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ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
三章
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盗賊Dの不透明な企み

「いいかい。ここは紛れも無い悪の組織のアジト。そんな敵地に放り込まれてしまった君が助かる方法はただ一つ。それは、この俺の言うことを、忠実に聞き入れることだけなのだ」


 唐突と、盗賊Dから身を隠すよう促され。それに従う形で、俺は都合良く設置されていた木の箱へと飛び込んで隠れる。

 上に布を被せ。唐突な指示に緊張と恐怖を抱きながらもじっと待機をしていると。……少しして、この部屋の入り口方面から、複数の足音と話し声が響いてきた。




「おおぅ!! あんちゃんそこにいたかぁ!!」


「やぁ、同胞の諸君」


 最初に響いてきたのは、戦闘の際にダガーを使用していた盗賊Aの上機嫌な声。

 その後ろで、何やら気分良く会話を交わし合う話し声が聞こえてくるその中で。寄ってきたであろう盗賊Aへと返事をした盗賊Dが、互いに会話を交わしていく。


「皆、やけに嬉しそうじゃないか。何か良い事でもあったのかい?」


「嬉しそうって、おまぇ――ったりめェじゃねぇか!! とうとう、親方の言う"契約"のノルマを達成したんだからよぉ!! これで、働いた悪事とその凶暴性で世間を騒がせたあの親方の大復活!! この親方の秘密組織も、契約で得られる力で親方と共にパワーアップ!! これから、ここの連中は皆から恐れられる最強の組織に成り上がるんだってのに、喜ばずにはいられないだろうよぉ!! ハッハッハッ!! あぁそうさ! 契約でその力が手に入りさえすれば、世間に留まらず、世界からも恐れられるようになるだろうな!! よく知らんけどッ!!」


 と、上機嫌な調子で見事なまでの説明を施してくれた盗賊A。

 

 その内容は、先程も盗賊Dが説明してくれたものをより事細かにしたもの。となると、やはり、あの盗賊Dの言うとおりに。どうやらこの悪の組織は、強大な力を得ようと社会の裏で暗躍をしていたみたいだ。


「うんうん、確かにその契約の力があれば、このマリーア・メガシティくらいであれば容易く崩落させることができるだろう。それのみにならず、この世界に点在する大都市でさえも破壊し兼ねない。これでとうとう、全くもって実に危険な力が手に入るね」


「っんだぁあんちゃん。もうちょっと嬉しそうにしろよ!! ようやくこの時が来たんだぞ!! この特別な日を喜ばずにしてどうするんだよッ!!」


 盗賊Aの付近からは、瓶が擦れるような音が微かに聞こえてくる。その中からも液体らしき音が聞こえてくることから、盗賊Aの手元には酒の入った瓶があるのかもしれない。


 どうやら、その喜びとやらで祝宴を行っていた様子だ。


「っんでよぉ、あんちゃん、あの後にちゃんと親方に渡したんだろうなぁ? 今日、盗んできた鞄やらをよぉ?」


「んっ、盗んできた金品? んー、それなら問題無いさ。何せ、もう既に、親方に渡しておいてあるからね。まー、小さく頷いていたよ。これで、契約を行うこともできるっても言っていたような気がするね」


「おうおう! それならよかったぜ!! んじゃあよ、親方のところへ行ってさっそく契約をしてもらおうぜ!!」


 その契約とやらを、今すぐに行おうと張り切り出した盗賊A。

 ……であったものの。そんな彼の言葉を聞いたその瞬間にも、盗賊Dの方からは一瞬もの息を詰まらせる音が微かに聞こえ。次の時には、盗賊Dは喋り方をそのままに、盗賊Aへと一つの提案を投げ掛けていったのだ。


「っ――いや。っまぁまぁ、そんなに慌てることはないじゃないか。というのも、これで、親方の言う契約の条件は全て揃ったんだ。そう。必要なものが、全て親方の手元にあるのだよ。……そうだね、あとは……俺が親方のもとへと出向いた際の出来事だったのだけどね。親方はすぐに、自身の部屋から出て行くよう俺に命じられたんだ。どうやら、親方は親方で忙しいらしい。きっと、契約とやらの前準備かな。いずれにせよ、そんな親方の邪魔をしてしまったのなら、それで買ってしまった怒りによってその場で殺されてしまってもおかしくなんかないからね。だから、親方の命令には逆らわないことが一番だ。――親方は今、取り込み中なんだ。それでいて、こうして親方が忙しい以上、俺達が何を言おうが全て知ったこっちゃないだろう。だから、ここは一つ。親方の都合が空くその時まで、俺達は素直にどこかで時間を潰していようじゃないか」


