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ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
三章
121/368

拠点エリア:マリーア・メガシティ

「着いたわ!! みんなお疲れ~! ここが、アーちゃんの目的地兼私達のゴール地点。経済と女神の大都市、マリーア・メガシティよ!!」


 フィールド:聖母大都市・入り口を奥へと進み、その先に存在していた大きな門をくぐると。その先には、先程の街並みを遥かに凌駕する。大都市の中心部ならではの大規模な光景が広がっていた。


 西洋風の建物の数々。お洒落な街路。澄み切った川。洒落た装飾。

 白色をベースとして。プラチナのような煌きが、活気ある街並みを飾るこの大都市。『拠点エリア:マリーア・メガシティ』。

 その大都市という名に相応しくごった返す建物の数々や。忙しなく行き交う人々という目の前の光景は正に、人類による人類のための空間とでも言えるだろうか。


「う~っん――この、あちこちからがやがやと聞こえてくる色々な音! 目が回りそうになるほど動き回っている、人や物の姿! そして! 未知という、未だ見ぬ事象が常に転がっているかもしれない、圧巻とも言えるこの街の広さ! ……最高だわ! 生きている実感をこの肌で感じるわ! この昂ってくる高揚感、もう抑え切れない!!」


 久々の都会で、えらくテンションが上がっているのか。

 その地域特有の空気を吸い、それに感化され今まで以上にご機嫌な様子を見せるユノ。溢れ出す探究心を抑え切れないと言い、両腕を交差させては。両肩を手で掴み、自身の好奇心を物理的に抑え込むその様子を見て、俺は何とも言えない感情を抱く。


 そんな、アガるテンションのままに現地の空間を楽しんでいた目の前のユノとは対象的に。今までの過去が過去であったためか、このごった返す人混みを恐れて俺の陰に隠れてしまうニュアージュと。彼女と同様に、人混みというこの忙しない空間に慣れていないためか、どこか不安な面持ちでありながら律儀に佇立をしているミントの様子が伺えて。


 また、それとはまるで対象的に。溢れんばかりの人口密度によって、外部からの脅威という心配事から解放されたペロは。ユノと同様に、この空間をえらく気に入っている様子であった。


「……ニュアージュ、大丈夫か?」


「は、はい! ……あぅ。ごめんなさい、嘘をつきました。……実は、すごく怖いです……もし、わたしの顔を知っている人がいたらと考えると、尚更……」


 そう言い、その百七十二という少女にしては高身長の身体を、こちらにぐいぐいと押し付けてくる。

 余程なまでに恐ろしいのだろう。こちらの背につけてきた彼女の身体からは、激しく脈打つ心臓の鼓動を感じることができた。


「……大丈夫だニュアージュ。俺達が傍についている。……何だったら、そのお使いを終えた後も、しばらくは一緒に行動しよう。そうすれば、その恐怖心も少しはマシになるかもしれない」


「……ありがとうございます、アレウスさん。……ですが、わたしは人として今よりも強くなるために、目の前の現実と向かい合い、心の成長を促したいのです……!」


 あまりの緊張で、絶え絶えとなった息切れを起こしながら。しかし、真っ直ぐな瞳を向けながら、一切逸らすことなく俺の顔を見つめ続けてくるニュアージュ。


 そこから放たれる彼女の熱意と勇気は、実に見習うべきものがあった。

 目的のために。他人のために、自身を磨り減らしてまで頑張れるその強い心は。正に、悲劇の過去を乗り越えてきたニュアージュならではの立派な長所として、彼女という存在を成り立たせている。


 ……だが、それは立派な長所となり。又、場合によっては、致命的な短所ともなり得る諸刃の思考でもあった――


「その心意気は、さすがニュアージュなだけあるよ。ニュアージュのその勇気を、俺は心から尊敬する。……でも、無理をして潰れてしまったら、それまでだからな。自分では大丈夫だと思っていても、俺が――いや、俺達みんなが、ニュアージュのことを心配しているんだ。今はこうして俺達がついているから、存分に自由の利く練習ができるってもんだが。一人となると、そうはいかないかもしれない。……頑張ろうという心意気はとてもすごいが、もう少しゆっくりなペースで頑張ってみてもいいんじゃないか?」


「……ありがとうございます。アレウスさん」


 これが、ニュアージュのためになったのかどうかはわからなかったが。

 俺の言葉を聞いては、やんわりな微笑で答えるニュアージュ。


 その優雅な見た目とは裏腹に、猪突猛進な勢いで前へ前へと進んでいくその精神の強さは、さすがニュアージュといったところなのだが。だが、やはりその分、それだけの不安が募ってきてしまうのもまた事実。

 彼女をあまり一人にはしたくないものではあったが、だからと言って、彼女の勇気ある意思を否定したくなどない気持ちもあったために。一人で行くという彼女を無理にでも引き止めるつもりは、俺には毛頭無かった。


 ……果たして、ニュアージュはこの先、一体どんな選択肢を選んでいくのだろうか――



「さぁ! こうしてマリーア・メガシティに到着したものだから。ここは早速ショッピングを――っと思ったけれど。ここはまず、今日のお疲れ様祝宴会の会場を決めなきゃよね!!」


