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ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
三章
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イベント:盗賊Dと巡る敵の内部

「人質の俺を解放して、その上にここからの脱出だなんて……あんた、一体何を企んでいるんだ……?」


「んっ、企む? んー、それは聞き捨てならないな」


 ビニールが一面にめぐらされた、簡易的な通路を辿るその最中に。俺を解放するだけでなく、俺という人質をこの場から脱出させようと、出口へと導く盗賊Dへと問い掛けてみたものの。

 そんな俺の言葉に反応を示しては、その無気力な調子をそのままに。その男は後ろにいたこちらへと振り向きながら、右手の人差し指をピンと立ててくる。


「この際だから伝えておくとだね。これは、そんじょそこらで蔓延る小悪党共のようなちんけな悪巧みではなくて。これは、俺の正義に従うがままに行われている、立派な計画の一環なのだよ」


「は、はぁ……」


 盗賊Dの言葉をイマイチ理解することができず、一層と募る不信感で返事を渋ってしまう。


「むっ、俺の正義を理解していないな? まー、いいだろう。君には、それよりも知ってもらいたいものがあるのだからね。そのためにも、まずは、その脳みそには新たな知識を溜め込むための容量を残しておいてもらいたい。でなければ、この先の話についていくことができなくなってしまうだろう」


「……あんたの言っていることが、さっきから全く理解できないんだ。なぁ、そろそろ俺に教えてくれないか? ……あんたは、この俺に一体何をさせようとしているんだ?」


「なに、直にわかる」


 その脳内で、物事の全てを補完してしまっているのだろうか。


 他者への説明というものをまるで行わず、自身のみが把握しているそれに自分自身で納得しながら話と歩を進めていくものであったから。

 そんな、この男の考えを理解することができないまま。俺は、このビニールの質で成り立つ安っぽい通路を辿りながら、不信感と共にその盗賊Dの背を追っていった。



「まずは、これを見てもらいたい。この箱に入れられている物品を、君の目で見定めてもらおう」


 人気の無い通路上に設置されている、至って変哲も無い木の箱の前で立ち止まり。それに被せられていた布を取っ払いながら、その内容を俺へと見せ付けてくる。


 そこには、鞄やリュックサックを始めとした、コートや財布、携帯式の電子機器や骨董品といったあらゆる金品がぎっしりと詰め込まれており。そのあまりにもな乱雑の具合に、この組織のずぼらな一面を容易に伺うことができてしまう。


「見定めると言っても、ここには金品が詰められているだけじゃないか。…………待て、金品が詰められている……?」


「そうだ。君が今、その目で目撃している品々は全て、この組織の人間があらゆる地域から盗みを働かせて掻き集めた金目の物品なのだ」


 百七十五という身長である俺の腰までの大きさの箱。それにぎっしりと詰められた金品を前にして、仰天と目を丸くしてしまう。


「この組織はあらゆる手を施し、あらゆる危険を冒してでも金目の品々を掻き集めてきた。その中には、衛兵や町の者に捕らえられた者も少なくは無い。それでいて、これらの行いは、断じて褒められたことではない、道徳に反した所業であることも明らかだ」


 布を被せ、箱から離れてどこかへと足早に歩き出した盗賊Dを追い掛ける。


「では、なぜこの者達は、そうまでしてこれほどの悪行を行い続けるのか。それは、この所業の先に、自身らの得が存在しているからだ。他人から幸福を奪い。それを自らのものとしても、尚それに満足せず。そんな悪行に飽き足りることなく、彼らは継続して、更なる不幸を撒き散らし。周囲のみならず、世界中の人間から幸福を奪い続けていく。……幸福を盗み、不幸をばら撒くそんな輩達のことを、君はどう思うかな?」


「どう思うって……それはもちろん、許し難いとしか言えないな。……悪人のあんたに問われる筋合いなんて無いが――」


「ありきたりな返答だね。だが、俺は君の正義を見抜いている。本当の君はただ、許し難いの一言でこの物事を済ませられるような人間ではないことをね」


 俺の話を一部分しか聞いていない上に、この盗賊Dは自身のみが理解しながらの会話を始めてしまったために。正直な話、俺は、こうして独りよがりで話し続ける目の前の男にとてもついていける気がしなかった。


「彼らは、不幸で得た幸福で食い繋げているのだ。溢れている幸福のことを、そこらに転がっているただの餌としか認識していない。彼らにとって、他者から幸福を奪うことは、ただ拾い食いを行っているだけに過ぎないのだよ。更に厄介なのが、彼らとて、それで食い繋げているのだから、その行いには全くと言っていいほど悪気を感じてなどいないだろうということ。そう、彼らは、彼らの正義に従って生きているのだ」


