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ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
三章
136/368

レディーズお三方からのアプローチ

「オレっち、ここに来てから散々な目にしか遭ってねぇよ……」


「ペロ、お疲れさん。さすがにこれは、身に応える物事ばかりだよな……」


 時刻が夕方となった拠点エリア:マリーア・メガシティの中央広場にて。この地に住まう住人から、旅人やら商人やらと、至る場所から様々な目的で行き交う人波を前にして。広場のベンチで二人、燃え尽きたかのように無気力と座り込む俺とペロ。


 上半身を項垂らせ、両肘を両膝に乗っけて俯く俺と。両腕を大っぴらと広げ、ベンチの背に沿うように天を仰いでいるペロ。

 この俺達の様子は、さぞ不審な人物達の集いに見えていたことだろう。そんな、疲労で無気力とベンチに座り込むことしかできずにいた俺達であったものの。しかし、今はそんなことをしている暇なんぞ全く無いのも、また事実だった。



「……ユノとミントと、ニュアージュと。彼女らは一体、どこに行ってしまったんだ……」


 宿屋で行き違いとなってしまった彼女達。おそらくは、向こう側も俺達を探すために宿屋から出たのだろうが。しかし、こんなに広大なマップで迷子となってしまうと。まだまだ序盤のステータスである俺では、もはや手がつけられなくなってしまうという至極面倒なイベントへと変貌してしまったために。


 結局、このイベントの攻略方法は一体何なのか。このイベントに関するフラグとは一体何なのか。

 今回の困難に対する、あらゆる要素が全て謎である今。この状況は所謂、詰みと言っても過言ではなかったかもしれない……。


「はぁ……こんな時に、ミントがいてくれたらなぁ…………」


「お呼びでしょうか。ご主人様」


 ゲームを開始したその時から、ずっと頼りっぱなしであったナビゲーターの少女ミント。

 あの大人な雰囲気を纏う、まだまだいたいけな容貌の少女も。今回ばかりはこのイベントの対象となってしまっている以上、俺はほぼ無力な主人公に等しい。


 こんな時に、ミントという優秀なサポーターが傍にいてくれたらなぁと。そんな、懇願とも言えるべき心からの望みを脳裏に浮かべていると、背後からその少女の声が聞こえてきて――


「――うぉッ!?」


 思わず、驚いて振り向いてしまう俺。

 そんな俺の様子と声に、ビクッと反射的な反応を示すミントがそこにいて。


 これはなんということだ! 振り向いたその先に存在していたのは、幻想でも幻覚でもない。紛れも無いミント・ティーそのもの……!


「おーい!! アレウスー!! ペロ君~!!」


 背後のミントへと向けていた視線を、投げ掛けられた声の方向へと移すと。その先からは、大きな紙袋やビニール袋を吊り下げたユノとニュアージュがこちらへと歩いてくる様子を確認することができて。


 まるで何気無い様相を向けながら、ゆったりとした足取りで俺達の前まで来たユノとニュアージュ。そんな彼女らの表情からは、とても満足のいく満面の笑みを伺うことができる。


「なんだ~、アレウスもペロ君も、ここにいたのね~! さすがはミントちゃん! どこにいても、目的の人を即座に発見してしまうその不思議な予知能力……未知だわ!!」


「このミント・ティー。ご主人様の命令に対する忠実な姿勢のもと、ユノ様の指示に従ったまでのことを成したのみでございます。よって、これらは決して、褒められるほどまでの事柄ではありません」


「そんなことないわよ! 大丈夫よ、ミントちゃん! もっと自分に自信を持って! その不思議な能力と、すっごく真面目で誠実な姿勢はミントちゃんの立派な長所なんだから!!」


「…………それほどまでのことはありませんよ……」


 ユノからのエールを受けては、どこか拗ねるような反応を返すミントではあったものの。しかし、その実は嬉しかったのか。どこも見つめずそっぽを向きながら、その頬を照れくさそうに赤く染めてぼそっと呟くその少女。


 そのやり取り。この空気。ユノとミントと、ニュアージュとペロという存在が織り成す。この他愛も無い、いつもの空間。

 ……あぁ、これだ。俺は、まるで実家に帰ったかのような安心感と共に。そんな目の前の光景を、安堵の交ざるほっこりとした和やかな思いのままに眺め続ける。


「アレウス、ペロ君! ごめんね! 今日、朝一で二人を探しましょうって話になってから街中を歩いていたのだけれども。このマリーア・メガシティが誇る大きなショッピングモールに足を踏み入れちゃった途端に、ついついお買い物に夢中になっちゃって……」


