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ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
三章
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NPC:ペロ・アレグレ=Y・シン・コラソン

「オレっちは"ペロ・アレグレ"!! 本名は、『ペロ・アレグレ=Y(イグリエガ)・シン・コラソン』!! オレっちを知る人達は、オレっちのことをペロっちと呼んだり、コラソンとも呼んだりしているんだ! よろしくな!!」


 自信満々な表情を浮かべながら、今まで身に付けていたゴーグルとバンダナを取り払って自己紹介をするその男こと、ペロ・アレグレ。


 ゴーグルの下からは、これまでの彼からは想像できないほどまでの、キリッとした男らしい目つきが現れて。バンダナが取り払われたことにより、鳥類のトサカのような髪型が前へ垂れて、それがまた健全な男らしさを演出する。


 ゴーグルとバンダナを取り払ったペロの顔は、まるで爽やかな好青年という印象を与えてきて。今までは俺よりも年上の、すこし老けたお兄さんかというイメージから逆転。ペロという男、いや、少年は間違いなく俺と同年代くらいの。それも、とんだ隠れナイスガイであったのだ。


「あら……カッコいい……!! 貴方……いえ、ペロ君。ゴーグルも似合っていたけれど、外していた方がカッコいいわよ!」


「へへっ。お褒めに預かり光栄ですぜ~。でも、それはダメなんだ。自己紹介だからと外したけど、オレっちには、このゴーグルとバンダナがないといけないもんだからねぇ」


 手に持つゴーグルとバンダナをひらひらと揺らしながら。これまでの胡散臭さをそのままに、そこに好青年な雰囲気が加わることで飄々としたデキる男っぽいオーラを醸し出すペロ。

 そのあまりにもな変貌に、同じ男である俺もつい、見直したわぁと彼の顔をじっと見遣ってしまう。


 そんな視線に気付いて、ニッと爽やかな笑みを零してから。ペロは手に持っていたゴーグルとバンダナを再度頭部に装着して、今までと同じ外見へと逆戻りした。


「オレっちにも教えてくれよ、キミ達の名前。特に、女の子達の名前は知りたいなぁ~。あぁもちろん、男だけど、命の恩人であるキミの名前もちゃんと覚えておきたいね。何せ、こんな可愛い子達のいる楽園に連れてきてもらった、運命を結ぶキューピットのようなものだからね」


「……ペロ。あんた、俺のことを軽視してやいないか?」


「気のせい気のせい。へへっ」


 ゴーグルとバンダナが加わったことで、先程までの調子の良い胡散臭さが戻ってきたペロの様子に。俺はつい、複雑な心境となる面を向けてしまう。

 ……まぁ、元からそういう雰囲気の男だったし。特段悪気が無いのであれば、それでいいのだけれども……。


「私はユノ! ユノ・エクレールよ! よろしくね、ペロ君!」


「わたしはニュアージュ・エン・フォルム・ドゥ・メデューズといいます。以後、お見知りおきを、コラソンさん」


「ワタシは、永続的にご主人様へと仕えるナビゲ――守護女神であります、ミント・ティーと申します。よろしくお願いいたします、ペロ様」


「へぁ!? ご主人様!? 永続的に!? ……おいおいマジかよ、キミ、実はかなりのお金持ちか何かなのか?? それとも、女の子達を率いるスゴイ何かなのか??」


「い、いや。ミントとはワケあって縁があって。ユノとニュアージュ……とも、まぁいろいろとあっただけなんだ。だから、つ、詰め寄るな詰め寄るな、近い近い……」


 女性陣がそれぞれの紹介を終えて。そんな中でも、ミントのご主人様発言に反応を示したペロにどんどんと詰め寄られて、ただただ困惑しかない俺。

 ……というか、守護女神には反応しないんだな。ペロにとっての重要なキーワードは、飽くまでもご主人様の部分ということか……。


「お、俺はアレウス・ブレイヴァリーだ。よろしくな、ペロ」


「おぅよ! よろりん!」


 俺に対してだけは、やけに半分どうでもよさげな軽い調子で頷くペロ。


 眼前の彼を押し退けて。これで互いに紹介を終えたというところで、ふと、ペロはあまり馴染みの無い独自のペースで話し始めたのだ。


「うんうん、それにしてもまぁ~みんなそれらしい名前をしてんなぁ。特に"アレっち"。アレウスって確か、何かの神様かなんかだったろ? へぇへぇ、イカす名前をしてんじゃんなぁ」


