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ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
三章
171/368

リザルト:作戦成功

「…………エリアボス:魔族との契約者、撃破。……これにて、戦闘は終了となります。――ペロ様、ミズシブキ様、そして……ご主人様。……こちらの結果も、全ては皆様の。命懸けの死闘による尽力の賜物でございます……! このミント・ティーは、皆様の武運を心から信じておりました……!! そして、皆様がご無事であるこちらの結果に、心から安堵をしております……!! ……皆様、本当にお疲れ様でした……っ!!」


 ミントの解説を境にして、エリアボス:魔族との契約者のイベント戦に終止符が打たれる。


 ……そう。俺達は、この戦いに勝ったのだ。もはや全滅という、度重なる危機に瀕しながらも。それでも、皆で力を合わせた死闘の果てに。とうとう、あの巨大な脅威に打ち勝つことができたのだ……!!


「いよっしゃあァァァァァァアアアアアァァァッ!!! 勝ったぜェェェェェェェ!!! オレっち達が勝ったんだぜェェェェェェエエエエエェェェッ!!! どうだァァァァ!! ざまァみやがれってんだァァァァァァアアアァッ!!! ――ェェェェェッゲホッゲホッ!!! ゴホッ!! ゴホッオエッ!!! ……ゴホッ!!」


 肺の中に溜まる空気の全てを放出するかのような。腹から叫び上げて、両腕を持ち上げて勝ち取った達成感を全力で表現し。そして、安堵からか勢いよく倒れ込むペロ。

 極度の疲労感だったのだろう。まぁ、それもそのはずだ。出会ったその時から、アレルギーみたいなものと言って自主的に戦闘を避けていた彼。そんな拒絶反応を示してしまう物事の、それも、これほどまでの死闘と直面していたものであったのだから。今のペロの気力は、ほぼゼロに等しかったことに違いない。


「……勝ったか。……っはは、そっか。……無事に終わったんだ…………ッ」


 ミズキもまた、疲労が滲み出る表情でぽつりぽつりと呟いていきながら。つい先程までその猛威を振るっていた巨体のいた場所をぼんやりと眺め続けて。

 ……次第に零れていく笑み。安堵の息をついて、目元をぴくぴくと痙攣させながら。噛み締めた口元と唇を震わせて。引きつるように呼吸を始めていく。


 ミントもまた、少女の姿を形成して俺のもとへと駆け寄り。そのいたいけな容貌で。今にも泣き出してしまいそうな悲しい表情を浮かべながら。しかし、弱々しく微笑んでこちらの手を取ってくる。

 ……安堵して、暫しもの間と呆然と立ち竦んでいた俺も含めて。先のエリアボスとの戦闘を終えた一同は皆、潜り抜けた死闘に疲労しながらも、それぞれがその達成感に浸っていく……。




「うむ!! どうやら、皆は無事のようだ!! ――おーい!! 皆の者!! この俺こと、探偵・フェアブラントがやってきたぞー!!」


 少しして、大勢もの足音と共にその誇らしげな声を洞窟中に響かせてくるブラート。メインクエストにおけるイベント戦を終えたことにより、どうやらシナリオが進行して次のイベントシーンへと移ったらしい。

 そんな彼の声を聞き、一同がそちらへ振り返っていく。その先からは、武装した護衛隊の集団が洞窟のあちこちやその奥、アジトの方へと駆け出し調査を始めていく光景が繰り広げられて。その中から、相変わらずと誇らしげな表情で歩いてくるブラートの姿を発見。


 ……しかし、黒く刻まれた大きな傷跡の走る腹部を押さえているその様子から。どうやら、ブラートはブラートの方で色々な厄介事に対応していたことが伺える。


「ブラートの兄さん!!」


 声を上げて、すぐさま駆け出しブラートに抱き付くミズキ。吸い込まれるように走っていって、傷跡の残るブラートにぴとっとくっ付いて離れない少年の頭を撫でながら。ブラートは先の戦いを乗り越え生還した俺達の姿を見遣っていく。


「……うむ。やはり、この探偵・フェアブラントがこの眼と正義で見定めただけはあった! ……アレウス君!! ミントちゃん!! そこでぐったりと寝そべるのっぽ君!! ……そして、ミズキ。君達は本当に、よくやってくれた……!! 俺もこの身でひどく味わった。"ヤツら"は至極危険な存在だったのだ! そんな脅威が置き土産としてこの街の地下に植え付けていった災厄の種を、君達は無事に摘んでくれた! これは、この街の秩序と平穏を守ってくれたことになる!! ――今回の君達の活躍は、マリーア・メガシティというこの女神と経済の大都市を救ってしまったと言っても過言ではないほどの、素晴らしき快挙であるのだ!! ……ふっはははッ!! なに、どうした? もっと喜んでもいいのだぞ? それとも、疲れてしまってそんな実感でも湧かないのかな? っははは!!」


 その腹部に謎の黒い傷跡を刻まれてしまっているその中でも。その長広舌は健在として誇らしく且つ悠々と披露していくブラート。至って平然に見えるその様子に、その禍々しい傷がただのペイントのようにも見えてきてしまえる……。


「なになに、一体どうした君達!! そんなにして黙りこくってしまって!! ミズキもどうした!! こうして無事に生還することができたのだ!! またこうして、皆で顔を合わせることができた!! それだけでも、十分に喜び合える要素だとは思わないのかね!?」