 ビニールの天井に吊り下がる、僅かな光を帯びた照明に照らされながら。長い長い一本道である通路を辿りつつも、その先へと導き続ける盗賊Dは話を続けていく。


「ここの連中とて、それの例外ではない。この、マリーア・メガシティという治安に恵まれた経済の地において。極限にまで圧し掛かるリスクに怯むことなく、彼らは、許されてはならぬ所業の数々をこの日まで行い続けてきた」


 ふと、通路の途中で足を止めて。側へ振り向き、ビニールのジッパーを引き出した盗賊D。

 じりじりと音を立てるジッパーが開いたその先には、横長の机やいくつものパイプ椅子、そして、ホワイトボードが置かれた小さな部屋が広がっており。ずんずんとその部屋へ入っていく盗賊Dに続いて、俺もその部屋へと進入する。


 机の上には、このマリーア・メガシティの見取り図と思われる紙が広げられていて。そこには、赤や黒のマーカーで色々とメモが書き足されており。

 ホワイトボードにも、汚い文字で次の襲撃場所に関する内容がメモされているというこの光景から。それらの情報と合わせて見ることで、ここが作戦会議を行う部屋であることを認識する。


「では、そんな街をターゲットにしてまで、どうしてこれほどと所業を繰り返していくのか? なぜ、それほどまでのリスクを冒してまで、彼らはこの所業を継続していくのか? ――そこには、これまでに冒してきたリスクにきちんと見合った、ある一つの単純な答えが用意されていたのだよ」


 俺に部屋を一通りと眺めさせてから、それを見計らったように盗賊Dはこう伝えてきたのだ。


「ハイリスク・ハイリターン。この行いには、そのリスクを冒しても、尚それ以上もの得が得られる報酬が用意されていたのだ」


「……同じ悪人であるあんたにこう尋ねるのも可笑しな話ではあるけれどさ。……こんな悪徳を繰り返してまで達成したい彼らの目的って、一体何なんだ? そのリスクに見合ったリターンって、一体どんな内容のものなんだ――」


「そう。この組織は今、その報酬を得ることに全力を注いでいるのだ。そして、その内容は、このマリーア・メガシティの治安を瞬く間に吹き飛ばしてしまうほどの、とんだ脅威とも成り得る可能性が極めて高いものである。――と、俺はそう睨んでいる」


 ダメだ、俺の話を聞いていない。


 一方的な力説を始めてしまった盗賊Dについていけず、未だに把握できないままの情報が次々と流れ込んでくるこのイベントに、俺はついつい頭を掻き毟ってしまう。


 ……いや、待て。今、この街の治安を吹き飛ばしてしまうほどの脅威、と言ったか……?


「マリーア・メガシティって、今とても危ない状況に置かれているのか?」


「彼らが、この所業の報酬である"契約"を行ってしまったら、このマリーア・メガシティが木っ端微塵に崩落させられてしまってもおかしくないだろうね。"組織のバックに存在する謎の勢力"によって、ただでさえ、この組織は非常に危険なものであるというのに。この組織が、その契約と呼ばれる報酬を得てしまったらとなれば、それこそ最後、街中が悲鳴で埋め尽くされる殺戮が展開されてしまっても、何の不思議でも無いのだ」


「それって、確かな情報なのか?」


「あぁ、確かな情報だ。俺の正義が、そう訴え掛けてきているのだから」


 それってつまるところ、ただの予測じゃないか。


 と、不確定の未来をそれっぽく語る盗賊Dにツッコみを入れながらも。しかし、そんな連中のもとにいる人間がそこまでの確信を持っていることもまた事実であったために。

 ……俺は、この街に少なからずもの危機が迫っていることがわかった――



「むっ。君、急いでそこに隠れてくれ」


 突如として、開けっ放しであったジッパーの方へと向きながら俺へ指示を送り出す盗賊D。

 伸ばされた右腕とその指先には、まるでこのために用意されていたのではないかと思えるほどにまで、都合良く設置されていた大きな木製の箱が存在しており……。


「な、急にどうしたんだ――」


「いいから早く。さもないと殺されるよ」


 脅し文句を聞き、俺はその盗賊Dのただならぬ雰囲気に押されるがまま、指定された空き箱の中へと飛び込んで上から布を被せる。

 

 急に何事だと、その男の様子に不安が募るばかりか。この、フィールドなのかダンジョンなのかもわからぬ初見のステージで展開される目の前のイベントに、何もわからないまま巻き込まれ続けていくものであったから。


 ……その瞬間にも、発見され始末されるかもしれない恐怖も湧き上がってくるこの状況に投げ込まれてしまった俺は。この時にも、これまでに味わったことの無いスリルに、ただ身体を震わせて、その事の成り行きをただ見守ることばかりしかできずにいたのであった――――


「いいかい。いくら息苦しくて窒息をしてしまってでも、必死に息を殺し続けてその時を待つんだ。何せ、ここは組織のアジト。そんな敵地に放り込まれてしまった君が助かる方法はただ一つ。この俺の言うことを、忠実に聞き入れることだけなのだから」

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