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ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
三章
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困惑の募る邂逅

「ソードスキル:パワースラッシュ!!」


 橙色の光源を宿したブロードソードは、その元のリーチに加えての更なる攻撃範囲を付与させて。

 伸びた光源の剣を構えては地を蹴って跳躍を行い。必死な様相でこちらへと走ってくる男を飛び越えると共に、攻撃に備えていたこのブロードソードを思い切り振り払う。


 橙色に染まる半径の軌跡が描かれ。俺の視界を覆っていたモンスターの群れに、一筋の空間が生み出される。

 どうやら、相手のレベルは俺よりもだいぶ低かったらしい。その攻撃範囲に優れた一撃で、一気に大半ものコウモリ種を薙ぎ倒し。その橙色の軌跡に恐れをなしたのか。残るコウモリ種はその上ずった鳴き声と風切り音を洞窟に反響させながら、追い掛け回していた男を諦めたらしく洞窟の奥へと引き返していった――



 着地をして、ブロードソードを一振りしてから俺は振り返る。


 そこには、未だに頭を抱えて怯え続ける男がそこにいて。先程まで自身を追い掛け回してきた群れが遠のく音と共に、その震える身体に段々と落ち着きが戻っていったらしく……。


「ぎぃ……はぁ……ひぃ…………ひぇぇあ、ああぁぁあああぁぁ……。はぁー、落ち着いた」


 どこか愉快な息切れをもらしていきながら。頭を抱えていた手を胸にあてて、深いため息を一つつくなり。その男はまるで何事も無かったかのようなけろっとした様子で、洞窟の天井を仰ぎ出した。


「いんやぁ、はぁぁあああぁあぁああぁ助かったよぉほんと! キミという助っ人が来てくれてホントに良かったぁ。おかげ様で命拾いをしたよ~」


 その息切れだけでなく。その喋り方もまた、随分と特徴的な息の使い方をするどこか愉快なものであった。


 身長は百八十ニくらいか。鳥類のトサカのような淡黄色の髪型をしており。深緑と真っ黒の迷彩っぽい柄をしたミリタリージャケット。その下にはオレンジ一色のTシャツが組み合わされていて。

 いたる箇所にポケットが付けられた、ロールアップされた褐色の革製七分丈ガウチョパンツ。それら上下の服を中継する腰部分には、無難さを演出する黒の布が巻かれていて。ジャケット同様の、迷彩っぽい柄の運動靴を履きこなしている。


 その見た目は、良くも悪くもあり合わせで取り繕われたコーディネートなのだろうなと思わせるものであった。……が、そんな個性のような無個性のようなその男には、そのキャラクター性を確立させるような、ある特徴的なデザインが施されていたのだ――


「あ、あぁ。その、あんたはこの洞窟を探索していた冒険者なのか?」


「うゎ? 冒険者? へっ冗談じゃないね。この見た目通り、"オレっち"は平和を愛する博愛主義者なのさ。だから、そんな危ねぇことに自ら突っ込んでいく、冒険者なんていう野蛮人なんかじゃないのよ。ほら、顔を見ればよくわかるだろう? オレっちがどれだけ、平和を愛している男なのかってことを、さ。へへっ」


 顔を見ろと言われても。その男の頭部というものがまた特徴的であって。

 トサカのような淡黄色の髪の頭には、深緑と橙からなる迷彩柄のバンダナが巻かれていて。同色からなる迷彩柄のゴーグルが、その表情を確認するための目を覆っていたものだったから……。


「……じゃあ、何故、こんな洞窟の中にいるんだ?」


 ツッコみどころというか。この男もまた、独自のペースを持っているキャラクターなんだなと察して。

 俺は敢えて話題を逸らすことにした。……のだが。


「へぁ?」


「……へぁ? ……いや、どうしてこんな洞窟の中にいるんだ?」


「どうして? 洞窟の中に? ……さぁ? オレっちにも、さっぱりわかんね。歩いてたら、いつの間にかいたんだよね」


「…………」


 そのとぼけた様子が、また妙な真剣さを伺わせるものだったから。

 本気で首を傾げている男同様に。俺もまた、渋い表情を浮かべながら首を傾げてしまう。


 その言葉の一つ一つが軽々しくて。その調子は、もはや演技の域に達しているほどまでにふざけている。

 しかし、この声音というものがまた厄介であり、なんと、その声音自体は至って真面目な雰囲気。つまり、彼は真面目に、真剣にこの調子で話しているということが伺えるのだ。


 おちゃらけているその様子であり。服装も人間性もこれまた愉快なもので。

 その姿は、ただの変人そのものではあった。……が、しかし。これもまた、彼なりの真面目な姿なのだろう。


 身長も百八十ニくらいということもあり。その喋り方やらのっぽやら服装やらで。その目の前の男は、あからさまな可笑しいキャラクター性を演出していた――


「あぁねぇ。キミ、もしかして、この洞窟の奥に行くの?」


「ん、あぁ。ちょっとした用があってな」


「あぁそう。だったらやめといた方がいいよぉ、うん。何せ、この洞窟の奥は迷宮だからな! まず間違いなく迷子になるぞ! 証拠はオレっちだ! もう、あの洞窟は迷宮のように入り組んでいて、ここまで来るのにとんだ一苦労を強いられたもんだ。あんな場所、もう二度とごめんだね」


