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ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
三章
124/368

停滞と再開、そしてまた停滞

「ユノっちの温もり、すげェ温かかった。優しさ的にも、物理的にも……」


 酒場のテーブルに力無く項垂れているペロの、力無く呟かれたその言葉。


 先程の、人型モンスターとの件を介して。ユノに強く当たってしまったその反省を兼ねて、彼女にひたすらと謝罪を繰り返していたペロ。


 ユノも、もういいよと先程の行いを許しているにも関わらず。それでも、彼の中からはその申し訳無さが消えないのか。これまでの中では一番とも言える、何とも彼らしくないローテンションな状態のまま、そう呟き続けている。


 ……反省と言っても、その内容は主として、ユノの温もりを肌で感じられたというものばかりであるあたりに。女性に対して調子の良い彼らしさは、未だに健在と言ったところか。


「その……私もごめんね。もっと、ペロ君のことを考えた上での会話をすれば良かったかもって。今更ながら、そう思えちゃって……」


「ユノっちは悪くねぇよ。ユノっちはホントに温かい女の子だなぁ。きっと将来、良いお嫁さんになれるよ」


「お、お嫁さん……」


 お嫁さんと言う言葉を聞き、顔を赤くするユノ。


 ……いや、何なんだ、この空気は。

 というか、いや、待て。そもそもの話として、これって、人型モンスターについて尋ねた俺が全ての原因なのでは――

 

「……あの、せっかくこうして豪勢なお食事も届いたことですし。また、改めての乾杯をしませんか?」


 そんな、何とも微妙な空気となっていたこの空間に、一つの名案を投じていくニュアージュ。

 さすがはニュアージュだ。こんな停滞した空気の中であっても、そうして軌道修正を図る言葉を怖気付く事も無く投げ掛けられるとは。彼女の個性である、前に進み続けるその勇気は、正に伊達ではない。


 ……そして、そんなニュアージュを更に後押しをするかのように。お食事という言葉を聞いてか、まるで思い出したかのように鳴り響く腹の虫を抑え切れなかったミント。

 この空気とはとんだ場違いな羞恥と共に。頬を赤く染めて恥ずかしがりながら、やってしまったと言わんばかりに腹を押さえるその控えめな動作が加わったことによって――


「……そうね。せっかくの祝宴会だったのに、なんだかごめんなさい。ペロ君、私はもう大丈夫だし。それに、元はと言えば私の――いえ、もう、止めておきましょうか。……ほら、ペロ君! 起きて!」


「ユ、ユノっちぃ…………」


 太陽のように明るく、温もりのある声音で。隣のペロの肩を叩いては彼を起こし。ジョッキを持ち上げては、ペロにもそれを催促する視線を向ける。


 それを見て、ユノと同様にジョッキを持ち上げるペロ。

 その動作を確認しては、まずは、仲直りということで乾杯を交わし。それによって気分が戻ってきたペロの様子を伺っては、それじゃあ、次はみんなでということでジョッキを突き出すユノ。


「……それじゃあ、改めまして! これまでの旅路と、その道中を共に辿ってきた仲間達への感謝を込めた乾杯をしましょう!!」


 再び巡ってきた、いつもの活気と共に。


 皆でジョッキとコップを持ち上げて。この空気を変えるための、口直しの乾杯を交わそうと。

 それぞれで再び見せた、満天な笑顔と共にして。こうして戻ってきた活気と。これまでに巡ってきた事柄の数々に感謝の気持ちを込めた乾杯が、今、交わされる――



「――あっ、ご、ごめんっ」


 ふと、急に、恥ずかしそうに俯き出したユノ。


 祝杯を交わそうとしたその矢先で、急に、身体を引き締めるようにキュッと縮こまった彼女。

 あまりにも唐突ながらも。しかし、どこかとんでもない急ぎを思わせるユノの変調に、思わず皆が疑念を抱く。


「ユーちゃん、どうかしたの~?」


「あぅ、そのっ……え、えっとね。あ、ご、ごめん。ちょっと、急に催してきちゃって……」


「催して? …………あら、まぁ」


 ユノの言葉を、少ししてから理解したニュアージュ。


「そう言えばわたし達、既にお酒を飲んでいたよね~。お酒を摂取した後は、そうなっちゃうわよね。……ユーちゃん! 大変なことになる前に、先に行ってきちゃって!」


「ご、ごめんねアーちゃん!! あと、みんなも!! す、すぐ戻ってくるからっ!!」


 その意は、既にかなりの域に達していたのだろう。

 急ぎで立ち上がるなり、全力で駆け出していったユノ。そんな彼女の背を見送っては、急ぎで駆け出していった彼女の様子に、つい微笑を浮かべてしまうその場の全員。


 ……それにしても、だ。圧巻な広さを誇るこの酒場の中であっては、まず、意を足す場に辿り着くだけでも相当なまでの苦労も強いられることだろう。


 そんな、ユノの急用によって。乾杯はひとまず先送りとなってしまった今。目の前に並ぶ豪勢な料理を、まだかまだかと待ち切れない様相で眺め続けるミントと。今までと変わらず、この場にまるで似合わないお上品な様子でユノを待つニュアージュと。そして、先程まではいろいろとあった、未だに謎だらけな素性を持つペロと共に。


 俺は、ユノの戻ってくるその時を待ち続けたのであった。



 ……そう。ユノの元に、ある一つの影が迫っていたことも知らずに――――


「……ユノっちの温もり。……なるほど、そうか。だから、ユノっちはあれほどまでに体温が高くて温かかったのか……!!」


「おいおい…………」

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