表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
三章
157/368

メインクエスト:ビッグプロジェクト【始動】

「親方のお通りだァ!! 親方のために道を開けェ!!」


 大広間に集っていた組織の集団は、一斉にして二手と分かれて真ん中に道を作る。

 その道を、両腕を組みながらずんずんと歩いていく一人の男。百八十は越えているであろう身長に。上半身は素っ裸で鍛え抜かれた肉体美を惜しみなく披露。下半身はだぼだぼな黒のワイドパンツを履いており。そして、一際の存在感を解き放つツルツルのスキンヘッドという外見のその男。


 顔もまた厳ついために、なるほど、あれがこの組織を率いる親玉というわけかと一目で判断がつく。


「……とうとうこの日がやってきた。いや……ろくに仕事もできやしない出来損ないの部下がヘマばかりして、この日まで遅れてしまったとも言えるな。まぁいい。これで、"ヤツらとの契約"は約束されたんだ。この日をもって、俺は"生まれ変わる"。そして、とうとう、生まれ変わった俺の力を全世界に知らしめることができるのだ……!」


 再び密集する部下達へと向き直り。親方と呼ばれるその男は、年季の入った怒号交じりの大声を浴びせるように放っていく。


「おめぇらァッ!! 今日をもって、無能だったおめぇらもようやくと力を手に入れるッ!! だがなァ!! 勘違いをするなよ!! これはなァ! 生まれ変わり、更なる力を手にする俺のついでとして分け与えられる力なのだ!! おめぇらは今日をもって、出来損ないの無能からやっと成り上がることができるんだ!! これも全て、俺のおかげなんだ!! 俺がこうして、能無しのクズであるおめぇらを率いてきたからこその結果なんだ!! 俺がいたからこその、今のおめぇらなんだよ!! だから俺に感謝をしろォ!!」


「へへェー!! 親方、万歳ーッ!! 親方、万歳ーッ!! 親方、万歳ーッ!!!」


 親方の要求に、ひたすらと下に見られ馬鹿にされていた集団の全員が。全力で彼に意を示し、全力で彼という存在をよいしょよいしょする。

 必死に両腕を上げて万歳万歳と繰り返す彼ら。中には土下座をしてまで喜びを表す者達も存在しており、そんな組織内部の関係性を見せつけられた俺は。なんだか、胸糞の悪い複雑な感情を抱いてしまう。……その光景は、実に気持ちの良いものではなかった。


 白色が広がる経済と女神の大都市、マリーア・メガシティ。しかし、その地下では、これほどまでの黒に染まった裏の現実が存在していただなんて……と、その街の地中に潜む奥深い闇を目の当たりにしてしまった気分だ。


 ……ただ、ブラート。その中に紛れているのだから、あんたも何かやらないとバレるぞ。誰かの下につくのは嫌だとは言っていたが、呆然と立ち尽くして何もしていないその姿、傍から見たら違和感しかないぞ……。


「よぉし!! 俺のありがたさが判ったなおめぇらァッ!! これからも、俺のことを敬えよこの無能共ォ!! ……よし、あとは"ヤツら"を待つだけだな……」


 マリーア・メガシティの闇を目撃してからものの数分後。その大広間の奥、入り口であり出口でもある一本道に背を向けて、部屋の奥を見つめて佇む親方。

 そんな光景を見て、ただただ疑念ばかりが浮かんでくる。これから訪れる来客を迎えるのに、何故入り口に背を向けるんだと。来客を背で迎えるのがこいつのやり方なのかと。その場の全員が部屋の奥へと向いているその光景に、ただ首を傾げてしまうこの状況。


