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ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
三章
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再三の邂逅

「剣士スキル:アグレッシブスタンス!! ソードスキル:パワースラッシュ!!」


 新たに習得した剣士スキル:アグレッシブスタンスの発動と同時に、自身の周囲に漂い出す赤色のオーラ。

 先に見据えた騒ぎへの参戦。それを前にして固めた決意を胸に、赤のオーラを纏い一時的に防御力を捨てて攻撃力を上昇させる。


 ミズキという空中を飛び回る敵に度肝を抜いていた敵方は、俺の登場にもただただ仰天して。不意打ちによる隙を突くべく、俺は攻撃力上昇の効果が乗った広範囲の薙ぎ払いをかましていく。


「ギャアッ!!」


「ぐえぇッ!!」


 相手を一気に薙ぎ倒しダウンさせるその光景は実に爽快なもので。この光景の快感を覚えてしまっては、味をしめて俺はすかさずと攻めを続行。


 こちらの存在を認識し、束となって襲い掛かってくる敵方。多種多様な武器を手に攻め入ってくる眼前の光景は、これまでであれば戦慄して逃走を選択していたことだろう。

 だが、今の俺はこれまでの俺とは違った。数々の敗北によって経験を積み重ね。それに加え、ステータスにポイントを割り振ってきたことで数値も上昇している。そして、この剣士スキル:アグレッシブスタンスの効果も加わることで……!


「ギャアッ!!」


「ぐわぁッ!!」


 攻撃ボタンの連打によってこの場を蹴散らしていく俺の姿はまるで、昨日までの情けない姿ばかりを晒していく同一人物だとは思えない猛威を振るっていた。

 つい先日にも敗北を期した盗賊達の集団も、今となっては赤色のオーラに身を包むこの身で難なく突破していく。それも、目の前から次々と襲い掛かってくる盗賊達をいなし続け。その隙を伺う冷静な判断力と。相手の行動を見極め、その場に応じた適切な対応を取れる感度の高い反応の披露という。これまでとはまるで異なる別格の動きを以ってしてのそれであった。


 ……そう。俺はただ負け続けていたわけではなかった。数多くの敗北を期したことで蓄積された、数値とはまた異なる実力の経験値が積み重なっていて。この前にも散々な目に遭わされた数々の場面を想定し、事前にも対策を練りそれを実行する現在の立ち回り。これらの結果も、そうして苦い思いをしてきたからこその行動である。


 俺は、敗北の連続で自身の成長に気付くことができていなかった。だが、忘れられたピンゼ・アッルッジニートでのイベントにおいて、オオカミ親分に敢え無く敗北した俺にアイ・コッヘンはこう言っていた。これは現在における敗北であり、これは将来における勝利でもある。と。

 現在における敗北を重ねてきたことにより、将来における経験値を蓄えてきたことになる。そして、こうして数々の経験を重ねてきたからこその結果が、今、形となって現れている。だからこそ、新人を指導することが好きな彼の言葉を。今、やっと理解することができた気がしたのだ。


 俺は、ただ負けてきただけではないんだ。これまでに期してきた敗北の数々は、全て俺の成長に繋がっていたんだ――!!



「…………ッ」


 これまでの経験を活かし、勇猛果敢に猛威を振るう俺の姿をじっと見遣るミズキ。

 その鋭い眼光からは、これまでの見下すような冷酷な色を伺えず。それはどこか、何かを見据えているような視線に感じ取ることもできて……。


「……おれだって。おれだって、ブラートの兄さんに認められた人間なんだよ……!」


 どこか悔しそうに呟きながら歯を噛み締め。次には、敵側へと視線を向けて飛び出していくミズキ。


「エネミースキル:一ツ目の眼光!!」


 手に持つダガーを集団へ向けると同時にして、その手元からは目を晦ます激しい閃光が迸り。それにより怯んで動きを止めた集団へと鋭利な光が発出されて、敵方はことごとくその態勢を崩していく。


「ダガースキル:パラライズダガー!!」


 宣言と共に、手に持つダガーからは僅かな電撃が迸り出し。目を晦まし立ち往生する盗賊達の間を縫うように高速で駆け抜けていき、その通りすがりによる攻撃で相手を端から痺れさせていく。

 『状態異常:麻痺』と呼べるであろう痺れを発症し倒れこんでいく盗賊達。しかし、空中でさえも自在に飛び回るミズキによる、地上での華麗な手並みはこれだけでは終わらない。