「……アレっち……?」


「んぁ、あぁそうそう。これ、オレっちの自分ルール。自分ルールとして、名前の最後に『っち』を付けるようにしているんだ。へへっ」


 鼻を指で擦りながら、俺の疑問に答えるペロ。

 その様子は、とても誇らしさをアピールする動作に見えたものであったが。……しかし同時に、その動作が、まるで自身の顔の一部を隠すために添えられたようにも見えたために。


 ……ちょっと考え過ぎかと思ってしまいながらも。俺はそれに、つい疑問を抱いてしまっていた。


「ってなことで、オレっちはオレっち流の呼び方で名前を呼ぶんで、そこんところよろしくぅ。だっかっらぁ……キミはアレっちで。そっから……ユノっち。……ニュアっち――」


 俺から順番に、指を差していきながら自分ルールを重ねていくペロ。

 俺を始めとして、その指先はユノへと移り。そこからニュアージュへと移って……。


「…………」


 ……思考をめぐらせているのだろうか。指先をミントへと向けたまま、硬直するペロ。


「…………ミンち?」


「ミンチ!?」


 突拍子も無い言葉に、思わずツッコんでしまった。


「ま、ミッチーってところかな? ということで、改めてよろしくぅ!」


「あ、あぁ。よろしく……」


 なんというか、今までとはまた違った独自のペースを持つキャラクターだな。

 と、そんなことを思いながら、俺はやつのことを見ていると……。


「っでさぁ、オレっち思ったんだけどさぁ。なぁなぁ、アレっちに話したよねぇ? オレっち、人が多くて、モンスターが寄り付かない安全な場所を探しているって。それでもってあの時、アレっちは、オレっちをそこへ案内してくれるっつー約束をしてくれていたよねぇ」


「あ、あぁ。そうだな」


「それ、まさしくここだと。オレっち、そう思ったわけよ」


「はぁ……なるほど。……あっ」


 俺の様子を伺うような目線を向けながらのペロのセリフに、俺は事の成り行きという流れを把握し。次に、彼から発せられる言葉を自然と察した。


 そんな俺の変化に気付いたのか。その瞬間にもニヤリと笑みを浮かべながら、じわりじわりと俺のもとへと寄ってくるペロ。


「だってぇ、ユノっちめっちゃ強いし? ニュアっちからも、なんか、大きな力を感じることができるしさぁ? ……ミッチーに関しては、もはや理屈では説明できないような。不可思議な魂を持つ特殊な存在感を感じ取ることができるわけよ」


 その言葉は、飽くまでも自身の安全を確保するための打算に聞こえてくるものの。しかし、わざとらしい胡散臭さを放つその調子に。どこか鋭く、本質を見抜く能力を交えて話していくものであったから……。


「あぁほら、オレっち言ったじゃん? 五感には自信があるって。実際に、それでアレっちの役に立ったわけだし? そう、それでなんとなぁくわかっちゃうわけなのよぉ。ここの皆が、何かしらすげぇものをもっていることが、ね。へへっ」


 打算的。それは、一種の企みとも受け取れる、その人間の内にのみめぐりめぐる計算された思考。


 俺の傍に寄り添い。その不適にも感じ取れる笑みを浮かべながら、こちらの肩に手を乗せて。

 耳元へと近付けた口で、その男は呟くように喋り出す。


「もちろん、アレっちからも感じるよ。それも、ミッチー以上にとんでもない何かを。……そうだねぇ、今までに会ってきた他の人達の中でも、特に異なる……特別に異質な何かを、ね」

 

 鋭い五感をフル活用した、自身が生き抜く術の打算。

 俺にはいかがわしいものなど何も無かったものなのに。それなのにまるで、何もかもを見透かされ追い詰められるかのような。図星を突かれた際の、一種の胸の弾みを彼の言葉で感じてしまい。