 ……だが、次の時にも。これまでの俺の考えはただの安直であり、実に甘い考えであったことを気付かされることとなった――



「むっ、来たな……」


 親方がそう呟くと。全員が向いている部屋の壁が突然とめくれ上がり、そこから洞窟の風が怪しい音と共に吹き抜け出す。

 そう。その壁はフェイクだった。出入り口が一つのみであったこの大広間。しかし、その奥にはなんと、秘密の通路が隠されていたという仕掛けだったのだ。


 そして、怪しい音を立てる風が吹き抜けていくその中で。洞窟の奥からゆっくりと歩んでくる二つの人影……。


「ようこそ! 俺の基地へ! お前達の来訪を、心から待ち侘びていたぞ!」


 吹き抜ける風でめくれたビニールを手で退けると。そこからは、その親方と同じほどの背の高さである二人の人物が姿を現す。


 頭から踵までの長さを誇る黒のローブで顔、背、腰、足とあらゆる部位を覆い隠す不気味なその外見。黒の袖やズボンには不可思議を思わせる明るい紫のラインが走っており、その淡い光は、ただでさえ怪しげな見た目に更なる拍車を掛けている。


「わざわざこんな場所にまで、まぁよく来てくれたなぁ!! ッハハハ!! いやぁもう、うちの部下がほんと無能なばかりに、契約をここまで遅らせてしまうとは。ほんと情けない連中ですわぁ、全く。いや、ねぇ、無能で役立たずの部下がいると、上の者までもが足を引っ張られてしまう。ほんと、世の中というものは実に困ったものだよ。ッハハハ!」


「…………」


 組んでいた両腕を広げて、目前から歩んでくる二人組を迎えながら話していく親方。

 その親方もまた歩を進め出すと、その怪しい二人組はぴたりと足を止めて。それも、関わるだけで呪われてしまいそうな、ただならぬ不穏な雰囲気を解き放ちながら無言でいるものであったから。

 その様子を感じ取り、親方は歓迎ムードから一転として、部下にすぐさまと指示を送り始める。


「……おい! 早くアレを出してこい!!」


「へ、へェ!!」


 数人の部下が動き、集団の中に埋もれていた木箱を引っ張り出しては親方の手前にまで運んでくる。

 それは、これまでの悪事によって盗んできた金品の山。昨夜の時にも見たあの木箱を二人組に差し出し、親方は若干もの不安な様相を浮かべながら交渉を始め出したのだ。


「交換条件の品であれば、この中にたんと用意したぞ! こちらの条件は全て揃えた!! ……さ、さぁ! これで契約ができるんだろう!? だったら、早くやってくれや!! お前達の契約ってもんをよぉ……!!」


「…………」


 少しして、一人の怪しい人物が無言でゆっくりと歩み寄り、木箱にたんまりと山を形成する金品を手に取り始める。

 一つ一つ、しかし、何かを基準にして選んでいるように見えて。慎重であるのか、はたまた、悠長であるのか。ゆっくりゆっくりと、とりわけ気になったものを手に取っていっては品定めをしていくその人物。その品定めの様子は、当事者ではないこちらでさえも、なんだかハラハラさせられるような。その不穏な雰囲気との相乗効果によって、その様子を見ているだけでも尋常ではない緊張感を抱いてしまえる。


 少しして金品を山に乗せるなり、引き下がってもう一人の人物と並ぶその人物。先程見定めを行っていた人物がもう一人の方へと振り向き、それに対して、もう一人は頷き。


 ……そして次の瞬間。二人の背からは、突如として鎌の形を成した影が勢いよく飛び出してきたのだ。


「うぉ!! なんだあれは――?」


「うわっ、おっかねぇ……さすがは"あの人達"だ――」


 二人組の背から現れたそれを目撃した連中達は、堪らずがやがやとそれぞれが恐れの一言を零していく。

 それは、紛れも無く立体的な影。物質として形を成した影とでも呼べるだろうか。それは、空気を引き裂くような音と共に、二人の背からそれぞれ左右に一つずつ現れて。その影を目撃してどよめきが走る中、その鎌のようなそれは至って自然と床にのめりこんでいく。

 ずぶずぶとのめりこんでいき、金品の詰まった木箱へと伸びていくと。それは木箱を伝って一気に覆い尽くしていき、それら山積みされていた金品の全てを、瞬く間にも木箱ごと飲み込んでしまったのだ。


