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ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
三章
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蠢く不穏と新たなるイベント

「盗品を落としてきただァ!? 何をしてくれとんじゃこの役立たず共がァ!!!」


 年季の入った男の怒号が、僅かな灯りである天井に釣り下がる提灯を震わせ。揺らめく赤みの帯びた灯りが、眼前の男に怯む四人の盗賊達の影を映し出す。

 

「へ、へぇ親方ッ!! そのことなんですが、我々の行いに邪魔が入ったんですよ! 邪魔がッ!! そいつらに邪魔されたことで、本来なら持ち帰れたハズの盗品を落としちまいやして――」


「だからどうしたと言うのだ!? おめぇら役立たずの無能共がヘマしたことには何も変わらないだろうッ!! この私の指示もろくに果たせないとは、何たる雑魚の群れよ。それも、私の目的が叶うあと一歩のところで、こんな体たらくを晒すときた!! ――哀れな。なんて無能な輩なのだ。貴様らのような雑魚の群れなど、私は率いてきた記憶など全くもって無いッ!!!」


「へ、へぇ親方ッ!! すいませんでしたァ!!」


 一人の盗賊が頭を垂れて土下座をし。それを脇に他の盗賊達も次々と頭を垂れては、親方となる年季の入った人物に詫びの意を示していく。

 しかし、依然として気の治まらぬ親方。両腕を組み、鼻息を荒げ。そのスキンヘッドからは今にも蒸気が噴き出してくるであろう怒気を放ちながら、目の前の輩に未だと怒り続けていく。


「これ以上もの私の目的を妨害するのであれば、その首を両断し焚き火の炭にしてくれるわ!! 次のヘマで、貴様らは私の目的の対象外となる。その意味はわかっていような? ……そうだ。貴様らは"契約"をすることもなく、希望もあても無い無様な死を迎えるのだ」


「へ、へぇ親方ッ!! 親方の妨害など、一切と考えてなどおりませんで!! 我々としても親方と同じ! 親方の目的は、我々の目的でもありますために! 我々も親方と同じく、その"契約"のために懸命と"ノルマ"に取り組んでいる次第でございますッ!!」


「だったら、さっさと私の役に立たんかこの無能共ォッ!!! おめぇらがヘマこいてさえいなけりゃあ、この時にも既に"契約"を終えていたのだぞッ!? そのはずが、失敗を手土産にのうのうと帰ってきやがって!! 私の目的は我々の目的と同じだァ!? ふざけるなッ!! 私は、貴様ら無能とは全くもって違うッ!!」


「へ、へぇ!! すいませんッ!!!」


「だらだらと謝っていねぇで、その気があるならさっさと金品を掻っ攫ってこいッ!! "ヤツら"から提示されたノルマは目と鼻の先だ!! このノルマと共に契約を完了させ、私を追われの身からとっとと解放させるんだよこの役立たず共がァッ!!!」


「へ、へぇ!! 今すぐにィッ!!!」


 男の怒号に追い返される形で、逃げるようにその場から走り出す四人の盗賊。


 眼前の怒る人物に怯えながら。焦燥と共に慌しく駆けていく三人の盗賊と。そんな彼らの様子とはまるで正反対に、その一人の盗賊のみは異様に淡々とした動作で駆けており。

 その盗賊は目の前の仲間達を追い掛けながらも、ポケットから一冊の小さな手帳とペンを取り出しては。走りながらも器用にメモを綴っていく。


「……契約。ノルマ。ヤツら…………」


 先程の言葉を復唱し。首を傾げてペンを口元にあてがうその盗賊。


「……ふむ。この"ヤツら"となる組織か何かとの契約が、今回こうして強奪を活動としている盗賊共の狙いということなのか……? それでいて、その契約というもののノルマが、金品といったところだろうか……。あの、身動きの取れない指名手配犯の暴君を解放させる"ヤツら"とは一体? 何故、犯罪におけるリスクが高いこの街で敢えての強奪を? これは、それほどの危険を冒してまでの価値がある取引なのか? それに、ノルマまであと一歩ときた…………」


