イベント戦:VSミズキ
「あんたも盗人の仲間か!? ……そうだとしたら、力ずくで退けるしかないが……!!」
手に持つブロードソードを構え、目の前に立ち塞がる少年との戦闘態勢に入る俺と。深々と被ったキャスケットと、襟の立った上着から覗く真っ直ぐな瞳で、俺の姿を捉えては逆手持ちのダガーを構える少年。
予めに実力行使を宣言するものの、しかし目の前の少年は一切もの反応を示さず。至って平然な様子でこちらと向き合ってくるものであったために。
……相手が少年であろうと、悪の組織と思われる人物である以上は。加減も容赦もすることができないだろう。
「ここは通さない」
「……そうなれば、あとは一つだな――」
短く返す少年と言葉を交え。俺は、ブロードソードを構えて少年へと駆け出し。
その瞬間にも、俺は悪の組織の仲間と思われる少年を相手とした、一つのイベント戦へと突入したのだ。
「あんたを退けて、目の前の道を切り開いてみせる!! ソードスキル:エネルギーソード!!」
駆け出すと共にスキルを宣言し、手に持つブロードソードに青の光源を宿し威力を増強させて。
威力の乗った一撃をかますべく、真正面から飛び掛ってはブロードソードを振り下ろし少年へと攻撃。
だが、真正面からのスキル攻撃を冷静に見切り、回避を行ったであろう少年。目に見えぬ素早い動作でその場から姿を消すと、次の時には俺の背後から気配が流れ出し。
「ッ――!!」
悪寒を感じてすぐさま回避コマンドの前転。そのモーション中に見た光景は、先程の俺の首の位置へと迸る一本の横線が流れているものであり。それと共に映っていたのは、ダガーを空振りし宙で滞空する少年の姿。
そして、その素早い行動からの空振りは、正に隙だらけで反撃に絶好の機会である。
「ソードスキル:パワースラッシュ!!」
攻撃範囲の広がるオレンジの光源を剣に宿し、リーチの長いブロードソードとの相乗効果で圧倒的な攻撃範囲の一撃を眼前の少年へ振るう。
その反撃に手応えはあり。完璧なタイミングで攻撃を行えたと自負できるものであった。
……だが、そうしてパワースラッシュを振るったものの。そのスキル攻撃が当たるという直前で再びとその姿を消した少年。
空中における素早い変則な動きに驚き。次に空を仰ぐと、そこには一直線に宙を移動する少年の姿が存在していて。俺は、空中での移動という人外の行動に堪らず度肝を抜いてしまう。
「あれはなんだ……!? 空中ダッシュか……!?」
初見の動きに唖然とする俺の隙を見抜いたのか。少年は一直線に移動しながらもこちらへと振り向き、左腕を伸ばして俺の足元へと何かを飛ばしてくる。
カチンと金属の音が足元に響き、それを確認すると。……それは、金属のツメが着けられた、一本のロープがそこにあり……。
「うぉッ!!」
次の瞬間にも、高速を纏いながらそのロープの着弾点へと一直線に着地した少年。
ロープを伸ばす左腕を引き。ダガーを持つ方の右腕を向けては、俺へとそのダガーを振るい。空中における変則的な動きを用いた頭上からの奇襲と共に、少年は俺へと連続攻撃を仕掛け始めたのだ。
空を切るダガーは、その細やかな刀身に見合った繊細な連続攻撃を可能としており。回避コマンドを連打し後方への退きを繰り返す俺を、奥へ奥へとどんどんと押し詰めていく。
ひゅんひゅんと軌道を描きながら振るわれるダガーの音は、俺の身体中の感覚に緊張を与え。怒涛の攻めに引き下がり続ける俺へとずんずん踏み込んでくる少年の姿に、俺は堪らず恐怖を抱き。
ロープを使用したトリッキーな動きに、ダガーによる繊細且つ丁寧な攻撃を前に。俺は焦りのままに、ただただと回避コマンドを押すことしかできずにいた。
ここはゲームの世界。いくら相手が少年だからと言えども、その戦闘能力はまるで計り知れないのだ。
「うぁッ、がぁッ!!」
回避コマンドを連打していくものの、しかしその連続攻撃を全て避けられるわけでもなく。
