第55曲 白龍の宴会芸と仲直り
「で、ラハーレと仲直りはしたのか?」
赤銅色の髪のベケルが、顕微鏡をいじりながら問いかけを寄越した。
温室の間借りしている区画から、新作西瓜を収穫してきたエセンは、こくりと頷いた。
「ええ、まぁ。しばらく意地張ってつんつんしたままだったけど、見かねたうなちゃんが、私たちの前で裸踊りをしてくれて」
「………はだ…、なんじゃと?」
「裸踊り」
「……白龍は元々裸であろうが」
うなちゃんは、もちろんいつだって裸である。
「裸踊りというのは、ふんどし一丁で踊る東方では定番の宴会芸で、」
「それたぶん、性的嫌がらせ認定されるから、やってる会社はもうほとんどないんじゃないか?」
エセンを手伝いに来てくれていたポランが、小声で突っ込む。
「さらには、腹踊りまで披露してくれて、」
「突っ込むのも阿呆らしいが、一応聞いてやろう。腹踊りというのは?」
「お腹に顔を書いて、踊りながらその顔を腹筋で動かすの」
「………………」
誰に頼んだか知らないが、新雪のごとく清らかなうなちゃんの白い腹に、シャルリアンテの似顔絵が親指を立てており、それをまた巧みに動かして見せるものだから、思わず吹き出してしまったのだ。
「うなちゃんが笑わせてくれたから、なんかそれで意地張ってるのが馬鹿馬鹿しくなって、」
「ーーーまぁ、そんなら良かったがの。あやつ、しばらくは抜け殻状態だったのじゃ。たまには喧嘩もよかろうが、ほどほどにせいよ」
そう諭すように言いながら振り向いたベケルは、次の瞬間、凍りついたように固まった。
「、なんじゃ、それは」
「新作の西瓜だけど、」
「顔が、見えるな」
鮮やかな緑の外皮に、黒っぽい筋が走っている、のだが、それがどうにも似顔絵のように見える。
しかも、うなちゃんの腹芸ほどではないが、ちょっとだけシャルリアンテに似ているような気がしなくもない。
「また古大陸関係のあれか」
「季節外れでも甘い西瓜ができるって、書いてあったから…」
言い訳がましいエセンを、ベケルがじろりとひと睨みする。
エセンは慌てて西瓜にさっくりと包丁を入れ、ベケルに一切れ差し出した。
「まぁまぁ、食べてみてよ、師匠」
「…………呪われたりせんだろうな」
疑いの眼差しでエセンを見ながらも、ベケルは西瓜を口に入れた。
「、ぶふぉっ、ぐっ、ぬぅぅぅ〜」
「え?呪われた?」
「っ、なんじゃこのふざけた甘さは!」
舌が痺れると叫んで、ベケルが茶をがぶ飲みしている。
「そんなに甘いのか?」
ポランが皿から別の一切れをつまみ上げて、赤い果肉に食いついた。
「あ、たしかにめちゃくちゃ甘いな!辛めの酒に合いそうだよ」
「ポラン、おぬしの味覚はどうなっておるのじゃ。ーーーはぁ……うちの人間はどうしてこうも変わりもん揃いなのであろうか。早くテンが入所してこんかのぅ」
変わり者の師匠に似たんじゃないの?とは思っても言わないのが吉と、さすがに学習したエセンである。
このところ多忙でやさぐれ気味のベケルには、テンが唯一の癒し要素なのだろう。
「お、理事長が迎えに来たよ、エセン」
「ほんとだわ。じゃあ師匠、ポラン、また明日ね!」
駆けて行ったエセンをラハーレが抱き留める。
その形良い耳元に、エセンが唇を寄せた。
「あのね、うなちゃんがね、そろそろいいかもって」
ラハーレの双眸が見開かれ、ひと呼吸のち、喜色が浮かんだ。
寄り添い合って家路に着くふたりの背中を、ベケル、ポランと温室の植物たちが見送っていた。
キリが良いのでいったん完結にしますが、たぶんそのうち続きを書く気がします…。




