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ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
三章
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その瞳に映る、彼の姿

「…………っ」


 その少年は、恐怖の色を瞳に浮かべながら眼前の光景を見遣っていた。

 今、自身の実力では到底敵わないと悟り。諦めの境地へと、死を受け入れる覚悟を以って挑んでいたその巨体。しかし、その禍々しく、毒々しく。橙の斑点を浮かばせる藍色のそれへと立ち向かう彼の背中を目撃してしまっては、それを心に渦巻く諦観のままに眺め続けていく。


 ……おまえには、どうせ無理だ。眼前で佇む巨大な脅威に、その彼の行く末を予測して心で呟いていたものではあった。が……。


「……ミント、俺から離れているんだ」


「……了解しました。ご主人様……どうか、ご武運を……っ!!」


 守護女神である球形の妖精に伝え、少女を自身から切り離し。その彼は、その未熟な実力を以ってして。ブロードソードを構えて藍色の脅威へと立ち向かっていく。

 その様子を、同じく怯えた様相で眺めるもう一人の長身男もいたものであったが。恐らく、男の考えていることもまた、少年と全く同じ心持のものであったかもしれない。


「……ここで負けるわけにはいかない……!! ソードスキル:エネルギーソ――」


『オォ……オォォォォォォォォォォォオッ!!!』


 嘆きから怒りの三重奏へと変貌した咆哮をあげると同時に。その身に纏ったのは、今戦闘における初となるオレンジ色のオーラ。

 その光景に驚愕をする、無謀にも立ち向かっていくその彼。次の時にも、藍色の脅威の目から橙のレーザーが放射され。その目に見えぬ速度を見切ることもできず、その武器に青の光源を宿したまま、身体を貫かれ悲鳴をあげていく。

 橙の光線が彼を貫通し地面に着弾。同時にして、レーザーが走った軌跡が次々と爆発を始めていき。怯みによって身動きの取れない彼のもとに届き爆発の餌食となってしまう。


「ご主人様ぁ!!」


「アァ……アレっちィィィィィィイ!!」


 爆発によって吹き飛ばされ、ボロボロの姿となって地面に転がる。

 口から煙を出しながら。しかし、すぐさまと立ち上がり、目の前の脅威をその視界に入れていき。

回復薬を取り出して、それを一気飲み。……だが、その時にも。彼のもとには、既に駆け出し全速力で洞窟を走り抜けていく藍色の脅威が目前と迫り始め。それに気付き、彼は息を引きつらせながら咄嗟とスキルを宣言していく……。


「ッ!! ……剣士スキル:ディフェンシブスタンス――」


 宣言したスキルで緑のオーラを纏ったその瞬間にも。異常にも発達した強靭な右腕のアッパーカットによって、彼の身体はその場から姿を消してしまっていた。

 次には、洞窟の端に響く砕ける音。衝撃による悲鳴も相まって、その姿が一瞬にして高い位置へと殴り飛ばされたことが把握できる。


 上半身を投げ出すように壁から出てくる彼。痛みによって、無気力となった様子でその壁からゆっくりと上体を持ち上げていきながら。壁に手を掛け足を掛け、緊張によって早まる呼吸と共に、回復薬を取り出しそれを飲み干していく。

 だが、それを食い止めんと再び全速力で駆け出して。瞬きをするその刹那で彼のもとへと到達をしては、その豪腕を振り被り小さな標的へと拳を炸裂させる藍色の脅威。


 その攻撃を回避し、しかし、宙に投げ出された彼の身は。直後として振り抜かれた裏拳の餌食となり洞窟の中央へと激突。地面をバウンドし、収まらぬ勢いにごろごろと転がり続ける姿を晒し。ようやくと勢いが弱まるとすぐさまに立ち上がり。緑のオーラを纏うその状態のまま、彼は再三と回復薬を取り出して回復を図っていく。


 ……だが、その隙にとまたしても迫り来る藍色の脅威に吹き飛ばされ。その先で立ち上がっては、また回復薬を取り出し治癒を行っていく。

 それはもはや、キリの無いいたちごっこであった。何度も何度も同じ光景が目前で繰り広げられるその中で。彼は殴り飛ばされ、吹き飛ばされ、爆風に巻き込まれ、地面や壁に打ち付けられ続けていく。