回避先を読まれての突き攻撃を食らい。焦って回避コマンドを更に連打するものの、回避率の確率に裏切られてはモロに攻撃が直撃して。
だからと言って攻撃をしようにも、相手の攻撃速度が速すぎるためにこちらのモーションでは反撃ができず。このままガードで凌ごうにも、その連撃が相手では削られてHPを消耗するだけであるために。
相手が攻撃で怯んだ隙を縫ってくるその繊細な連撃は、もはや一種のハメであり。それを依然と勢いを和らげずに振るい続けてくる目の前の少年は正に、一方的を戦術に組み込んだハメ技の塊そのもの。
言うなれば、機動力とハメ技を併せ持つエネミーというわけか。
「剣士スキル――」
だが、俺もまた伊達に剣士をやっているだけはあるのだ。
この剣士は、一対一のタイマンでその真価を発揮する。そのタイミングは正に今であり。この特徴を活かす絶好の機会。
回避を続けていき、団地の周囲を囲む建物の壁際まで追い詰められて。
もはや、これまでかと。相手に追い詰められ、目の前の勝負を諦めるだろうという相手の滅入る気持ちを少年に与えて。
壁際という不利な状況を敢えて背負い相手に油断をさせたその一瞬の隙を突くべく。俺はこれまで我慢してまで隠していたとっておきを今、目の前の少年へと繰り出していく。
「カウンター!!」
少年の連撃が降り掛かるという直前に透明の気を纏い、目の前の連撃への反撃を備える俺。
そのタイミングは狙い通りのそれ。突然のカウンターに、勝利を確信していた少年はさぞ俺の戦術に嵌ったことに違いない――
「そうだろうね」
一言呟き、その少年はこれまでの連撃をピタッと停止させる。
えっ? 目の前の光景に頭が真っ白となり。次には、ある一つの結果に気付くことになる。
……そう、俺がこの場面でカウンターを行ってくることが、既に見抜かれていたのだ。
「剣士ならではのありがちな戦術」
吐き捨てるように呟きながら少年は軽快に跳躍し、俺の裏に回りこんで建物の壁に引っ付き。カウンターの効果時間が切れたそのタイミングで壁を蹴り、カウンターの代償である盛大な隙を縫うかのように俺の背を蹴ってくる。
「ぐはぁッ――!!」
ノックバックによる仰け反りで前方へと押し出される俺。
それでいて、俺への攻撃による衝撃で宙に浮いた少年は回転しながら再びと壁に引っ付き。ノックバックで未だに怯む俺の背に、再びと蹴りを入れて地味にダメージを与えていく。
その攻撃自体のダメージ量は大したものではないものの。しかし、そのノックバックが非常に面倒でイライラとしてしまうものであり。
そして、またしても宙に浮いては壁へと飛び込んでいくものであったから。また同じように突っ込んでくるであろう少年の隙を突くべく、俺はイラついたその気持ちと共に。振り向き様に範囲攻撃のパワースラッシュを選択しブロードソードを振るう。
「ソードスキル:パワースラッシュ――」
オレンジの光源を帯びることでリーチが増強された一撃を、少年が張り付く先であろう部分の壁へと勢いよく振り被る。
……が、しかし、その瞬間にも少年は左腕からロープを伸ばし、俺の後方の地面へとロープを引っ掛けて。
俺がパワースラッシュによる盛大なモーションを行っているその間にも。その少年は瞬く間にロープの着弾点へと一直線に移動し終えたのだ。
そう。イライラのままに行った衝動的なこの行動も、少年に読まれていた。
「――!! パワースラッシュ!!」
攻撃のモーションを終えると共に、俺は振り向き様に再びスキル攻撃を行う。
だが、そうして焦りのままに振るったスキル攻撃の一撃は、この振り向きからの攻撃という行動さえ読まれていた少年に当たることもなく。
パワースラッシュによるオレンジ色の軌道の真上。その場でのジャンプで俺のスキル攻撃を鮮やかに回避した少年は。何も持たない両手を強く握り締めては、そこから光を発生させながら俺へと思い切り振りかざす。
