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夕木索理は女の子になりたい!  作者: 朔良 海雪
一章

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24/25

決戦、カラオケボックス①

 藍からのチャットで部屋番号を聞いていた索理は、休日で部屋待ちの列ができているカウンターをスルーして、指定された部屋の扉を開けた。


 そこで待っていたのは、藍と真宵。テーブルを囲うようにして、デモ映像を垂れ流し続けるモニターがあり、その両サイドには二人掛けのソファが対面に据えられている。二人はそれを仲良く使っていて、索理の顔を見て一瞬ぱっと表情が咲いたが、続いて入室してきた未有を見て、笑顔はすぐにしなしなと萎れていった。


「そんな顔をしてたら、将来眉間にしわができかねないよ」


 索理が自身の額を指差して茶化すが、それは二人の怒りを煽るだけに終わった。


「誰のせいだと思ってるのかなぁ!?」

「こんなことだろうとは思っていたが、まさか本当にそうなるとは」


 藍と真宵からこれだけむき出しの感情をぶつけられることなど初めてかもしれない。特に藍とは付き合いが長い中、一度の喧嘩もした覚えがなかった。


 だが、これは予測どころか自ら作り出した状況。索理は意にも介さず、普段と同じ笑顔で毅然と迎え撃つ。


「予想がついてたのに来てくれたんだ?」

「まずもって、サクの方から遊びに誘ってくるなんて珍しすぎるもん」


「さっきまでは、そんな可能性もあるか、と僅かに考えていた程度だ。受付を済ませたところで殆ど確信に変わった。索理が部屋を四人で予約していたのだろ?」

「あはは、流石に真宵は目ざといね」


 真宵の鋭い眼差しにも、索理は怯まない。


「でも、今までずっと誘いづらかった、ってわけじゃないんだよ? ボクは二人と違って普段から予定が入ってるわけじゃないし、藍とか真宵の予定が空いてて誘ってくれる、ってパターンが多かったってだけ」

「そんなことはどうでもいいんだよっ!」


 藍が勢いよく立ちあがり、握りしめた手を部屋にあるテーブルに叩きつける。既に届いていた二人分のパフェの器、そしてホットコーヒーのカップが、それぞれソーサーとぶつかって嫌な音を立てた。


「普通にカラオケする予定だったはずでしょ? どうしてこの女がいるのかなぁ?」

「なんでって、これは黒河さんへのお礼も兼ねてるから。二人はもう知ってるんだっけ。ボク、最近黒河さんにメイク教えてもらってるんだよ」


 相対する索理は、あくまで冷静さを欠かさない。


「ボクがメイクを教わってたって、藍や真宵にはあんまり関係ないことだよね? ボクとは違って、二人はクラスに友達も多いし、その子たちと遊んだりするでしょ?」

「それとこれとは話が違うと思うけど! そんな格好してるけどサクは男の子じゃん! 女装とかメイクとかする必要ないんだから、普通にしてればいいんだよ!」


「普通って? これが今のボクの普通だよ」

「世間一般での普通、だよ! 男の子は普通そんなスカートなんか履いたりしないし、お化粧なんかしてない人の方が圧倒的に多いの! サクはありのままのサクでいいんだからっ!」


「藍がボクの恰好を決めるの? じゃあボクが藍の服装に文句をつけたら、藍は素直に従ってくれるのかな? 髪を切れとか、もっとこういう服を着てとか。それはおかしいとは思わないのかな?」

「それはっ……」


 僅かに言い淀み、唇を噛んで視線を下げる藍。


「まあ落ち着け、藍」


 戦意を削がれた藍と入れ替わるようにして、真宵が口を開いた。


「状況を整理しよう。まず、黒河」

「ん」


 さっさと空きのソファに腰を下ろしていた未有。蚊帳の外で言い合いを眺めていた彼女は、横目で面倒そうに真宵を見た。


「君は私たちと約束していたはずだ。索理にメイクを教える関係を終わらせると。君はそれを素直に飲んでくれた、と、私たちは考えていたのだが」

「あー、そうだな」


「だが君はこうして、索理と一緒に現れた。これは、その約束を翻した、というように捉えても構わないのかな。つまり、この場における君は索理の味方であると」

「構うわ。あたしはお前らの争いに加わる気はねーよ。夕木が言った通り、あたしは単にここのパフェを食いに来ただけだ。あたしがメイク教えた礼なんだと。心配しなくても、あたしはお前らとの約束を違えるつもりはねーよ」


「そうか。それならば静かにしていてくれ。黒河の分のパフェも、もうすぐ完成して運ばれてくるだろう」

「言われなくとも」


 敵意なくスマホを取り出す未有から、真宵は視線を外した。


「さて、索理。藍が先走ってしまったが、まずは謝罪が必要ではないか、と私は思うのだが」

「謝罪?」


「説得力はないかもしれないが、私たちは久しぶりに索理と遊べるということで、今日を楽しみにしていた。その期待を裏切られたんだ、一言くらいあってもいいのではないか?」

「それを言うなら、真宵たちだってボクの楽しみを勝手に奪おうとしたよね? それでおあいこだし、真宵たちが先にそんなことをしなきゃ、ボクらは今日普通にカラオケを楽しめていたと思うけど?」


「今日は黒河への礼を兼ねているのだろ? このパフェは明日までの期間限定らしい。となれば、この場にいなかったのは黒河ではなく、私たちの方だったのではないかな」

「む……」


 真宵の理詰めには隙がない。怒りをそのまま頭を回す原動力に変換して、索理を追い詰めてくる。


「そんなに黒河と二人きりがお好みなのか? 私たちのことはどうでもよくなってしまったのかい」

「そうは言ってないでしょ。二人とも学校で話してるし、連絡だってとってる。ボクが他の人と仲良くしちゃいけない? 藍もそうだけど、そんなにボクの行動を制限したいの?」

「私だって、何もそこまでは言っていない」


「じゃあ何が気に食わないのさ? 友達が増えるのっていいことだと思うけど」

「度が過ぎている、と言っているんだ。索理と黒河が話している場面を私は見たことがなかった。それなのにいきなり家に上がるというのは、非常識と言えるのではないかな」

「ボクは二人のお人形じゃないよ」


 索理も一切譲らない。視線がかち合う。火花を散らす言葉の交錯。


 脈絡なく、部屋のドアががちゃりと音を立てた。


「お待たせしましたー、こちらご予約のパフェで──あっ」


 お盆を手にして入ってくる、カラオケ特有の元気印な店員。それすらもぴきりと固まらせる一触即発の空気が、部屋には立ちこめていた。

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