第26話:協力者
セリスは、夢で見た光景の地を歩いていた──
何かが、私に語りかけるような感覚がした。あの洞窟と同じ、あの大地の裂け目と同じ……。
”間違いない。この大地から、周りの樹々から、ユグドラシルの意思を感じる”
そう確信したセリスは、導かれるようにユグドラシルの庭の最東端にある高台にたどり着いた。
──遡ること3時間前、セリスはリニアレールの”ユグドラシルの庭”駅に降り立っていた。
公園内には様々な植物が生育管理されており、ステーション周辺には美しい花々が咲き誇っていた。この世界が誇る最大の自然公園は、無数の無人ドローンによって環境が整えられていた。
公園区域内には宿泊用のコテージがいくつか点在している。大自然を望む景観が人々の心を癒していた。
ステーションの周囲にはレストランとカフェ、整備された森や湖畔があった。散策や釣り、バーベキューを楽しむ人々や、静かな環境を堪能する夫婦など、リフレッシュに訪れる人々の姿があった。
ステーションを出ると眼前に乗車用のロータリーが広がり、人が訪れると間もなく無人制御のホバリング車両が現れる。この車両は指定された公園内のポイントまで、定められたルートに従い自動運転で走行する。いわゆる観光車両である。
セリスはリニアを降り、真っすぐにロータリーへと向かった。セリスそのままホバリング車に乗り込み、車両はゆっくりと発進した。
最も東のポイントを指定したセリスは、揺られながら辺りの景色を眺めていた。
”私は両親に連れられ、夕日を背に、ユグドラシルを見上げていた。東の方角で間違いない”
車窓に流れる景色が、彼女の記憶の中で徐々に蘇り始めていた。
──最も東の降車ポイントに辿り着いたセリスは、車両から降りて更に東に向かって歩き出した。
彼女の歩みに迷いは一切なかった、迷うはずもなかった。目前には明るい日差しを浴びて輝くユグドラシルの雄大な姿が眼前に広がっている。
そして、両親と共に訪れた高台が目の前に広がり、幼い頃に訪れた記憶が鮮明に蘇っていた。
セリスの歩みが高台の頂上に到達したとき、彼女はすべてを理解した。
『やぁ、セリス……また会えて嬉しいよ』
セリスの頭の中に、言葉が直接響いてくる。
あの時、ホログラムに現れた”切り株くん”の声だった。
セリスは世界樹を見上げ、静かに語りかける。
「……ユグドラシル。世界樹には、本当に意思があったのね」
『そう、ボクは意思を持つ大樹として生み出された』
「あなたは汎用人工知能と融合する事で、意思を持ち、知識を得た。”世界樹育成システム”の副次的な成果ということね」
世界樹育成システムは、AIと世界樹を融合させることで育成環境を自ら最適化し、研究所のシステムによる育成状況の可視化、コントロールを可能とするシステムだった。
『少し違うかな。ボクには、生まれたときから既に意思があった……』
「どういうこと?あなたは、わざと人類に育成されてるフリをして、世界樹育成システムに従っていたというの?」
『そうさ。世界樹育成システムに従うほうが、キミたちを見守るのに都合がよかった』
セリスは、口元の震えを抑えられなかった。
「まさか……これまでずっと人類を欺いてきたの?世界樹の育成が正しく行われるか監視するため……。人間社会を観察するため……」
『そうだね……だから、ユグドラシルプロジェクトは、極秘に立案されたんだよ。表向きは、自然環境の復興。でも、それだけじゃ人類は同じ過ちを繰り返してしまう。人類が再び力を手にしたとき、自然を支配し、破壊し尽くすような事を二度と起こさせない為に、ボクには人類を正しく導く使命があるんだよ』
「……だから、研究所のデータベースを調べても、私の両親に関わる部分は機密扱いか、抹消されていたのね。あなたと共に任務を遂行するメンバーだったのね」
『キミの両親は、使命に生きる優秀なヴァルキリーだった。事故で亡くなったことは、本当に残念だよ』
「ヴァルキリー……ユグドラシルの遺伝子を持つ、あなたの協力者というわけね。私の両親が死亡し、あなたの意思を実行する協力者に欠員が出た。そして、私にコンタクトしてきた……」
『キミのような、自然を育み、共存していこうとする”心”を持つ者が必要なんだ。それが、プロジェクト創設者たちの願いだよ』
セリスは、ハッとした様子で顔を上げた。
「ねぇ、その協力者に他のメンバーは?」
『タカミ・レン──』
”やっぱりそうだった!レンは、よく観光と称して全区域を巡っていた。当然、この地にも来ていたはず”
セリスは、最後にレンと会った時のセリフを思い出していた。「ユグドラシルの声……セリスにも、いつか聞こえるさ」
”そうか、この場所はユグドラシルの遺伝子を持つ者が、世界樹と対話する場所だったんだ”