 沈黙を続けていくこちらの様子に違和感を覚え、多少と過剰気味の尋ね方で誇らしく喋りまくってくるブラートではあったが……こちらの、あまりの疲労によって反応もできずにいた様相の、ひどく疲れ切った空気を感じ取ってからというものの。ふと、こんなことを言い出してきたのだ。


「……ふむ、この俺の歓喜に便乗せず。それどころか、その鋭い顔付きでこちらの顔色を伺ってくるとはね。……さすがは災厄の種を摘んだだけはある。やはり、君達は実に優れた人材達だ。――あぁそうさ! ……君達の予感は、的中してしまっているよ」


 抱き付いてくるミズキを連れながら。地面に横たわるペロと。疲れ切った様相で俺の傍に寄るミントと。その場で佇立をしていた俺のもとへと歩み寄ってくるブラート。

 その表情は、先の誇らしさをまるで感じさせない、真剣な眼差しの真顔そのもの。


「アレウス君。ミントちゃん。そこでぐったりと寝そべるのっぽ君。そして、ミズキ。君達は本当によくやってくれた。君達の、この街を思う気持ちと友情を重んじた命懸けの活躍によって、このマリーア・メガシティの秩序と平穏が。そして、この世界の地中に蔓延る諸悪の根源を払い除けることができたのだ! ――……と言いたいところではあるが。現状としては、それをとても素直に喜べる状況ではないところであるのもまた事実だ」


 沈黙で眺め遣ってくる一同を見渡し。それぞれの状態をその眼で確認し、一人で納得し、一人で頷くブラート。


「君達の活躍によって、この街から災厄の種を取り除くことができた。……が、それと同時にして、至極危険極まりない厄介な存在がこうして現れてしまい。それが今も、この街に。そして、この世界に蔓延り密かに活動を行っている可能性が非常に濃厚だ。……死闘を終えたばかりの君達に、そんなおもっ苦しい現実を与えてしまうだなんて。これは、疲弊する君達にとっては至極残酷な現状を思い知ることとなる報告だったことだろう。さぞ、先の言葉に不安を煽がれてしまったことに違いない。……だがしかし、それが事実であるためにも。まずは、そのことをどうしても今、君達に把握してもらいたかったのだ」


 ブラートからの報告を耳にして、より一層な不安の面持ちとなるミントとミズキ。ペロは極度の疲労からか、半分は放心状態でボーッとしてしまっている。


「……それに伴い、"ヤツら"を蹂躙するために遂行したこのビッグプロジェクトは、とても大成功とは言い難いなんとも微妙な結果で終わってしまったものであった。――が……しかし!! それでも、君達の活躍によって最悪の結果を免れることができたことに代わりはない! このことを大成功とは呼べなくとも、これを作戦の成功と呼ばずにして何とする!! ……アレウス君!! ミントちゃん!! そこでぐったりと寝そべるのっぽ君!! ミズキ!! 君達は本当によくやってくれたよ!!」


 その声音は、先程までの真剣さから一転として。またしても誇らしさを取り戻したいつもの調子になっていた。真面目な雰囲気で話をしようとしてみたものの、やはりこの誇らしげな喋り方になってしまうのだろうか。

 そんな、とてもシリアスな空気を醸し出してみたものの、どうしてかいつものペースに戻ってしまったブラートの様子を見ていたその時にも。彼に抱き付くミズキが顔を上げながら、口を開いて小さな声で言葉を投げ掛けていく――



「ブラートの兄さん。難しい話は後にしよう? ……おれ、疲れちゃった」


「むっ、そうだね。生憎と、この俺も不覚を取って負傷してしまったものだから。それじゃあ、まずはフェアブラント私立探偵事務所へと戻り。そこで治癒と休憩を行うとでもしようか」


「負傷? ブラートの兄さんが? ……じゃあ、やっぱりそのお腹の傷は――」


「気にするなミズキ!! なに、この程度の傷など直に治る!! その直に治るをより早く迎えるためにも、まずは事務所に戻るとしようじゃないか!! ――事態は刻々と迫っているのも事実だが、しかし、休息を怠ってしまっては本来のポテンシャルを発揮することもできやしない!! まずは事務所で皆を休ませ。その間にも負ってしまった傷を癒しながら。お茶菓子をつまみ、お茶を啜り、のびのびとした空間で他愛も無い世間話をゆっくりと交えていったところで。本題となるこれからについての話し合いを行っていこうではないか!!」


「賛成。……だけどブラートの兄さん、事務所にはお茶もお茶菓子もないよ。金欠だから」


「ふむ、この探偵・フェアブラント。またしても不覚だった。事務所の現状を把握できていなかったとは、何たることだ……!!」


「ブラートの兄さんが無駄に飴を買うからだよ――」


「さーミズキ!! その勇敢なる意思を持って死闘を繰り広げた勇者達を讃え癒すためにも!! まずは彼らを事務所へと送り届けようではないか!!」


「了解」


 眼前の脅威に屈し、死を選ぶ直前であったミズキも。今はこうして、ブラートという大事な人と再び会話を交わし、とても楽しそうな表情を浮かばせているものであった。


 そんな二人に連れられて、俺とミントは移動を始め。又、既にダウンしてしまい倒れたままであったペロもまた、引きずられながらこの洞窟を後にする。

 そして、ブラートとミズキの拠点であるフェアブラント私立探偵事務所へと足を運び、そこに設置されていたイスに座ってからというものの。その瞬間にも、蓄積していた疲労によってふと意識を失ってしまい。……エリアボスに勝利したという達成感と安堵のままに、俺は死んだようにそのまま眠りについてしまったのであった――――

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