第29話:襲撃
──ミナ・カシワギ宅
静かな部屋に、緊急連絡のアラートが鳴り響く。
「えぇー、ちょっとなによー」
シャワーを浴びていたミナは緊急連絡に気付き、慌ててバスローブ姿のままリビングへ駆け出す。
「ラボに緊急招集って……いったい何なの……」
『現在情報を収集しています。緊急車両モードのアルバトロスが約3分後に到着します。マスター、お急ぎください』
「3分って、ちょっと待って。急げって、何があったの?」
ミナは慌てて服を着ながら、左腕にLLリストを装着する。
『詳細は道中でご説明します──』
──第7区画研究所。レン・タカミ専用ラボ
「……まさか、本当に来たのか。ユグドラシルの予測が的中してしまった……」
レンはリストのAIを通して、第7区画の全職員に緊急指示の音声を送った。
「第7区画の職員は研究所に集まってください。自然保護区にいる職員は、直ちに帰投してください」
──第1区画研究所、中央管制室
「いったい何が起こっている!」
特別主任アレク・ヴァンデル。常に冷静沈着な男だったが、明らかに緊張感が滲み出ていた。彼は数名の側近幹部を引き連れ管制室に入ってきた。しかし、彼の表情からは焦りが見て取れた。
「外郭部に何らかの攻撃を受けた模様。第4区画の一部施設が完全に沈黙しました!」
「至急、外殻警備隊を向かわせろ。第4区画の観測ドローンを全て防衛モードに移行させ、現地の分析をさせるのだ」
「はい。既に警備隊長とハル・エルバート特別主任が現場に向かっております」
「……よし。念のため、第4区画居住区の住民には、シェルター避難を指示しろ」
直後、第4区画の居住区に緊急避難の警報音が鳴り響いた。
第4区画は、ユグドラシル領域の外周部に該当する地域一帯である。唯一外界と接するこの地域では、外界を模した試験環境での育成試験が行われていたが、研究所内でもその内容が公表されていなかった。
また、この地域には厳重な警備体制が敷かれており、実質的にユグドラシル領域の防衛が第4区画の主任務だった。
しかし、この時既に第4区画の外周防護壁は侵略者によって破壊されていた。無残に飛び散った防護設備の破片や、強力なジャミングを受けて墜落した監視ドローンの数々……
それらを踏み潰したような、巨大なキャタピラ跡が延々と続いていた。
「映像、出ました!」
アレクを含む、幹部達がモニターに注視する。そこには外壁が破壊される瞬間の映像が映っていた。
迫りくる超極音速ミサイルの波状攻撃……。ミサイルと砲撃が外壁部分に直撃し、防護設備は瞬時に木端微塵となった。
何者かが、ユグドラシル領域に侵攻を開始した。アレクは瞬時に事態を把握し、叫ぶように指示を出す。
「全職員に緊急連絡!全員出所させろ。緊急事態宣言の発令を所長に伝えてくれ」
「はい、緊急連絡を発信いたします」
「よし、では警備隊出身者は直ちに招集だ。私と私の部下を中心とした特別防衛隊を組織する。お前たち、装備を整えて部隊を編成しろ。私から追って指示を出す」
アレクは側近達にそういうと、彼自身も兵舎に向かい、戦闘服に身を包んだ。周囲の人々はまだ事態を飲み込めていなかった。彼だけがこれが戦争であることを理解していた。
──第4区画、内壁防衛拠点。
「外壁設備は完全に沈黙しました!」
「警備隊とは連絡が取れないのか」
「住民の避難状況はどうなっているんだ!」
外壁部に向かった警備隊長と連絡が取れない。指揮官を失った管制室は騒然としていた。
「チーフ!エルバート特別主任からの連絡です!」
「彼が生きていたのか!よし、繋いでモニターに映せ!」
管制室のモニターに、負傷し流血した男の姿が映し出されていた。
『内壁管制、そちらは無事か』
「はい、主任がご無事で何よりです。……他の隊員は?」
『……脱出できたのは、私だけだ』
管制室内の誰もが愕然とした。
『残念だが、今は任務に集中してほしい。もう少ししたら私もそちらに着く。それまでに住民の避難誘導を完了させ、都市の計画停電モードを実行してほしい』
「え……なぜですか。主任はまず治療を受けて……」
『ダメだ!時間がない、私の指示に従ってくれ。巨大な敵が、迫っているんだ……』




