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ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
三章
163/368

エリアボス:魔族との契約者【爆炎を運ぶ者】

「……そして、今現在におけるご主人様の合計HPと、先の叩き付け攻撃による爆破属性のダメージを計算してみますと……先の叩き付け攻撃による爆破属性の値は、ご主人様のHPを超えてしまっております。故に、叩き付け攻撃による爆破属性を受けてしまったその瞬間にも、ご主人様は待ったナシに即死を迎えてしまいます……!! どうか……叩き付けによる爆発にはお気を付けくださいませ……!!」


 さすがにそれは冗談じゃないぞ。

 ミントの解説に、俺は全身の鳥肌が立ってしまう。先の叩き付けからの、あの広範囲に渡る爆発の一撃で俺は死んでしまうというのか……!!


 その理不尽さを振り回すエリアボス:魔族との契約者。この瞬間にも、俺はNPC:魔族に対して恐怖を抱いてしまい。同時に、俺が打倒しなければならない敵が、これほどまでの脅威を宿す勢力であることを思い知らされ。……その現実に、RPGの主人公という立場が如何に恐ろしく。そして、主人公というものが、如何に勇敢な者であるかを改めて思い知らされることとなった――



 先の叩き付けによる爆発を間一髪と回避したミズキ。ロープを手繰り、再度と魔族との契約者へと接近を図っていくのだが。しかし、ミズキの空中移動に慣れてきたのであろうヤツは、ミズキの行動を先読みした空振り攻撃。未来予測による移動先へのストレートの連撃によって、少年を一向に近寄らせない立ち回りを行い出す。

 ミズキもまた、眼前で巻き起こった爆破属性への恐れからか、回避で精一杯といった様子で苦難の表情を浮かべており。剣へと寄せ付けない相手の行動に、もどかしくも思い続けていたことだろう。尚、ペロは恐怖で震えたまま、立ち上がることができていない。


 俺もまた、先の振動からやっと立ち直り。再びとエリアボス:魔族との契約者へと駆けつけ始めて。その中で、ミントは俺を追い掛けながら解説を続けていく。


「尚、エリアボス:魔族との契約者における弱点属性は、光属性でございます!! こちらの光属性におかれましては、NPC:水飛沫(ミズシブキ)泡沫(ウタカタ)の有するエネミースキル:一ツ目の眼光と、エネミースキル:サイクロプス・ハンマーがそれに当て嵌まり。光属性による攻撃は、魔族との契約者というボスエネミーを攻略する際には必須となりえるほどの、恐るべき効力を発揮いたしますために。エリアボス:魔族との契約者を打倒するためには、ミズシブキ様との協力プレイが必要不可欠になるかと思われます!!」


「光属性が……そうか、なるほど……!! ――ミズキ!! 聞こえたか!?」


「おまえに指図されなくとも、端からそのつもりだって言っているだろう!!」


 眼前の強敵を前にした、余裕の無い状況下による鋭い返事をしながら。ロープを手繰り、隕石の如きストレートの連撃を巧みに回避していきながら魔族との契約者の懐へと潜り込み、ダガーをしまい両拳を握り締めるミズキ。


「エネミースキル:サイクロプス・ハンマー!!」


 握り締められたミズキの拳が光り出し、眼前の藍色と同様の巨大な拳を生成。それを思い切り振り被り、胸に突き刺さる剣の柄へと光の鉄槌を食らわせる。


『オォ……オォ……オォォォォォォォォォォオッ!!!』


 すると、これまでのダメージとは比較にならぬほどの悲鳴を上げながら。ミズキの一撃で大きくよろけ、体勢を崩しながら嘆きの三重奏を洞窟へと響かせた魔族との契約者。その様子は、誰から見ても手応えを確信するものであり。爆破属性による猛威を振るう凶悪な相手の打開という希望を、その場の全員が見出すのに十分な光景であった。