 無気力に座る俺達へ、ただただ申し訳無さそうに謝るユノ。しかしその反面、夢中となってしまった結果である袋達を掲げながら、でへへ~とどこか幸せそうに苦笑を浮かべているものであったから。


 ……そんな顔をされてしまっては、嫌でも許すしかないだろう。


「ご主人様からは、終了を遂げたイベントのフラグを感じます。スキャン――完了。……今回のイベントにおけるクリア条件は、その大型のショッピングモールに出向くこと。となる内容のものでありましたね。尚、こちらのイベントのクリア条件として、時間経過による自動的な終了もございます故、こちらのイベントはシナリオに影響を及ぼすほどの重要なフラグではありませんでした。よって、こちらの結果が後に響くという心配はございません故に、ご安心ください。――ついでに、今回のイベントの説明をいたしますと。ナビゲーターでありますワタシことミント・ティーを含めた、ユノ様、ニュアージュ様の三名と合流した後、その場にいるパーティーメンバー全員でショッピングモール内を巡るという親密度イベントへと繋がる内容でありました」


 パーティーメンバーが目の前にいるにも関わらず、自身の使命のままに淡々と行われていくナビゲーター、ミントのメタな解説。

 律儀な様相から放たれていく言葉の数々に、俺以外のその場の全員が頭上にハテナマークを浮かばせていくその中で。俺一人はほうほうと納得して。まぁ、この先に影響しないイベントであったのならと。こうして三人と合流できたからと。その内容に頷いては、安堵して息をつく。


「……それで、ミントはショッピングを楽しんできたのか?」


「っ――ワタシは、その。……ユノ様とニュアージュ様の命令に従ったまでのことを行っていたのみでした故に。楽しむという"うれしい"に近しい感情を抱くよりも、誠実さを志に、に基づいた忠実な姿勢によるお二方のサポートに徹していたがために。楽しむという、ワタシというNPCにも満たない人間以下の存在には似合わぬ高揚の念は一切――」


「あ、ミントちゃん。そう言えば、ミントちゃんが一目惚れして衝動買いしたヒツジのクッションが、まだ私が預かったままだったわね。忘れない内に、次に立ち寄る宿屋の中で渡すわね」


「っ――――」


 何だか必死になって、俺に色々と説明をしていたミントであったが。しかし、ユノの思い出しによる何気無い言葉によって。あまりの羞恥からなのか、ミントは顔を真っ赤にして、そのまま固まってしまう。


 ……ミントのことだ。要は、ナビゲーターとしての使命や誠実さを必要以上に背負うミントは。楽しみや"うれしい"という、自身のこれまでの思考を惑わす感情をただ否定したかっただけだったのかもしれない。

 この、ナビゲーターとしての機械的な思考や意識がブレることによって。ミントというキャラクターの設定が。ナビゲーターとしての存在価値が希薄してしまうかもしれないという考えをもっているのだろうか。真意は不明なままだが、これまでのミントとの会話を考慮すると、何となくそんなことを思えてしまえる。


 そうした思考を抱いてしまっているであろうミントではあったものの。まぁ、そんな少女も、今回のショッピングは心から満喫できたようで何よりであった。

 何せ、ミントはただの機械なんかじゃなくて。正真正銘の、生命を宿すNPCなのだから。こうした姿が、少女に一番似合っている。


「ミント。ユノとニュアージュのバックアップ、ありがとうな。……それでいて、ユノもショッピングを楽しんだみたいだし。ニュアージュも――」


「あ、はい。わたし、あんなに大きなお店は初めて見ました~! もう、形容できないほどにまで広がる店内。風も吹き抜けていて、息苦しさというものなどは全くありませんでしたし。お店の外装、店内の様々な配置、接客、服装……わたしが勤めるのは、宿屋というモールとは異なる形式のお店ではありますが。そこのお手伝いさんであるわたしとしては、お買い物以上の収穫を得ることができ、とても勉強になった良い機会でございました~!」