「この先は迷宮なのか……。ソロ攻略だし、その情報が無かったらきっと危なかったかもしれないな……。助かったよ、ありがとう」


「だろぅ? へへっ」


「気を付けて進むとするよ。あんたも帰りの道中には気を付けてな。じゃあ――」


「へぁ? 迷宮とわかっていながらも行くの? はぁー、命知らずだねぇ。冒険者というものはホント理解できない生き物だわぁ」


 同じ人間だと言うのに、もはや別の生き物と認識されるとは。


 その声音には呆れが含まれていて。マジで? 忠告を聞いてもマジで行くの? 正気か? といった、こちらの神経を疑うその様子がしっかりと伝わってくる。


「確認したいことがあって奥に進むだけなんだ。すぐに引き返すつもりだから、心配ならいらないよ」


「ほんとかよぉ? そんなことを言うヤツほど、大体はろくな目に遭わないもんだぞー?」


 ……なんか、やけにメタいな。


 そんなメタ全開なセリフと共に、まるで理解できないと頭を抱えながら。はぇ~とゆっくりとした大きなため息をつくその男。


「ここの案内をしてくれだなんて言うんだったら、オレっちは即お断りするからな。もうこんな危険だらけの場所に踏み入るなんてごめんだね。てことで、オレっちは先にこの洞窟からおさらばするから、あとはキミ一人でまぁガンバれぃ」


 そう言って、立てた人差し指と中指で健闘を祈るといったキレのあるジェスチャーを行いながら。敢えて危険に踏み込んでいく俺を見捨てるかのようにそっぽを向いては、そのまま喋り続けていくその男。


「あ、そうそう。助けてくれてあんがとね。んじゃ」


 伝えたいことを伝え終えたのか。再度指でジェスチャーを送るなり、その男は洞窟の中を歩き出した。


 …………そう、何の躊躇いも迷いも無く。その男は、洞窟の奥の方へと歩き出したのだ――



「……お、おい。そっちは出口じゃないぞ?」


「へぁ? なんで?」


「……? いや、なんでって言われても……。なんでも何も、そっちは洞窟の暗闇が奥へと続いているじゃないか……」


「へぁ? でも、道はこっちに続いているぞ?」


「いや、こっちにもあるんだが……ほら、この先に日の光が射し込んでいるだろ?」


 ただただ湧き上がってくる困惑のままに。目の前の未知数な思考回路を持つその男にわかりやすくするためと、俺は出口の方向へと指を差す。


 そんな俺の様子に疑問を浮かべながら。俺のジェスチャーを見てはその方向へと視線を向けて。

 ……しばらく見つめて、しばらく考える。顎に手を当てて。目の前の光景をじっくりと眺め続けて――


「んー…………んぁ、あぁ! あぁホントだ! キミ、鋭い観察眼をもってるねぇ!!」


「見ればわかるだろ……」


 感心と言わんばかりの、心からの褒め言葉に。俺は更なる困惑を抱かざるを得なくて。

 

 本当に気付いていなかったんだなと。目の前のキャラクター性に汗を流すことしかできない俺。

 そんな俺にずんずんと歩み寄っては、そのゴーグル越しでもよくわかるにこやかな表情を浮かべて。愉快げに笑いながら、こちらの肩を叩いては礼を言って通り過ぎていくその男。


「いやぁまた助かったぁ! サンキュなぁ! ッハッハッハ!」


 たった今、自身があれほど恐れをなしていた迷宮に再度侵入していこうとした人間とはとても思えないほど、その調子は軽々しいものであった。


 その笑いは、果たして目の前の事象を楽しんでいるからなのか。はたまた、ただ単に無意識に笑ってしまっているだけなのか。

 その男という、彼のキャラクターがまるで理解できなくて。しかし、なんだか放っておけないというか。いや、むしろ放っておいたらまずいというか。その把握できない彼独自の思考回路に、彼の、この世界を生き抜く術というものを見出すことができなくて。


 彼への困惑以上に、彼がこれからも出くわすであろう命の危機のことばかりが気になってしまっていた俺。

 レベルの低い俺が言えることではないのだが……いや、そんなレベルの低い俺が、ここまで心配してしまうほどの具合であったために。


 ……あいつをこのまま行かせてしまっても良かったのだろうか……?

 そんな疑念を浮かばせてしまいながらも。困惑の感情と共に、出口の光で照らされたその男の背を見送った俺なのであった――――

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