 ……しかし、それでも彼は立ち上がり続けた。その身がボロボロとなり、今にも意識を失ってしまってもおかしくなどないであろう、砂埃と黒の傷跡だらけの姿となりながらも。

 ……自身の実力が、目の前の脅威に完全と劣っているにも関わらず。もはや、その場からの逆転も望めない景色を何度と何度と目の当たりにし、その身で絶望の数々を体験をし続けながらも。


 ……それでも、彼は立ち上がり続け。ちっぽけな武器を片手に、眼前の脅威へと立ち向かい続けていったのだ――



「…………ッ」


 実力が敵わない相手へ、それでも幾多と立ち上がり挑み続ける彼の背を。その少年は、真っ直ぐな眼差しを向けて見つめていた。

 それは、諦観の中に見出した、一筋の光に見惚れていたからなのかもしれない。しかし、立ち上がっては転び続ける彼の姿を見ている内にも。少年には、ある一つの念が過ぎり出す。


 ……何故、敵わないと判っている相手へと、そこまでして無謀に立ち向かっていくのだ。と……。


「ッ……!! ――ソードスキル:エネルギーソード!!」


 大量と消費した回復薬のビンを投げ捨てて。手に持つ剣に青の光源を宿し、襲い掛かる藍色の脅威へと駆け出す。

 振り抜かれた藍色の右腕めがけて剣を振るい。スキル攻撃による相殺で、その豪腕を跳ね除ける。だが、弾かれ仰け反る藍色の脅威はすぐさまと体勢を立て直し。そのまま再びと右腕を振り下ろし、同時に橙の斑点を浮上させた隕石の如き拳を、その彼へと容赦無くぶつけてきたのだ。


「ぐァッアアアァァァッ――!!!」


 直撃と同じくして炸裂した爆発。その拳の一撃に加えて、その破壊を象る爆発にも巻き込まれたその彼は。爆破の轟音にちっぽけな悲鳴を響かせて。

 ……そして、弾丸のように吹き飛ぶ身体。直線を描き飛んでいく彼の姿は、戦闘を眺めていたもう一人の少年のもとへと落下し勢い余って地面を転げまわってきた。


「…………ッ」


 ……変わり果てた姿となって、自身の目の前に転がってくるその姿を目撃して。爆発によって黒焦げとされて。ぐったりと、先程までの立ち上がる様子を一向に見せず。

 ……ピクリとも動かない。呼吸をしているようにも感じ取れない。……とても、生きているように見えない……。


「……ははっ、ははは……。まぁそうだよ……ダメなことは、いくらやってもどうせダメなんだ……」


 無様な焼死体となって転がる彼を見つめ、その少年は無気力に。しかし、どこか安堵とした様相も見受けられる、力の無い乾いた笑いを見せながらそう言う。


「これは"前にもおれ自身で証明した"。結局、努力っていうのは無意味なんだよ……」


 変わり果てた姿を見つめる少年の表情は、どこか勝ち誇った様相であり。だが、同時にして、まるで何かを失ったかのような、消失感をも思わせるものであり。

 ……やはり、こうなるのかと。判り切っていた未来の予感に、うんざりと、気だるそうに首を横に振っていく。


 ……だが、次の瞬間にも。その少年は堪らずギョッと目を見開いてしまった――



「ん……あ……ァッ……」


 全身で息をするように、その呼吸を始め出し。その身体を震わせながら、自由の利かない指を、手を、腕を動かし。上半身を持ち上げて、下半身を動かし、膝をつき、ボロボロとなって不安定な感覚のままに立ち上がる黒焦げの姿。


「……へ、へへ……んだよ。……こんなもん、死ななきゃ安いぞ……!!」


 ……もはや、生気を感じさせない黒に染まったその姿で。今にも塵となり崩れ落ちそうなその彼は。足で踏ん張り、体勢を立て直し、今まで使用していた剣を取り出して。眼前に存在する藍色の脅威へと、再び立ち向かっていったのだ――――

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