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ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
三章
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エリアボス:魔族との契約者

「この時をもちまして、今回のメインクエストの内容が変更となりました……!! 今回のメインクエストにおけるクリア条件は……今現在と相対するボスエネミーの討伐……!! 『エリアボス:魔族との契約者』との戦闘にて勝利を収めることでございます……っ!!!」


『オォ……オォ……オォォォォォォォォオ!!!』


 ミントの説明が終わると同時にして。満を持してその姿を現したNPC:魔族。

 このゲーム世界の目的である打倒、魔王。その配下とも呼べるであろう敵がついにその姿を現し。手を地につけ。涙ぐむ嘆きの三重奏を咆哮に乗せながら。……新たに出現した魔族のエリアボス:魔族との契約者は、眼前で眺め遣る俺達を発見するなり。門等無用と襲い掛かってきたのだ――



「ただいま、スキャンによってより詳しいデータの取得に務めております!! よって、今現在と判明しているごく一部のみのデータを報告してまいります!!」


 ミントがナビゲーターとしての解説を始めると同時にして、眼前からはその異質な存在感を解き放つエリアボス:魔族との契約者が行動を起こし始めていく。

 それは、スタートダッシュの構えを取り出し。次の時にも、大地を蹴り出し勢いよく駆け出してくるというもの。その七から八メートルもの巨体で。異常なほどにまで伸びた両腕を振り回しながら。筋肉質である体つきが織り成す完璧なフォームで、こちらへと全速力で駆け出してくる。その光景は正に、迫り来る恐怖体験。


 地響きを発生させながらあっという間にこちらへの接近を果たす魔族との契約者。十分な距離になると、その異常に伸びた右腕を振り被り。拳を握り締め、大振り且つ高速のパンチを俺達へと放ってくる。


「ッ――!!」


「ギャアアァァァァァァアアアアアァッ!!! アアアァアアアァァアアァァァアアァッ!!!」


 俺が回避コマンドを選択したその時にも、ミズキはロープを伸ばして空中へと。ペロは断末魔のような悲鳴を上げながら側へ飛び込むといった、それぞれの回避を行っていく。

 直後として、つい先程まで俺達がいた場所は、大地を砕く破裂音が響くと共に粉々と四散。その見た目だけでなく、その光景を目にしただけでも。異常な変貌を遂げた彼の攻撃力の高さを体験することができてしまえる。……あれを食らってしまったら、まずひとたまりもないだろう……。


「今現在と判明している情報は、その外見に違わぬ高い攻撃力を持つエネミーであり! 又、不釣合いに発達した異常な両腕から放たれる攻撃の数々は、その破壊力に加えての圧巻となる攻撃範囲を持つ至極厄介な存在でございます!! 更に、特筆すべきは、その俊敏性です!! ……その素早さの数値は、かのオオカミ親分の怒り状態を遥かに凌ぐ速度を有する俊足の持ち主!! その俊敏性から放たれる広範囲と破壊力の一撃一撃には、まず間違いなく苦戦を強いられることでしょう……!!」


 その見掛け通りの脅威の持ち主であることが、ミントの解説で改めてと認識させられる。

 派手に空振りをした魔族との契約者。その振り下ろした腕を身体全体で持ち上げ、次なる行動へと移そうとする。

 と、その隙をチャンスと見なし、ロープで接近を図っていくミズキ。目の前の脅威を前にしてでも、これまでの機動力は依然として顕在であり。ロープを巧みに扱った空中での移動で勢いをつけて、ダガーを握り締めて魔族との契約者の後頭部へと飛び掛かっていく。


 ……だが、背後の存在へと振り向き様の裏拳を繰り出していく魔族との契約者。振り向くと同時に振り抜かれた広範囲の裏拳を前にして、ミズキはロープを手繰り咄嗟に上へと回避。

 しかし、魔族との契約者はその移動先へと腕を伸ばし、ミズキを握り潰さんと巨大な掌を開いていく。


「ッ――!!」


 これもまた、ロープを手繰り紙一重で真横へと回避。そこからロープを魔族との契約者の額へと飛ばし引っ掛けてから、隙だらけとなった相手へと、勇猛果敢にミズキは頭部への攻撃を仕掛けて行く。

 しかし、それを嘆きの三重奏である咆哮の圧で跳ね飛ばし。空中へと投げ出されたミズキへと、その異常に発達した右腕による高速のストレートを放っていき。それに直撃してしまったミズキは、食らうや否や弾丸の如く殴り飛ばされてしまった。


