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ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
一章
14/368

フィールド:セル・ドゥ・セザムの勝気な山丘

「エネルギーソード!! エネルギーソード!! エネルギーソードォ!!」


 MPの無駄遣いのように見えてしまうものの、実はそうでもなかったりするのが今の状況だった。



 新たなフィールドである、セル・ドゥ・セザムの勝気な山丘。

 活力を感じさせない黒ずんだ芝生。砂利と固まった土で構成された、灰色の山地。比較的に平坦ながらも、なだらかな起伏や小山がうねるように一面と広がる丘陵の地形。

 快晴であるにも関わらず、どこか物寂しげな活力無き山丘。それがこの、セル・ドゥ・セザムの勝気な山丘の特徴であった。


 そんな、黒と白の中間である灰色をメインとした彩色で構成されたこの山地。山登りにはどこか物足りなく、冒険にしては好奇心がかき立てられない平凡な場所。

 そう、この地にはこれといったものが何一つ無い。しかし、この何も無い土地が故に、この地に来ると無性に刺激を求めてしまってつい山道を歩き進めてしまうのだ。

 なるほど。名前に含まれた勝気という文字は、刺激を求めてつい前進を続けてしまうこの恐れを知らない状況のことから来ているのかも。と、一人で納得する俺。


 ……そんな恐れ知らずの俺は今、山道で出くわしたコボルトとゴブリンの群れを一人で相手取っていた。

 犬のような外見のコボルトや、豚のような外見のゴブリン。どれも以前のフィールドでもよく見かけていたモンスター達であったものの、さすがは勝気な山丘なだけある。ここに生息するモンスター達は中々に手強かった。


「お疲れ様です。ご主人様」


 MPの回復効果を持つ聖水のビンを差し出すミント。戦いを終えた俺は汗を袖で拭い、一息をつきながら聖水を受け取って摂取する。

 アイ・コッヘンが釘を刺してきただけある。さすがに俺一人でこの地を渡り歩くには、ちょっと無理があるかもしれない。それほどまでに、今の俺には余裕が無かった。


「早くワイルドバードの卵を探し出して、さっさとのどかな村に帰ろう。いつまでもここにいたらさすがに危険だ」


「ご無理はなさらないでくださいね。もし、このミントに御用があれば、なんなりとお申し付けください」


 支えてくれてありがとな。ミントへお礼を伝えて、メインクエストの目的であるワイルドバードの卵探しへと再び歩を進める俺。

 沈黙の流れる山丘に響く、砂利を踏みつける音。なだらかな起伏ながらも激しい高低差の数々。これといった目的として定められない、特徴無き変哲の無い小山の連なり。


 終わりが見えない。途方も無いその光景に感情が空ろになりながらも、俺はミントと共に目の前に伸びる山道を辿り続ける。

 レア度が高いと言われていたものの、いざ見つからないとなると気持ちがモヤモヤしてくる。そんなじれったさや苛立ちが芽生え始めたその時に、山丘の頂上と思われる特別な雰囲気の地点に到着した。


 木の枝で作られた、地面を這う鳥の巣。その付近に存在していたのは、こちらへ振り向く二匹のモンスター。

 一言で説明すると、ダチョウの姿。鋭いクチバシを持つ鳥の頭部に伸びる首。羽毛の生えた黒の身体。か細くも野生溢れるたくましい二本の脚。

 これがワイルドバードか。厳つい顔を向けてきた二匹のモンスターを目にして俺が納得していると、モンスター達は突然いきり立ってこちらへ襲い掛かってきたのだ。


「ご主人様! 先程もご説明した通り、ワイルドバードは気性が荒く縄張り意識が極めて強いモンスターです! 自身らの縄張りに侵入したご主人様を目にし、即刻の排除を目的に戦闘を仕掛けてきました! 直ちに構えてください!」


 解説と共に球形の妖精へと姿を変えるミント。その場から上空へと飛行したミントは俺のサポートに徹するために戦線離脱。

 実質は俺一人のこのパーティー。厳つくて強そうなモンスターが立ち塞がっても、尚俺は一人で挑まなければならない。

 くそー……ユノを誘えばよかったかな。そんな後悔と同時に、場面は戦闘へと移行した。



『キョーンッ!!』


 甲高い鳴き声を上げながら先制で仕掛けてきたワイルドバードA。その勢いをそのままに猛進してきたワイルドバードAの攻撃が飛んでくる。

 それに合わせてソードでのガードを選択。その恰好ながらも器用にたくましい片脚を振り上げてきたワイルドバードAの攻撃をソードで防ぐものの、その威力はとても尋常ではなかった。


