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ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
三章
151/368

イベント:宿屋にて――

「わっ!! フ、フェアブラントさん!? と、ミズキくん!! ――っと、お客さん!? おお、お、お客さんじゃないっすか!?」


 真夜中の時刻である現在にも、灯りを灯し営業を行っていた宿屋:大海の木片。

 その入り口である引き戸をブラートが開けると、その奥からは目の前の来客達の姿を見て驚きの声を。そして、歓喜を含んで思わず叫んだ女の子従業員の姿が出迎える。


「やー、お嬢ちゃん! 久しぶりだね。それでいて、夜遅くまで勤務ご苦労様。そんなお嬢ちゃんの努力の結晶を実らせるためにも、わけあって我々もこの宿屋へと宿泊することとした。――まー、それは二の次として、だ。……そちらにいるお嬢さん方が、アレウス君の仲間達でいいのかな。雰囲気とお嬢さん方から感じ取れる正義が、それを思わせてくる。うむ、そんな不思議そうな顔をしなくてもいい。まー、まずは安心したまえ。というのも、お嬢さん方がお探しの少年であれば、ここにいるのだからね」


 その長広舌のままに、自身の背後にいた俺の背を前へ押し進め。そんなブラートに押されるままに宿屋の中へと入ると。目の前には、カウンター越しで驚いている女の子従業員の他に、この宿屋で宿泊をしていた冒険の仲間達が……。


「ア、アレウスーッ!!」


「アレウスさん!!」


 叫ぶまま駆け出してきたのはユノ。すぐさま俺に飛び付いてきては、こちらに勢いよく全身をぶつけてきてそれに一歩退いてしまいながらも。その色白の肌を真っ青に染めたまま、潤ませた瞳で俺の顔を見遣り続けながら必死に揺さぶってくる。


「アレウス! アレウス!! こんな時間までどうしていたの!? というか傷を負っているけれども大丈夫なの!? 服も砂埃で汚れているし! なんだか疲れ切った顔もしているし! 昨日はおっかない盗賊達に襲われたと言っていたわよね!? もしかして、その盗賊達にまた襲われてこんなボロボロになっちゃったの!?」


「ぬぁ、ぁ、ユノ。ユノ、そんなに揺するな! わ、わ。うま、上手く喋れ、喋れない――」


「私、アレウスとミントちゃんのことが心配で心配で、何度も何度も街の中を探し回ったのよ!! どこを探しても二人の姿が見当たらなくって! もしかして、昨日話していた盗賊の悪い人達に目を付けられて捕まっていたりなんかしていたら……なんて考えたら、私、私……!! ――私の仲間をこんなにするだなんて許せないわ!! その盗賊達はどこに行ったの!? 今度、私が力ずくで捕らえてきてアレウスに謝らせてやるんだから!! っちょっと! ねぇ、お腹は減っていない?? 食堂に美味しいご飯があるわよ! お腹が減っているのなら、まずはお腹いっぱい食べた方がいいわ!! その方が、元気がいっぱい湧き上がってくるから!!」


 一気に話されると対応もできやしない。というか、あんたはオカンか。そして勘が鋭いなおい。


 そんな、目の前で未だに力強く揺すってくるユノに一言の感想を添えながら。未だにガクンガクンと揺すられる頭で、彼女の後ろからやってきたニュアージュを確認。


「アレウスさん、ご無事でなによりでした……!」


「ニ、ニュア、ジュ。しんぱ、心配掛けてすまな、なかった。も、もう、だいじょ、じょうぶだ、だ――ユ、ユノ! 揺するのやめ、て! 揺するのやめ、やめ、て!!」


「アレウスさんとミントちゃんの姿が見えず、わたしもユーちゃんも今までずっと心配しておりました……! ミントちゃんは、例の妖精となってアレウスさんの懐にいらっしゃるのですよね?」


「とにかく無事で良かったわ!! アレウス! まずはご飯をいっぱい食べて元気を取り戻しましょ!! ご飯はね、食べると力が漲ってくるの!! 私も長年と旅をしていたけれども! 渓谷に真っ逆さまに落ちて首の骨が折れて頭蓋が割れちゃったときや! モンスターから集中砲火を受けて両腕両足がもげてしまいそうになってしまったときの非常事態を除いて!! 一日三食の規則正しい食生活はずっと欠かしてこなかったわ!! いい、アレウス!? どんなに大変で辛くて苦しくて痛くて怖くて不安になってしまったときでも、まずはご飯を食べることが大事なのよ!? それが、冒険で生き長らえていくための秘訣でもあるのだから!!」


 なんだこの空間。


 個々それぞれが思い思いのことを思ったままに片っ端と喋り続けていくこの様子。疲れ切ったこの身体も落ち着かない、なんとも忙しい現状だ。

 ただ、そんなこの状況こそが、この俺が一番安心感を抱ける至福の一時でもあった。


 ……というかユノ。お前、これまでの旅において、本当に様々な危険と向き合ってきたんだな。言葉の重みが、これまた疲労困憊の身体に圧し掛かってきて余計に疲れてくる……。



