、その時こそは、王道なRPGの世界に行きたいという希望を自ら出して、自らの意思でこのゲーム世界に降り立ったというものではあったのだが。

 ……しかし、まさか、RPGの世界で生きるというのが、これほどまでに過酷なものだと思ってもいなかったがために。……自らが選び歩き出したこの道のりに。……そして、『魔王』という脅威を宿した果てしなきゴールを前にして。……俺はあの時、安直で修羅の道を選択してしまったことに後悔をしてしまいながら。今目の前に存在する災厄に、ただただ恐怖を抱いてしまえて仕方が無かった――――


【~次回に続く~】

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