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ザ・ゲームワールド  作者: 祐。
一章
10/368

デフォルト名:ナビ子

「あら、奇遇ね。アレウス達も酒場にいるなんて」


 職業を変更した俺は、先程の大恥でかいた汗によって失った水分を補給するために、ナビ子と共に酒場でサイダーを注文する。

 ここのサイダーがまた美味しいのよ! そんなことを昨日ユノが言っていたな。と、そんな他愛の無い話をナビ子と交わしていたその矢先で本人とのご対面を果たした。


「私も相席いいかしら? よっこいしょ。ふぅ、すみませーん! サイダーを一つくださーい!」


 向かい合うように設置された、大人が四人揃って座れるほどの大きな長方形の木製のイスが二つ。その間には、それらに見合った大きなテーブル。どちらも暗めのニスが塗られた、大人の店という落ち着いた雰囲気を醸し出している。

 この大人数用の席へ案内された俺とナビ子。現在の時刻的に空いていた酒場の大きな席を、贅沢にも二人で占領していた俺らの席に座るユノ。俺と向かい合う形で座っていたナビ子の隣に腰を掛けたユノは、姿勢良くおしとやかに座るナビ子を見るなり、流れる動作で頭を撫でだした。


「カワイイ」


「あの……」


 初対面の時の第一印象からか。ナビ子はユノと関わることに、ちょっと憂鬱気味の様子。

 それでも頭を撫でられることは満更でもない模様。複雑な感情が混ざり合う、半端な表情を浮かべていた。


 そんな隣に座る小さな女の子の頭を撫で続けながら、ユノは興味深そうな眼差しで俺へと見遣る。


「なになに? 貴方達ずっと一緒にいるけれど、もしかして……やっぱりそういう関係だったりするの?」


「そういう関係?」


 からかうような笑みと目つきで、ユノが身を乗り出しながら俺へ尋ねてくる。そういう関係って、つまりそういう関係ってことか……?


「だって、宿泊したお部屋だって一緒だったじゃない? まぁ、それは私がそういう形で予約したからなのだけれども。でもアレウスはともかくこの子は嫌がったりしなかったからさ? だからつまり、従士関係と思わせて、実は互いに想いを寄せ合った仲なのかなぁ~なんて、ちょっと妄想を膨らませていたの。なんだか気になりすぎちゃって、そりゃあもう妄想が捗って仕方がないわ」


 ナビ子の頬をこねるように両手で触れ続けるユノ。

 ……にしても、互いに想いを寄せ合った仲と言われてもな……。この手の返答には困ってしまうものだ。なんていったって、返答次第ではナビ子との関係が悪化してしまう可能性だってあるこの手の質問――


「…………ッ」


 ユノの問いに否定の意を見せないナビ子の様子を見てしまうと、尚更どう答えたらいいのかがわからなくなってしまうじゃないか……。

 ……だがまぁ、よくよく考えてみると、彼女とは出会ってまだ一日ばかりだしな。だったら、やはりここはキッパリとこう答えておく場面か。あまり慣れ慣れしくするのもアレだし。


