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第14話:雑貨屋

 休日の朝早く、セリスはリニアに乗り第3区画を出発した。

 向かう先は第7区画、補助育成予備区。ここでは、ユグドラシル全域から集められた多種多様な動植物が飼育されている。

 数多くの動植物がいるということは、当然それらを素材とした様々な雑貨もあるわけで──


「ねぇ見て!これすごく綺麗」

「このハーブいい香りがする」

 第7区画の居住区は、大小さまざまな雑貨店が軒を連ね、通りは人々の活気で満ちていた。

 色とりどりの看板が並び、香ばしい香りや甘い匂いが漂っている。店の軒先には、手作りのアクセサリーや薬草の小瓶、珍しい木の実を使ったお菓子が所狭しと並べられ、訪れる人々で賑わっていた。



 セリスはステーションを出ると商店街の方へ歩いていた。彼女の目的地もまた、とある雑貨店だった。

 街角では音楽が流れ、子どもたちの笑い声が響いている。セリスはふと足を止め、周囲の賑わいに耳を傾けた。街全体を包む生き生きとした空気を感じられるようだった。

「この辺りは本当に賑やかね。みんな楽しそうにしている」

『はい、ここ第7区画の居住区は多種多様な雑貨店が集まっています。ユグドラシルの天然素材を使った商品が多く、観光地として人気です』

 セリスは目に映る光景を楽しむように歩いていた。街の活気が足取りを軽くしてくれるようだった。


 賑やかな商店街を抜け、セリスは徐々に人通りの少ない通りへと歩みを進めた。目的の店は居住区の郊外にあり、静かな通り沿いにひっそりと佇んでいた。そこはまるで時間がゆっくり流れているかのような、落ち着いた場所である。

 目的地に到着したセリスは、店の扉を前に少しだけ息を整えた。



”ポーションショップ・れん

 この世界ユグドラシルに漢字文化は無く、蓮の文字に馴染みがない。

リストのAIによると、”REN”と読むらしい。

 木製の看板には繊細なはすの花の紋様が描かれ、店の窓から優しい光が漏れている。扉を開けると、彩り豊かな瓶たちがセリスを迎え入れた。ふわりと薬草の香りが漂い、心が和らぐよう──


 第7区画特別主任、タカミ・レン。

 この店は彼の自宅兼ラボだった。彼は人々の体質に合わせた様々な調合品を創り出していた。

 棚には様々な化粧品や香水、栄養ドリンクに至るまでオリジナル商品に溢れている。特に女性客からの依頼が多く、要望に応じたアイテムを精製してくれる。



 商品棚の近くにレンが笑顔で立っている。セリスを見つけると軽く手を振った。

「セリス、ここで会うのは初めてだね。僕に会いに来たのかな?」

 レンの表情にはいたずらっぽい笑みが浮かんでいた。

「……私はこの”店”が好きなのよ。あなたが今日非番なのは予想外だったわ」

「ふふ、冗談だよ。ようこそ、ゆっくり見ていってね」

 レンは研究所が非番の日には主にラボで新商品を開発しているが、時折店に立つこともあった。


「それにしても、この店の雰囲気は独特ね……」

 セリスは香水の瓶を手に、商品に見入っていた。

 レンの趣味により、その店はまるで大昔のファンタジー世界に出てくるポーション屋のようなおもむきだった。

”レンは大昔の人々が書いた小説、異世界ファンタジーというものが好きらしいけど、私にはよくわからない。とにかく、彼のこだわりが随所に感じられる”



 カウンターの近くでは、若い女性たちがはしゃいでいた。歓声を上げる姿はまるで子どものようで、セリスはため息交じりに目をやった。

”何なのか知らないけど、静かにできないのかしら……”

 スイーツコーナーには、今日は新作のケーキが並んでいた。レンは非番の日に試作品として作ったケーキを販売していることがあった。

セリスが目をやると、虹色に輝くミルクレープだった。

「……えっ!」

 これにはセリスも二度見し、思わず声を上げた。


 綺麗に七色にグラデーションしたクレープ生地は、美容や健康に良いとされる薬草が含まれ、それが何層にも重なっている。

 レンが最近始めた”ユグドラシルの薬膳ケーキ”シリーズが人気を博している。いつの間にか、セリスも少女たちに交じりケーキを見つめていた。

「あの、私も……」

 と手を伸ばしたその瞬間、最後の一個は売り切れてしまった。


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