 小言で状況を整理し。そして、何かに納得をしたのかこくりと頷き。

 手に持つ手帳とペンをしまったその盗賊は、一人静かに意を決したのであった。


「……今回の事件がどんな内容のものであれ、何としてでもこの悪党共の企みを阻止しなければ――!!」




「ご主人様。突然として、わたあめが恋しくなったりはしませんか?」


 拠点エリア:マリーア・メガシティの西側に位置する場所、『フィールド:聖母大都市・西口』にて。

 マリーア・メガシティの案内という指示を受けてというもの、つい先程までは落ち着いた大人の雰囲気を醸し出していたナビゲーターのミントであったが。突然として、わたあめというそのいたいけな容貌に似合う言葉を引っ張り出してきたことに驚いてしまう俺。


 何故、このタイミングでわたあめ? と、少女の言葉に悩みながらも辺りを見渡したところ。ふと目についたのが、屋台が立ち並ぶその列に設置されていた、わたあめを扱う屋台の存在。

 ……なるほど。自身の思いを言葉にしないミントの性格からみるに。これはどうやら、ミントは遠まわしにわたあめをねだっているのだと思われる。


「ん、そうだな。そう言われてしまうと、わたあめが恋しくなってくるかもなぁ」


「わたあめという柔らかな響きに、甘い誘惑を覚えてきませんか?」


「わたあめ。なんという甘い響きの言葉なのだろうか……綿という言葉と、飴という言葉をくっ付けただけでも美味しく思えてきてしまう。――うん、考えただけでも、口の中が甘くなってくるなぁ」


「このミント・ティーも、現在にも渡ってご主人様と同じ感覚を味わっております故に。この口内の味覚は既に、わたあめという誘惑に魅了されている状況でございます」


 少女の口から、自己の意思を主張する表現となる言葉を発してくるのを待ってみたものの。しかし、ミントは相変わらずと、その控えめな様子でおねだりを続けてくるものであったから。

 もう少し、自分の気持ちを主張してもいいんだけどなぁと。自身を過小評価するミントにじれったさを感じてしまいながらも。それじゃあ、少女の希望を叶えようと本来の会話の流れへと軌道修正を図ることにした俺。


「ちょうど、あそこに屋台があるもんだし。それじゃあ、あそこで二人分のわたあめでも買うとするかな」


「っ!! ――このミント・ティー、ご主人様の意向であるならば。わたあめというナビゲーターとしての使命の妨害となる甘い誘惑に対しても意に介することなく、綿菓子の堪能を第一に行動をいたす所存でございますっ」


 その堅苦しい言葉の数々とは裏腹に、目を輝かせた期待の眼差しで俺を見つめてくるミント。

 常に真面目であり。それでいて、自分の気持ちに素直なものであったから。だからこそ、ミントという少女がより自分に自信を持ってくれることに期待をしているものであったものだが。


 ……まぁ、これも少女の個性なものだから致し方無い。


「じゃあ、あの屋台へ行こうか」


 そう言い、期待を眼差しに乗せたミントと共にわたあめを扱う屋台へと向かう俺達。

 ……が、その矢先で――



「キャー!! 泥棒ーッ!!! 誰か、私の鞄を取り返してー!!!」


 女性NPCの声が響くと共に、その場の異変を感じてそちらへと振り向く俺とミント。

 その先には、声の主と思われる被害者の女性NPCと。こちらへと逃走してくる、四人の盗賊達の姿を発見し……。


「っ!! またお前達か!!」


「ッげぇ!? お前はあの時に邪魔しやがったガキィィ!?」


 逃走経路に立ち塞がった俺の姿を見て、思わず立ち止まる盗賊達。

 それは、昨日にもフィールド:聖母大都市・東口で出くわした盗賊達と同一の集団。それぞれ、ダガーを扱っていた盗賊Aに、チャクラムと呼ばれる飛び道具を扱う盗賊Bと、ソードを扱う盗賊Cに、何もしてこなかった盗賊Dの四名が目の前に現れて。


 昨日は、ペロの活躍によって彼らを退けたものの。こうして再び現れたことで、またしてもヤツらと対峙してしまったものであったから。


「お、おうおう!! まぁ落ち着け!! よく見てみろ! あのガキは大したことはない!! 昨日だって、お前のダガーに散々とやられていただろう!」


「む、そうだな。そういやぁ、あののっぽの姿は見当たらないもんだしな。――となりゃあ、問題なんて無いってことだよな。そうだよな……」


 と、仲間同士で俺の姿を確認してから――


「やい! そこのガキィ!! こうして俺達と出くわすだなんて、本当に運が悪かったなァこのガキィ!! また痛い目に遭いにきたのかこのガキィ!! それとも、死に損なったからお仲間さんを連れずに一人でやってきたのかなこのガキィ!! どっちにしろ、こちとら今はガキと関わっている暇なんて微塵にもねぇんだよこのガキィ!! 邪魔をするなら、四人掛かりで袋叩きにして死んでもらうぜこのガキィ!!」