 そう言い、うふふ~と高貴でお上品に微笑むニュアージュ。

 そんな彼女の周辺からは、可憐なお花が複数漂うエフェクトも伺えるその辺りに。どうやらニュアージュは、余程なまでにショッピングを満喫することができた様子。


「……あっ、それと、キャシーさんへのお土産も買ってきたのですよ? ほら、どうでしょうか。キャシーさんに似合うと思いませんか~?」


 そして、ニュアージュはおもむろに紙袋へと腕を突っ込むなり。そうして引っ張り出してきたのは紺色のトレンチ帽子。

 それをお上品な微笑みでこちらへと見せ付けてくるのだが。……まぁ、何と言うか。また、ちょっと意外なチョイスで少し驚いてしまったのはここだけの話。


 キャシャラトに似合うかと言われれば、確かにそうなのかもしれない。……だが、ニュアージュよ……ウナギのようでナマズのようでオタマジャクシのようでウツボのようで犬のような頭の魚形である彼への土産として帽子をチョイスするというのもまた、何とも言えない個性に溢れた内容なものだぞ……。


「い、良いと思うよ。きっと、キャシャラトさん喜んでくれるに違いないさ」


「ですかね~? だと良いですね~、うふふ。奮発した甲斐がありました~」


 そのニュアージュの様々に、ただ苦笑いを浮かべることしかできなかったものであったが。まぁ、まずはこうして再び顔を合わせられただけでも、良かったことには違いない。

 何気無い会話も、こうして互いに命があってこそ成せる日常の一部。このゲーム世界で生きている以上。このHP、その命。いつ尽きるかもわからない弱肉強食の世界であるものだから。こうやって再び顔を合わせ合えるというのは、すごく何気無いことではあるのだが。その実は、とてもありがたいことなのである。


 そんな、このいつもの光景を目の前にして。俺は安堵のままにその一時を過ごしていたものであったが――



「あ、ねぇちょっと。それでさ、今日の宿泊する宿屋のことなんだけれども……」


 そう切り出してきたのは、我らのパーティーリーダー、ユノ。

 ふと思い出したかのようにそう発言しては、彼女はペロの方へと視線を移す。


「ペロ君! あの宿屋、すっごく良い所だったわよ!! ……そりゃあ、人型モンスターのオーナーさんが気になるとは思うけれども。でもでも! そのお姉さん、すごく良い人でね! それに、とても面白い人で。これからも仲良くしていきたいなぁって思える人だったものだから。……あのお姉さんであったら、きっとペロ君でも大丈夫かなぁって。私、そう思ったのだけれども――」


「……なんつーかさ。なーんかさ、こんな話が出てくる予感はしていたんだよなぁ……」


 頭を抱えながら、はぁっとため息を一つ零すペロ。

 勘の良いペロの、その言う通りに予想していたためか。事前の覚悟で、彼はモンスターという言葉に拒絶反応を示すことはなく。しかし、的中してしまった嫌な予感を前にして、ただただため息が止まらないその様子。


「どう? ペロ君。人型とは言えども、やっぱりモンスターは怖いかもしれないけれども……でも、世の中には怖いモンスターばかりじゃないっていうのが、これをキッカケとして知ることができる、とても良い機会になると思うの!」


「モンスターもそうなんだけどよぉー……オレっちは、その、モンスターと関わるってのがまずダメなやつでなぁ――」


「だったら、尚更ちょうど良いタイミングよ! 近くにはこうして私達がいるのだから、モンスターという生き物に慣れるための練習には、今が正に最適なタイミングだとも考えられるわよ!!」


「いや、だからなぁ、ユノっち。……オレっちは、モンスターそのものと関わることがダメなやつだってば。そうだなぁ……例えるならば、アレルギーのようなもんだと言えば、わかるかねぇ……」


「それじゃあそれじゃあ! 触れないように。見ないようにすれば大丈夫かしら?」


「あぁー……まぁ、それならまだ"再発の可能性は低い"か――いやいや、それでもダメだダメだ……!! その、よぉ。なんつーかよぉ……それが例え、聖女のような美少女のユノっちの頼みであったとしても。オレっち、やっぱりダメなもんはダメなんだよホントに……」


 ペロの調子の良さが爆発する女性との会話でさえ、その気だるそうな様子で話していくものであったものだから。その物事におけるペロの気の重さは、どうやら相当を遥かに越えた次元のものであったらしかった。


 しかし、それでもユノの提案に若干もの心が揺れ動いた模様。

 そして、それと同時として。そんなペロの言葉を聞いてからというもの、ユノはその場でちょっと思うような素振りと表情を見せ。そして次には、そのペロの僅かな心の隙間を突くかのように、ユノはあることを言い出したのだ。