 ……しかし、その希望も。魔族との契約者のある変異によって儚く散っていくことになるとは、その時の誰もが予想することができなかったに違いない……。



『オォ、オォ、オォォォォォォォォォォォォオッッッ!!!』


 洞窟全体へと響き出す嘆きの三重奏。その口から放たれた咆哮は音圧となり、波動となってミズキを、ペロを、そして俺とミントを吹き飛ばす。

 同時に、その禍々しく毒々しい藍色の全身には、先の爆発の予兆でもあった橙の斑点が一気に浮かび上がり始めて。今にも自爆を引き起こしそうな上ずった咆哮と。身体中の筋肉が隆起し今にも破裂しそうなほどにまでパンパンと膨らみを帯び始め。


 ……これは、やっとと言えるのか。それとも、とうとうとでも言うべきか。ここにきて、エリアボス:魔族との契約者は怒り状態への移行を果たすこととなったのだ。

 それは、ヤツの本気を引き出したこととなり。これまでを凌駕する脅威を心しなければならない、希望を容易く打ち砕く絶望の地獄絵図――


「――――つァッ!!!」


 次の瞬間にも、ミズキは爆発していた。

 目に見えぬ速度で放たれた右ストレート。拳に触れたその瞬間にも引き起こされたのは、属性:爆破による破壊の爆炎。

 右ストレートと爆発による衝撃を受けて、一直線と吹き飛び壁に激突するミズキ。幸いにも、辛々と一命は取り留めていたものの。しかし、壁に埋まるミズキの表情は、唖然。いや、それはもはや、恐怖による放心に近かったかもしれない。


『オォ……オォ……オォォォォォォォォォォオ!!!』


 咆哮もまた、嘆きであるよりも憤怒に近しい三重奏へと変化を遂げていて。橙の斑点を全身に纏いながら、怒りのままに俺へと振り向き。……発見次第に全速力でのスタートダッシュを決めながら、同時にやたら滅多らと地面を殴り付けながらこちらへと駆け出してくる。

 拳の一撃によって引き起こされていく爆発。それは地面を殴りつける毎に轟音と共に発生し続け、それを引き起こしながら全速力で駆け抜けてくる光景はもはや、災厄の訪れとさえ言い表せてしまえるだろう……。


「ま、まずい……!! け、剣士スキル:カウンタ――」


 瞬間、俺はエリアボス:組織の親方にカウンターが通用しなかったことを思い出す。

 しかし、時すでに遅し。既に行ってしまった行動で、周囲に透明の気が漂い出してしまう。


 ――そして、次の時にも、俺は吹き飛ばされていた。……しかし、それは嫌な予感とは多少異なる状態としての結果として……。


「ぐはァッ――あッ、がァッ…………!!!」


 壁に激突し、更にバウンドして地面に打ち付けられるこの身体。

 HPは満タンから七割ほどのゲージが削れていた。が、それは属性:爆破をもろに受けたにしては、やけに安いなとも思えるダメージであり。……ふと、この時にも俺はあることに気付くこととなる。


「……違う。これは違うな……。攻撃は食らってしまったが、さっきの手応えからして……もしかして、カウンター自体は成功していた……?」


 吹き飛ぶ直前に巡ってきた瞬発力を実感しながらも。爆発に巻き込まれたにも関わらず、こうして生き長らえている結果に疑念を浮かべていたところで、ミントが俺のもとへと追い付いてくる。


「ご主人様!! エリアボス:魔族との契約者は、エリアボス:組織の親方とは異なるエネミーでございます!! 先のエリアボス:組織の親方は職業:ウォリアーであったために、そちらのパッシブスキルを発動しカウンターの対策が行われてしまっていた次第でございますが! 現在のエリアボス:魔族との契約者には職業というシステムが存在しないために。ウォリアースキル:カウンター無効は帳消しとなり、現在は通用するよう設定がなされております!! 故に。ウォリアースキル:カウンター無効のパッシブスキルをお気になさらず行動を起こしてもらっても問題ありません!! ……そして、先のカウンターですが。ご主人様は、属性:爆破によって引き起こされた爆発をカウンターでいなし。しかし、いなしたその瞬間にも、それと同時に降り掛かってきた拳によって被弾……となり、現在にいたるという状況でございます……!!」