「ダガースキル:ノイズダガー!!」


 ダガーを振るうと同時に、電撃が迸っていた刀身からは渦巻く透明の圧が現れて。それを床へ思い切り叩き付けると共に、大広間全体に金切の金属音が響き渡る。

 同時にミズキの周囲からは音圧が発生。風圧の如く、押し出されるように放たれた音圧に触れた盗賊達は悲鳴を上げながらその場に倒れこんでいってしまう。


 それは、以前にニュアージュと共に討伐したグロテスク・マイティバトゥスの音属性と酷似している。先程のミズキの攻撃は、『状態異常:行動不能』が含まれた広範囲の補助技として見受けることができるだろう。

 そして、次々と倒れこんでいく盗賊達を背にして。立っていた一人の盗賊へと飛び掛り、彼を踏み台にして天高く飛び上がってから――


「エネミースキル:サイクロプスハンマー!!」


 両手を力強く握り締め。同時に出現した巨大な拳の光を持ち上げながら。

 地上への落下による勢いをつけた上で、ミズキの最大火力とも呼べる強烈な一撃が地上で炸裂したのだ。


「ギャアァァァアーッ!!」


「グエェェェェエーッ!!」


 身動きが取れない状況下による強力な一撃をもらい、ありがちな断末魔と共に辺り周囲へと吹き飛んでいく盗賊達。それでいて、先の攻撃の余波が距離を置いていた俺のもとにも届き。更には、周辺に設置されていた数個もの木箱さえも粉砕していくその光景を目の当たりにして。これには思わず、敵方に同情せざるを得なかった――




「剣士スキル:ディフェンシブスタンス!!」


 即座にスキルを切り替え、背後からの攻撃をその身で無理矢理に受け止める。

 瞬間に巡ってきたのは、緑色のオーラ。これまで身体の周囲に漂っていたのは、攻撃力上昇の赤色のオーラであったものだが。今回のスキルは防御力上昇の効果を持つ内容であったため、瞬間的にも緑色のオーラが漂い出し、その辺の攻撃であればものともしない圧倒的な耐久力を瞬時に得ることができたというもの。


 多少ものHPは犠牲となるものの、しかし攻撃を受け止めた際のアドバンテージはかなり大きい。振り抜くことのできなかったソードの手応えに動きを止めた盗賊へと向かって、返しの一撃をかましていく。


「ソードスキル:エネルギーソード!!」


「ぐえぇぇえッ!!」


 青色の光源を宿したブロードソードの一撃で吹っ飛びダウンする盗賊。そんな相手の姿を確認してから、俺は一旦もの猶予を設けて周囲の観察を始めた。


 敵の数はだいぶ減った。こちらとしてはだいぶもの手応えでそれなりの活躍を果たすことはできたことだろう。が、この結果はやはり、俺の実力を凌駕するミズキの活躍によるものがほとんどか。

 俺もまだまだだなと自身の実力を認識しながらも。しかし、これまでの自分よりかは確実に進歩している現在の自分に、まぁ今はこんなものだろうと取り敢えず納得していく。なにより、あの盗賊達を相手に、こうして余裕を持って考えをめぐらせることができるようになった。これは間違いなく、昨日までの俺にはできなかったことだ。


 自身の成長を目撃して、なんだか楽しくなってきてしまった現在。そんな、少々と浮かれ気味であった俺であったのだが……。


「…………ん?」


 そこで、ある一つの物に目がいく。

 それは、この大広間に設置されていた数個の木箱……の、内のある一個。これまでの戦闘の衝撃でボロボロと破壊されていたものではあったが。その割には、木箱の一部分が。側の板が壁のように綺麗な直立をしていたものであったから。


 もしかしたら、この戦闘に巻き込まれた組織の連中が隠れているのかもしれない。そう睨み、俺は一旦この場をNPC:水飛沫(ミズシブキ)泡沫(ウタカタ)の猛威に任せて。音を殺しながら、その木箱へと恐る恐る近付いていく。


「ディフェンシブスタンスの効果時間にはまだ余裕がある。……なら、不意を突けたらそのまま攻撃。襲い掛かってきたらカウンターで返しの一撃。で問題無いか……」


 こうして、その場における戦略を練られるようになったのも、成長の証と言ったところか。


 自分なりの立ち回りを考え、いつでも戦えるよう構えながら木箱へと近付いていって。

 近くで見れば、あからさまに不自然と立っているその木箱の板。この陰に、絶対何かが潜んでいる。そんな確信と共にゆっくりと手を掛けて。……そして、その板を勢いよくずらす――!!