「ぐァッ――」


 ミズキのダメージボイスが響いたその次にも、遥か向こうの壁へと衝突し轟音を立てる。

 背後から迫ってきた敵を殴り飛ばし。次にターゲットとして魔族との契約者が狙いを定めたのは……俺の姿。


「ぐっ……ソードスキル:エネルギーソード!!」


 振り向き様に振り被ってきた、通常攻撃の左ストレート。こちらがスキル攻撃であれば、相手の通常攻撃に勝てるというシステムを利用しての反撃を行おうとした俺であったが。眼前から迫り来る巨大な拳を前にして、あまりの恐怖心による躊躇いでつい足を止めてしまった。

 それは、横殴りで降ってくる隕石を目の当たりにしたかのような光景。巨体から繰り出される破壊力満天の一撃に、俺は怖気付いて怯んでしまう……。


「ぐっ……うわッ――!!」


 ブロードソードの刀身に宿った青の光源で、目の前の右ストレートを弾いたところまでは狙い通りだった。

 しかし、次のスキルを宣言する余裕も与えられず。こちらが体勢を立て直すその前にも、間髪入れずに放たれた左ストレートを直に食らってしまい。上げたばかりの防御力であるにも関わらずに、一撃で五割のHPをもっていかれると共に吹き飛び壁に激突。ぶつかった先はカーブであり、それを沿うかのように吹き飛び地面を転がっていってしまう。


「ギャアアァァァァァアアアアァァッ!! アレっちィィィィイイイイィィィイッ!! なんかやけに強かったはずの少年ンンンンンンンンンンンンンンッ!! アァァァァァアアアアァァッ!!! これ、一体どうすりゃいいんだってんだよォォオオオオオオォォォッ!!!」


 叫び声に反応して、そちらへと振り向いていく魔族との契約者。恐れ戦くペロを視界に入れては、断末魔のような声を上げる彼へと右のストレートを繰り出していく。


「イヤアァァァァァアアアアァァァァァアッ!!! こっち見ないで狙わないでオレっちの存在は忘れてェェェェエエエエェェェェェエッ!!! 棍スキル:受け流しの構えェェェェェェエエエエエェェェッ!!!」


 その断末魔を耳にしては、もう今すぐにでも死んでしまいそうなキャラクターな具合のそれではあったが。やはりペロといったところか。隕石の如く飛んできた右のストレートを、手に持つ棍で生成した透明の気を利用してひらりと回避してしまう。

 そのまま続けて叫び声を上げているのだが。間髪入れずに飛んでくる左のストレートも、棍を利用したスキルで難なく回避。そこから、魔族との契約者は鬼のような猛攻で、ペロのもとへと拳の雨を降らせていくものであったが。ペロは一向として断末魔のような叫び声を上げながら、それらを次々と回避していってしまう。


 さすがは、不遇な方向感覚を持ちながらも一人で生き長らえてきただけはある、その身のこなし。俺もミズキも敵わなかったヤツの攻撃を、ペロは一人でいなしてしまっていたのだ。


「ご主人様! エリアボス:魔族との契約者のスキャンが完了しました!! これから、こちらの結果をご報告いたします!!」


「あぁ! 頼むぞミント……!!」


 吹っ飛んでいった俺のもとへと追いついてきたミント。少女による助言の準備が整ったことにより、手を出すのも恐ろしい目の前の相手を打ち倒せる勝利の兆しを見出せた気がして、俺は少女の声に希望を抱きながら立ち上がっていく。

 アイテム欄からポーションを取り出し、口に含んでHPの回復を行い。同時に、ロープを伸ばし魔族との契約者へと再び接近していくミズキの姿を確認してから、勇敢なる少年に続いて俺もまた駆け出していく。


「今現在と対峙しているエリアボス:魔族との契約者でありますが。まず、弱点部位は胸の中央に突き刺さる巨大な剣でございます!! 手前の持ち手と、胴体を貫く刀身。その両側とも、人間の形を模した本体の肉質よりも攻撃が通りやすいよう設定が施されていることから。剣への攻撃が一番の有効打となることには、まず間違いありません!!」


「なるほど、あの剣が弱点か……!! ――ミズキ!! 聞こえたか!?」


「おまえに言われなくとも、端からそのつもりだッ!!」


 俺と同様にミントの解説を耳にして、魔族との契約者の弱点を把握したミズキもまた。ペロに襲い掛かる七から八メートルもの巨体へと突撃していき、その背後の存在に気付いた魔族との契約者の裏拳を鮮やかに回避し剣へと接近。

 通りすがりに剣の柄へとダガーの斬撃を浴びせて。それによって嘆きの三重奏を上げながら怯んでよろけ出す魔族との契約者。横を通り抜けたミズキへと、すぐさま追撃としてストレートパンチを連発していくその様子から。どうやら、外から見ている以上に攻撃が効いているのだと見て取れる。


