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ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
三章
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再びの邂逅とホワイトモンキー

「……おっかしいなぁ……」


 思わず呟いては、無意識と首を傾げながら目の前の景色を眺め遣る俺。

 というのも、その洞窟の道のりは至って平凡な一本道であって。最深部とも言えるであろうその小部屋のエリアに、迷うことなく辿り着いてしまっていたから。


 つい先程出くわしては、この先は迷宮だから気を付けた方がいいと忠告を受けて。

 あのバンダナにゴーグルと。特徴的な息遣いに、ふざけているようで真面目なあの男との会話を思い出しながら、再度この光景を見渡してみる。


「……おっかしいなぁ……」


 思わず、また呟いてしまっていた――



「結局、収穫はあの小部屋に設置されていた宝箱の中身のみか……」


 入手したアイテムを握り締めながら、俺は辿ってきた道のりを引き返していた。


 この洞窟の最深部であった、至極ありきたりな小部屋にて。そこに設置されていた宝箱を開けたことによって、お金という予期せぬ収入を得た俺。

 この手のちょっとした場所に設置されている宝箱。RPGであれば、よく見かける光景であろう。今回の宝箱も、そんなよく見かける光景の一つであったために、俺は何の驚きをすることもなくその宝箱を開けて。何の躊躇いもなくその中身を拝借してきたというわけだ。


 そう、それは別に良かったんだ。嬉しいことだった。

 ……だが、あの男からの忠告で身構えていた俺としては、その展開はとんだ肩透かしを食らうものであった。


 まぁ、何事もなく無事であるという点では一安心をしているというものの。いやしかし、この結果というものは、実に悩まされる。

 というのも、今回のこれによって、あの男というキャラクター性が余計にわからなくなってしまったからだ。果たして、あの男はなんだったのか――


「んぉ。……おぉ! おぉい、さっきのキミぃ!!」


 そんなことを考えていたその矢先で、俺は目を疑うような光景を目の当たりにした。


 目前に見据えた出口の光に照らされた、ある一つの人影。それはのっぽやら、バンダナやらで特徴的なシルエットを映していて。それが手を振るような動作をしながら、俺のもとへと近付いてくる。


 照らされる逆光から、洞窟の暗闇へ歩んでくるにつれて。それが本人の姿をなしては、対面する俺にふざけたようでいて、とてもにこやかな表情をこちらに見せてくる……。


「へぁ~、また会うなんて奇遇だなぁ! さすがは冒険者っていったところかねぇ」


「え、いや……って、お、おい……また会うもなにも、どうしてこの洞窟に戻ってきているんだ……?」


 自身が恐れていた洞窟に戻ってきたというのに。その男は、何の躊躇いを見せることなくずんずんと洞窟の中へと入ってきていて。

 そんな男に、またしてもただただの困惑を抱いてしまいながら。そんなんで頭を抱えながら、俺は前方の男と後方の洞窟の暗闇へと交互に視線を移しては速攻で疑念をぶつける。


「へぁ? 戻ってくる? どゆこと? 何がだよ?」


「どういうことって……ここ、さっきあんたがモンスターに追い掛けられていた場所だぞ……?」


「へぁ? オレっちが追い掛けられていた場所? んー、あぁ。思い出した! …………って、ほぁああぁぁぁああぁ!!! あのうじゃうじゃとモンスターが出てくる洞窟じゃねぇかここォォオ!!」


「…………」


 その驚き様は、もはや言葉として形容できないものであった。


 驚愕という度合いを越えたそれは、とても並大抵の物事に対する驚きではないように見えたのだ。

 洞窟全体に響かせた、腹の底から振り絞られた絶叫。咄嗟に頭を抱えながら、何かに怯えるように頭を下げたりてんやわんやとその場で動き回り。そして天井を仰ぎながら、尋常ではない具合にまでその身体を震わせ始めるその男。


 それはもはや、驚きというよりも生理的な何か。反射的というか、拒絶反応のような――?