「ギャァァアアアアアァァ!! やめてぇぇええええぇ!! "オレっち"を殺さないでぇぇぇええええぇぇぇぇえ!!」


「ペ、ペロ!!?」


 断末魔の如き喚声を。それも、大広間で行われている戦闘の騒音さえも掻き消す大声を発しながらその姿を現したのは。緑とオレンジの迷彩が目立つバンダナとゴーグルを装着したのっぽの男。

 それは紛れも無く、ペロ・アレグレそのものであったのだ。


「アアァァァァアアアアアァァァッ!!! ……ぁ? ァ、アレっち……?? んぁ、やっぱ"この匂い"はアレっちだったんか……!!」


「ペロ、お前一体ここで何をしていたんだ!? というか、なんでここにいるんだよ!?」


「何をしてたって。なんでここにいるって言われてもよぉ……んなっ、オレっちもよくわかんねェんだよォ!? 昨夜、オレっちはあの宿屋のことが嫌なもんだったからよぉ! そこに向かったユノっちとニュアっちと別れたあとに夜の街を歩いていたもんなんだけどよぉ! 迂闊にも、その真っ暗な街の中で迷っちまってよぉ!! そんで、なんかもうよくわかんねェから、取り敢えず人がいっぱいいるところにでも行ってようかねェって思って歩き回っていたら、いつの間にかここに着いていてよぉ!! なんかおっかねェ連中達ばかりで怖いしよぉ!! なんか偉ぶっているハゲ頭はいるしよぉ!! それで怖ェからずっとここで隠れていたらよぉ!! 急にアレっちらしき匂いや声が聞こえてきたりしてよぉ!! んで、とうとう幻覚や幻聴で頭オカしくなっちまったのかなァって思っていたらよぉ!! なんかよくわかんねェめっちゃおっかねェ儀式みたいなのも目の前で始まってからのこの有様だよォ!!! もうオレっち、この街に来てから散々過ぎやしねェか!!?」


「ペロ、お前ずっとこのアジトの中にいたのか……!? それにしても、街で迷ったからって、どうやってここに辿り着くんだ――」


 想定など全くもってできなかった思わぬ邂逅を前にしながらも。その最中に右耳の無線機から連絡が入り出す。


『アレウス君!! ミズキ!! 至急、この俺のもとへ来てくれ!!』


「ブラート!! 一体何があったんだ!?」


『それは、来てからのお楽しみだよ! 強いて言うなら、ミズキとアレウス君の見せ場とでも言っておくとするかな? ……うむ、なるほど、そうか。アレウス君の隣から感じる気配はやはり"あの時の彼"だったんだね。まー、彼のことはその本人の判断に任せるとでもしよう! さー、ミズキとアレウス君。と、アレウス君を見守ってくれているミントちゃん!! とうとう、君達の一番の見せ所だ!! 洞窟を切り抜けたその先の現地で待っているよ!!』


 至急という状況下であろうとも、その長広舌は相変わらずとして。伝えたいことを伝え終えるなり、ぶつっと途切れるブラートの声。

 ミズキと共に召集を受けたことから、イベントの進展を予感して俺はより一層と気を引き締めていく。


 ……というか、待てよ。今、無線越しからペロの存在を把握していなかったか……?


「……いいか、ペロ。しばらくここで隠れているんだ」


「へぁ? お、おいおいおいおい!! アレっち、この流れって――」


「ペロを置いていく」


「んもぉちょっと待ってくれよぉアレっちぃ!! オレっちのことは何となくでも判っているだろぉ!? 頼むからよぉ! オレっちを一人にしないでくれよぉ!!」


「じゃあ、ペロも一緒に戦ってくれるんだな。味方が一人増えてくれるだけでも、こちらとしては相当ありがたいものなんだが――」


「あぁなんだ、戦いに行くのね。じゃ、アレっち! 健闘を祈っている!!」


「相変わらず、戦闘には加わってくれないんだな。まぁ、少ししたら迎えに来るよ」


「へへっ、アレっちさまさまだなこりゃ」


 職業:モンクであるペロの、回復を専門とするヒーラー職の援護を少しばかり期待したものではあったが。まぁ、止むを得ない場合を除いて戦闘を避け続ける彼はきっぱりと退散。再び箱の板に身を隠したペロを尻目にして、俺は親方や不気味な二人組が通っていった洞窟へと見遣っていく。


 吹き抜ける風はビニールの壁をたなびかせて。もはや、その存在が露出となっていた隠し通路。基、今回のイベントにおける決戦への道のりを見つめ、その先にいるブラートのもとへと急ぐ。

 駆け出し、安っぽいビニールのアジトから洞窟へと進入して。人の手が行き届いていない暗がりの洞窟を駆け抜けながら。……俺は、メインクエスト:ビッグプロジェクトにおける最終ステージへと向かった――――

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