「わぁ! お久しぶりっす!! いやほんとに久しぶりっすよね!? 最近全くと顔を見ていなかったんで、今も本当に生きているのかなーって、オーナー様と一緒に心配していたところだったんっすよ!?」


「ふむ、いたいけな少女を心配させてしまうなんてね。その正義と采配は依然として衰えていないと自負していたものであったが、どうやら、この探偵・フェアブラントの手腕は見ず知らずの内にも鈍らとなってしまっていたようだ。すまないね、お嬢ちゃん。そして、ありがとう! その問いであれば、この俺も、こっちのミズキも。まるで変化無く、日々正義を遂行しているよ。――ところで、彼女はいつものように元気でやっているかな?」


「オーナー様っすね!! 今、台所にいると思うんで、ちょっと呼びに行ってくるっす!!」


 そんな会話を目前で交わしていた女の子従業員とブラート。


 大急ぎで駆け出す女の子従業員を見送り。少しして、女の子従業員と同じく慌しい足音を立てながら、廊下の奥から駆けつけてきたファンがその姿を現す。


「わォ!! ブラート!! 久方ブりの再会ネ!!」


「お久しぶりだね、『グーさん』」


 ブラートのその声音は、これまでのとても誇らしげなものとはまるで似て似つかない、彼の調子とは思えない優しく落ち着いた響きのそれであり。

 人型モンスターである彼女へと両腕を広げ。駆け寄ってきたその勢いで飛び込んできたファンを受け止めて、ハグを交わしていくその二人。


「そのカオ。そのハダ。このニオイ。いつニなってからモ、ブラートは完全ト変ワらないネー!」


「その話し方も、まるで変わりやしないね。グーさん。――いや、我々は変わらないことが一番なんだ。この俺も、ミズキも、グーさんも。もう、あの頃のような変化なんて、今の我々には必要無い。こうして、お互いに変わっていないことをお互いに確認し合えただけでも、それで十分なのさ」


 彼女の、エメラルドのような緑の身体を抱き締めて。互いに頬をくっ付けて、とても熱い抱擁を行うその姿は。その二人に存在する、ただならぬ関係性を予感せざるを得ない。なんとも感傷的な気持ちに浸らせてくる光景であった。


「今日モいつもと同ジとして、捜査ヲするためノ聞キ込ミでやってきたノ?」


「いや、今日は調査のための聞き込みというわけではなくてね。いや、まー、すぐにも調査が控えていることには変わりはないのだけども。今回ここに来たのは、この宿屋に宿泊をするためなのだよ」


「わォ!! それハなんてナイスなグッドアイデア!! ブラートと泡沫(ウタカタ)が宿泊するノを待ッていたんだヨ!! いつも来テも良イと思ッて、毎日ノ掃除ハ怠ラずにしておいたシ! 今日ノ宿泊ノ準備ハもうできているかラ、何日デも泊マって満喫シていってモいいんだヨ!!」


「連日に渡る宿泊というのも、久しぶりには良いかもしれない。だが、その素晴らしいアイデアにはとても乗れそうにないね。というのもね、それは生憎、この俺の財布が許しちゃくれないんだ」


 互いに向き合い、今にも唇がくっ付きそうなその距離で。少しして、名残惜しく離れるファンと。そのままポケットから財布を取り出してはひっくり返して、中身がすかすかであることをアピールするブラート。


「今になって、これほどまでの後悔が訪れてくるだなんてね。調査中における糖分の補給として、つい最近にも飴を買い溜めしてしまったばかりだったのだよ」


「ブラートの兄さん。それは初耳だよ。もしかしてまたおれに黙って買ってきたの? 最近勝手にお金が減っていくと思っていたけど。やっぱりブラートの兄さんだったんだね」


「……あー、これは口が滑ってしまったね。これはとんだ凡ミスだね、ハハハッ。――お説教は後で聞くよ、ミズキ」


 背後から訝しげに見つめてくるミズキを軽くあしらい、しかし、特にこれといった悪気も感じさせないいつもの誇らしげな様子のまま、ブラートは続けていく。


「まー、そういうことでね。早朝には出て行くのだが、今夜はここで一泊しようと思っていたんだ」


「あラー、早朝ニは行ッちゃうノ? だったラ、これは宿泊トは言ワないネ! そうダ! これは休憩ト呼ビましょウ!! だかラ、お駄賃ハいらないヨ! アト、ご飯モ食ベてッてネ!!」


「お、さすがはグーさんだ。オーナーさん自らがそう言っているのだからね。そうとなってしまえば、それじゃあ、我々はそのご厚意に預かって休憩させてもらうしかないじゃないか。それに、オーナーさん自らが勧めてくれたのだからね。そうとなってしまえば、それじゃあ、我々はそのご厚意に預かってご飯をいただくしかないじゃないか。――グーさんとお嬢ちゃんのご飯は、調査の前にはうってつけの元気をくれるスタミナ飯だ。それじゃあ、ご厚意に預かって。ミズキ、彼女らのご飯で英気を養うとしようじゃないか!」


