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ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
三章
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行き違い中の遭遇

「おぁ、えーっとぉ……? ユノ、さん? と、ミントちゃん? と、ニュアージュ様のお三方でありましたら、つい先程、この宿屋から出ていかれましたっすよ? 会ってなかったんすか?」


 行き違いだ。

 思わぬタイミングの悪さに、俺は堪らず頭を抱えてしまった。



 このゲーム世界に存在する拠点の中でも、とりわけ巨大な範囲を誇る大都市、拠点エリア:マリーア・メガシティ。

 その拠点の広さは、いくつものエリアに区分されているほどまでの大きさであるために。こうした仲間とのすれ違いというイベントは、実に厄介且つ時間の掛かる作業であることが予想できる。


 ……仲間を探すイベント。それを聞いただけでも、この先に設定された荒々しいイベントの展開を容易に想像できてしまえる……。


「そうか、彼女らはもう出ていったのか。教えてくれてありがとな」


「いやぁ、全っ然大丈夫っすよ!! それよりも、あのレディーズお三方と合流できるといいっすね!! ――いやぁ! でもでも、それにしてもっすよぉ!! いやぁもう、あのユノさんはほんっと、とってもカッコよくてスタイルも良くってべっぴんさんでぇ! そりゃあもう、女の子の憧れ! 人生の先輩! あたしの理想でございやすし!! ミントちゃんも、そりゃおもっくそ可愛くって可愛くって! もう、クレーンゲームで取ってきたぬいぐるみみたいに、こう、ふわっと飾っておきたい女の子でしたし!! ニュアージュ様の、あの高貴なお姿……もう、ただ平伏すことしかできなかったっすよ! もう……もう……何もかもが神々しくて……まさかねぇ、これまでで鍛えに鍛えた土下座の本領が、ここにきて発揮されるとは思ってもなかったっすからぁ!!」


 彼女らと過ごす一夜が、余程なまでに楽しいものだったのだろう。

 そのテンションの高さで、身振り手振りを用いてその時の心境やらを俺に語っていく女の子従業員。


 ローズの暗いピンク色の髪に。浴衣とミニスカートを織り交ぜた業務服と白色の三角巾という、和風テイストの女の子従業員。その容姿は実に、どこにでもいるモブキャラそのものであるものだが。そんな彼女の存在感は実に、登場人物達に負けず劣らずな個性を持つそれであった。


 ……というか、ニュアージュには様を付けて呼んでいるんだな……。


「……ぬわぁ!! ひ、引き止めてしまってすんません!! でもでも、またあのレディーズお三方と一緒に話してみたいですし! 今度こそはね。今度こそは、あなたと、もう一人のお連れさんともぜひいらしてくださいっすよ!? あたしはもちろん、オーナー様も皆のことを気に入ってくれたみたいですし!!」


「あ、あぁ。そうするよ。……ユノとミントとニュアージュと。彼女らに丁重なおもてなしを施してくれて、本当にありがとな」


「んまぁ、それがあたしらの仕事っすから!! ……まー、あたしは失敗ばかりで、オーナー様が九割五分、十割全部とやってくれたもんっすけど…………ままま、とにかく、また来てくださいっすよ!? あたしぃ、皆さんのことぉ、待ってますからぁ!!!」


 なんだか、ものすごく熱いものを感じるモブキャラであった。


 そうして、宿屋:大海の木片をあとにした俺とペロ。

 ……だったのだが。あの宿屋に立ち寄ると伝えたその時にも、彼はすこぶる体調の優れない様子を見せていたものであり……。


「お、おい……大丈夫か、ペロ?」


「だ、だだだ……これが、大丈夫にみみみ、えるか…………? ――あでででででっ」


 ダンディー・ペロ、二日酔いで撃沈中。


 拠点エリア:マリーア・メガシティの人波にもまれるその中で。頭痛に悩まされながら、ただただ苦しそうな様相でいる彼。そんなペロを介護するために、マリーア・メガシティの公共のベンチで。それも、男二人で寄り添いながら座っているこの姿は、実に誤解を与えるに十分な要素を含む光景だったことだろう。