「ペロ君、聖女のような私の頼みではダメなの……?」


 いじらしい、ちょっと甘えるような甘い声音でそう言うなり。その瞳をうるうると潤ませては、ペロをじっと見つめ遣ってくる。


「へぁっ――いや、まぁ、その。べ、別によぉ、ユノっちがどうとか、これはそういう問題じゃなくてだなぁ……」


「私、ペロ君のことを想って、ずっと考えていたの。どうすればペロ君はモンスター恐怖症を克服することができるのかなって……。だって、この世界にはたくさんとモンスターがいるものだから。彼らの存在に慣れておかないと、ペロ君はずっと心の苦しい思いをしたままの毎日を過ごすことになっちゃうから……!! ……だから、ペロ君のモンスター恐怖症を、少しだけでも和らげることのできるお手伝いを、私はしたいと思ったの……!!」


「へぁぁ……マジかよユノっち。そこまでしてオレっちのことを考えていたのかよ……やっぱりオレっち、まだまだ捨てたもんじゃねぇな――ってそんなことはともかくだ。……そんなことを言われると、なんか申し訳無くなっちまうぜ…………でもよぉ、やっぱりオレっちは…………」


「……聖女の私だけではダメ? ……それじゃあ――」


 そう言うなり、ユノはニュアージュとミントを引き寄せて……。


「聖女の私と。天使のミントちゃんと。女神のアーちゃんからのお願いだったら、ペロ君は頷いてくれる??」


「ユノ様。ワタシは守護女神で――いえ、何でもありません」


「へぁっ――な、なんだ、この後光は……!!」


 瞳を潤ませて、なんだかいじらしい表情で見つめてくるユノに。その高貴で柔らかい雰囲気を纏いながら、可憐に見つめてくるニュアージュに。いつもの様子でありながらも、しかしそのいたいけな容貌でじっと見つめてくるミントのレディーズお三方を前にして。


 彼女らから放たれる視線の集中砲火を食らい、戸惑い半分の照れでただただ困惑するペロ。

 そんなペロの、揺らいだ心の隙間を突くために。今、レディーズお三方はトドメの一斉攻撃をペロに仕掛ける…………。


「おねがぁい、ペロ君~」


「お願いしますー、ペロさん~」


「お願いします、ペロ様」


 ベンチに座るペロへ、一斉と近寄って頼み倒すレディーズお三方。

 何故だか、こんな展開に何となくの察しがつき。事前にさり気無くベンチから離れておき、彼女らから手荷物を預かり場を空けておいた俺は。そんな様子を、ただただ呆然と眺め続けて事の成り行きを静かに見守っていく。


「ペロ君~! ペロ君~!」


「ペロさん! ペロさん!」


「ペロ様。ペロ様」


「どわっはぁぁぁぁああああああぁぁぁぁぁ!!! 眩しい!! 眩しいよこれェェ!!! 視界はピンク色なのに!! 目の前は白色と金色のザ・ビューティフル天国カラーァァァァ!!!!」


 なんだ、これ。


 一見するとペロのハーレムではあるものの。その実は、女性陣によるゴリ押しからなる猛烈なお願い事というこの光景を、ただただ呆然と眺め続ける。


 ……そして、そんなレディーズお三方からの集中砲火を食らい。前方からの圧倒的な火力……基い、魅力を前にして。保っていた平常心が砕かれ堪らず堕ちてしまったであろうペロ。


「――っしゃあねぇなァ!! こんな女の子達にここまで頼まれちゃあ、そりゃあもう仕方ねぇよなぁ!!? へへへっ、こんなアプローチを前にして、それでも断っちまっては。オレっちの、男としてのプライドが廃るってもんよぉ!!!」


「やったー!! さすがはペロ君ね!! それじゃあ、さっそくいきましょう!! 宿屋:大海の木片へ!!」


 ウキウキとなったペロをベンチから引っぺがしては、ユノとニュアージュに両腕を組まれ。背にはミントに寄り添ってもらいといった、あからさまなハーレムを構築しながら彼女らと歩んでいってしまうペロ。


 なんともまぁ、女性に対してはチョロいというか。俺の場合には頑な一面しか見せなかったがために。そんなのアリかよと正直なところはそう思えてしまえたものの。

 しかし、これもペロの。モンスター恐怖症となる恐怖の種を取り除く機会を得ることができたのは、彼のこれから先のことを考えるとかなり大きな進歩であったことにはきっと違いない。


「……ひとまず、良かった良かった。……なのかな――?」


 そんなことを呟きながら。俺は彼女らから預かった大量の手荷物を提げながら。目の前を歩くパーティーメンバー達の後についていったのであった――――

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