 彼の言うのっぽことペロの姿が見えないために。随分となめた威勢で俺へとにじり寄ってくる盗賊A。

 ダガーを取り出し、もう片方の手の甲に刃を叩き付けては金属音で威嚇をしてくる盗人を前にして。俺は球形の妖精姿となったミントを懐に隠し、ブロードソードを取り出して臨戦態勢へと移行する。


「おうおう、やる気なのかぁ?? こちとら、大人なもんだよぉ。いくらガキが相手だろうが、加減なんてできねぇんだよ。っつーか、あれだ。今はガキと遊んでるどころじゃねぇんだ!! こちとらマジで忙しいもんだからよぉ!! こっちの邪魔をするってんなら、マジで死んでもらうからなァ!!」


 正直な話、今ここでヤツらと対峙することは得策ではなかった。

 相手が四人に対して、こちらは俺のみのソロ状態。ただでさえヤツらの相手は難しいレベルであるという上に、NPCの仲間達も傍にいないために。俺のレベルでは、目の前の四人を相手取ることはほぼ皆無に等しかった。


 しかし、だからと言ってのうのうと退こうとも思わなかった。

 それは、ただの無謀な行動に過ぎないものではあったものの。だが、今、目の前で困っているNPCがいるものであったから。今、目の前に悪の組織が存在しているものであったから。


 だからと言って、諦めるという選択肢を選びたくなんかなかったために……。


「……ペロ、ユノ、ニュアージュ。あとは知らないNPCの誰か。……どうか、このイベントのフラグで、俺に救済の手を……!!」


 主人公に助太刀として現れる、新たな勢力の出現に全てを託すという博打に出て。

 そして、俺はブロードソードを構え、目の前の盗賊達に立ち向かった。


 ……のであったのだが――


「――待ってくれ。ここは我々が身を退こう」


 唐突とその提案を投げ掛けてきたのは、これまで一切もの干渉を行ってこなかった盗賊Dの存在。

 ダガーを、チャクラムを、ソードを取り出し臨戦態勢に入っていた一同に投げ掛けたその言葉を聞いて。もちろんではあるが、彼らの仲間達は真っ先にそちらへと反応を示していく。


「んあァ!? 身を退く!? それってどういうことだよォ!?」


「言葉のままの意味だ。今、ここで彼を迎え撃つのは得策ではない」


「んあァ!? 得策ではないィ!? なんかそれっぽいこと言ってるがよォ! あのガキが一人でいる今が、あのガキを黙らせる良い機会なんじゃねぇのかよォ!?」


「幸いにも事前の情報として、あの少年には仲間がいることが判っている。だが、仲間という存在が確認できている以上、いつ彼らが助けとしてあの少年のもとに現れるかが行方知れない。それは、あの高身長の男がやってくるかもしれないし。もしかしたら、彼以外の仲間が存在している可能性があり、その彼だか彼女だかがやってくる可能性だって捨て切れない」


「だとしてもよォ! だったら尚更、あのガキが一人でいる今が叩くチャンスだろうが!!」


「こちらには数がある。……だからこそ、その数からなる慢心による、我々の油断を誘っている。と考えたらどうだろうか?」


「あァん? どゆことだ??」


「これほどまでに広い街の中において、少なからずの因縁があるあの少年とこうして都合良く出くわすだろうか? それを考えると、これは偶然を繕った必然の可能性も十分に考えられる。つまり、あの少年は我々を誘き寄せるための罠だ。実はこの周囲にも少年の仲間かなんかが待機状態であり。あの少年を釣り餌として我々を誘き寄せてから、挟み撃ちとやらで逆に袋叩き……ということも十分にあり得るだろう」


「おいおい、いくらなんでもよォ。そりゃあ考え過ぎだろうがよォ??」


「じゃあ、何故あの少年は一人で我々に立ち向かってくる? 昨日、我々からあれほどまでに痛い目に遭わされたというのに。一人では敵いっこない目の前の輩を相手に、何故あそこまで強気でいられる? ……あの少年の姿こそが、今回における偶然の出会いの真相ではないのだろうか?」


