表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
此岸の境界  作者: 邑沢 迅
エピローグ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
43/43

第42話

※この小説の続きをスムーズにお楽しみいただけるよう、【ブックマークに追加】を押して設定を保存してください。

 あの地下連絡通路での壮絶な体験から、数週間が経った。


 自宅、窓の外には、いつの間にか白い雪がチラチラと舞い始め、世間はすっかり慌ただしい師走の空気に包まれている。今年は実家に帰ろうか、それともこっちで過ごそうか……なんて、少し前までは想像もできなかった、いつも通りの年末を私は迎えていた。


 そんな日常の最中、私にとっては少しだけ「いつも通り」ではない出来事が起きた。ソウジ君から、唐突な愛の告白を受けたのだ。


 正直なところ、そんな気分では無かった。だけど、もし今ここにミキがいたら、きっと私の肩をポンと叩いて「えー、いいじゃん!ソウジ君のこと別に嫌いじゃないんでしょ?まずは友達から始めてみれば?」なんて、笑顔で軽く背中を押してくれたはずだ。そんな気がした。いつまでもウジウジしていたって始まらない。

 だから私は、照れ隠し混じりに「……じゃあ、まずは友達から、お願いします」と返事をしたのだった。


 その時のソウジ君の反応と言ったら、今こうして思い返してみても、どうしても笑いが込み上げてきてしまう。

 彼はあからさまに狂喜乱舞し、喜びすぎて思いっきり足を滑らせ、その拍子に手から離れたスマホが地面を転がり、それを通りかかった見知らぬ他人が踏んづけて派手に転び、さらにその人が持っていた荷物が……という風に、まるで最悪な負のピタゴラ装置のような様相を呈していた。あんなに綺麗に連鎖して人が転ぶところを、私は初めて見た。


 ピロン、と。

 手元のスマホから小気味良い通知音が鳴る。画面を見ると、噂の当人からのLIMEだった。


『ハルさん、今日は本当に楽しかったです!気が早いですけど、次は新しくできた水族館に行きませんか?』


 なんて、さっき駅の改札で別れたばかりだというのに。ふっと口元を緩めながら、私は返信を返した。



 一方、トウヤ君にかけられていた身に覚えのない容疑は、無事にすべて晴れたようだった。

 警察の捜査の結果、彼のアリバイは完全に立証されたのだ。結局、ミキの件も配信者のマサキさんの件も、解剖しても事件性を証明する証拠が何も出ず、捜査は迷宮入り。「原因不明の突然死」ということで公的には決着が付いた。


(まあ、警察に『彼女は冥界の神に殺されました』なんて真実を大真面目に言ったところで、誰も信じてくれないよね)


 突然無くなってしまったトウヤ君の左足については、担当の刑事が大層驚き、事件との関連を疑って何度も心配そうに事情を聴いてきたらしい。けれど、日を追うごとに着々と生気を取り戻し、前を向いていく彼の毅然とした態度に、最後は刑事さんも安心したように、彼を日常へと送り出してくれたそうだ。


 でも、何かに引っ張られたという右足には、今も赤黒い奇妙な痣が今でも痛々しく残っていた。それは間違いなく、『何か』が存在したという証左に他ならない。


 そして先日、すべての疑いが晴れたことで、トウヤ君はようやくミキの実家を訪れ、彼女の仏壇にお参りすることが出来たのだと聞いた。

 「やっと、ミキに報告ができたよ」と話す彼の声は、どこか吹っ切れたように穏やかだった。大学では、悪意ある嘲笑や根も葉もない噂話はまだほんの少しだけ耳に届くけれど、それも時間が経てば、すぐに冬の霧のように霧散していくに違いない。



 日下部教授はというと、あの日を境に何かが変わるわけでもなく、相変わらずの平常運転そのままだ。

 トウヤ君の左足の経過を観察したり、あの空間での実体験を根掘り葉掘り聞いては、目を輝かせてノートに熱心にメモを取り、狂ったように古びた資料とにらめっこしている。

 人間としてはやっぱりどうしても好きにはなれないけれど、あの何事にも動じない圧倒的なメンタルや、知への貪欲な心持ちだけは、ほんの少しだけ見習いたいなと思わされてしまう。


 あれ以来、教授と直接親身に連絡などを取り合ってはいないけれど、彼のその後の奇行の数々は、私が最近仲良くなった大学の事務員さんから噂として色々と流れてくる。

 なんでも最近、「近くの古いお寺で、人間の言葉を理解する狸が実体化した」なんてオカルトな噂話が耳に入ったものだから、週末に一目散に調査に飛び出していったらしい。

 後から知った話だけど、あの教授、その界隈で、実は結構な有名人らしい。本当に、どこまでも底の知れない人だ。



 私たちは、科学と理性で整えられた、安全で退屈な世界に生きていると思っている。

 けれど、私たちのすぐ隣には、ただ人間の目に見えないだけで、今もいろいろな怪異や、人知を超えた謎が、底なしの暗闇となって広がっているのだ。


 こうしていつも通りの冬を迎え、私が温かい部屋でスマホの画面を眺めている間にも。

 もしかしたら、世界のどこか別の場所で、新しい『何か』が静かに口を開けているのかもしれない――。


※この小説を面白いと感じていただけましたら、★★★★★の評価とブックマークで応援お願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