【第7章】宇宙艦隊オッパリオン461話「ここを守る」
ケレブルム迫る中、奈菜は北天基地の機動戦艦の収容されているドッグへと足を運んでいた。
ミルアティルスを目の当たりにする奈菜。
彼女が会いたい人とは一体?
そして、来るべき暗黒の襲来。
そんな状況の中に、一点一際まぶしく輝くのは桃色の星だった。
宇宙艦隊オッパリオン461話の始まりです。
【四六一 ここを守る】
北天基地、ミルアティルス専用ドックの中にある特別な迎賓ゲートに奈菜はいた。アティルーンから直接の連絡を受け、ここで会いたいと指定されており、通常なら奈菜でも立ち入りが制限される場所であったが、警備も話はついており、なんの問題もなくゲート中央、展望デッキまで入ることができた。
ドックには巨大なミルアティルスが入っており、皇女のお召し色の青に染められた姿が鮮やかだった。しかしミルアティルスがドックに入るなりガントリーが動き、整備をはじめる。
この艦は飾りではなく、戦うための艦……奈菜はそう感じた。
「ナナ」
声の方を向くと、こちらに向かい小走りに駆け寄るアティルーンと、その後ろにレーナの姿も見えた。
「アティ皇女! おかえりなさい!」
アティルーンと奈菜は軽く抱き合う。レーナは少し距離をとった。
「思いの他早く帰って来られました。ですが、またすぐにここを離れなければいけません」
「翔平に会っていかないの?」
アティルーンは頷く。
「一刻を争う状況になってしまいました。ミルアティルスは皇女艦として、全艦隊の旗艦として前線に立ちます」
「アティ皇女が指揮を?」
「まさか。艦隊指揮はアーリア提督がスタティアから行うことになっています。この戦いの全権限をアーリア提督に与えました。彼女なら、必ず」
「そうですね。わたしもそう思う」
「――ナナ、どうかショウヘイのそばに」
アティルーンは奈菜の手を取り、そう言った。奈菜はその手を握り返す。
「アルテナからも言われたの。翔平が目を覚ますには、繋がった母乳力と、わたしが必要だって。繋がった母乳力というのは、たぶん、ううん、間違いなくアティ皇女とフレイアの母乳力のこと。アティ皇女も、翔平との繋がりを感じていてください」
「わかりました。母乳力とZリーヌンスの結びつき、いつも以上に感じるようにします」
「……どうか、どうか気をつけて」
アティルーンは自分とは違う。ずっと翔平のそばにいるわけにはいかない。そして、危険な場所にも立たなければいけない。責任もある。そう思うと、アティルーンの手を握る手に力が入る。
「ナナ……ありがとうございます。心細いことはありません。みんながいてくれます。この戦いは苛烈なものになりますが、必ず勝ちます。ショウヘイが目覚めてくれればさらに心強いですが、目覚めることがなかったとしても、我々は必ず、ケレブルムを撃退するでしょう」
自信に満ちた口調でアティルーンはそう言ったが、奈菜はその裏にある不安を感じた。
「大丈夫、アティ皇女、翔平はきっと来てくれる」
「ナナ……」
「起きなかったら、わたしが起こすからね」
「それは……ふふふ、お願いします。わたしたちの勇気と精一杯の行動が、ショウヘイを起こすのだと信じ、臨みます」
「がんばって、わたしにもなにか力があるようだから、精一杯祈ってるわ」
「はい。では、もう行かなくては。――あぁ、そうだ、ラメルからのお客様がお見えになっています。北天基地に滞在されるようなので、どうかよろしくお願いします」
「わかりました。――アティ皇女、なんの心配もなさらずに」
「ありがとうございます」
アティルーンは再度奈菜と抱き合い、ミルアティルスへと舞い戻っていった。
奈菜はアティルーンの姿が見えなくなるまで展望デッキにいる。すると、アティルーンが戻ったデッキから出てくる人影三人が見えた。
「誰だろう?」
なにやら声が聞こえる。
「ご主人様は相変わらず荷物が多いですよー!」
「わたしたちの三倍もあるなんて!」
「全部必要なものよ! しっかり持ってきて!」
「ふぇーん!」
「重いですー!」
なにやらにぎやかな一行に、奈菜は驚く。
「な、なに? なんなの?」
こんな賑やかな一行、果たしてミルアティルスにいたのか? そんな疑問が浮かぶ。
近づいてくると、三人のシルエットがはっきりと見えた。
「ケモミー星人?」
奈菜がそうこぼすと、中央のピンク色のケモミー星人はハッと奈菜に気づき、すぐに眩しい笑顔になった。
「あっ! もしかして! ペロル! これ持ってて」
「もう持てませんよー!」
「いいの!」
手に持つを荷物を隣にいたケモミー星人――ケモミー星人とはまた少し違うような? ――にあずけ、ピンクのケモミー星人が駆け寄ってくる。どこかで見たことがあるような人物だったが、思い出せない。
「もしかして、水平の銀河の!」
「え、あ、はい、奈菜です……。地球人です……」