 だが、そんなことにも構っていられないと、ペロのその必死な様子。彼の不調は、傍から見ても易く判断できるほどにまで、そのコンディションは最悪なものであった。


 顔色は真っ青で。この人通りの多い、それも、街の広場ともされる聖母大都市のど真ん中というこの状況にも関わらず、今すぐにでも中身をぶち撒けそうな勢いの具合の悪さを伺わせる。


「宿屋への恐れで走り出すもんだから、てっきりもう具合が良くなったのかと思っていたんだが……」


「んなわけねぇだろぅ!! オレっちが! どれほどまで! あの宿屋を! 恐れているか――あーだだだだだだだッ!!!」


「おいおい、大声を出すと頭に響くぞ……」


 ファン・シィン・グゥ=ウゥなる人型モンスターの女性を恐れているのだろう。

 人に危害を加えないとされていて。それも、ユノ達もお世話になった宿屋のオーナーさんであれば、恐れも多少なりとも減少するかと思っていたものであったが。


 ……やはり、ペロはモンスターという存在自体を拒絶しているために、事はそこまで上手くは運べなかったか。


「ごァ……ぎゃぎゃぎゃ……頭が割れそうだ……おっぷ、吐きそう……」


「お、おいおい。ここでそれはまずいって! あ、あぁもう少しだけ耐えてくれ! 俺が今すぐ、人通りの無い場所へと連れていってやるから……!!」


 ペロの腕を肩に回しては、この公共の大広場から退散するように離れていって。人通りの少ない路地裏へと移動してはそこにペロを解き放ち。そこで、溜めに溜めた強タメ攻撃の力を一気に解放してもらう。


 ……その時にも、付近でたまっていた不良少年達を驚かせてしまったのは、本当に申し訳無いと思っている。そりゃそうだよな。だって、迷彩のバンダナにゴーグルをしたお兄さんが、突然とぶち撒け始めたのだから。


「……具合はどうだ?」


「せめて、ユノっちの温もりに包まれて死にたかった……」


「ただの二日酔いだ。大丈夫だ。直にも治る」


「ニュアっちの優しさが恋しいぜ……」


「この苦難を乗り越えたら、皆に会えるぞ。だから、あともう少しだけ頑張ってみないか?」


「ミッチーを見てほっこりしたい……」


「俺がそんなに不満か?」


「ソッチの趣味なんかねぇからよ……」


「どうやら、まだまだ大丈夫そうだな」


 肩に腕を回したまま、運ぶようにペロと街を歩んでいるその状況。

 体調はまだまだ優れないようではあるが、冗談を言える余裕はあるようで一安心といったところか。


 ……尤も。ペロの場合は、冗談か本音かの区別がつかないわけなのだが――


「……それにしても、色々と困ったな……」


 こうして完全にはぐれてしまったユノ達を探す、このイベント。

 その目的はもちろん、彼女らの発見ではあるものの。……しかし、何せ、そのイベントの目標である彼女らに、ミントというナビゲーターが混ざってしまっているが故に……。


「……ここ、どこだ? ……今、俺は一体、どこにいるんだ……?」


 拠点エリア:マリーア・メガシティにて、俺は完全に迷子となってしまっていた。


 そのフィールド。その拠点エリア。そのダンジョン。これまでの道のり、これまでの旅路は全て、ミント・ティーとなるナビゲーターのサポートによって成り立っていたために。そんな少女が傍にいないこの現状というものは、ある意味ではこれまでの中でもトップクラスとなる危機的状況下だ。