「うっ……そりゃあ……」


 あるはずの無い盗賊Dの推理を聞いてからというもの。その渋った表情で、周りの仲間達と目を合わせていく盗賊の輩。

 今、目の前で何が起こっているのか。盗賊Dの深読みによって、絶望に等しかった状況に逆転の兆しを伺うことさえできてしまえる。


「で、でもよォ。だからと言って、ガキを相手に尻尾巻いて逃げるってのかァ? そりゃあ、情けなくてごめんだぜ……」


「逃げることは恥ずべきことではない。勿論、個々にはプライドがあるだろうから、それでも逃走には抵抗があることにはきっと違いないだろうね。――でも、ここで自分の立場を思い出してみようか。……あの怒れる親方と自分のプライド、はたしてどちらが大事なのか、を。今回の命令は飽くまでも、ノルマを満たすための金品の強奪だろう? それは決して、邪魔者を排除し優越感を得ることではないんだ。親方から見れば、我々の勝った負けたなんて実にどうでもいいことだろうからね。それよりも、真っ先に全うすべきことは、この金品を親方のもとへと持ち帰ること。そうだろう? だったら、ここは逃走して一刻もの帰還を行うべきだ。それが我々のためにも、親方のためにもなる」


 盗賊Dの推理と説得によって、その渋っていた表情が次第にも恐れへと変化していく他盗賊達。

 顔色を青白くしながらも、しかし、それでも未だに渋ってしまう盗賊達の様子を見てから。その盗賊Dは〆として、とっておきの言葉を用いてきたのだ。


「いいかい? これは、ただ少年に背を向けた逃走ではない。これは、我々の親方のために行う、戦略的撤退なのだ!」


「戦略的撤退……? ――おォー、戦略的撤退。ほうほう、なるほど。戦略的撤退……なんか、響きがカッコいいな、うん。確かに、これは戦略的撤退だな、うんうん…………そうと決まれば、野郎共! ここは、戦略的撤退! ってやつだァ!!」


「うぉー!!!」


 盗賊Dのとっておきを聞き、完全にノリ気となった盗賊Aと仲間達。取り出した武器をしまって、盗賊Dの指示のままに各それぞれとバラバラに散って逃げていく盗賊達であったのだが……。


「君の目的はこれだろう?」


「……っ!!」


 その際に、手に持つ金品の鞄を俺へと見せ付けてくる盗賊Dに、俺は真っ先と彼へ注目を向ける。


「なに、大丈夫さ。ただ、これは一旦こちらで預かっておくよ」


「ま、待てッ!!」


 挑発的に鞄を揺らしながら、俺が駆け出すと共に全速力で駆け出し始めた盗賊Dであったために。そんな彼の持つ金品を取り返すべく、こちらもまた全速力で盗賊Dの背を追い。

 眼前で逃走する盗賊Dを追って、俺は街の中を東奔西走したのだ――


「キャア!! 私の鞄が盗まれちゃったわ!! ……あら? でも、あの盗人の声に聞き覚えがあるわ……? ……確か、あの声って――――」




「その鞄を返せ!!」


 執着的なその追跡に、我ながらしつこくさえ思えてくる。

 眼前で未だに逃走する盗人を追い、フィールド:聖母大都市・西口の人気が無い裏道を駆け抜ける俺と盗賊D。

 目の前の盗賊Dは依然として俺に追いかけられっぱなしではあるが。そんな男を追っているにつれて、俺はある疑念を抱くことになる。


「……待てよ。何かがおかしいな……」


 俺の職業は剣士であり。相手の職業はおそらく、盗賊やらシーフといった機動力に長けた職業であることには間違いない。

 そんな機動力に長けた盗賊を、俺は何故こうして未だに追えているのだろうか? それも、追跡の合間にスタミナの回復として歩きも織り交ぜているにも関わらずの現在であることから。尚更と今の状況に、ふと疑念を思ってしまう。


 ――そう。目の前の盗賊Dは、俺の行動に合わせて逃走を行っていたのだ。


「…………っ」


 そうして、長くの追跡の果てに辿り着いた場所は、あるひとつの団地。

 建物に囲まれ、障害物の見当たらない殺風景が広がるこの四角形の団地にて。それは、盗賊Dと俺が通ってきたこの道以外にどこへと伸びているわけでないために。そして、たったひとつだけの道を、俺という追跡者が塞いでいるという状況であるため。