「へぁ? お疲れ様祝宴会??」


「そっ! ……あれ? ペロ君知らなかった? 冒険の後は、これまでに巡ってきた旅路の出来事や景色に感謝を示すために、冒険者のほとんどは慰労の意味を込めた祝宴を開く風習があるのよ?」


「はぇ~、そんなものがあるんだな~」


 さすがは冒険者を野蛮人と言っていただけあって。ペロは、そちらの事に関する知識は全く無かったようだ。


 ユノから祝宴会の説明を受けて。それじゃあ、安心して美味いもんを食えるのか!? っと、今日の晩餐にテンションが昂るペロ。

 そんなペロの脇では。同じく美味い物に反応を示したミントが、もう待ち切れないと言わんばかりに目を輝かせながらユノのことを見つめている。


「……なるほどな。これが、世界を共に巡る仲間。ゲーム内で言う、システム:パーティーというものなのか」


「――アレウスさん?」


 あっ、と。つい零した言葉をニュアージュに聞かれて恥ずかしくなる俺。

 そんな彼女もまた、このパーティーには欠かせない存在だ。


「な、なんでもないよ。……それよりも、どうだ? 気持ちはだいぶ落ち着いたか?」


「あ、はい。……アレウスさんのおかげで、だいぶ気持ちが楽になりました」


 そう言い、どこか名残惜しく俺から離れるニュアージュ。

 

「……実はと言うと、この後にも、皆さんにお別れの言葉を伝えようと思っておりました。……ですが、やっぱりわたしにはまだ、自立というものは無理なようです……」


 両手を組み合わせながら。悔いるように呟いていくニュアージュ。

 その様子は、未だに勇気が足りないと、自身を思い詰めているように見えてしまったものであったが……。


「――もう少しゆっくりなペースで頑張る。……先程のアレウスさんのお言葉で、少しばかりか気持ちが楽になりました。しかし……それと同時に、よりアレウスさん達とは離れたくなくなってしまって……」


 ……その雰囲気からして、どうやら。俺の知らないどこかで、いつの間にやら選択肢が現れていたみたいであり。そして、それは一つのフラグを立てていたようだ。


 その選択肢は。そのフラグは、自身の行動や運命を定めるものではなく。主人公を中心とした、周りへの影響という、この先の展開を定めるイベントの決定。つまるところ、ルートの分岐だったのかなと、そう思えて――


「……だから、その……。……もう少しだけ、アレウスさんと、皆さんの存在に甘えてもよろしいでしょうか……?」


 我ながら、俺は最良の選択肢を選んだと思う。

 そう言うなり、頬を赤く染めながら、俺のことを見つめてきては。ニュアージュは柔らかい声音で、とてもいじらしく、そう尋ね掛けてきたのだ。


「……もちろんだよ。むしろ、その方がユノやミントは喜ぶだろうし――あと、ペロもな。……それに俺も、とても安心する。だから、ニュアージュが自信を持って自立ができるようになるその時まで、俺達と行動を共にしよう」


「……ありがとうございます……!!」


 こちらの返答を聞き、ニュアージュは何かから解放されたかのような、明るい声音で礼の言葉を伝えてくる。

 その様子と共に、安堵で柔らかく浮かべたニュアージュの笑みは。とても麗しく、とても彼女らしい温もりのある笑顔であった――


「アレウスー!! アーちゃん!! さぁ出発よ! これから、お疲れ様祝宴会の会場を歩き回りながら探すわよ!!」


「アレっちィ早く来い!! じゃないと、オレっちが美味い飯にありつけないだろー!!」


「…………ご飯……!」


 こちらに手を振ってくるユノに呼び掛けられて。

 それに続いて、何故か俺にだけ強くあたってくるペロと。もはや、食事という物事のことしか考えられなくなっているナビゲーターのミントがそこにいて。


 パーティーメンバーに呼ばれては、皆のもとへと駆け寄っていく俺とニュアージュ。

 それからというもの、そうして合流した後には、皆で他愛も無い話を交わしながらマリーア・メガシティの街中を歩いていくこととなった。


 なんて至福の一時なんだ。

 場合によっては、既にニュアージュが脱退していたかもしれない展開の中で選択肢を選び。そうして、五人という人数のパーティーメンバーで街を巡るこの姿は正に、立派なゲームの主人公そのものであったことにきっと違いない。


 今の至福を心行くままに満喫し。そして、これからも、こんな日々が続いてくれると嬉しいな。と、この今に見出した喜びを、この先にも願い続けた俺。

 ……そう、俺は今、幸福の絶頂を感じていた。


 ――だが、この時にも、俺は忘れていた。

 この世界は、フラグというシステムによって全てが定められるという。このゲーム世界における、覆し様の無い絶対的なる摂理の存在を。


 幸せな展開を迎えたら、それに匹敵するであろう異なる展開のフラグが、その姿を現すかもしれない。

 後になって、ふとそれを思い返し。次には、この先の展開に、心からの恐怖によって震え上がり。


 ……そして、見出せぬ希望に、全てにおける終わりを予感することとなったのは、まだ、もう少し先になってからであった――――

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