 ……ここで、ナビゲーターに頼りっぱなしというツケが返ってきたか……。


「……この街の見取り図はどこだ……そもそも、ユノ達はどこに設置されているんだ……?」


 手元に地図が無い今、見知らぬ地に取り残された孤独感に焦りを隠せない俺。

 それに加えて。唯一のパーティーメンバーが、体調不良でダウン状態であるペロという何とも心もとの無い面子。

 である以上、このイベントは俺自身の自力で何とかするしかないわけで……。


「……あ、あった!」


 この街のエリアとエリアを繋いでいるであろう大きな門。その隣の壁に貼られていた地図を発見しては、歓喜のままにそちらへと駆け出して。

 ペロを引きずるように運びながら、俺はマリーア・メガシティの見取り図の前に到着して。その地図を食い入るように眺めていく。


「……ここは、拠点エリア:マリーア・メガシティじゃなくて、『フィールド:聖母大都市・東口』というエリアなのか……」


 フィールド:聖母大都市・東口。

 それは、似たような街並みであったフィールド:聖母大都市・入り口とは異なるエリアであり。それでいて、フィールドと付いているだけあって、この地に留まっていること自体が非常にまずいというこの状況。


「幸いにも、この門の先がマリーア・メガシティか。……ということは、ここをくぐれば問題は無し――」


 そう思い、俺はペロを運びながらその門をくぐろうと歩を進めたその瞬間であった――



「盗賊だァーッ!!! 金品を盗まれたァ!!! 誰か、そいつをひっ捕らえてくれェ!!!」


 後方から、男性NPCの怒号が鳴り響いて。その付近のNPC達や、門番の兵士までもがそちらへと注目する。

 ……そして、そんな。見事にもタイミング悪く、新たなイベントと出くわしてしまった不運に。しかし、ユノ達との合流を第一に行動をと。今はそれどころではないと、俺はそのイベントを無視しようとしたものであったのだが……。


「ぐわァ!!」


 真横にいた、門番の兵士のボイスが聞こえてきて。

 ……何だ、この予感は。そんな、真横で繰り広げている展開に悪寒を感じつつも。もしやと思い、俺はゆっくりとそちらへ振り向いてみると――


「ッ!! 邪魔だァ!! どけェ!!」


 忍者スーツみたいな黒色の一式に、バンダナで口元を覆ったNPCがこちらへと突っ込んでくる。それも、短剣のような武器を俺に向けながら。


「――っ!! 剣士スキル:カウンター!!」


 やむを得ず、俺はペロを門の方へと突き飛ばすと同時に。武器:ソードの種類の中でも、特にリーチに長けたブロードソードを装備欄から選択しては取り出して迎撃する。


「ぐわァァァアッ!!!」


「ぐえェェェエッ!!?」


 剣士スキル:カウンターによる反撃を受けたNPCと。投げ飛ばされて門の壁に直撃するペロ双方のダメージボイスが響く。


 具合の悪かったペロはその衝撃によって、頭上に数匹のヒヨコを浮かせながら動かなくなって。しかし、一方では、目の前のNPCはすぐさま立ち上がっては再び構えてくるというこの場面。

 ……しかも、その上に。そのNPCの背後からは、全く同じ服装のNPCがもう一人と姿を現す。


「……ほんと、勘弁してくれよ……!!」


 出くわしてしまった、一つの突発的なフラグを回収する形となって。

 

 黒の忍者スーツらしき一式に身を包んだ、二人のNPCを相手に。俺はブロードソードを構えて戦闘態勢へと移行。


 人間との戦闘なんて初めてだ。そんな、人間との戦闘という。同じ形、同じ生態の敵と戦うという恐怖心に苛まれながらも。しかし、ここは何としてでも負けられないと自身を奮い立たせて。

 フィールド:聖母大都市・東口にて。突然現れては襲い掛かってきたNPC二人組を相手に、俺は勇気を抱いて戦闘へと臨んだ――――

【宣伝】サイト『ハーメルン』様にて、『ポケットモンスター フロンティア』なるポケモンの二次創作も始めました。投稿自体はこちらのRPGを優先するために、二次創作の方は不定期の更新となります。

ポケモンという作品に魅了されてから、早十数年。そんな、ポケモンという作品を私なりにアレンジした物語も、こちらの物語の延長線として閲覧していただけると嬉しい限りです。

https://syosetu.org/novel/144917/

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