 こちらの、心の隙を突いてくるような。僅かな隙間を見分け、逃さず見据えて捉えてくる彼の隠された能力に。


 それは、本能からなる警告であったのか。はたまた、恐れからなる直感によるものであったのか。


 ――光か闇か。そのどちらとも受け取れる、未だ明かされていない彼に潜む素性に揺さぶられたことによって。

 次には、俺はある思考に辿り着くこととなった。


「アレっちから、この世界の匂いがしないけど。……キミ、どこから来たの?」


 ……こいつは間違いなく、敵に回してはいけない存在だ――



「……ってな感じで、みんな強そうなもんだから。そんな人達に囲まれていれば、オレっちは安全に過ごせるだろうって思ったわけなんよ。ってことで、オレっち、ここのみんなと一緒に行動したいなぁって思っているんだっけっどー……」


 先程までの、精神的に詰め寄る雰囲気から一転して。

 何事も無かったかのように。期待で輝かせた瞳で、俺の姿をじーっと見つめてくるペロ。


「……なに、そんな急に…………」


 そんな俺とペロのやり取りを見ていたユノが、ほろっと呟く。


 低く、短い声音。そこから彼女の意思を感じ取ることはできなかったものの。まぁ、そりゃ、こんな得体の知れないというか。まるで"何かを隠しているような人間"を前にしてしまっては、心当たりやらがなくても恐れを抱いてしまうよな――


「……すごい、すごいわ!! ペロ君って、こんなに不思議な人だったんだ!! なに、五感が鋭い?? それってどういうこと!? 未知だわ!! 私の知らない未知だわ!! いいわ! 私達と一緒に行きましょう!! 貴方と一緒にめぐる旅路、また今までに無い新鮮味を味わえそうで、とても楽しそう!!」


 ……あぁ、そうだった。そう言えば、ユノはそういうキャラクターだった。


「うっひょおぉ!! よっしゃぁあ!! って、あれ?? これって、ユノっちがここのリーダーみたいな感じ?? ま、強かったもんね、そりゃそうかぁ!! とにかく、オレっちも一緒にいていいんだね!? だね!? もうモンスターに怯えなくてもいいんだね!?」


 想定外の展開に困惑を見せた彼であったが。しかし次には、それを遥かに上回る安堵のままに叫びながら。ペロはユノの手を取り、そのまま二人でぴょんぴょんと跳ね回って互いに喜び合う。


 未知に目がないユノはともかくとして。未だに得体が知れない、ペロというこの男。その素性としては間違いなく、敵に回すと相当に厄介な何かの持ち主であることは雰囲気でわかるのだが。……それと同時に、モンスターに対する恐怖という、人間味のある弱点を持っていることから。


 ……なんか、ペロ・アレグレというキャラクターのことがますますとわからなくなってきた……。


「これでオレっちは安泰だね!! ……あ、おっと。でも、これだけは言っておくとすると、オレっちは飽くまでも、ただついていくだけだからね。モンスターはもちろん嫌だけど、モンスターに限らず、戦闘には一切加わらないつもりなんで、よろしくぅ。……戦い、すごく怖いし……」


 ボソッと、最後に小声で付け加えながら。

 飽くまでも戦闘には参加しない意向を伝えて。それを快諾するユノであったのだが。


 ……ふと、ここで、俺はペロのあるセリフを思い出した。


「……そう言えばペロ、あんた確か言っていたよな。冒険者という野蛮人はなんたらかんたらって――」


「……うぁ、あぁユノっち!! シチューのおかわり貰っていい?? ……んぁ、あぁすまんねぇニュアっち、ユノっちに渡してくれるの? ありがとう!! っところでニュアっちの手、すごく綺麗だねぇ。まるでマネキンみたいだ! ……あぁミッチー、キミはちっちゃくて可愛いなぁ。いっそのこと、オレっちのことをご主人様って呼んでみないかい?? え、ご主人様はアレっちだけ? あ、そっか…………」


 ……やっぱり性格としては、どこか調子の良いキャラクターという認識で良さそうだ。


 おちゃらけていて、どこかふざけていて胡散臭くて。しかし、それが彼なりの真面目さであり。それに加えて、謎だらけな素性の数々に。

 ……正直、信頼というものを許していいのかどうかがまるでわからない人物ではあったものの。それでも、まぁ、悪気やら邪悪の片鱗を感じることは決して無かったために。


 まぁいいかと、深く考えることを止めた俺は。こうして加わった新たな仲間、ペロ・アレグレと共に。ニュアージュの目的地且つ俺達の目的地であるマリーア・メガシティへ向けての旅路を、そんな彼を加えた五人パーティーで辿ることとなったのであった――――

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