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ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
三章
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フィールド:楽園の庭

「確か、こっちの方に逃げていったように見えたが……」


 急斜面の不安定な岩場を、細心の注意を払いながら降りていったその先で。なだらかとなった斜面を駆け下りていきながら、俺は岩場と植物が入り混じる丘の高地へと踏み入る。


 そこは先程の鮮やかな花園も素晴らしい景観も無く。背景としては絶景が地平線に張り付いているものの、この高地はこれまでに巡ってきた普段の光景に近しい平凡なところであった。

 しかし、至るところにごろごろと転がっている岩石の数々や、隆起している岩場という特徴がしっかりと設定されており。これまでの光景とどこか似ていながらも、標高が高いということもあってか、やはり今までとは異なる新鮮味を感じるフィールド。


 ユノのセリフを借りて言えば、これもまた、未知との遭遇と言ったところであろうか。


「……にしても、完全に見失った……。辺りを見渡しても、絶景しか見当たらない」


 観光であれば、それで十分なのだが。今回は、ミントが楽しみにしていたおにぎりを盗んだあの白色の生物を追い掛けに来たのだ。

 あの時にユノが言っていたが。その白色の生物はどうやら、『ホワイトモンキー』という名のモンキー種? という種類の生き物らしい。


 果たして、それは動物というジャンルに当て嵌まるNPCなのか。それとも、その生物もまたモンスターというエネミーなのか。その情報を彼女から聞き忘れてしまっていたために、今はこれを知る手段が皆無に等しい。

 それこそ、ナビゲーターのミントがいれば瞬時で解決なのだが、そんな少女もショックで落ち込んでしまっているものだから。俺は何としてでも、少女のショックを取り除いてあげなければならない。


「……俺ってほんと、ミントがいないと何もできないな……」


 初回特典として受け取った少女に感謝をしながらも。しかし、そんな不甲斐無い自分に思わず頭を抱えてしまいながら。

 ……同時に、こうして単独でフィールドを行動することは初めてであったため、これは自分をより鍛えられる良い機会なのでは? と前向きに思考を切り替えていきながら。俺一人でも何とかできると意を決して、新たなフィールドの散策を始めていく。


「こんなところに看板が立っている。なになに……」


 ホワイトモンキーとやらを探しての散策から数歩のところで、さっそくと発見した設置物の看板。

 なんて親切設計なのだとあまりにもメタい思考を浮かばせながら。じゃあその親切に甘えてと看板の目の前に立ってメッセージを読んでいく。


「……ここは"楽園の庭"。色鮮やかに咲き誇る麗しき花畑と、その花畑から眺望することができる壮麗なる峰々の景色は、正に理想郷の一言に尽きる風光明媚な光景を完成させている。その幻想的な光景に、この楽園の庭は観光スポットとして広く知れ渡っている……と」


 この看板を読む限りでは、どうやらここは楽園の庭というフィールド名らしい。

 ミントの言い方で例えてみれば、フィールド:楽園の庭と言ったところか。なんともまぁ大袈裟でわかりやすい名前と思いながらも、確かに言いたいことは十分にわかるとあの光景を知っているならではの納得もできてしまえる。


 ……それにしても、どうしてこんなところにこんな看板が立てられているのだろうと、そんな野暮な思考をめぐらせながら。俺は再び盗っ人ホワイトモンキーを探すためにこの楽園の庭となるフィールドを歩き出す。


 ――今、ほんとに何気無く思い浮かべたワードであったが。この瞬間にも、フラグを立てることができる俺の影響力によって、このイベントには盗っ人ホワイトモンキーというイベント名が付いたかもしれない。


「――ん?」


 盗っ人を探すべく、そのイベントの対象が逃走していったであろう方角へと歩を進めていくと。

 そこには縦長の暗闇が伸びる、大きな洞窟があって。そびえ立つ丘からくり貫いたかのようなその空洞から吹き抜けてくる雰囲気と、そのイベントの対象の逃走先といった具合に。それらしい条件がいろいろと揃っていたこともあってか、目の前の洞窟からは何かを感じると直感で判断する。


