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ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
三章
131/368

イベント:休息の命令

「ご主人様」


「うぉっ!?」


 ペロを連れて宿屋から出てこれた安心感に浸っていたその最中にも、背後から掛けられた声で驚く俺。

 ……と、そんな俺の声にびくっと驚くミント。


「ご主人様に永劫仕えるナビゲーターとして、ワタシもご主人様に同行いたします」


「ミ、ミント……」


 律儀に佇立したその姿で俺の斜め後ろに佇んでいては。俺の移動に合わせられるよう、いつでも動ける状態で俺の行動を待ち続けるその少女。


「……いつもありがとな。……でも、今回はその必要は無いよ」


「それは、このミント・ティーが至らない点が多すぎるが故の、戦力外通知。で、ございますか……?」


「い、いやいや! そんなことはない! ……むしろ、俺はミントに助けられてばかりだ。俺は、ミントという存在に心から感謝をしている。俺の傍にいてくれて、本当にありがとな」


「ッ――……いえ、そんなことは……」


 俺の礼を耳にしては、普段通りを繕いながらも。しかし、心から湧き上がってくる照れの感情のままに頬を赤く染めて、内心静かに喜んでいるのであろうミントの様子。


「……だからこそ。これは、絶好の機会なんだと思うんだ」


「絶好の機会……で、ございますか……?」


「そう。ミントというナビゲーターが、気を張らずに心から休むことができる、絶好の機会。……ミントは真面目なものだから、それでも、俺のサポートをしようと使命に臨むかもしれない。だが、ミントは今まで頑張ってきたんだ。だから、今日くらいは休息を満喫してみてもいいんじゃないか?」


「……それは、ワタシはユノ様とニュアージュ様と共に、こちらの宿屋で一泊を過ごせという命令でしょうか?」


「命令じゃあないんだけどなぁ……。でも、まぁ、ミントに一番伝わる言い方としては、そうだな……それじゃあ、この晩は、ユノとニュアージュのサポートに徹してくれ! その内容は――そうだな、ユノとニュアージュの言うことを必ず聞くこと! それが、俺からの命令だ! いいな?」


「ユノ様とニュアージュ様のサポート……で、ございますね。それでありましたら、このミント・ティー。ユノ様とニュアージュ様がより良い休息を得られるためのサポートを、この身を以ってして全力でいたしたいと思います……! これまでに無い試みで、このミント・ティー、緊張を――いえ、高揚感を感じております……!」


「その意気だ、ミント! その新たなる試みは、きっと俺へのサポートにも役に立つ日がやってくる! ――さぁ、俺からの命令。その使命と共に果たしてこい!」


「し、承知いたしましたっ!」



 緊張を帯びた面持ちでありながらも。気合を込めた返事と共に、踵を返して宿屋へと戻っていくその少女の背を見送る俺。


 真面目な芯を持つ、律儀な少女ミント。

 ただ、そのまま少女に休めと言っても、本人はその休息というものに抵抗を持ってしまっているがために。こちらの思うようにいかないどころか、むしろ、今まで以上に張り切りを抱いて気を引き締めてしまうその性格の持ち主。


 で、あれば。その対策は一つ。こちらから表面上の命令を下しておけば、少女はそれを真面目に快諾して真っ直ぐと取り組んでいくというもの。


「あら、ミントちゃん帰ってきたの? ――そう、アレウスが。わかったわ。じゃあ、今夜は私達と一緒に宿泊いたしましょう! ……それじゃあ、これで決まりね。えーっと……私達が、お客をすル人間達よ」


「おゥ! アリガタヤ!! それデ、宿泊ハいつくラいまでノご予定すル?」


「じゃあ……ひとまず、一日で!」


「まいド、おおきニー!!」


 これは一見すると、ご主人様からの直々となる命令ではあるものの。その内容は至極単純なものでもあった。


 その内容というものは至って簡単。それは、仲間達と共に過ごす、ただの休息だ。

 ……そう、彼女らの言うことを聞けという命令の、真の目的はそこにあった。


 ユノとニュアージュであれば、そのいたいけな少女に、一緒に休もうと気遣いによる休息を促すだろうし。それに加えての、彼女らの言うことを必ず聞くことという命令を下しているために。ミントは役割の遂行として、誠実と忠実さの元、それを実行することだろう。


「……ユノ、ニュアージュ。ミントのことは頼んだぞ」


 ナビゲーターという、ゲーム世界の概念から外れた未知なる生命体。しかし、その正体は、このゲーム世界に住むNPCと何も変わらない、まだ幼き少女そのもの。


 信用に足りる仲間達に少女を託した俺は、その安心感を抱いたまま。未だに気分が優れないのか、項垂れるように寄り掛かるペロを担ぐように押していきながら。

 俺はあてもなく、拠点エリア:マリーア・メガシティの夜を彷徨うことにしたのであった――――


「ペロ、起きてるか?」


「んぁ……あぁ、起きてるけど、今、絶賛、超絶気持ち悪い――おっぷ」


「うわ、ちょ、ペロ……! それだけは勘弁なんだが――」


「お、おェ――ア、アレっち。オレ……オレ……オレェェェエエ――」


「うわ……えぇ……。マジかよ…………」

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