「マジかよ……! ガードでこれだけ減るのかっ!」


 驚いて声に出してしまう俺。ほんの微々たるダメージではあったものの、ガードで防いだ際の削りが今までとは比べ物にならないほどのものだったのだ。

 内に宿るHPのステータスが減少する感覚。攻撃力が異常に高く設定されているのであろうこのワイルドバードの攻撃。直撃の場合だと、最高でも四発耐えるだけで精一杯といったところか。


 もう片方のBは様子を見ているだけであったため、ここで次のターンへと移る。

 再度、攻撃を仕掛けてくるワイルドバードA。その脚を振り上げるその素振りで、先程と同じ攻撃であることを把握できる。

 相手の行動が攻撃であることがわかった。であれば、俺はそれを対処できる行動を起こせばいい。さて、それじゃあさっそく"これ"をちょっと使ってみるとするか――


「スキルポイントを割り振ったばかりの、剣士スキル:カウンター!」


 ソードを構えると同時に、身体を包み込むかのように現れた気の流れ。

 目に見える透明のそれがワイルドバードAの攻撃を感知。すると、俺の身体に異常な瞬発力が巡り巡ってくる。

 その瞬間、俺は通り抜け様にワイルドバードAを斬っていた。


『ギェ――ギッ』


 途切れ途切れの断末魔を最後に、ワイルドバードAはその場で力尽きた。

 剣士スキル:カウンター。これは文字通りに、相手の攻撃に対して反撃するという特殊な効果を持つ技の一つ。

 相手の攻撃を無効化できる上に、その威力は相手の攻撃力に依存する。よって、攻撃力が高いのであろうワイルドバードに対して、とてつもない効果を発揮することができる優れものの技だ。


 ただ、欠点として相手のスキル及び特技に対しては無効化される。つまり、直撃待ったなし。

 あとはガードや回避で様子を見られてしまうと、その構えている際に隙を晒してしまうという性質を持つ。こうして相手の攻撃のみという制限があるため、多様は禁物といったところか。


『キョーン!!』


 倒れる仲間を尻目に、スキルを使用した後の隙を狙ってワイルドバードBが接近。

 その器用に脚を振り上げる動作から攻撃を察知し、俺は咄嗟のガードを選択してこの場をやり過ごす。

 わずかながらも削られるHP。磨り減る感覚に焦りを覚えながらも、それじゃあと剣士スキル:カウンターを繰り出そうとしたその時であった。


「――――っ!」


 ワイルドバードBの見慣れないモーション。脚を引き絞るように引っ込めながら、全体を縮こまらせて俺へ照準を合わせる。

 嫌な予感。咄嗟に回避を選択したその直後、ワイルドバードBの引っ込められた脚が勢いよく俺へ飛び出してきたのだ。


 オレンジ色のオーラを纏った渾身の蹴り。このオーラを纏った際の相手は、決まってスキルを繰り出してくる。

 この回避が正解だった。たった今の行動は相手のスキル及び特技の特別な攻撃。これをうっかりガードしてしまうと、高確率でガードを貫通されてしまう。あの日のチュートリアルを境に、俺は相手のスキル攻撃には一段と気を配っていた。


「おりゃあ!!」


 隙を晒したワイルドバードBに通常の攻撃を当てる。

 脇からの攻撃に体勢を崩したワイルドバードBであったが、俺は敢えてこの隙を突かない。

 そして逆に、俺はこの隙を利用することにした。


『ギェーッ!!』


 よろめくワイルドバードB。相手側からしたら、この隙は相当に大きなもの。

 そこからくる焦り。ワイルドバードBはこの隙を潰すため、すぐさま体勢を立て直してその脚で俺に攻撃を仕掛けてくる。

 それを待っていた。まだ序盤で未熟ながらも、サブクエストで養われた経験に基づいた戦闘の駆け引きを、俺は見事に制することができた。


『ギェ――ギッ』


 カウンター。焦りで突っ込んできた相手の攻撃に合わせて、俺は剣士スキル:カウンターで反撃。

 自身の攻撃力が仇となり、通り抜け様に感じた手応えと共にワイルドバードBはその場で力尽きた。



 戦闘終了。ユノという心強い仲間とパーティーを組んでいるにも関わらず、互いに別行動をしていたが故の経験が今になって生きる。

 どうやら単独で戦闘をこなしてきた俺には、この世界のステータスとはまた違う根本的な部分の技術、所謂プレイヤースキルというものが身に付いていたのだ。



 メインクエストの目標である、レア度の高いアイテム:ワイルドバードの卵。この現状で俺が心配しなければならないことは、このアイテムを運でポップさせなければならないということのみになっていた。

 レア度の高いアイテムを求め、勝気な山丘を自信満々に歩み進める今の俺は、正に怖いもの無しと呼べる冒険者そのもの。


 この怖いもの無しが果たして、勇敢となるか、無謀となるか。

 この今の慢心が、この世界を生きる上で最も恐れるべき感情だったと。次の俺がそう痛感することになるのは、またほんの少し先のことであった――――

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