「いや、特にそういった関係ではないかな」


「あらそうなの。残念。お姉さん、ちょっと期待していたんだけどなぁ~」


 俺への返答をナビ子に投げ掛けるユノ。

 そして、嫌がりながらも満更ではない唸りを上げるナビ子の頬をいじりながら、ユノはこちらを一瞥し。そしてナビ子から手を離す。


「あーあ、カッコいい彼氏欲しいなぁ。私も理想のイケメン君と両思いになって、甘酸っぱい恋愛を経験してみたいわ」


 世話好きなクールビューティという性格と外見とは裏腹に、意外と乙女な思考を持つユノ。

 テーブルに両肘を立てて頬杖をつきながら俺へ凝視の視点を向け出す。


「ねぇ。ところでさ、この子の名前って何?」


 この子。そう言ってアイコンタクトでナビ子のことを示す。

 そう言えば、まだナビ子の名前はデフォルト名のままだったな。早くきちんとした名前を名付けてやらないと。

 取り敢えず、今は普通に答えておこう。


「あぁ、その子の名前はナビ子って言うんだ」


「ふーん……」


 そう聞いては口を尖らせ、ユノはナビ子へと視線を移す。

 ユノと目が合ったナビ子。ワタシの名はデフォルト名:ナビ子と申します。と、あからさまに違和感だらけの自己紹介を挟んで律儀に一礼。

 そんなナビ子の姿を見ていたユノ。でふぉると名? 疑念と共にキョトンとした表情を浮かべたまま一礼を返し、再び俺のもとへと視線を移してきた。


「ねぇ、私思ったんだけどさ……ナビ子って、名前的にどうなの? せっかく可愛い女の子なんだから、もうちょっと女の子らしい名前で呼んであげてもいいんじゃないのかしらって、私思っちゃうんだけど?」


 ごもっともです。

 名前の変え忘れが招いた、更なる恥。もう少しナビ子の気持ちになって考えてあげればよかった。そんな反省を挟みつつ、違和感だらけのメタな発言を避けるための口実を考えていると――


「ナビ子はワタシのデフォルト名ですので、遺憾などは微塵もございません」


 という、ナビ子らしい控えめな遠慮でユノへ返答。

 あらそうなの? そう言葉を漏らしてまぁ、本人がそう言うならと一度は納得をしたユノであったが、やはりナビ子という名が気になって仕方が無いようで……。


「……ねぇナビ子ちゃん。貴女も恋愛とかしないの? そのおしとやかな雰囲気、絶対に男子諸君からの人気を集めるのになぁ~」


「……え?」


 もったいぶるかのような調子で突然、恋愛を交えた会話を繰り広げ始めたユノ。

 それにキョトンとするナビ子。それに何か心当たりがあるようで、ナビ子にしては珍しくその目を見開かせている。


「せっかく女の子として生まれてきたんだし、もっと男の子からの注目を集めたくない? ナビ子ちゃんは容姿と性格はカンペキなのだから、あとは自己紹介の際に名乗る名前が整えばパーフェクトそのものよ? 初めまして、わたしの名前はマリアです。とか。容姿と性格という要素が揃っている今、あとは女の子らしい可愛い名前で自己紹介を行えば、そりゃあもう男子諸君はイチコロも同然! 恋の愛に飢えたそのハートを即、鷲掴みよ!」


「…………」


 女子同士ならではの会話なのだろうか。

 ユノの説得に心を揺さぶられているナビ子。何かを思い悩む落ち着きの無い素振りを見せ、少しして助けを求めるかのようにナビ子は俺を見つめてきた。

 あぁなるほど。ユノの誘導で物事が上手く繋がっていく。俺としても、ちょうど良い完璧なタイミングだった。


「これからでも、ナビ子の名前を変えることってできるのか?」


「そ、その。システム的には可能、ですね」


 敢えてそうじゃない素振りを見せながらも。

 ナビゲーターとしての有り方が引っかかっているのだろうか。自身の気持ちを悟られたくない。決定権は全てご主人様にある。そんなナビゲーターとしてのプライドが。名前の変更という自主的なシステムの操作に、彼女はどこか気後れしていたのだろう。


 だからこそこの場面では、俺の意思による決定というシステムを欲していた。


「それじゃあ、名前を変えるとするか」


「っ! ……システム:ナビゲーターの名前変更。ですね――認識、完了。それでは、さっそく名前の変更へと移ります……っ!」


「あら、もうさっそく名前を変えるの? それじゃあ、私も一緒に考えていい? いいっ?」


 活き活きとした表情で。ハキハキとした調子で。待ってましたと控えめに喜びを表すナビ子の反応。

 そんな彼女の期待に答えるため。俺は今この場で、ユノと共にナビ子の名前を考える場を設けたのであった――

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