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ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
一章
17/368

エリアボス:ドン・ワイルドバード

『ギェェェーン!!』


 音圧を纏った甲高い鳴き声は大気を震わせ、その圧が衝撃波となって俺の身を退ける。

 波動を帯びた規格外の威嚇行動に、俺は思わず恐怖交じりの緊張である戦慄を感じてしまった。


 今回の戦闘は逃走不可。よって、メインクエストのイベント戦であることは確かなのだが……序盤でこなすクエストにしては、さすがに難易度が高すぎやしないかこれ……?

 これもフラグによって起こってしまったイベントということであれば、俺はどこかでとんでもないフラグを立ててしまっていたのかもしれない。


 これがただの偶然というだけであれば、俺は自分自身の悪運を呪わずにはいられなかった。


「――――来るっ」


 ドン・ワイルドバードの行動。気狂った様相で急接近を図ってきた相手は、俺との距離を縮めたその瞬間にも強靭な脚を持ち上げてくる。

 この山丘の環境で鍛えられた巨大な脚には、まるで詰められたかのようにびっしりと巡る筋肉が。

 その巨大な全長は、同種の仲間を統括するために絶大な効果を発揮しているのであろう、がっしりとした筋肉の塊で。


 それらの要素が合わさった、巨大かつ凶悪な攻撃。その、今にも俺を引き裂かんと振り被られた強大な一撃を前に、俺は冷静を保てないまま咄嗟にガードを選択。


「つァ――マジかよ」


 その強靭な脚が振り下ろされ、俺がガードで構えたソードを凶悪な爪で切り裂く。

 結果としては、なんとかやり過ごした。だが、この攻撃によるHPの削り具合がとても半端ではなかったのだ。

 それは、先程に戦闘を行ったワイルドバードの攻撃力を遥かに凌ぐもの。その威力は最高でも三発、三発まともに食らったら最大のHPが無くなるか。


 被害はそれだけではない。ソードで攻撃をガードしたことによって、この鉄の体を持つソードには抉られた無残なる爪跡が残ることとなった。

 鉄さえも容易く抉るその鋭さ。その威力が目に見えて証明されたわけではあるものの、ここで俺が心配したのは、ソードを抉る先程の高威力な攻撃力のことではなく、このソード自身のステータスのことであった。


 ……これ、まさか武器に耐久値とかがあるパターンじゃないよな……?


『ギェェェーン!!』


 再度、俺へとその強靭な脚を振り被ってくるドン・ワイルドバード。

 相手の行動は先程のワイルドバード戦で予習済みであったため、俺はこの行動を通常の攻撃と断定。それじゃあとほぼ反射的に、俺は剣士スキル:カウンターを発動し――


「おらァッ!!」


 全身に巡った異常な瞬発力。一気に勝機を見出した希望の光を胸に、俺は相手の攻撃力に依存する高威力のカウンターを成功させる。

 その威力は尋常ではないのは確かだ。ガードであれほどまでに削られた相手の攻撃、その威力が仇となり自分自身に返ってくるなんて、なんて清々しいものなんだろう。


 迂闊だったな。通り抜け様に心で呟いた俺は、そんなドン・ワイルドバードに勝気な様子で振り向いたというもの……。


『ギェエアァァッ!!』


 高威力のカウンターを当てたとは到底思えないほど、ドン・ワイルドバードの様子はすこぶる元気であった。

 まぁそうだよな。多人数での戦闘が推奨されるほどのステータスを誇っているんだもんな。さすがにこれぐらいでは倒れてくれないか。


 俺の手札がまるで効いていない。そんな絶望感と共に訪れた一瞬の好機。

 それでも、ドン・ワイルドバードは怯んでいた。

 絶好の機会。ここはもう攻めるしかないと、勇気を振り絞りながら踏み込んでソードスキル:エネルギーソードを発動する。


「エネルギーソード!!」


 MPを付与させることによって薄い青色の光源を帯びる俺のソード。

 渾身の一撃。一刻でも早く終わらせたい。そんな俺の焦燥によるスキル攻撃の一撃が、目の前で怯んでいたドン・ワイルドバードに直撃――


『――ッ』


 と思われたが、なんて鮮やかなサイドステップなのだろうか。

 強靭な筋肉は機動力を生み、ドン・ワイルドバードはそのお手本のような華麗なる回避を見事に成功させてきたのだ。


 空振りする俺のスキル攻撃。その隙を突かれ、俺はあれほど恐れていたドン・ワイルドバードの攻撃を直で受けることとなってしまう。


「ぐァッ――がァ!!」


 振り下ろされた凶悪な脚の一撃。

 ガードする間さえも与えられなかったその隙に。慈悲も無く降りかかった一撃によって吹っ飛ばされる身体。

 勝気な山丘の地面を転がり、一気に削がれたHPに俺は心臓をひどく高鳴らせていた。


 マズい。このダメージ量、これはマジで死に兼ねないぞ。

 強力な一撃をもらったことによって溢れ出す恐怖心。俺は、ここはたかがゲームの世界だと思い込んでいたことによって、どうやらこの世界の本来の姿を甘く見ていたようであった。



 ここはゲームの世界。そう、ここはバーチャルで成り立つ世界そのものだ。

 しかし、生命という息吹が注がれたこのゲーム世界は同時に、強力なシステムを持つモノだけが生き残れるとされる弱肉強食の世界でもある。


 ここでの暮らしにだいぶ慣れてきたから、もう怖いもんなんて無いな。そんな死に急ぎ野郎の考えを浮かべながら、この山道を歩いてきていた自分が恥ずかしい。

 そんなつい先程までの愚かな自分自身に、俺は後悔をしていた。



 ……そして、同時に反省する。この状況は、そんな不注意な俺が作り出したようなものだ。だから、俺はもう、こんな絶望的な状況を作りたくない。そうでなければ、この先の旅で俺はミントとユノに迷惑を掛け兼ねないから。


 なんとしてでもこの状況を打破して、この戦いに勝つ。と。

 それでもって、次からは細心の注意を払いながら冒険をする。と。

 そして、心して、用心して。俺はミントとユノと共にこの世界を冒険していくんだ。


 新たなる決意を抱き、俺はこの戦いに勝利するための手札として薬草を取り出す。

 まずはこの薬草で回復だ。そのあとで、剣士スキル:カウンターを中心とした立ち回りで勝利を――


『ギェエエエェンッ!!!』


 勝利への決意したその瞬間。そんな俺の心を即刻折るかのように、その身にオレンジのオーラを纏いながら気狂った様相で急接近してくるドン・ワイルドバード。


 まるで、何かに対しての反射的な行動。あまりにも唐突で、凶悪で、絶望的な光景を目の当たりにした俺は、溢れ出た恐怖心によって身体の自由が利かないという死亡フラグを立てる。



 ヤバイ。そう思ったその時には既に、俺の身体はドン・ワイルドバードの凶悪な特技を直に受けて吹き飛ばされていた――

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