「――――ッ」


 眼前の光景に絶句してしまう親方。

 彼を前にして行われたその出来事の後、覆い尽くされた影は溶けていくかのように次第とどろどろ床へ落ちていき……。

 ……そして、床にさえも溶けていき跡形を無くすと共に、先程の木箱が置いてあったその場所には。紫の装飾が刺々しく、黒の刀身が禍々しい存在を放つ一本の剣が置かれていて。それを確認すると同時に、一人の人物がそのおどろおどろしい低音の声でこう伝えてきたのだ。


「確かに確認した。これで契約は成立だ」


「……お、おい待てやァ!! 契約は成立って、俺、まだ何もなってねェじゃねェかッ!!」


 怒る親方を前にして、その人物は続けていく。


「足元を見ろ」


「あァッ!!? これがなんだ!? こんな、粗末で無駄に派手な剣がここに落ちているだけじゃねェか!!」


「刀身に光が宿った際に、その剣を振るってみることだ。その後にも、貴様の求める理想の力がその身に宿ることを実感することだろう」


「あァ……!? んな、こんなもんを一振りしただけで、そんな力が手に入るわけ――」


「その剣は至極希少価値が高く、大抵の契約にはえらく出し惜しむ品ではあるが。お気に召さないとなれば、質は落ちるが今すぐにも魔術による契約へと取り替えることとしよう。この"我々"とて、惜しむものは実に惜しいものだ」


「あァ、いや待て!! ……ほう、これはそれほどまでに良い代物なんだな? ……光が宿った時に振るえばいいんだな? ――よしわかった! これで契約は成立だ!!」


「…………」


 一転して、意気揚々とその剣を手にする親方。

 ソードとも呼べるであろう手にしやすい大きさではあるそれだが。しかしそれは、予感と悪寒を感じざるを得ない不穏の黒に染まっており。その周囲には、今すぐにも取り憑かれんばかりに妖しい色を放つ紫の棘がびっしりと生えているものであったから。

 強面である親方も、さすがにこれには少なからずの警戒で若干と身構えており。そんな彼の様子を確認することもなく、怪しい二人組は洞窟の方へと歩いていく。


「これにて契約は成立だ。この瞬間(とき)にも、貴様と我々は生涯を共に歩む禁忌の契りを交わし。この先は同胞として我々と共に、この世界にて混沌を招く破滅の申し子として活動することとなるのだ。……その剣は、我々『魔族』との契約を交わした暁となる記念品。それを手にした今、貴様は我々"魔族"の一員となることを誓った証明となる――」


「んな難しいことはいいからよォ!! これで、俺は"魔族"の力を手に入れたことになるんだな!! これで、俺はまた地上で好きなだけ破壊活動ができる……!! これで、また前のように好きなだけ壊して壊して壊しまくることができるってことなんだなァ!! …………へっへっへ、あんがとよォ"魔族"さんよォ!! あとは、俺は好きなようにやらせてもらうからな!!」


「…………」


 まどろっこしくなり、言葉を遮り剣を振り回している親方を尻目にして。その二人組はこの大広間から去っていく。

 彼らの歩んだ足跡からは、黒色の埃のような点々の靄が掛かっており。歩み進めている身体の軌道からは、その人影が形を成して余韻として僅かに滞在しているその光景。


 親方や組織の人間は誰一人としてそれを気にしていなかったが。少なくとも、その場で身を隠して覗き穴から観察していた俺と。集団に紛れ込み、間近でその様子を観察していたブラートと。そして、この場に潜んでいるというミズキの三人は。彼らの異常性に、少なからずの危機感を抱いていたことには違いないだろう――




 ブツッ。ブツッ。右耳に付けていた無線の機器からは途切れ途切れのノイズが入り出し。直にして歓喜し騒いでいる人々の声が響き出す。

 それは、契約の完了により目の前で喜んでいる組織の連中と一致しているものであり。それも、四方八方となる割りと立体的な音響に聞こえるものであったことから。おそらくも何も、それの内部から音を拾ってきていることはほぼ確定。


