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エーテル・ガーズ ―ソラリス衛士隊戦記―  作者: 白黒鯛
本編 第7独立遊撃部隊〈ノヴァ〉

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★プロローグ 星降る夜の誓い

 名も無き世界に住まう人類が築き上げた都市国家、多重階層都市「ソラリス」。


 幾重にも重なる人工の台地が天を突き、摩天楼の灯火が地上の闇を照らし出すこの巨大都市国家は、魔法と科学の粋を集めた鉄の揺り籠である。しかし、その輝かしい繁栄の裏側には、常に世界を食い破ろうとする「終わり」の予兆が潜んでいた。


 始まりは約百年ほど前に遡る。

 空に突如として刻まれた空間の「裂け目」、すなわち「アビス・ゲート」の出現である。

 そこから這い出るのは、この次元のことわりを超越した異形の怪物、通称「ヴォイド」。彼らは物質を腐食させ、精神を侵食し、街を蹂躙した。通常兵器は無力であり、人類はなす術もなく退路を断たれたかに見えた。


 だが、絶望の淵で人類は唯一の対抗手段を見出した。高密度のエネルギー体「エーテル」を物質化し、武器として固定する「エーテル兵装」の開発である。そして、この兵器を最も効率よく、かつ拒絶反応なく扱える適合者が「10代から20代の女性」に限られるという事実が判明したとき、都市を守るための防衛組織、衛士隊が設立されたのである。

 そして、エーテル兵装を手に、ヴォイドと果敢に戦う若き女性戦士たち。市民は彼女たちを衛士(ガード)と呼んだ。


 衛士隊は独自の訓練学校を持ち、衛士候補の少女たちは13歳から15歳の3年間に渡り、衛士になるための厳しい訓練を受ける。そして卒業し、16歳から衛士になるのだ。

 16歳。それは少女たちが大人の門を叩く年齢であり、同時に、重すぎる剣を背負い、戦士としての運命を強制される年齢でもあった。

 そして今、ソラリスの最上層に位置する建国記念広場にて、新たな歴史が刻まれようとしていた。


「……本当に、私たち四人なのね。この欠番だった『第7部隊』に配属されるのは」


 銀色の髪を夜風に揺らしながら、リナが呟いた。


 衛士隊第7独立遊撃部隊。

 それは、数年前にミスから全滅した不幸な最期を辿った悲劇の部隊だった。それ以来欠番になっていたのだが、今期に衛士訓練学校を卒業した生徒たちに「見所がある」として、このたび復活することになったのである。

 特定のエリアに固定配備される通常衛士部隊(ラインガーズ)ではなく、衛士隊司令部直轄で都市全域をカバーする独立遊撃部隊(リーベルガーズ)という位置づけ、「新しい」を意味する『ノヴァ』の名を与えられたことがその期待を表していた。


 そして今、ここに集っているのはその隊員に選抜された四人の少女たちだった。

 中でもリナは、剣士としてだけでなく部隊指揮の才能を見込まれ、この新生チーム「ノヴァ」の隊長に抜擢された少女だ。その凛とした瞳には、重圧に負けまいとする強い意志が宿っていた。


「そんなに難しく考えなくていいって!隊長。あたしたち、訓練学校でも成績上位だったんだからさ」


 快活な声を上げたのは、桃色のツインテールを揺らすモモだ。小柄な彼女の細い肩には、身の丈を超えるほど巨大な大剣が担がれている。その無邪気な笑顔は、先ほどまでの激戦の余韻を微塵も感じさせない。


「……成績はあくまで数値。実戦は別よ。とどめを刺す瞬間の呼吸が少しでもずれれば、待っているのは死だけ」


 緑色の髪を後ろで束ねたクロエが、槍の先端を確かめながら冷淡に告げる。彼女は槍士としてのプロフェッショナリズムを重んじ、甘さを許さない。その合理的な思考は、時にチームに緊張をもたらすが、それは戦場で生き残るための不可欠な要素でもあった。


「みんな、落ち着いてください。戦況データの分析によれば、私たちのエーテル波形の同調率は極めて高いです。論理的に言えば、私たちは最高の相性を持つチームになるはずです」


 眼鏡の奥の知的な瞳を輝かせ、金髪のアリアがホログラムスクリーンを閉じた。彼女は参謀としてドローンを操って情報を収集。後方から仲間を支える、チームの頭脳である。


 四人は、先ほどまで「ヴォイド」の尖兵と戦っていた。周囲には半壊した建国記念広場の瓦礫、粉砕された怪物の結晶片が散らばり、朝日に反射して星屑のように煌めいている。

 背後では、都市保安隊の男性兵士たちが、避難した市民の安全を確認しながら後片付けに追われていた。彼らは衛士のような特別な力は持たないが、都市の基盤を支える欠かせない盾である。


「さあ、始めましょう。第7部隊の、私たちだけの結成式を」


 リナの言葉に、三人が頷いた。

 衛士隊では別に、結成を祝う式典をやってくれるわけではない。新規部隊編成と人事発令という文字情報があるのみだ。

 だからこそ、彼女たちにとってこのささやかな式は重要なものだった。四人は円を描くように立ち、中央で互いの手を重ね合わせた。


「私たちが守るのは、この都市の明日」


「あたしが全部、なぎ払ってやる!」


「最後の獲物は、私が貫く」


「そして私が、勝利への道を計算するわ」


 重なり合った手から、温かなエーテルの輝きが漏れ出す。それは個々の力が融合し、一つの巨大な「星」へと変わる瞬間だった。


「私たちは誓う。たとえこの夜がどれほど深くても、私たちは光を絶やさない。ソラリスに住む人々の笑顔のために、この命を懸けて戦い抜くことを!」


 リナの力強い宣言と共に、四人の精神が深く結びついた。もはや彼女たちは単なる個人の集まりではない。運命を共にする唯一無二のチーム、「ノヴァ」として始まるのだ。


 見上げれば、アビス・ゲートの裂け目が不気味に空を歪ませている。だが、その暗雲を切り裂くように、夜明けの光が彼女たちの制服を青く染めていく。


「さあ、行こう。私たちの、最初の任務へ」


 リナの号令で、四人は一斉に駆け出した。未来へと続く石畳の上で、彼女たちの足音が力強く響き渡る。それは、絶望に支配された世界に抗う、少女たちの宣戦布告であった。


 星が降る夜は終わり、新しい朝が始まる。しかし、その輝きを維持するためには、誰かが影の中で刃を振るい続けなければならない。彼女たちは知っている。自分たちが選んだ道が、決して平坦ではないことを。それでも、重ねた手のぬくもりが、消えることのない勇気を彼女たちに与えていた。


挿絵(By みてみん)

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