「エネミースキル:サイクロプス・ハンマー!!」
次の瞬間、少年の手元で輝く光と共にどデカい拳が現れ。その振り下ろされた拳が直撃すると同時に、後方の壁へと勢いよく打ち付けられる俺。
輝きに振動。ド派手なアクションに、ド派手な演出の一撃を受けた俺のHPはごっそりともっていかれ。HPを一気に半分以上と削られた上に、その強力な一撃によって、目の前の存在に恐怖を植えつけられてしまう。
「ぐァッ……がはッ…………!!」
打ち付けられた壁から落ちて膝を着き、眼前の光景を見遣る。
それは、既に後方への移動を終えて距離を取っていた少年の姿がそこにあり。
手にはダガーを持ち、それを両手で掴み合わせては、俺の方へと向けて――
「エネミースキル:一ツ目の眼光!!」
その瞬間にも、少年の目の前がフラッシュで光が迸ると共に、そのダガーの先から細く鋭い光が俺へと飛んできたのだ。
「なッ――んだあれはッ!?」
初見で何もわからないものの、見た感じではあれも攻撃に違いない。と、そう思い、慌ててその場からの回避を行い、眼前から飛んできた一直線の光を紙一重で回避する。
だがしかし、再び少年へと見遣ると、そこからは更に同じような光が飛んでくるものであったから。
遠距離から次々と放たれる光の連続を前にして。俺はHPを回復する暇も、戦術を考える暇も与えられないまま。
隠れることも逃げることもできないこの状況。そんな俺に残された手段はただ一つ、遠くからの攻撃を行ってくる本人のもとへと急ぎで駆け出すしかなかった。
「くそッ! ウォオオオオォッ!!」
死に物狂いの雄叫びを上げながら。気合と根性で目の前からの光の攻撃を避け続けながらひたすらとダッシュを行っていく。
ダッシュによって段々と距離を狭めていき、攻撃の範囲内までと接近することができたため。俺はすかさずとジャンプからの攻撃コマンドで少年に攻撃を仕掛ける。
そして、幾度の遠距離攻撃を避けられ接近を許してしまった少年もまた、構えていたダガーにより攻撃コマンドで俺を迎え撃ち。
互いの武器がぶつかり合うことで、システム:相殺が発生。衝撃波と共に互いがノックバックと微量ものダメージで怯み――
「うおりゃああぁぁぁあッ!!」
そして、剣士の本領を発揮することのできる範囲にまで踏み込んだこのチャンスを活かすべく。俺はこの攻めの手を緩めることなく、気合と共に少年へとブロードソードを振るった。
……その瞬間であった――
「ッ――!?」
辺り周囲に響く銃声。それと同時にして、俺は右脇を通り抜けた一発の攻撃に戦慄を覚え、咄嗟に攻撃の手を止めてしまう。
眼前の少年の左手には、こちらへと向けられた銃口が。
……この少年。ロープやダガーだけではなく、なんと、片手で装着することのできる小さな拳銃までをも持ち合わせていたのだ。
「ッまずい」
そして、不意のそれを外したのは本人の想定外の出来事だったらしいために。
先のミスを埋めるべく、すかさずと行動を起こした少年は焦り気味に俺へと攻撃を仕掛け出してきた。
「くっ、中々に厄介だ……!!」
その身長で懐に潜り込み、死角からの攻撃を境にして連撃を繰り出してくる少年。
右手に持つダガーの連撃は健在として。左手に持つ拳銃が、ダガーが苦手とする中距離のリーチを補っていたものであったから。
その猛襲は先程以上に激しく。回避コマンドの連打による左右への回避はダガーで狩られ、だからと言え後退を行うと拳銃で撃たれるものであったため。
着実とダメージが重なっていくこのHP。どんどんと磨り減っていくゲージは止まることなく減り続け。ついには、残りHPが四分の一にもなってしまったこの危機的状況。
回避をしては狩られてしまい。防御ではただHPが磨り減るのみ。だからと言ってカウンターを行ったとしても、先程の読みによって更なる痛手が待っているかもしれない……。