「ナナ! モモノセナナ! わぁ! 会えた会えた!」
ピンクのケモミー星人は喜びながら奈菜の両手を掴む。
「わたし、ラメルのボタンって言います!」
「ボタン……あっ、もしかして、ラメルで講和会談の歓待公演をしたアイドルの!?」
驚く奈菜を無視するように、ボタンは続ける。
「わたしのことよりオッパリオン考古学を研究されているナナさんですよね!?」
「え? そ、そんな研究だなんて。わたしはただ教授の手伝いをしているだけで……」
「ここに来るまでの間、オッパリオン古代文字に関する考察を読ませてもらったんです!」
「な、なんでそんなのを?」
アイドルが読むには少々似合わない内容だと思い、奈菜は思わずそんなことを言ってしまった。
「わたしも以前、オッパリオン文字については調べたことがあるんです。オッパリオン古代文字は宇宙史の中でも古い文字です。でも、その文字は時代ごとに変えられていて、同じ星の同じ民族なのに、同じ文字を使わないという、非効率な継承をしているのが特徴で――あ、これはナナさんの論文にも書いてありました。ナナさんの見解では、それは意図的に歴史の継承を断絶するためであると。これ、わたしが当時思っていたことと同じなんです」
ボタンは早口でそう言う。奈菜の手を握る手にも力が入っている。
「それは、ノール教授の見解でもあって、わたしの独自の解釈では――」
「ううん。遙か遠く、水平の銀河のナナさんがこの見解を持てたことが素晴らしいとわたしは思います。ナナさんの星が文化的に劣っているからとか、そういう偏見ではなくて、オッパリオン人ではない異星文化のナナさんが、同じ見解に至ったことは、わたしはそれがひとつの真実ではないかと思ったんです」
ボタンは早口でそうまくし立てつつ、ナナに顔を近づけてくる。見てわかるくらいに興奮しているようだった。
そんなボタンに圧倒されていると、大量の荷物を持ち、さらにはカートも引いている小柄なケモミー星人ふたりも到着した。
「ご主人様、相手の方に引かれてます」
「ご主人様は声も大きいから驚いているんです」
「細かいことはいいの。――紹介します。わたしの護衛の、ペロルとナデルです。ふたりはワンコニー星人と言って、ラメルの衛星出身の種族で、ケモミー星人の近縁です」
「ワンコニー星人!」
「はじめまして。専属警備のペロルです」
「同じく専属警備のナデルです」
「地球人の奈菜です。こちらこそよろしくお願いします。ラメルからお客さんが来るって聞いていたけど、あなたたちなんですね」
「はい。マシ長にも言われて、オッパリオンまで来ました。わたしが力になれることがあるって」
そう言われ、奈菜はハッと目を見開いた。このボタンというアイドルには、宇宙史の、考古学の知識があると。もしかしたら、自分にない知識を多く持っているかもしれない、それはオッパリオン考古学の進展に寄与するものになるかもしれない。奈菜はそう思った。
ボタンの手を握り返す。
「歓迎します、ボタンさん! ボタンさんの知識、ぜひお聞かせください! オッパリオン考古学には客観的視点がとても重要なんです!」
「それならば喜んで!」
「ありがとうございます! あ、でも……もうすぐ大きい戦いがはじまる……。オッパリオンへ行くのはその後ですね」
「そうですね。でも、オッパリオンより先に行く場所があるのではないですか?」
ボタンにそう言われ、奈菜はハッとした。
そうだ――!
「月! 地球の衛星!」
「そうです。マシ長もそう言っていました。なんでも人工の衛星だとか。オッパリオンの古代兵器もそこにあるとか」
「そうみたいなんです。戦いが終わったら、ぜひ一緒に」
「もちろんです。そのためにここまで来たんです。ナナさん、どうか、よろしくお願いします」
「こちらこそ。奈菜って呼んでください」
「では、わたしのこともボタンと」
「わたしは今からちょっと……いないといけない場所があるので。ボタン、戦いのあとに、いろいろ聞かせてください」
「わかりました。わたしは……戦いの役には立てそうにないので、おとなしくしているわ。さぁ行くわよペロル、ナデル」
「では失礼しますナナ様」
「また後ほど」
ペロルとナデルはピッと敬礼をして、ボタンについて歩きはじめた。
「ワンコニー星人、たしかにケモミー星人と似てるけど……少し小柄なのね。それに……わんこ感を感じる……」
あとでもっとゆっくり見させてもらおう、奈菜はそう決めた。
奈菜とボタン。
謎を解き明かすのはこの二人か!?
オッパリオンと地球の関係が解き明かされる明日は訪れるのか?
熾烈なる戦いの幕開けは近い!!
桐生スケキヨ次回予告。
前代未聞の大軍勢を前に結成するオッパリオン艦隊。
マーラ艦隊との合流を前に、アティルーンの声が艦隊に響く。
アティルーンは言う、「我ら宇宙艦隊オッパリオンは未来を切り拓く」と!