 なるほど、つまり、魔族との契約者というエネミーは、さっきまでの親方とは異なるエネミーというわけか。それで、カウンター無効のスキルが無くなっている、と。であれば、これは好都合の他にはないだろう。

 そして、非常に強力である爆破属性と拳の攻撃ではあるが。その実体としては、オレンジ色のオーラを纏いながらの攻撃ではないために特技ではないということだ。

 ……そのため、あの属性:爆破は飽くまでも通常攻撃であるために。その効果は下手すれば一撃死ではあるものの、カウンター自体は可能である、と。


「……なるほどな。特技でなければ、あの爆破属性にもカウンターが適用されるってところか……」


 しかし、爆発からの、拳による連撃への対応が間に合わないために。結果としてはカウンターをしても攻撃を食らってしまう。……のだが、まず爆破属性をカウンターできるという時点で有利だとも思えてしまえる。下手すれば一撃という爆破属性を、まず即死ではないであろう拳の攻撃で済ませられるというのは、それだけで相当に儲けものだ。


 ピンチの中で発見した意外な可能性を見出し、俺は僅かながらの対抗手段を把握して再び立ち上がっていく。

 次に、ポーションを口に含んで減少してしまったHPを回復し、今目の前で繰り広げられる光景へと意識を向けていった……ものであったのだが――


「ギャアァァァァァアアアアアァァッ!!! だからやめてェェェェエエエエェェェェエッ!!! オレっちを狙うのはァッ!! オレっちを狙うのはァ――グヘェェエエエェェエェッ!!!」


 全身に橙の斑点を浮かばせた怒りの巨体を前にして、その辺り一面に降り注ぐ拳の雨を食らい続けるペロのダメージボイスが響いてくる。

 もはや、対抗手段が云々と考えている場合ではなかった。それに応じて爆発する爆炎の数。それに加えての、拳による連撃の勢い。それは、いくらペロであろうとも連続して食らってしまえばひとたまりもない、慈悲無き光景。


 ……このままでは、ペロがハメ殺されてしまう……!!


「ペロ!! 待ってろ!! 今すぐ助けに行く!!」


 すぐさまと駆け出して魔族との契約者へと接近を行うその最中。現在もその猛攻によって絶えず爆発と轟音を立てていく地獄絵図の光景からは、相変わらずとペロの叫び声が響き続けてくるものであったのだが……。


「ギャアァァァァアアアアァァァアッ!!! アレっちィィィイイイィィィイッ!!! 助けてェェェエエエエエェェェッ!! 目の前がァッ!! 目の前が明るすぎて見えねェよォォォォオオオオォォッ!!」


 ……意外と余裕があるように聞こえなくもないその助けを聞き、だが、ピンチには変わりがないためにブロードソードを構えながら魔族との契約者への突撃。

 又、意外としぶといペロを狙い続けていく魔族との契約者ではあったが。そうして一人の人間に意識を向け過ぎていたために、ヤツは背後からの存在に気付くのが遅れることとなる。


「エネミースキル:サイクロプス・ハンマーッ!!!」


 震わせた声のままに宣言し、握り締めた両手に巨大な光を宿してその拳を振るう。

 突如と現れたミズキに驚きを見せながらも。しかし、咄嗟と右の裏拳を放ち、それをミズキに弾かせて。

 ……その弾かれた勢いを身に纏い、なんと、魔族との契約者はそのまま両腕を持ち上げる体勢へと移行。流れるような動作で次の行動に出た魔族との契約者に驚きを隠せないミズキは。先にも弾くために振るったスキル攻撃のモーションのまま、目前とした絶望にその表情を強張らせてしまう――



