宇宙艦隊オッパリオン017話「皇女アティ」
今回は、海賊回。
アルガノス率いる海賊部隊に捕らわれたオッパリオンのアティルーン皇女。
アルガノスとアティが捕らわれている貨物室で語る言葉とは!
少し短めではありますが、オッパリオンの皇女が登場です。
オッパリオンの物語も、ターニングポイント。
戦いの行方をご覧ください!!
【〇一七 皇女アティ】
「オッパリオン重力圏の離脱を確認。追撃はない模様」
「やけに大人しいな。ディジル隊が輪っか付きの部隊と交戦になったと言っていたからそのまま追ってくるかとも思ったが……思いのほか冷静ということか」
アルガノスは艦橋でひとり顎を撫でていた。
こちらにも損害は出たとは言え、強襲作戦はとりあえずの成功を上げることができた。
「メルクコアの内通者に感謝というところだな」
「キャプテン、そのさらってきた皇女がキャプテンと話がしたいと言っているようです」
「……メルクコアの皇女か。ふん、会ってどうこうなることもないがな」
席を立ったアルガノスに、通信士が振り返った。
「会うんですか?」
「ああ、ひと目くらい見ておくか。敵の大将だろうからな」
「交渉するんですか?」
「馬鹿言え。一介の海賊にそんな権利があるか。その皇女が海賊になにを話すのか興味があるだけだ」
「りょ、了解です」
「本隊との合流は遅らせろ。だが周囲への警戒を怠るな。いつ奪還にくるかわからんぞ」
「了解しました。対空監視を続けます」
アルガノスは狭い艦橋を後にする。
しかし――自分が興味本位で行動するのもめずらしいと、アルガノスはひとり自嘲するような笑みを浮かべた。
艦内を移動し、格納庫を抜けて奥の貨物室へと向かう。機動兵器が戻ったばかりの格納庫は忙しく、自分が出て行っては邪魔になるだけだということをアルガノスは知っていた。
捕虜を収容する部屋は貨物室のそばにあった。皇女という高貴な人物を置いておくにはあまりに品格のない部屋だが、この艦に部外者を置いておける部屋はそこしかなかった。
「あ、キャプテン」
見張り役がアルガノスを見かけると敬礼をする。
「敬礼はいい。海賊らしく振る舞え」
「はっ。どうも癖が抜けず」
「わからんでもないがな。皇女は中だな?」
「はい。先ほどキャプテンに会いたいと言っていました。今はおとなしくしているようです」
「連れてくる時も抵抗はしなかったらしいな」
「防衛隊の抵抗はあったようですが、狙いが自分だとわかると自ら身を差し出したとか。本物ですかね?」
「さあな。だが皇女がさらわれたという事実の方が大事だってことだ。扉を開けてくれ」
「わかりました」
見張りが扉を開けると、部屋の中で椅子にかけていた人物がすぐにこちらに気付き、立ち上がった。
「これは皇女殿下。おはつにお目にかかります。この海賊のキャプテン、アルガノスです。座ったままで結構ですぞ」
「いえ。キャプテン、わざわざ来てくれたことに感謝いたします」
見張りは中の様子が気になっていたようだが、扉を閉めた。それを確認したアルガノスは皇女の言葉を待つように一瞥する。
この気品はおそらく本物だろう、と。
「キャプテン、あなたたちがなにを狙ってわたしを連れ去ったのかはわかりかねます。が、この身は帝国に移されるのだとは思います」
「でしょうな。海賊艦にいていただくには少々似合わなすぎる」
「そこでキャプテンにひとつお願いがあります」
「自分に?」
「はい。わたしは大人しく帝国に引き渡されましょう。追ってくる者たちに下がるように伝えてもかまいません。ですが、わたしと引き換えに帝国に拘束されているすべてのオッパリオン人を解放してはいただけませんでしょうか?」
臆することのない口調に、アルガノスは敬意にも似た念を抱いた。
なるほど、これが皇女の風格なのかと。覚悟もきちんとできているようだ。
「皇女殿下のお気持ちはわかりました。ですが自分は一介の海賊にすぎません。海賊にはそのようなことをする権利も、帝国と交渉する権利もありはしません。本来はあなたのような人とは話もしないもの。自分がここにこうして来たのはただの興味本位のようなものですな」
「自分の言っている無理は承知です。ですが、あなたは本当に一介の海賊なのでしょうか?」
「……ほう?」
「王宮に侵入した際も大胆でしたし、わたしを連れ出した部隊も王宮守護隊を圧倒する強さでした。とても海賊とは思えません。あなたの言動もです、キャプテン」
「これはこれは」
ただの世間知らずかと思っていたアルガノスだったが、皇女の洞察力に驚いた。
「あなたは軍の上層部に通じているのではありませんか? わたしをさらったのも、正規の命令ではなく、上層部からの直接の命令なのではありませんか? それなら、あなたに命令をしている人物とわたしを会わせていただくことはできませんでしょうか?」
「これは恐れ入った。この期に及んでなお国民を思う皇女殿下のお気持ちには感服します。ですが先ほども申し上げた通り、自分は一介の海賊にすぎません」
「……そうですか。わかりました。ではその時が来るのを待たせてもらいます。ありがとうございました」
「こちらこそ。狭い部屋ですがここしかないもので勘弁してください。まだ揺れるかもしれないので体は固定しておいてください」
「お気遣いに感謝します」
皇女に黙礼をし、アルガノスは部屋を出た。
「もういいのですか?」
興味深そうな見張りが声をかけてくる。
「ああ。俺たちは海賊だ。海賊相手にできる交渉なんぞないからな」
「交渉を持ちかけられたのですか?」
「ただの世間話だ。引き続き見張りをしっかりと頼む。大人しく見せかけておいて何をするかわからんのがメルクコアだ」
「警戒しておきます」
「頼んだぞ。後は何を言ってきても耳を貸すな」
「わかりました」
見張りに釘を刺し、アルガノスは艦橋へと戻ろうとした。
途中、格納庫を通りかかった時、ふと声をかけられた。
「キャプテン」
「なんだ?」
声をかけてきたのは水平の銀河での戦闘でこの艦に収容されたディジルというパイロットだった。
「皇女と会ってきたのですか?」
「ああ。会いたいと言うのでな。特に実のある話はしていない」
「海賊ですからね。交渉もなにもないでしょう」
「そんなことを聞くために俺を止めたのか?」
「まさか。――追撃はあるんですか?」
「今のところは見えていない」
「王宮に現れたのは間違いなく輪っか付きの部隊でした。部下も同じ機体を見たと言っています。お宝を手に入れて国へ戻ってきたやつら、追ってきますかね?」
「お宝と同じくらいに大事な皇女を取られたんだ。取り返しに来ない方がおかしいだろ」
「そう思いたいですね」
「ああ。すぐに出撃もありえるぞ、休める時に休んでおけ」
「わかりました。収容していただき、ありがとうございます」
「悪運の強いやつは使えるからな。せいぜい上手くやってくれよ」
「わかりました。キャプテンも悪運は強そうですけどね」
「ふふ、お互い様だな」
ディジルは満足げな笑みを浮かべ、格納庫の方へと引き返して行った。
「ま、俺の場合は悪運というよりはただの不運かもしれんがな」
アルガノスはひとり呟きながら、艦橋へと急いだ。
状況としてはいつ追撃部隊が来るかもわからない。長く艦橋を離れるのは不安だった。
が――本番はその追撃部隊が来てからだと、アルガノスは自分に言い聞かせていた。
まだまだ落ち着いてはいられない状況が続く。
次回更新は土曜日予定となります。
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