 その巨体と破格の攻撃という非常に強力な相手ではあるが。その分として、弱点への攻撃はとても通りやすく調整されているといったところか。なるほど、そのゲーム内で脅威を誇る強力なボスエネミーならではである、強力が故に施された、典型的なバランス調整だ――



「続いて、エリアボス:魔族との契約者の攻撃手段でございます!! こちらは先の説明通りに、魔族との契約者は、その俊敏性と異常に発達した両腕を用いた接近戦がメインとなっており! 又、その両腕から放たれる攻撃の他にも、その拳には"爆発的な破壊力を誇る、ある属性"が宿っております!!」


「爆発的な破壊力を誇る、ある属性……?」


 ミントの解説と同時にして、自身の周囲を飛び回るミズキに手こずるエリアボス:魔族との契約者は怒り交じりの咆哮を行い出す。


 拳と拳を握り合わせ、その藍色の両拳に橙の斑点を浮かばせながら、力を溜めていくかのように上半身を持ち上げていくその予備動作。

 あからさまに不敵な行動を取り始めた様子を見て、ミズキは不信に思い攻撃の手を止めて様子を伺い出すものの。しかし、その次の時にも。魔族との契約者は思い切りと拳を振り下ろし。ありったけの力を込めた激烈の一撃を地面に解き放つ。


 その衝撃は、まるで降り注いだ隕石の衝突を思わせる破滅的な一撃。大地に轟いた衝撃は洞窟全体を揺るがし。地上にいた俺とペロが堪らずすっこけてしまうという、広範囲の振動を引き起こして。

 そして、その一撃と共に巻き起こったのは。魔族との契約者の身を包み込み、広範囲にも渡る巨大な大爆発。大気という大気が爆発していくその光景を目の当たりにし、俺も。それを紙一重と避けていったミズキも。間近でその爆発の脅威を味わったペロも。その場の全員が、その筋肉質の中に宿る破壊的な属性を目にして。表情に恐怖を浮かばせながら、堪らず戦慄してしまっていた。


「……先程の攻撃が、魔族との契約者が有する爆発的な破壊力を宿す属性! その名も、『爆破属性』でございます!! こちらの爆破属性は、防御力を無視する定数ダメージを与える至極優秀且つ至極凶悪なシステムを持つ属性であり! 更に、その威力は他の属性攻撃を遥かに上回るダメージを叩き出してしまえる程の、正に、高威力を追求した強力なシステムでございます!!」


「防御力を無視して、そんな高いダメージを与えてくる属性って……おいおい、マジで勘弁してくれよ……!!」


 定数ダメージで、それほどまでの高威力を叩き出してしまえる属性って。それってつまり、最強の属性だとも言い切れるよな。

 こうした強力な敵との戦いのためにと思い、惜しみなく上げてきた防御力ではあったが。しかし、定数ダメージという極悪な仕様を前にしてしまっては、せっかくの防御力もまるで意味を成さない。


 ……つまり、エリアボス:魔族との契約者を前にしてしまっては、俺のパワーアップなんてただのお飾りにしか過ぎなかったということになってしまう……。


「……そして、今現在におけるご主人様の合計HPと、先の叩き付け攻撃による爆破属性のダメージを計算してみますと……。先の叩き付け攻撃による爆破属性の定数ダメージは、ご主人様のHPを超えてしまっております。故に、叩き付け攻撃による爆破属性を受けてしまったその瞬間にも、ご主人様は待ったナシの即死を迎えてしまうこととなってしまいます……!! ……どうか、叩き付けによる爆発にはお気を付けくださいませ……!!」


 さすがにそれは冗談じゃないぞ。

 ミントの解説に、俺は全身の鳥肌が立ってしまう。先の叩き付けからの、あの広範囲に渡る爆発の一撃で俺は死んでしまうというのか……!!


 それはもう、剣士スキル:ディフェンシブスタンスによる防御力の補強とか。剣士スキル:アグレッシブスタンスによる防御力の低下とかとはまるで無縁の話であり。定数ダメージという極悪な性能を持つあの爆発に巻き込まれた瞬間にも、俺は理不尽にもゲームオーバーを迎えてしまうこととなってしまう。


 その理不尽さを武器に振り回してくるエリアボス:魔族との契約者。この瞬間にも、俺はNPC:魔族に対する恐怖を心中に植え付けられてしまい。同時に、俺が打倒しなければならない敵が、これほどまでの脅威を宿し暴れ回る勢力であることを思い知らされて。……その現実に、RPGの主人公という立場が如何に恐ろしく。そして、主人公というものが、如何に勇敢な者であるかを改めて思い知らされることとなった――――

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