『オォ……オォ……オォォォォォォォォォォオッ!!!』


 次の瞬間にも振り下ろされた両腕。

 橙の斑点を身体中に巡らせながら。ミズキの脇を通り抜けて大地を叩き付けるその一撃。


 大地を揺るがす振動と共に巻き起こったのは、魔族との契約者という巨体を包み込むほどの、広範囲にも渡る大規模の大爆発。

 空中にて、未だとモーション中であり行動を起こす事が出来ずにいたミズキは、その光景を間近と目の当たりにし。……その次にも、少年は真下から巻き上がった大爆発の渦に巻き込まれてしまったのだ。


「ウ、ウワアアアアアアアアアアアアア――――!!!」


 眼前に見据えた、死への恐怖に腹が張り裂けんばかりの悲鳴を上げて。甲高い叫び声を上げると同時に、その声が爆炎の渦に飲み込まれていく……。


「ミズキ!! ミズキッ!!!」


 それは、明らかに尋常ではない声だった。

 ミズキという少年がとても叫び上げるようなものではなかったために。俺は全身に巡った良からぬ予感のままに、大爆発に飲まれてしまった彼のもとへと手を伸ばす。


 ……しかし、距離が空いている上に、空中にいたミズキのもとには到底届かない。伸ばしたものの、空しくと空を掴む手と共に。俺は、目にした衝撃の光景を前にしてショックで足を止めてしまった。


 ……間に合わなかった。

 ……俺は……ミズキという一人の仲間を失ってしまったというのか…………?




「モンクスキル:キュアーッ!!!」


 ペロの宣言と共に、爆炎の中からは僅かな光が宿り始めて。

 直に、その光を纏いながら。無気力な状態で吹っ飛んでくるミズキの姿が現れる。


「ミ、ミズキ!!」


 ペロのフォローを受けながらも、しかし、その生気を感じさせない様子に焦りを抱きながら走り出す。

 少しして、ぼとりと地面に落下したミズキの身体。爆発によってボロボロの姿となり、まるで人形のように力無く落ちた少年のもとへと駆けつけては、ミズキの上半身を持ち上げて必死に声を掛けていく。


「大丈夫か!? 大丈夫かミズキ!? おい、おいッ!! 生きているか!? 生きているのかッ!?」


 俺の呼び掛けにも無反応で。ボロボロになったキャスケットと上着の襟で隠れた顔からは、如何にもな空気が漂い出してくる。


 ……おい。まさか、そうなのか……?

 依然として沈黙のままの少年を持ち上げたまま。俺は、ただ黙りこくったままにミズキを見つめ続けていく。……すると。


「……やっぱり。やっぱりこうなるんだ……」


 ぼそりと。ミズキの口元から、ふとそんなことが呟かれる。

 良かった。ミズキは生きていた。その安心感によって、俺は一旦もの安堵をするものの、だが、まずは回復をと思いポーションを取り出してミズキに与えようとする。


 ……しかし、そんな少年の様子は、どこかおかしかった。

 それもそのはず。俺の腕で肩を震わせながら。NPC:水飛沫(ミズシブキ)泡沫(ウタカタ)は、そのキャスケットと襟によって隠れた顔から大粒の涙をぼろぼろと零し始めて。……そんな、急な様子の変化を伺っていると。その少年は、あることを思うがままに、吐き捨てるように呟き始めたのだ――――


「……だったら。だったらいっそのこと、ここで死んでおきたかった……ッ!! いくらやっても、おれだとやっぱりこうなるんだよ……ッ!! やっぱりこうなることぐらい、おれには最初からわかっていたんだ……ッ!! ……いくら頑張ったところで結局、おれは"生まれた時からずっと"何もできやしないままなんだ……ッ!!!」

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