「ダメだダメだダメだダメだッ!!! 一刻も早く逃げるぞ!! 猶予は無い無いナイ!! オレっちはもう逃げるんだよォォオ!!」


 その様子は、もはや発狂だった。


 頭を抱えながら。洞窟の暗闇に背を向けて、出口の光へと走り出すその男。

 なんだか余計によくわからないそのキャラクター性であったが。しかし、その様子はとてもこのまま放っておけるようなものではなかったために。


「お、おい! どうしたんだ!? 大丈夫か――って、ま、待てよ!」


 その男を追い掛ける俺。

 ギィィヤアァァァァアと断末魔のような叫び声を辺りに響かせながら走り出した男を見据えて。出口の光による眩みにも、それに構っている暇なんて無いと俺は視界に捉えた男の背を必死に追い掛ける。


 しばらく走っただろうか。その地はもはや、フィールド:楽園の庭のまだ見ぬ新たなエリアであって。その地に対する未知への不安を抱いてしまいながらも。しかし、目の前で発狂しながら駆け出していくその男に言葉を投げ掛けていく。


 ……そして、その男の発狂は止まった。

 足元をよく見ていなかったのか。その楽園の庭の特徴でもある、周辺にごろごろと転がる岩場の一部に躓いたその男は、ほんぎゃと間抜けな声をあげながら盛大にすっ転んで。

 そんな様子に大丈夫かと声を掛けていきながら、俺はうつ伏せとなっていた男に近寄る。


「うげげげげ……へぁ、あぁ……キミか。よかった、モンスターじゃなかったんだな……はぁー」


 と、俺の姿を確認しては、その特徴的な息遣いで深呼吸を行って自身を落ち着かせる。

 

 ……って、モンスターじゃなかったんだな…………?


「その、大丈夫か……? って、大丈夫じゃないか。それにしても、あんなに恐れていたあの洞窟に戻ってくるとは思ってもいなかったぞ……」


「へぁ? 戻る? いやぁ冗談じゃねぇよ! 戻るも何も、オレっちはただモンスターと出くわさない安全地帯を探しているだけなんだ! あんな、あんな危ねぇ場所に戻るだなんて最悪だ!! ……あぁ、めんご。キミに怒っても仕方ねぇな」


 興奮気味に答えていきながら。しかし、ここで冷静さを取り戻したその男は、片手を立てては顔の前に持ってきて謝罪を表して。

 起き上がっては左右に首を揺らしてくたくたな様子を見せ。はぁっとため息を零しながら、そののっぽでバンダナとゴーグル姿の男は辺りを見渡す。


「モンスターと出くわさない、安全な場所を探しているんだけどよ。でもダぁメだわ。どこかしこもモンスターがうろちょろうろちょろ。見渡せばそこにいて、逃げたその先にもまた同じようなのがうじゃうじゃといて。安全な場所なんてあったもんじゃないわぁ」


 やれやれといった呆れの調子で頭を掻きながら。しかし、今は至極真面目な話であるからか、今までの特徴的な息遣いが控えられた、割とまともな喋り方となったその男。

 そんな今までとの様子に、もはやギャップさえも感じてしまえたその男。なんだ、真剣になれば割と普通な話し方をするんだなと。その男の新たな一面を目撃したことでなんだか新鮮味を感じてしまう。


「もう、ここ数週間はずっとこの景色を見ているもんだからよぉ。一向に、モンスターのいない安全な地帯がまるで見つからないってもんよ。いやぁ、こりゃ参ったねぇ」


「……聞いていて思ったんだけどさ。それ……もしかして、ただ単にこの周辺をうろついているだけだからじゃないのか……?」


「へぁ?」


 ふと、聞いていた話に抱いた疑問をぶつけてみる。

 すると、俺からの疑問を耳にして意外そうな表情を浮かべたその男。それは一体どういう意味だい? と、俺の言葉の意味を把握しようと、俺から更なる情報を聞き出そうという男の様子を見ていたその時であった――



「あっ…………あっ!!」


「なァ、ちょ――うるさ! キミ、急になん――」


「見つけた!!」


「へぁ?」


 目の前の男へと向けていたその視線の先にいたもの。それは――


「片手には、海苔が巻かれた白米のおにぎり……間違いない!!」


「へぁ?? 海苔? おにぎり? あぁ、握り飯って美味いよね。でも、それが何の……ってちょォ! キミ! おいおいおいおい待て待て待ってェ!!」


 それどころじゃないと、既にこの足を走らせていた俺の背に手を伸ばしながら叫ぶその男。


 俺の姿を目撃した、今回のイベントの対象であるホワイトモンキー。そいつが、ミントから盗んだ海苔巻きの白米おにぎりを握り締めたまま逃走を始めたものだったから。


 逃げ出したそれを追い掛ける俺。そんな俺のあまりにも唐突な行動を目にして、極度の焦りを声音として発したその男もまた、俺と同様にその足を走らせる。

 俺は、目の前のホワイト・モンキーを追い掛けて。その男は、急に走り出した俺を追い掛けて。その様子は、とんだ愉快なものとして映ってしまっていたかもしれない。


 それでも、俺はこのイベントをクリアするためにも全力で駆け出し。背後の男に脇目もふらず、目の前のホワイトモンキーを追跡するのであった――――

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