 盗賊Dの提案を聞き、盗賊Aからはほうっと耳を貸す様子が。そして、彼の背後で行われていた会話がふと止んだことで沈黙が走り出す。


「親方は、作戦の計画を練られている。現在の状況から、今はその真っ只中だと考えていい。そして、そんな。これから、あらゆる脅威を手中に収めんとする親方の邪魔をしてはならない今は正に、親方のために誠心誠意を尽くすための、力を手にする前の待機時間だとも考えられる」


「ほう、それじゃあ、親方の手が空くまでは何もできないな……」


「うーん。だからと言って、そうとも限らないんじゃないか?」


 盗賊Dの切り返しを聞き、盗賊Aは疑問のままに声を零す。


「こうだとは考えられないかい? そうさ。この今の待機時間こそ、これから先の英気を養うには絶好の機会である。と」


「英気を養う、だと?」


「そうさ。我々はこの今まで、こうして必死こいてノルマの達成まで駆け抜けてきた。もちろん、親方のためだと考えれば、これくらいの駆け足なんてへっちゃらさ。だがしかし、これまでの駆け足によって蓄積され、身体の奥底で溜まりに溜まってしまった疲労の具合のことを考えると、とてもそうとは言い切れないだろう。この先で力を手にしたその時にも、今ここで休息を取らなければ。その溜まりに溜まってしまった疲労は依然として我々の身体の、それも、芯の節々にまでこびり付いてしまったままとなってしまうだろう」


「……つまり、あんちゃんは何が言いたいんだ?」


「そこで、こうだと考えられるんだ。それは、今、この時は正に。ノルマの達成まで休み無しで駆け抜けてきた我々を慰労してあげられる、ご褒美タイムである。とね」


「ご褒美タイムだと? ――ほう、なるほどな。ご褒美タイム。ね……」


 盗賊Dの長ったらしい提案を聞いてからというもの、その言葉にその場の全員の心が揺さぶられたのか。意外そうなざわめきと共にして、次の時にも、そこらからは明るい調子が響いてくる。


「さぁ、今この時にも刻々と時間を消費している。休み時間の猶予が刻一刻と刻まれて続けているのだ。今、こうして話している間にも。やろうと思えばいつもの酒場へと赴き、いつもの酒とおつまみを口に頬張ることだってできてしまうんだよ。それも、何の気兼ねも無く、好きなだけ食べて飲んでも許されてしまう至福の一時を味わうことができてしまうんだ」


「うぉっほほほ……そうと聞いちまうと……なんか、この時間が勿体無ぇなァ!!」


「だろう?」


「こうしちゃいられねぇ!! おい野郎共!! さっさと酒場へと向かうぞォ!!」


 盗賊Aの号令で、その周囲の盗賊達が歩き出す足音が床伝いに響いてくる。


 なるほど。これは、誘惑を利用した提案を促すことによって、ここに集まってきてしまった全員をこの場から遠ざけるという盗賊Dの寸法だったのだろう。

 そして、その盗賊Dの寸法は見事に成功し。今、この場の盗賊達が一斉にここから去り出し。そして、誰もいなくなったところで、俺は安全に再び脱走を行える――


「……ところでよぉ、あんちゃん。あの人質のガキはどうしたんだよ?」


 っと、盗賊Dの目論みが上手くいったことに安堵した俺へと、その言葉が突き刺さる。


 この心臓が締め付けられる盗賊Aの問い掛けが、ふと盗賊Dへと投げ掛けられたのだ。


「っんー、まぁまぁ、それなら依然として問題無いよ。あの少年への心配なら、まるで必要無い。というのも、ついさっき、少年を監禁している倉庫へとわざわざ出向いてまで様子を見に行ってきたものだからね。この目で、しっかりと確認してきたよ。少年はぐっすり熟眠中さ。それに、あれほどまでに過剰に結ばれたロープで縛られていては、あそこからの自力での脱出なんてまず不可能だろう。尤も、万が一あの倉庫から脱走されてしまったとしても。ここは、あの親方が率いる極秘アジトなのだ。この、迷路のような内部を前にしてしまえば、ここからの脱出口も見つかることなく、再度と我々にひっ捕らえられる未来がオチだろうね」