「これは……この状況、一体どうすればいいんだ……!?」
段々と制限されていく行動の選択肢に躊躇いばかりが生じていったために。
もはや、今の実力の俺では。目の前の少年を相手に、手も足も出せずに何もできなかった。
「う、うおァアアァッ!! 剣士スキル:カウンタァァァァアッ!!!」
危機的な現状に焦り、とうとうと繰り出す反撃のスキル。
……しかし、その瞬間にも少年は飛び退き。カウンターを空振りする俺との距離を空けては、こちらの様子を悠長に眺めて伺い出し――
「ロープアクション:キャッチ!!」
安全性を確認した後、少年が隙だらけの俺へと左腕を伸ばすと同時に。透明の気を纏いブロードソードを構える俺の胸にロープの鉤爪を引っ掛けたものであったから。
その攻撃にカウンターが反応せず。眼前の光景と胸元の感覚に、全身から血の気が引く悪寒が巡り出す。
「引き寄せ!!」
それは、カウンターを無効化にする投げ属性のものであり。
「ッ――――」
少年が腕を引くと共に。まるで、少年に引き寄せられるかのように胸元のロープに引っ張られるこの胸元。
息を引きつらせ。次には宙に浮いて、高速の勢いで少年の元へと一直線に引き寄せられるこの身体。
「裏拳!!」
そして、引き寄せられることで何もできない俺に向かって、その少年の拳が振りかざされ。
実質の拘束状態という無抵抗のまま。俺は引き寄せられたその先で鈍い一撃を食らい、それに吹き飛ばされた後に、そのまま転がるように地面に倒れてしまったのだ――
「ぐぁッ……ぁッ……ァァ――」
僅かとなったこのHPを抱え。瀕死に近しい状態で地面に仰向けとなっているこの状態。
思うように身体を動かせず。自身の実力の限界が訪れていたことを察し。もはや、身体的にも精神的にもボロボロとなった現状に。俺はただ、絶望することしかできずにいた。
その絶望のままに、これまでの冒険を振り返ってみてしまうものの。それらの光景はどれも、オオカミのモンスターに怯えさせられ。コウモリの化け物にボロボロにされて。白いサルに脅威を覚え。ついには、人間のNPCにさえボコボコにされてという不名誉な場面しか思い出すことができず。
……次には、これが、主人公である俺の実力なのかと。目の前の現実を思い知らされ更なる絶望を抱き。
これが、本当にこのゲームの主人公かよと。そんな、ただただ情けない自分自身に落胆ばかりをしてしまうこの瞬間……。
「っ…………」
無言で視界に入ってきた少年の姿。
その先には、手に持つダガーがこちらへと向けられていて。その矛先と眼差しからは、トドメという文字を想起させられる。
あぁ、ここで俺の冒険は終わりなのかと。こんな情けない姿のまま、この冒険の幕が閉じるのかと。瀕死で言うことのきかないこの感覚と共に、もはや為す術無しと、諦観のままにただただと矛先を見つめ続ける俺。
今にも振り下ろされそうなそれを、ただただ見続けて。待ち続け。まだ、それを振り下ろさないのかと。まだなのかと。まだトドメをささないのか……と…………?
「『イェス・ノー』。彼からそう指示があった。だからここまで」
盗賊Dから頼まれた言葉を伝え。次にはダガーを引っ込めては、俺から視線を逸らすその少年。
左腕をどこかへと伸ばし。その先からロープを伸ばし、カチンとどこかに引っ掛ける音が響いてきてから。
次にも、その少年は俺をその場に捨て置くかのように放置したまま。まるで何事も無かったかのように、至って平然とどこかへと去ってしまったのだ。
「……なんだったんだ……? ……今、一体、何が起こっているんだ…………?」
自身のおかれている状況に理解が追いつかないまま、ただそのままの状態で。俺は、この見逃された命をこの内に宿したまま、ただただと飲み込めない状況に困惑ばかりを抱いてしまい。
見逃されたのであろうその少しの間。俺はそのまま寝転がったまま、ただ呆然と空を仰ぎ続けたのであった――――




