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ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
三章
156/368

メインクエスト:ビッグプロジェクト

「では、行こうか! アレウス君!!」


 私服でさえ黒尽くめというファッションの彼ではあるが。今回の変装もまた、全身が黒一色プラスアルファ顔面を覆うマスクという不信感マックスな服装のフェアブラント・ブラート。

 これが本当に、この街の秩序を保つ探偵なのだろうかと。その外見の変貌っぷりに、緊張も相まってか一瞬とも敵と勘違いして攻撃をしかけてしまったのはここだけの話だ。


「ハッハッハッ、なに、心配するなアレウス君!! 君には守護女神とやらのミントちゃんに、我が優秀な助手であるミズキが。そして、この経済と女神の街であるマリーア・メガシティにてその秩序を保つ陰の正義執行人、探偵・フェアブラントがついているからには、君は遺憾無くその実力を発揮してくれて構わないのだぞ!! ……なに? 生還ができるとは限らないって顔をしているね。それなら心配するな!! きっとなんとかなるだろうから!!」


 と、彼曰くビッグプロジェクトと呼ばれるメインイベントを前にしても、尚その誇らしい様子はそのままに。ブラートは足元のマンホールを開けてそれに飛び込んでいく。


「さー、来たまえアレウス君!! 今回のメインともなる君……と、ミントちゃんとこの俺とミズキは、先にアジトへと忍び込む作戦になっている!! わざわざ敵地へ出向く不安もあるだろうが、まー安心したまえ!! 何せ、この探偵・フェアブラントがついているのだからね!!」


「わ、わかったわかった! すぐに行くから、少しだけ待ってくれ! …………ふぅ、ふぅ……はぁ――よしっ」


 メインイベントを前にして、緊張が収まらない俺は地上でしっかりと深呼吸を行っておき。

 もう後には退けないイベントへの覚悟を決めて。俺は、メインクエスト:ビッグプロジェクトと表示されているであろう新たなシナリオへと飛び込んでいったのだ――




 ブラートに先導されるまま、ビニール状の安っぽい一本道を最小限もの音で駆け抜けていく。

 そこは、昨夜にも見た悪の組織のアジト。……しかしこの時は、昨夜のような敵地の中に潜入している感の漂う緊張感溢れる雰囲気をまるで感じることができず……。


「物音一つも聞こえないし、人の気配もまるで感じられないな……ブラート、この状況は本当に大丈夫なのか……?」


「なに、案ずるなアレウス君! これも、この探偵・フェアブラントが長期間における潜入の末に見つけ出した、部外者でも確実に安全とこの通路を渡ることができるボーナスタイムなのだよ! 昨夜も、ここから難なく脱出することができただろう? ここから脱出した時と同様に、今のこの時も、この俺の思惑通りの展開というわけなのさ!」


 しょっちゅうと肩書きを名乗っているだけはあり、探偵としての手腕は本物であるブラートの存在に自然と不安が取り除かれる。

 ……だが、この日に至っては、悪の組織側からしても特別な日であることからなのか。……その通常ではない雰囲気を前にして、ブラートはふとこう言葉を零したのだ。


「……しかし、それにしても気に食わない雰囲気だ。僅かな誤差も無く頃合いを見計らい、アレウス君の完璧な潜入を可能としたこの探偵・フェアブラントなものだが……上手くいったというのに、なんだかイマイチと納得することができないな……。上手く言葉に表す自信さえも持てないこの感じ。この、全てを見透かされているようなこの感覚。――まるで、"これまでの。そして、これからの事柄が全て、ある絶対なる力で巡っている作用の一環にしか過ぎない"ような。今までの場面も、これからの展開も全て。どうも、何かの思惑通りに動いているような気がしてしまえて……なんだかすごく気持ちが悪いな……」


 相変わらずと鋭い勘を有しているブラート。彼の言う正義とやらで、この世界中に。そして、このゲーム世界における主人公として降り立った俺の周囲に蔓延るフラグの存在を漠然と認識している様子。