 ……もしかしたら、あの洞窟の中にホワイトモンキーがいるかもしれない。


「寄るだけ寄ってみるのも手か……」


 おそらくダンジョンと思われる入り口を前にして。

 ミントも不在という正真正銘のソロ攻略に生唾を飲み込みながらも。しかし、俺も一人でできるんだと自分に自信をつけるべく、緊張と共にその洞窟へと侵入していく。


 その内部は大きく広がっており。闇に包まれている道のりが、この洞窟の奥深さを予期させる。

 しかし、それ以外にはこれといった特徴が無くて。果たしてほんとにここはダンジョンなのだろうかと。それとも、ここもフィールド:楽園の庭の一部で、ただ単にその奥には宝箱か何かが設置されているだけなのかなと、先程までの緊張感がすっかりと消え失せてしまっていた、そんな時であった――



「……音がする……?」


 洞窟の奥深く。見通しの利かない闇に紛れた、ある物音に気付く。

 それは、何かの甲高い鳴き声と空を切る羽音だった。それも、これは一つではなく、二つ、三つ、四つ……五つ……いや、それ以上――


「――――ッァァァァ」


 しかも、その中には何か全く別の音が紛れ込んでいる。それは何かの甲高い鳴き声や空を切る羽音とはまるで異なっていて。何かが呻るというか、何かが響かせているというか。

 ……いや、これは声? そんな目前の闇から響いてくる何かしらの声に全意識を注いでは耳を澄ませていく。


 その複数もの音に交じる、洞窟の地を反響させる音。これは足音か。

 目の前から伝わってくるそれは、長くもの声を響かせ続けていて。地に響き渡る足音も、段々と俺の足元に伝わり出していて……。


 ……って、これ。もしかして、俺の方へと近付いてきている――?


「――――ァァアアァァァァアアアァッ」


 澄ませた意識を全身に戻して。

 明らかに、その音がこちらへと近付いてきているのを把握した俺は、そのただならぬ雰囲気にブロードソードを取り出しては構える。

 あからさまに何かが起こっている目の前の出来事に退くことはなく。その正体を確かめてから、身のために逃走を図るか一人で突破するかを決断しようと俺は強気の姿勢で待ち伏せる。


 次第に近付いてくる入り混じった音の数々。


 その音はこちらへと接近してきて。

 ……ついに、その正体が洞窟の闇から姿を現した――!!



「ギィィヤァァアアアァァァァァアアッ!!! アアァァァァアアアァァァアアァァッ!!!」


 奥から走ってきた、一つの人影に俺は唖然とする。

 それが入り口の明かりで照らされると。そこには、今にも死にそうな必死な様相で、まるで断末魔のような叫び声を上げながらこちらへと全力で走ってくる一人の男が映し出されて。


 その後ろからは、黄昏の里で散々とその姿を見てきたコウモリ種のようなモンスターが群れを成していて。その集団が個々で鳴き声と風切り音を発しながら、目前をただひたすらと走り続ける男を追い掛け回していたのだ。


「ア、アァアァァァ!! アッアァ!? そ、そこの誰かァアァア!! アアッァァァアアァァアァアアアァァ!!! どうか、どうかこの"オレっち"をどうかお助けをォ、ォォッォオオォオォオ!!!」


 喉が張り裂けんとばかりの大声量で俺に助けを請い出してきたその男と、そんな必死な彼を追い掛け回す大量のコウモリ種を見据えて。


 百八十ニといった身長で、バンダナとゴーグルという身だしなみが目立つその男。

 果たして彼は一体何なのかと、そんな疑問を尋ねるよりも前に。救助を請われたことによる咄嗟の反応で。


 俺は考えるよりも先に、目の前のイベントへとこの身を乗り出していた――――

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