 ……そう。それは、集団に潜入しているブラートからの合図だったのだ。


「はっはーッ!! これでとうとう、俺は再び地上に上がれるッ!! こんな地下暮らしはもうまっぴらだぜェ!! おいおめェらァ!! 俺はまた地上へと戻る!! そして、その先でまた前のように破壊をもたらしていくッ!! まずは、この忌むべきマリーア・メガシティを滅ぼしてやるぞォ!! おめェらはそんな俺のお膳立てとして、しっかりと働けェ!! さぁ、遊びは終わりだァ!! これから今すぐにも、俺のマリーア・メガシティ解体ショーの幕上げとしようじゃないか――」


 瞬間。親方の宣言を掻き消すほどの爆発音が入り口から鳴り響き。

 突拍子も無い出来事を前にして、その場の全員は硬直し即座に耳を澄ませていく。


「我らは、経済と女神の大都市、マリーア・メガシティの平穏と秩序を保つ護衛部隊だ!! 貴様らは既に包囲されている!! この時を以って、貴様らの悪事を潰えるための実力行使として、この街における最大戦力である武器と魔法を投与した制圧作戦を遂行する!! 貴様らの危険性を鑑みて、降伏の願いを断じて聞き入れることはない!! ――ただいまより、地中にて悪事を目論んでいた組織の制圧作戦を行う!! 繰り返す!! ただいまより、地中にて悪事を目論んでいた組織の制圧作戦を行う!! 加減を許さぬ最大戦力の集中砲火にて、連中の悪事を徹底的に撃ち滅ぼすのだ!! これにより、探偵・フェアブラントを筆頭とした制圧作戦・ビッグプロジェクトを開始するッ!!」


 轟音となって大気と地を揺るがすその異変に、その場の全員が一斉に黙り込み。轟音と共にメガホン越しに響いてきた人間の言葉を汲み取って。

 その次にも、自身らに迫る危機を悟ったのか。半分はパニックとなり騒然とする組織達は、その勢いのままに武器を取り出し一斉に行動を始めていく。


 罵声や怒号が飛び交う組織の内部。武器を取り出し血気盛んに入り口へと迎撃していく者もいれば。その制圧作戦への恐怖からか、その場で泣き崩れ膝をつく者もいたりと。その光景は敵さながら、あらゆる意味でとても胸を痛めるものであった。


「くそッ!! くそッ!!! こんのクソ野郎共ォ!!! 裏で控えていやがったなァ!!? 俺のことをずっと監視していたのかァ!!?」


 逆ギレで激昂しながらも。その混乱に便乗して、契約の証明である剣を抱え込むように壁へと走り出しては。親方はビニールをめくり、先程の二人組同様に洞窟へと進入しその場からの逃走を図り出す。

 そんな彼を追い掛けるために、紛れていたブラートもまた変装を解きながら走り出し。ブラートもビニールの壁を潜り抜けて彼の後を追っていく。


 そして、ブラートの行動が合図となったのか。出入り口から侵略してくる勢力に戦々恐々とする集団へ、俺と同様にこの大広間にて潜んでいたミズキが飛び出していったのだ。


「なッ、貴様どこから――ギャアッ!!」


「なんだ!? 一体どうやって――グアァッ!!」


 左腕に仕込んだロープを駆使しながら大広間の中を自在に飛び回り。手馴れた動作で、右手に持つダガーで次々と組織の連中を確実に仕留めていくミズキ。その様子は正に、宙を駆ける熟練のアサシン……。


「って、俺もこの騒ぎに便乗しないとだよな……!!」


 数々の場面を目撃して怯んでしまっていたが、このゲーム世界の主人公である俺もとうとう木箱から飛び出し。優秀なリーチを誇るブロードソードを片手に、この戦いへと参戦する。

 この瞬間にも、ゲーム世界に張り巡らされたフラグによる重要なイベント。メインクエスト:ビッグプロジェクトの開始となった――――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