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ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
三章
123/368

人の形を成したモンスター

「あラー、ビックリさせちゃエてごめんなさいネー。でモ、これモ商売? 販売? 売り物? だかラ、致し方ナシナシだヨー!」


 それは、不慣れなカタコトと特有の訛りが混じった、とても独特で不思議な喋り方をする女性の声であって。

 そんな、側から聞こえてきた女性の声の方へと視線を向けると。そこには、こちらがオーダーしたディナーの品々を、銀色の大きなお盆に乗せてやってきていた一匹のモンスターがそこに立っていたのだ。


 身長は百七十七くらいか。俺よりも背の高いそれは、見た限りではモンスターそのものとして解釈することができるものの。それでもしかし、一目でそう判別できてしまえるほどにまで、それははっきりとした人間の姿を成していたのだ――



 百七十七の身長。エメラルドのような明るい緑の全身に。ピンクサファイアのような、鮮やかな桃色の長髪。


 ベリーダンスという印象を受けるであろう、暗めの赤色や桃色が縦に伸びる、露出の多い服とハーレムパンツ。露出の多いそれらに僅かながら包まれた緑色の身体は、顔と両腕と、くびれたへそ部分からはエメラルドの如き鮮やかな緑を放っており。首下や胸、腰周りからは溢れんばかりの、真緑の体毛が綺麗に整えられた状態で生い茂るように生えていて。


 丸みを帯びた輪郭に。桜色の、鮮やかなピンクのとても大きな目。顔付きも、人間の幼い少女を思わせる、どこかあどけなさを感じさせるものであり。

 また、膝部分にまで伸びるピンクの長髪にはカールがかかっており。それが、彼女の人外となる見た目に、キュートな少女を匂わせる絶妙なアクセントが加えられていて。


 それを思ってしまえば。その、大きく尖っていながらも、先端が潰れて醜い形状となっている鼻や。丸みを帯びている輪郭に等しく広がる大きな口も。むしろ、彼女にとってのチャームポイントとして見受けられるようになる。


「それニ、ビックリするハ、こっちのご飯にもだヨ! はーイ! お待ちドー!」


 その高身長なる体格と、その緑とピンクに染まるモンスターからはまるで想像できない、とても可愛らしい声で。

 手首や指の関節に生い茂る体毛が目を引く、モンスターらしくとてもごつごつとした形の手で。持ち上げていたディナーを、随分と慣れた動作でテーブルに乗せていくそのモンスター。


 その様子を、ただただ仰天ばかりのままに見守っていってから。運んできていた全てのディナーを乗せ終えたそのモンスターに、ふとユノが声を掛けていった。


「ねぇねぇ。貴女、もしかしなくても、"人型の女の子"かしら?」


「はーイ。わたシ、"人型モンスタ~"。"トロールド"のメスをやっておりまスでございま~ス」


「まぁ!! 人型トロールの女の子!? へぇ~……そもそも、人型トロールっていうのを初めて見たわ! ……人型トロール。それも、女の子の人型トロールって、こんなにもキュートなのね~。……なんという新発見! これはまさしく、未知だわ!!」


 そう言い、新たな出会いに目を輝かせるユノ。……に、無我無心と引っ付いていては、目の前のモンスターに恐怖してがたがたぶるぶると身体を震わせているペロの姿がそこにあった。


 ――にしても、だ……。


「なぁユノ。その、"人型"っていうのは一体何なんだ?」


「あら。その様子だと、アレウスもまた、目の前に未知を見出した様子ね」


 自身と同じく。しかし、自身とは異なり、まず根本的な部分を知らない俺の状況を全て把握するユノ。

 これまでの旅路で、俺に関するある程度の理解が高まっていたのか。俺の、このゲーム世界に関するあらゆる物事や事象を知らないという様子に何の驚きを見せることもなく。それじゃあいつものように、と。ユノは目の前の存在についての説明を始めた。


「えっとね、人型っていうのはね。……とは言っても、ま、読んで字の如くってところかしら。そのままの意味で、人の形をしているモンスターのことを、人型モンスターって言ったりするの」


「人型モンスター……この様子を見る限りでは、それって人なのか? それとも、やっぱりモンスターなのか?」


 俺の疑問を耳にして、とても複雑な表情を浮かべては。少し考える素振りを見せて、直にも再び話を再開するユノ。


「厳密には、モンスターにあたるかしらね。でもね、これは、社会的にとても難しいところなの。何せ、相手はモンスターなものだから。……そう、これは所謂、グレーゾーンって言ったところかしら? そのために、各地域ごとに認識がそれぞれ異なっていたりするものなのだけれども。……少なくとも、この大都市、マリーア・メガシティでは、人型モンスターのことを人間として見ることとなっていて。また、友好的な姿勢で関わるようにっていう、そういう条例までも下していたりと。ここは、人型モンスターへの対応がとても優しいところであったりはするわね。……まぁ、それでも、全ての人がそういう認識ではないのだけれども。」


「へぇ……なんだか、複雑なんだな……」


「そ、すっごく複雑。それでね、人型モンスターっていうのは、人の形をしているモンスターのことを指していて。――そもそもね、モンスターという種族にも、いろいろな種類が存在していて。私達がよく見るあのモンスター達は、そのままの意味でモンスターと呼んで倒したりしているのだけれども。こっちの女の子みたいに、人の形を成して生まれてきたモンスターのことを人型モンスターって呼んだりしていて。そんな人型モンスター達とは、逆に、互いに友好的な関わりを得たりしているの。……そうねぇ。取り敢えずでもわかりやすく説明をするとね。人の形をしているか、していないか。取り敢えず、今はそれだけの問題として、それで認識しておいていいかも?」