「ほう、それじゃあ、あのガキは放っておいても大丈夫なのか……」


「やけに不安がっているね。もしかして、それほどまでに人質というものを信用することができないのかい? どうやら、余程なまでに生け捕りというものに慣れていないようだね。いやいや、そんなに怯える必要なんて一切無いよ。なら、この先でその常識が覆されることだろうね。わぉ、人質というものは、まさかこれほどまでに融通が利く便利な存在なのかー。ってね」


 俺という人質をやけに心配する盗賊Aへの説得を続けていく盗賊D。

 しかし、それでも尚彼の不安は拭えないようで。それでもと尋ね掛け続ける彼を前にした盗賊Dは、止むを得ずといった調子でやれやれと一息つくなり。


 盗賊Dは、とっておきと言わんばかりに、この言葉で〆てきたのだ。


「いいかい? 相手からするとね、人質というものは非常に厄介なものなのだよ。だからこそ、敢えて生かしておいたあの少年の存在は今、とんだ利用価値があるんだ。――そうだね、そんな少年のことを一言で言ってしまえば……そう。あの少年は、敵対する人間を抑制させる、抑止力となっているのだよ!」


「抑止力……? ――おォー、抑止力。ほうほう、なるほど。抑止力……なんか、響きがカッコいいな、うん。確かに、これは抑止力だな、うんうん…………そうと決まれば、野郎共! ここは、慰労として思う存分に酒を飲みまくるぞォ!!」


「おォー!!」


 響きのカッコいい盗賊Dの説得に応じ、とうとう全てに納得した盗賊Aは周囲の仲間達を連れてこの部屋から出て行く。


 わいわいとした明るい騒ぎ声が通路側へと寄っていき。それらの足音は通路を辿って奥へ奥へと消えていく。

 そして、気配が一つのみになったその時にも、盗賊Dはよしっと一言零してから俺に合図を送ったのだ――



「さぁ、もう出てきてもいいよ」


「あ、あぁ……」


 布を退けて箱から出てくる俺。

 両腕を組んでこちらをじっと見遣ってくる盗賊Dと目が合い。その頭を覆うように被っている黒色の頭巾越しからの視線やその様子と、この状況や彼の説得やらと、そのあらゆるあれこれにまるでついていけないまま、俺はただただ困惑気味に目の前の彼へと視線を送り続ける。


「……なぁ、あんたって一体何なんだ? どうして、人質の俺にここまでのことをするんだ――」


「あーあ、予定よりもだいぶ時間を食ってしまったな。これでは、他に寄りたかった部屋にも行けやしない。想定外であろう出来事にも対応できるよう入念に下準備は施しておいていたものだったが、やれやれ、人間という意思を持つ生き物は実に、操作することに一苦労を強いられる。――君、ここからは少し駆け足でいくよ。でないと、君も俺も、このビニールで成り立つ安っぽいアジトの肥やしとされてしまうからね。さー、急ぐぞー。この俺についてこいー」


「なっ、ちょっと、おい――!!」


 俺の話を聞き終えるその前に、ふと、思い出したかのように喋り出しては咄嗟に駆け出してしまう盗賊D。


 急に駆け足で飛び出していく彼に驚いてしまいながらも。そんな彼に置いてかれてしまうことが一番まずいために。目の前から遠のいていくマイペース過ぎる彼の背を追い掛けるためにも、こちらもまた駆け足で飛び出していき。


 一体、何が何だかまるでわからないこの状況でありながらも。しかし、この状況下だからこそ断言できるたった唯一の確信を、この瞬間にも俺は抱くこととなった。


 ……それは、この、盗賊Dという彼こそが。俺という捕らわれの主人公を救うために現れた、正真正銘のお助けキャラである……はずである。ということであった――――


「さぁさぁ、駆け足で急いでいくよ。今のこの時間を逃してしまったら、もう、俺は君を助けることができなくなってしまうからね。その結末だけは、絶対に避けなければならない。何故なら、君という存在感からは――――」

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