 逃げ道を失った盗賊Dは今、俺に追い詰められた。


「ようやく追い詰めたぞ……! さぁ、女性から盗んだ物を渡すんだ!!」


「…………っ」


 ブロードソードを取り出し、構えながらにじり寄る俺と。追い詰められた状況であるにも関わらず、焦りも恐れも思わせない、どこか淡々とした様子で周囲を見遣っていく盗賊D。

 それは、俺という目の前のガキが弱いという認識からなる油断かもしれない。そうだとすれば、これほどまでの絶好な機会は二度と無いだろう。

 

 確かに、俺はまだまだ未熟だし。それも、剣士というこの職業は集団を相手にするのが苦手な職業だ。

 だが、言ってしまえば。剣士というこの職業は、タイマンという一対一の戦いでその真価を発揮する。そして、その機会は正に今――!


「……盗んだ物を渡せ!!」


「えっとだね。まぁ、これはあれだ……さっきも言ったように、ひとまず預かっておくだけだから――」


「悪人の言葉を信用すると思っているのか!? なら、力ずくで返してもらうぞ!!」


「あちゃー……まぁ、そうなるよねぇ……。でもまー、その正義の心なら、君がこの役に"適任"かもしれないな――」


 淡々と話しながら、両手を上げて降参を示す盗賊D。

 だが、そんな彼の意思も無視し。俺はブロードソードを構えて、盗賊Dに切り掛かる。


 ……その瞬間だった。


「なッ――!!?」


 盗賊Dの背後から突如として現れた人影。

 その人影が振るったダガーとぶつかり合い、その攻撃と攻撃がぶつかり合うことで生じるシステム:相殺の効果で、互いの身体が後方へと吹き飛ばされる。

 

 突然の出来事で頭が混乱している中で、体勢を立て直し立ち上がると共に。俺は目の前の状況をこの目で確認する。


「"ミズキ"!!」


「気にしないで」


「おーけい! それじゃあ、ここは頼んだよ!!」


「わかった」


 "ミズキ"となる唐突に現れた人影と言葉を交わし、その場から逃走を図る盗賊D。

 盗賊Dがその場からどいたことにより、この目でその姿を捉えることのできた人影の正体。……それは、ある一人の少年であったのだ。


 身長は百六十五ほど。つばが広く、ボリュームのある白色のキャスケットを深々と被っており。膝までの丈と、コートとパーカーが織り交ざったその白色の上着は。丈から腹部辺りのチャックが開いていてへそが見えており。胸から鼻に覆い被さるように伸び、立てられた襟をチャックが繋ぎ合わせていることによって、その顔は帽子と相まって目しか見えない。

 ズボンは裾を捲くった七分丈の灰色で、至る所には傷跡のような黄色の模様が付いており。上着の胸部分から微かに覗く黒のインナーに。黄色のベルト。黄と灰が織り交ざる男物のシューズという服装をしている。


 身体的な特徴は、赤味のくすんだ、赤レンガのような茶色のショートヘアーと。同じく赤レンガのような茶色の瞳。割と露出度のある服装から伺える体つきはとても華奢で、このブロードソードで突っ突いたら直に折れてしまいそうだ。

 そして、声もまた中性的な声音であるために。その少年からは、まだまだいたいけなものを伺わせる。


「――あ、待ってくれ、ミズキ!!」


「何?」


「……その少年は、『イェス・ノー』で頼むぞ!!」


「了解」


 逃走のために走り出しながらも、振り向き指示をする盗賊Dに。静かな返事と頷きで了解するミズキという人物。


「ま、待て!! その鞄を返せ――ッ!!」


 少年に俺を任せて逃走しようとする盗賊Dを追い掛けるべく、この足を走らせたものではあったが。しかし、俺が追おうとその背へと一歩踏み出したその瞬間にも。そのミズキという人物が俺の目の前に現れては、右手に持つダガーを逆持ちで向けて威嚇を行ってくる。


「そうはさせない」


 キャスケットと上着から覗く茶色の瞳は、俺を真っ直ぐと捉えて鋭い輝きを放っている。

 ……どうやら、この目の前の人物を退けなければ、俺は盗賊Dの追跡を許してくれないらしい。


「……やるしかないのか……!!」


 こちらもまたブロードソードを構え、眼前の少年と向き合い戦闘態勢へと移行する俺。


 四角形の広い団地内にて、互いに睨み合う俺と少年。その瞬間にも、俺という主人公は眼前に現れたイベント戦へと臨んだのであった――――

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