予期せぬ驚きの再会
――前書き――
謹賀新年、明けましておめでとうございます。主人公様に永劫的に仕えるナビゲーター、ミント・ティーでございます。
新年早々と、その有意義となる貴重なお時間をこちらの物語に費やしてくださる、好奇心に満ち溢れたご主人様方に、まずは御礼の意を申し上げたいと思います。――主人公様による、主人公なりきり異世界生活を見守ってくださり。又、そんな主人公様やNPC達の生活を、文字という形にして書き起こしている作者の物語を閲覧してくださり、誠にありがとうございます。
ワタシ達が生きるこの物語を創り出したいという。脳裏で再生されている、ワタシ達の生き様を描き。それを形にしたいという意欲を源に、今日も直感のままに文字を綴る作者でありますが。そんな作者の、努力の結晶でもありますこちらの物語を、今後も温かな目で見守ってくださると。作者としても、ワタシとしても大変嬉しい限りでございます。
その中でもこの作者は、自分なりにという意気込みでこの年も努力を積み重ねていく所存であるため。そうして奮闘する作者と。又、その作者を通して描かれる主人公様とそのNPC達のことを、どうぞこれからもよろしくお願いいたします。
改めまして、明けましておめでとうございます。そして、新年早々、長文失礼いたしました。
謹賀新年。画面の前のご主人様方が、良き一年を過ごせますように。以上、主人公様に永劫的に仕えるナビゲーター、ミント・ティーでした。
「……ぱく、ぱく……ぱく……」
池を覗き込む、ミントの独り言。
待ち時間の暇を潰すためにと、あの女の子の従業員から受け渡されていた"ふ"を池の鯉に与えていたミント。池から口を出し、吸い取るかのようにふを食べていくその様子を眺めていては。ぱくぱくと口を動かす鯉のように口を動かし、その度にフフフッと笑みを零したりと、魚との戯れを心から満喫していたようだ。
個人経営である宿屋:大海の木片にて。この宿屋での宿泊と思って入ってみたはいいが。手続きの関係で、外出中であるらしいここの宿屋の"オーナー"の帰りを待ち続ける俺達。
その間にも、ユノとペロを中心として、いろいろな話題や世間話が交わされていたものだ。
「なぁユノっち。ここ、ホントに大丈夫なのか?? あの従業員、とても可愛い子だったけどよ。宿屋っつーもんを全然判ってなかったあの様子、なんだかすげェ怪しいんだが??」
「それなら大丈夫よ、ペロ君。というのもね、私、これでもいろんな個人経営の宿屋に宿泊したことがあってね。もちろん、回数もそれなりにあるものだから、良い所に泊まることができたし、悪い所に泊まってしまったこともあったわ。脅されてお金を取られそうになったりもしたから、私には経験というものがあるの」
「はぇ~、ユノっちはすげェなぁ。オレっちの歩いてきた場所もほとんど知ってるしよぉ。ホント、歩く観光案内所みたいなもんだなぁ~。……んで、ここは大丈夫なのかぁ??」
「えぇ、ここは大丈夫。この雰囲気と従業員は良心的なものを感じるわ。……それも、これまでに巡ってきた個人経営の中でも、ダントツに良い雰囲気。さすがは、私の未だ知らない未知なだけあるわ。ここで過ごす生活が、とても楽しみね」
酔いが無くなってもその勢いは健在として。ユノとペロの間で会話が盛り上がるその中で、時々ニュアージュやミントが加わってといったやり取りが俺の周りで交わされていく。
そんなパーティーメンバー達の様子を眺めていては。あぁ、やっぱり、仲間というのは最高だなぁ、と。旅を共にする仲間達の存在を改めて認識して。そして、今の状況に心からの安心感を覚えた俺。
そうして、今という瞬間を自分なりに満喫していたものであったのだが。……その時にも、今現在として進行中であった現在のイベントにとうとう動きが見られたのか。
その瞬間にも。俺のもとには、次なる展開が突如として舞い込んできたのだ――
「……ん、あれもお客さんかな――?」
宿屋の引き戸に映った人影に気付き、ふと呟いてしまう。
というのも、あの女の子従業員の様子を見るからに、どうやらこの宿屋は相当なまでに客足が少ないようであったために。その人影がこの宿屋の引き戸に手を掛けた様子を見て、俺達以外のお客さんが訪れたのかなと。
この宿屋の従業員ではないものの、こうして現れた俺達以外のお客さんになんだかちょっぴり嬉しくなってしまった俺であったのだが。
……そんな俺の高揚感と共に引き戸が開けられると。その次には、思わずその場の全員が息を飲んで固まってしまったのだ――
「おゥ!! ただいまだヨー!!」
不慣れなカタコトと特有の訛りが混じった、とても独特で不思議な調子の女性の声が響き渡り。
引き戸の向こうから現れたのは。ベリーダンスという印象を受けるであろう、暗めの赤色や桃色が縦に伸びる、露出の多い服とハーレムパンツに身を纏う、エメラルドの如き鮮やかな緑の全身と。ピンクサファイアのように鮮やかな桃色の長髪の女性。
……そう。その人物は、先程に出会った酒場の店員さんだったのだ。
「ギィヤァアアアアァァァァァァアアアッ!!! アァァァァアアアアァァァァアッッ!!!」
「あラー!! 皆さんハ、さっきお店に顔出ししタお客さマ!! こゆときハ、まタ、お会いしましタ? お久しぶりでス? 感動ノ再開? 伝えル言葉に迷子すルけれド、そんなカンジの挨拶ガ心得。これハ、大切にすルしなキャいけなイ、大事ナ決まリ事!! ……そウ!! これガ、マナーといウもノ!!」
モンスターという存在に、生理的な拒絶反応を示すペロが堪らず叫び上がり。そんな彼を前にしながらも、まるで意に介さない様子で独特な調子で挨拶をしてくるその女性。
ユノが言うには、あの女性は確か……人型モンスターという種類の、人とは割と友好的なモンスターであったハズなものだが……。
「ど、どどど、どうかされましたかぁお客様ぁぁっ!!?」
そんなペロの叫び声を聞きつけてか、あのユノさえも圧倒する勢いを持つ女の子従業員が廊下の奥から走ってくるものであったのだが。
恐怖のあまりに、ユノに引っ付くペロへと見遣……るのではなく。宿屋の入り口に立っていたその人型モンスターの女性へと視線を向けては、ぬわぁっ!! と声をあげて驚きを示す女の子従業員。
まぁ、そりゃあそうだよな。いくら友好的なモンスターとは言え、突然としてモンスターが目の前で佇んでいたら、そりゃあ驚くことにきっと違いない――
「"オーナー"さんっ!! いつの間に、お戻りになられていたのですねっ!!」
「おゥ!! ただいまだヨ!!」
えっ?