 と、いつもの誇らしげな様子でミズキの方へと振り向くブラートではあったが。


「うん。……それでブラートの兄さん。話は終わっていないからね。兄さんもわかっているでしょ? ただでさえお金が無いというのにそんな無駄遣いを――」


「さー、飯だ!! 英気だ!! 元気を貰おう!! ハーッハッハッハッハッハ!!」


「…………」


 ファンに催促されるまま、この場から逃げるように。ハイテンションで宿屋の奥へと進んでいくブラート。

 ……と、そんな彼の様子を見て、もはや呆れ気味を通り越した無の領域へと達してしまっていたのか。むすっとした表情のまま、ミズキはその場で硬直したまま彼の背を眺め続けていた――




「そう言えば、ペロの姿が見えないな」


 俺のふとした言葉を聞き、ユノは思い出したかのように目を見開かせてから。その有り余った活気のままに身振り手振りを交えながら説明を始めてくる。


「ペロ君は、やっぱりこの宿屋は無理だったみたいなの。それで、オレっちは適当にそこらをフラついているから、ユノっち達はオレっちのことを気にしないで楽しんできぃや。って言ってから、フラフラ~ってどこかに歩いていっちゃったの」


「そうだったのか……」


 ペロのやつ、やはり人型モンスターのファンには未だに抵抗をもってしまったままか――


「……ん、待てよ――」


 っと、ここで俺には、ふとある不安が過ぎり出す。


 それは、ペロというNPCと初めて出会ったあの時の場面。

 一本道の洞窟のことを迷宮と例えて、迷子となってしまっていたあの時。常に、誰かの傍についていないと不安だといったあの様子。


 ……こうして振り返ってみると、ペロという人物には中々な不安要素の溢れるキャラクターであることは確かではあるが……。


「……まぁ、ああ見えても、かなりの実力を持つ奴だしな。それに、何だかんだでこれまでの旅も一人で何とかしてきたみたいだし、ペロのことだったら、彼なりに多分うまくやっていっていることだろう」


 まぁ、あいつめっちゃ強いし。と、そんな思考が過ぎることで、一瞬とも巡っていた彼への不安は一気に解消。


 あいつは強いしな、の実力でその全てに安心感を覚えた俺は、そんな目の前でやはり不安だなぁと心配するユノを脇に。

 それよりも、この夜明けにも繰り広げられるであろう新たなイベントに備えるためにと。そのイベントに備えて、どんなものを備えていこうか。戦闘において、どんな立ち回りが安定するだろうか。と、この気持ちは既に、全くもって別の目的へと向いてしまっていたのであった。


 ……にしても、だ。やはりペロのことで、何かを忘れているような気がしなくもない……。





「ユノっちぃぃぃぃい!!! ニュアっちぃぃぃぃい!!! ミッチぃぃぃぃい!!! アレっちぃぃぃぃい!!! ……あー、ダメだこりゃ。ったく、参ったぜ。ったくよぉー……。なんでまぁさー、ったく、どうしてこうもさー、誰かの後についていっているときなんかはよぉ。今までよく眺めていて、それも、道がどこへと続いているのか。どこにどんな建物があったかってのがすぐにわかるってのによぉ~。どうしてさぁ、こうしてオレっちが一人になるとさぁ、こうも、この街は一瞬にして迷宮になるんかねぇー。ったくもぉ~……」


 真夜中のマリーア・メガシティにて。その暗闇に包まれた街のど真ん中で頭を掻き毟りながら立ち尽くすのっぽの影。


「みんなのいるあの宿屋の場所だって、全ッ然わかりゃしねぇし。まず、ここがどこだかもわかりゃしねぇし。あーぁ、こりゃ完全に迷子だな。迷子の迷子のペロ子ちゃんってか? オレっちはペロ子ちゃんじゃねぇし。ペロちゃんだし。ったくよぉ……」


 僅かな照明に照らされながら、ぶつぶつと独り言を呟いていくその男はキョロキョロとあちこちを見渡して。歩いても歩いても、依然として変わらぬ光景に頭を抱え。再度と掻き毟り。そしてため息をついていく。


 ……そして、あーぁと投げ遣りな感情を表に出していきながら。そののっぽの影は、この暗闇の中を彷徨うように。ふらふらと揺らめきながら、あても途方も無く歩き出していったのであった――――


「あーぁ、まぁ、こんなとこにいてもなぁってところよなぁ。んだったら、取り敢えず"人がたくさん集まっている場所"でも探して、それに混ざろうとするかねぇ。あーぁ、ったくよぉ……どうしてオレっちばかりがこんな目に遭うんかねぇ、ったくよぉ~。んでもまぁ、モンスターがいねぇだけ、まだマシってところかねぇ。っにしてもよぉ、ったくよぉ、もぉ~…………」

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