 この世界の摂理とも呼べるフラグを認識してしまいかけているブラート。それはつまり、世界という神のみぞ知る領域に足を踏み入れかけてしまっていることになる。

 頭一つ抜けた直感によって、誰も知ることの無いその全てに気付きかけてしまっているブラートではあるが……このゲーム世界の住民が、この世界に蔓延るフラグとやらに気付いてしまったその時はもしや、世界というものを理解して気をおかしくするのではないかと。所謂、発狂というものを引き起こして、永久にも常人に戻れなくなったりしてしまうのだろうかと。そんな、この世界の住民への心配をつい考えてしまっていたその最中で……。


「……そして、この巡る雰囲気を辿ると……うむ、やはりそういうことか。つまり、"この俺の正義は本当に正しかった"ことになるんだな……」


 ……いや、待て。この様子からして、ブラートのやつ、実はもう既にフラグそのものさえも読んでしまっていないか……? これ、放っておいて本当に大丈夫なのか……?


「……着いたよ、アレウス君」


 と、そんなことを考えている内にも、アジトの中をだいぶ走り抜けた。

 そこは、ビニールという安作りをそのままにした、二百人は余裕で収まるであろう大広間。ビニールの安っぽい匂いが漂う全体的にまっさらとした空間であり、この中には三つほどの、数えるほどしかない木箱のみが設置されているという安上がりの光景が広がっているというもの。

 また、道は今来た一直線のみ。それ以外の道となる通路は一切と見当たらない。つまり、ここが敵のアジトというダンジョンにおける最深部というわけになるか。この何も無い空間はとても動き回りやすそうなものなので、なるほど、如何にも決戦の地となりそうな場所に見えてくる。


 それにしても。街中のマンホールから侵入し、下水道を通って潜入した地下のマリーア・メガシティではあったが。まさか、経済と女神の街である清楚な大都会の中に、これほどまでの広さを誇るビニールの大広間があるとは思わなんだ。……すごく安っぽいけれど……。


「あと数分もすれば、この場所に組織の人間達が集まってくるだろう。アレウス君、君にはこの箱の中で、その時にまで待機をしていてもらう」


「この木箱に入るのか? まぁ、俺の腰まではある大きな箱だが…………って、待てよ。あと数分!?」


 突如と知らされたタイムリミットに、思わず驚いてしまう。

 だが、そんな俺を両手で押しながら。如何にもこのためだけに設置されたかのような木箱に押し詰め、ブラートは口早に今回の作戦の説明を始めていく。


「いいかい、アレウス君。これからは、事前にもその右耳に装着してもらった小型の無線機でやり取りを行っていく。あーあー、聞こえるね? うむ、おーけーだ。その無線機からは、この俺とミズキの声を拾ってくるように設定してある。それでいて、君の声はこの俺とミズキに聞こえるようになっている」


 タイムリミットへの急ぎからか、その調子はどこか彼らしくない。


「では、作戦を確認していくよ。まず、今回の作戦の目的としては、お偉いさんの指示に沿った内容を忠実に遂行していくものになる。昨夜も話したね。ヤツらの、至極危険な契約についてのことを。……今回の作戦は、前日にでも食い止めておくべきであったこの契約を、敢えて組織の連中に行わせてそれを観察するというものになる。契約中の彼らの様子を伺い、それによる契約の情報を十分に入手をしてから。その道のプロフェッショナルとなる街の護衛隊と協力をして、組織の連中と契約先の存在を一網打尽にしてひっ捕らえるという至極単純な荒事だ。今回、アレウス君はこの一網打尽における奇襲係りとして参加してもらうことになる」