目の前のやり取りに、唖然として目が点になる俺。
「もー、オーナーさん。いっつも、音も無く帰ってくるもんっすから。あたし、急に存在しているオーナーさんの姿に毎度毎度驚かされるっすよぉ」
「あゥ、ええっト。こういう時ハ……謝罪? お詫ビ? お許しヲ? ……えっト、そウ! こういう時ハ、土下座ガ大事!! わたシ、貴女に土下座すルしまス!! どうモ、ごめんなさイでしタ!! 土下座ッ!!」
「もー、オーナーさん。土下座というものは口で言うものではなく、行動として相手に示す謝罪の極み。正に、謝罪の必殺奥義。許しを乞う相手に対する、最後の切り札のようなものなんすよ? あたし、土下座に関してはプロ中のプロなんで、例としてオーナーさんに見せます。これからやってみますんで、あたしの土下座、よく見ていてくださいね?」
そう言うなり、女の子従業員はその気迫を纏う勢いのままに、すいませんでしたぁぁぁあっ!!! と、渾身の土下座を披露する。
そのキレの良い動きに加えて。迷いの無い動作。腹からしっかりと声を出した謝罪の言葉。そして、最終的な土下座のフォルムは、もはや賞賛に値するほどまでの完璧な形を作り出していて。
いやぁ、良いものを見ることができた、と。俺は、目の前の光景に心からの満足を得ることができた。……と言っている場合じゃないよなこれ!?
「なぁ、ミント。さっきから、あの女性がオーナーと呼ばれているように見えるんだが。それって、俺の気のせいか?」
「ご主人様の判断は、正に正常で正しいかと思われます。ただいまスキャンを終えて確認することができましたが。どうやら、あちらに佇む人型モンスターこそが。こちらの宿屋:大海の木片のオーナーで間違いありません」
その瞬間にも、俺は戦慄した。
それは、見ず知らずの内にもこうして、既に新たな出会いを果たしているというゲーム世界の展開に驚き。それでいて、あまりにも何気無いシーンの一つ一つにも、このゲーム世界を構築していくフラグが蔓延っていることに恐れを覚えて。
無意識の中でこの世界の行く末を定めてしまっている今の自分自身に恐怖し。そして、そんな世界を変えてしまえるほどの引力を持つ主人公の影響力を目撃したことによって。
……俺は改めて、主人公という自身の立場を思い知らされることとなった――
「おゥ! もしかしてお客さマ、ここもお客さマ?」
「え、えぇっと……」
このゲーム世界のシステム上。その宿屋のオーナーが、そのステージにおける重要人物になるという世界観から。
今回のキーパーソンともなる、人型モンスターの女性に尋ねられたユノは。目前からの問い掛けに対して。自身の胸元に飛び付いて恐怖で震えているペロへと視線を落としてから、再び見上げて女性を見遣る。
「そ、そうね。……そのつもりだったのだけれども――」
「わァ!! なんてアリガタヤ!! わたシがオーナーする宿屋ヲ宿泊!! おっト、宿泊のお客さマへの礼儀、忘れルことなかレってマニュアルにあっタ! マニュアルの約束、心かラ約束するヨ!!」
「あ、あのね。私の仲間が、ちょっと気分が良くないみたいだから――」
女の子従業員よろしく、その人型モンスターの女性もまた、やけに勢いを纏った力強くパワフルなキャラクターであったためか。
ペロに気を遣い、宿屋の移動を検討するユノではあったが。しかし、目前の存在による、未知なる勢いを前に。そのユノでさえも太刀打ちすることができず……。
「わたシの名前ハ『ファン・シィン・グゥ=ウゥ』と呼ビます! 以降、オ見知りおきヲ!!」
余程なまでの喜びであったのだろうか。意気揚々とこちらへ自己紹介をしてきた、人型モンスターの女性及び、"ファン"というトロールの女性モンスター。
そんな彼女の勢いに飲まれるがまま、話は先へ先へと進んでいく……。
「うっ……うぅ……ユノっち……誰か……助けて……あぎっ、あぎっ――」
目の前のモンスターを前にして。恐怖の感情で、ただただユノにすがり付いては震え続けるペロの姿。
……待ってろペロ。その恐怖を一秒でも早く取り除くために、上手くタイミングを見計らって俺が助けてやるから――――