 簡単なような、難しいような。そんな複雑な話ではあったものの。要は、人の形をしているモンスターのことを、そのままの意味で人型モンスターと呼んでいるということだな。


 ただ、それが果たして本当に、人と友好的な関係を築ける種類であるということなのか。しかし、それであれば、俺が過去に対峙した、人のような形を成していたあのオオカミ親分は、一体何だったのだろうか。

 といった様々な疑問が残ってしまうために。今回のユノの説明では、理解や把握に至るまでにはとても及ばなかった。


 じゃあ、それについても彼女から聞けばいいじゃない。ということで、俺はその続きを聞こうとユノに尋ね掛けてみようとしたものであったが。


 ……しかし、俺の、周りへの配慮が足りなかったためなのか。それとも、そういうイベントであったのか。その真相は未だにわからないが、その直後にも、この話は一旦でも終わりにしなければならない空気へとなってしまったのだ――



「元々、モンスターという生物は、人間の変異から生まれ成した新種。つまり、新人類という説があるから、それに乗っ取って説明をするとね……この子は、モンスターという種族に属するけれども、その実は、れっきとした人間……と説明をすることができるかしら――」


「ふざけんなッ!!! あんなヤツらが人間なわけがあるかよッ!!! ヤツはれっきとしたモンスターだッ!! 敵なんだッ!! ヤツらは、"オレ"達を殺すためだけにこの世界を蔓延っているんだよッ!!!」


 瞬間、その場の空気が固まった。

 

 彼の怒声は、依然として大盛況の中に消え失せていったものであったが。しかし、その言葉が消えていった後にも、俺達の記憶には彼の言葉がしっかりと残されていて……。


「――ちょっと。ちょっとペロ君!! いきなり何を言って……!!」


「あれは人の形をした悪魔だッ!!! こうして人間という生き物に偽って。そして、オレ達を殺し貪り喰らう機会を伺う、紛れも無い非道な殺人鬼!!! こいつらは人間の敵なんだよッ!!! 人型なんぞ関係ねェ!!! あんなヤツらなんてクソ食らえだッ!! 消えちまえ!! あんな腐れ外道野郎共ォォォオッ!!!」


「――ちょっと、ペロ君!! こらッ!! いくら仲間と言えども、関係の無いあの子に対しての失礼な言葉は、私絶対に許さないから――」


「失礼だろうが知ったこっちゃねェ!!! オレはマジでモンスターは勘弁なんだよォッ!!! 絶対に、ヤツらは絶対に絶滅するべきなんだよォッ!!! もう、モンスターは嫌だァッ!!! 嫌だァァッ!!! ヤツらがいる限りオレはァ!!! オレはァァァァアッ!!!!」


「ちょ、ちょっと――ペロ君! ペロ君……落ち着いて――!!」


 発狂するかのように叫び出しては、あのペロが女性であるユノの胸倉を掴み。そして、感情のままに強引と彼女を揺るがし始めるペロ。

 

 あまりにも突然なその光景を目の当たりにして。しかし、興奮のままに、その暴力的な行動に出たやつを何としてでも止めるべく。俺は咄嗟に席から駆け出しては、二人のもとへと近付こうとしたのだが。


 ……しかし、断末魔の如く弱々しく叫び続けていくその内にも。やつのゴーグルからは、尋常ではないほどの涙が零れ始めて。


 ――次に、崩れ落ちるように力無くうなだれては。そのまま悲壮な喚き声をあげながら、ペロはユノの胸元で咽び泣き始めてしまったのだ。


「ペ、ペロ君…………?」


 その光景が、あまりにも悲壮感を伺わせるものであったから。


 先程の暴力的な行動どころではなくなってしまったその空気の中。止めに入ろうとした俺を手で制止させては、自身の胸元で咽び泣き続けるペロの頭を撫で始めるユノ。

 

 ……それにしても、だ。彼の雰囲気や調子的に、ただ単にモンスターを避け続ける、陽気でどこか調子の良いキャラクターなのかなという、とんだ軽い認識であったものであったが。まさか、ペロの、大のモンスター嫌いがこれほどまでのものであったとはとても思っていなかったために。


 彼の様子を見てからというもの、その様子からはただならぬ成り行きを感じることができて。

 ……次にも、ペロ・アレグレというキャラクターについての理解を深めておいた方がいいのかもしれないなと。そう思えてしまう、とても衝撃的な場面であった。


 ……ミントのスキャンで、ペロの何かしらがわかるかもしれない。あとでミントに、こっそりと尋ねてみるとでもしよう。


「……おゥ、ごめんなさいネー。大ビックリさせるワケじゃなかったヨ。でモ、わたシ、まだまだネ。人間ニなる修行? 進化? 発展? が全ク足りなかったかナー?」


 カタコトと訛りという、独特な喋り方から伝わってきた、申し訳なさそうなその調子のまま。

 こちらも同様に、なんだか申し訳ない気持ちのまま会釈をしては。その人型モンスターと別れた俺達。


 ……それからというもの、ペロは少しばかりか落ち着きを取り戻していって。


 そして、すまねぇ、ユノっちと。謝罪の言葉を交えながら、ペロは涙で濡れに濡れた顔を上げたのであった――――

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