 俺を木箱に押し詰め、上から布を被せて蓋を乗せる。

 その中は真っ暗ではあったが。ちょうど俺の目線の先には、小さくポッカリと開けられた覗き穴が存在していた。ブラートのやつ、実に用意周到だ。


「流れとしては、まずはヤツらの契約の様子を観察し。そして頃合いを見計らって、この俺が無線機を通して合図を送る。それと同時にして、事前にも下水道や街中で待機してもらっている護衛隊がアジトへと突撃。そしてアジトの入り口で、敢えて騒ぎを立てるんだ。そうすることで、ここの連中は焦って入り口へと向かい迎撃へと乗り出すことになるだろう。そうして手薄となったこのアジトの深部にて、こうして事前にも忍び込んでいたアレウス君と"ミズキ"が飛び出し、その奇襲によって更に慌てる連中を背中から崩していく。入り口の護衛隊と、既にアジトへと潜入していた二人の勢力。これによって、組織の連中は敢え無く挟み撃ちになるわけだ」


「俺とブラートの他にも、ミズキもここにいるのか?」


「宿屋を出発してから、ミズキは一足先に飛び出していっただろう? ――実はね、既にこのアジトへと乗り込んでもらい、現地の様子を偵察してもらっていたんだ。そして、今もこの付近のどこかに潜んでいるよ。このやり取りだって、今も見ているかもね」


『ブラートの兄さん。話を戻して』


「おっと、噂をすれば無線機から声がしたね。まー、そういうことだ」


 右耳に装着している小型の無線機から響いてきたミズキの声。なるほど、どうやら話までもが筒抜けらしい。


「騒ぎを立てながらこの街の財政を惜しみなく投与し、最大戦力となる武器と魔法の集中砲火で荒らしに荒らしまくる護衛隊と。その隙にも後ろから忍び寄り、確実に制圧していくアレウス君とミズキ。そして、契約のより詳しい情報の収集や、この組織の親方とその契約先である存在の無力化を図る俺。こうして各それぞれが活躍し一致団結することで、この街の地中に根付いたこの組織の思惑を一網打尽とする。それが、今回のビッグプロジェクトの内容となるね。財政という名の暴力で場を荒らす護衛隊に、我々探偵・フェアブラントの力が加わるものだからね。やれやれ、組織の連中はさぞ、堪ったものではない地獄絵図を目撃することとなるだろう。敵ながら、同情さえしてしまえるね」


 覗き穴を通して交わされる視線。そして、とうとうタイムリミットが訪れたのか。組織に成りすました全身黒ずくめのブラートは俺のいる木箱からさり気無く離れていき、足早に出口の方へと歩き去っていく。


 ……そして、ブラートの無線越しの掛け声と共に。今回のメインシナリオの舞台となる拠点エリア:マリーア・メガシティのメインクエストが進行したのであった――――


「アレウス君の配置は完了だ。ミズキは……うむ、わかった。――あーあー、聞こえるかい? 護衛隊の諸君。あーあー、うむ、見事に回線が悪いね。さすがは安上がりのアジトの内部だ。……さてさて、これでとうとう、我々のビッグプロジェクトにおける全てのセッティングは完了した。各々の準備は万端だね? さて、そろそろタイムリミットだ。これから、我々はこの街の存亡を懸けた戦いを繰り広げることとなるだろう。まー、とは言ってもだ。その意味をそこまで重く捉える必要など全くもって無い。というのも、この作戦においては、この俺こと陰の正義執行人、探偵・フェアブラントが仕切る一大ビッグプロジェクトなものだからね。このフェアブラント・ブラートが指揮する限り、今回の存亡を懸けたビッグプロジェクトはまず間違い無く成功で終わる。…………のだが、この俺の正義がなにやら不穏な空気をキャッチしているのもまた事実。まず間違い無く無事に終わるこの作戦ではあるが……皆の衆、くれぐれも、自身の命を第一とした賢明な判断をそれぞれで下すように。場合によっては、戦線から逃げ出してくれても構わない。それほどまでに、今回の不穏は別格となる不運を振り撒く至極危険なものであることが確かだからね。各々がハッピーエンドを迎えられるよう、各々上手く判断し行動を起こしていってほしいと思っている。……さて、そろそろ時間となる。次にこの探偵・フェアブラントからの無線が入ったその時が作戦開始の合図だ。では、皆の衆。……健闘を祈る――――」

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