フィールド:聖母大都市・入り口
「アレウス! ミントちゃん! アーちゃん! ペロ君! ついに、目的地に到着よ!!」
左手を腰に添え、右腕を伸ばし指を差しながら。溢れ出る活気のままに、高らかと言い放ったユノ。
そんなユノを先頭にして、俺達が目にしたその光景。それは、白を趣とした西洋風の建物が、列を成すかのように奥へ奥へと連なり。お洒落な石造りの街路に。洒落た街灯や装飾が、あちらこちらで西洋風独特の煌びやかな輝きを放っているというものであって。
この街路だけでも、相当なまでの店舗や屋台などがずらりと並んでおり。その街中を、溢れんばかりの人通りがごった返しで埋め尽くしている。
その様子は正に、祭りで混み合う混雑を思わせて。これだけでも、これまでと比べたらだいぶ異なる雰囲気であったのに。
さすがは大都市と言うべきか。なんとこの街路の奥。この光景の奥に待ち構えていたのは。この大都市を一望することができるほどまでの巨大な建物が、壁の如く隙間無くびっしりと連なるその光景の数々と。それらのど真ん中。この大都市の中央にあたる場所には、周りの建物を遥かに凌駕する、壮麗な巨大建造物がそびえ立っていたのだ。
それは、女性のような形をしており。天に祈りを捧げているのであろうその姿は、正に女神像とも呼べるだろうか。
その女神像の周囲には、煌びやかな装飾が張り巡らされていたり。かなりの距離が離れているであろうこの地からでも、時刻が確認することができるほどの巨大な時計が取り付けられていたりと。周囲の建物と比べても、だいぶもの力を注いでいることが一目でわかる。
……なるほど。あの巨大な建造物は。この大都市におけるシンボルのようなものか。
「すごく大きな場所だな……!! 一体、どれだけの広さなんだ……!?」
「なんて素晴らしい場所なの……!! 白を趣にした街並みが、とても綺麗……!!」
「うぉぉぉぉお!! 人がいっぱいいる!! こりゃ、モンスターなんかは絶対寄り付いてこないな!! てことは、ここは安泰か!? 最高かよ!?」
ユノの声と共にして。目的地であるそれを目前にし、そのあまりにもな大規模の光景に。俺達は堪らず驚嘆の声を零していった。
それぞれが、それぞれに驚きを示していく中で。その流れの中、律儀に佇立をして冷静に光景を眺めているミントと。俺達の驚く姿に、なんともご満悦な様子を見せるユノの姿がそこにあり。
こうして驚いていたその瞬間にも、俺というこのゲーム世界の主人公は。ユノの導きによって、新たなるステージへと一歩踏み出すこととなったのだ――
「現在地における情報のスキャン――完了。おめでとうございます、ご主人様。この瞬間にも、出発地点であります拠点エリア:黄昏の里及びフィールド:哀愁平原・ハードボイルドからの長旅を無事に終えることができました。つきましては、目標の欄から、現在までの目的を削除いたします。――また、目的地と現在地の更新により、数々もの新たなフラグの反応を検出。同時に、現在地における情報を改めてスキャンしましては、この地における詳細となる情報をご主人様に報告いたします。こちらの作業には、ほんの数分ものお時間をいただきます故。少々ばかりの間ではありますが、どうかお待ちくださいませ。……それでは、スキャン――開始」
そう言うなり、周囲にホログラフィーを浮かび上がらせては、スキャンとなるナビゲーター特有のアクションに移行するミント。
幼き容貌である少女を取り囲むように、不可思議にも浮上し現れるいくつものホログラフィー。そうして次から次へと流れ行く透明状の情報量の数々に、その光景を不思議そうに眺め遣るペロ。……と、その周囲の人々。
「はぇ~、これってミッチーの能力なん? この、ピコピコと音を立てながら急に出てくるっつーか。この、四角い形の映像みたいなもんってこれ、一体何なん? というか、ミッチーって一体何なん?」
スキャンとなるアクションによって流れ行くホログラフィーに手を伸ばしては。自身の手をすり抜けていくそれに、へぁっと驚きで声を上げるペロ。
そんなミント特有のメタ全開なアクションを、その場の全員で見守って。
……そして、スキャンの終了によって消え行くホログラフィーに包まれながら。ミントは閉じていた目を開き、俺のもとへと向き直ってきた――
「スキャン――完了。現在地の報告をいたします。現在、ご主人様がいらっしゃるこちらのエリアは、『フィールド:聖母大都市・入り口』と呼ばれる地域でございます。フィールド:聖母大都市・入り口とされるこの地域。こちらは、このゲーム世界に存在する、数少ない巨大な拠点エリアの一つであり。又、大都市という、特殊な地域の一部として設定されている大規模なステージでございます。但し、フィールド:聖母大都市・入り口というその名ではありますが。しかし、実のところ、こちらのエリアは大都市へと続く道のりの一環にしか過ぎません。名前に関しましても、この地はマリーア・メガシティと至極似たようなものではありますが、飽くまでそちらは名前のみの要素。その実は、この地はまだ拠点エリア:マリーア・メガシティではございません故に。細かく言ってしまえば、ご主人様は、未だに目的地への到着はなさってなどおりませんね。しかし、システム上では既に到着としての扱いとなっております故に。初見におかれましては、こちらの仕様は少々ややこしいものとなっております」
「ふむ……つまり、ここは世界観の設定上ではマリーア・メガシティの一部ではあるけれど。システム的に見て捉えると、ここは拠点エリア:マリーア・メガシティへと続く、その目的地とは全く異なるエリアということか。……なぁミント、一つ気になったんだが……ここの名前に、フィールドって付いているよな。ということは、それって、もしかしてここは……」
「お察しの通りかと思われます。こちらのフィールド:聖母大都市・入り口は、その名の通りにフィールドでございます故に、十分な危険性が潜んでいる可能性も懸念してもらうことがよろしいかと。無論、その地域に相応しきモンスターやエネミーの出現もございます故、決して油断はなさりませんように。……尤も、この混雑具合です。NPCがあまりにも数多く存在するために、容量の問題によってイベント以外では滅多にポップなさらないかと思われますが」
「そ、そうだな……」
今までも散々にメタかった上に。それ以上ものメタ要素をぶっ込んでくるミントに戸惑いを隠せなかった俺。
……っとは言ったものの。尤も、このゲーム世界の核心をつくような。その現地の人間からしたら、神のみぞ知る領域のような。
そんな意味不明、理解不能な内容のやり取りを繰り広げる俺達の会話を聞いていた周りの一同からしたら。俺の戸惑いなんて、とんだ微々たるものではなかったのかもしれない――――
「……はぇ~、アレっちとミッチーって、なんだかよくわからんコンビだなぁ…………」
「ねぇ。でも、その不思議な感じがまた、良い雰囲気を醸し出しているわよね。……この二人からは、今までに出会ったことの無い、未だかつてない未知を感じるわ……!!」
「……うふふ。その方たちにだけ理解し合えるお話って。こうして見ていると、とても格好良く見えてきますよね~」




